原告東京市淺草區千束町二丁目百廿三番地山口正一より被告同市日本橋區葺屋町九番地田中幸次郎に係る(ハ)第二四五七號事件に付東京區裁判所判事安田繁太郎氏は判决すること左の如し
(主文)原告の請求は之を却下す訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告人は被告は金六圓十五錢を原告へ支拂ふ可し訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと申立其原因として被告は明治三十三年一月廿九日同年二月七日を支拂期日と定めたる額面金十六圓五十錢の約束手形を原告に宛振出したるに期日に至り支拂を求めたるに兩度に内金十圓三十五錢の支拂を爲したるも殘金六圓十五錢の支拂を爲さゞるを以て手形を原因として本訴請求を爲す次第なりと陳述し被告は原告の請求は却下す訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を求むと申立其事由として本件手形には支拂地二ケ所を明記しありて支拂地分明ならざる無效の手形なる旨陳述したり而して原告より提出したる甲第一號證寫は左の如し
第一號證
一金十六圓五十錢
右金額明治三十三年二月七日貴殿又は貴殿の指圖人に此手形引換に無相違仕拂可申候也
日本橋區葺屋町九番地
明治三十三年一月廿九日 田中幸次郎印
淺草區北東仲町五番地
林藤作印
山口正一殿
(理由)甲第一號證約束手形を調査するに振出人田中幸次郎肩書には日本橋區葺屋町九番地とあり林藤作の肩には淺草區北東仲町五番地とありて何れを以て振出地と爲したるや分明ならず畢竟振出地の記載なき無效の手形なりと論定せざるを得ず故に原告の請求は不當と認め主文の如く判决す