控訴人東京市下谷區仲徒町三十六番地佐野九助外
二 被控訴人千葉縣東葛飾郡松戸町宮前町千七百五十五番地牛野七五郎外三名に係る親族會决議取消請求控訴事件に付き控訴人は明治三十二年十一月廿四日東京地方裁判所が本件に付き言渡したる判决全部を廢棄し東京市芝區柴井町二十七番地被相續人亡市村安久理の家督相續人を牛野清次郎と選定したる親族會の决議即ち親族會の决議の代はるべき東京區裁判所の裁判を取消すべし訴訟費用は被控訴人の負擔たるべしとの判决を求むと申立被控訴人牛野七五郎林タマは本件控訴の棄却を求むと申立たり而て同院は本訴は之を許すべき者なるや否の點に辯論を制限したる處控訴人は親族會の决議に對する不服は訴を以てすべきものにて决議に代はるべき裁判は即ち决議なるが故に之に對する不服も亦訴を以てすべきものとす非訟事件手續法第百二條に於て决議に代はるべき裁判に對し抗告を許したるの故を以て訴を以て不服を唱ふるの權利を失却せしむべきものに非らざる旨を主張し被控訴人牛野七五郎林タマは其然らざることを答辯せり被控訴人増田辰之助金郎敬次郎は適式の呼出を受けたるも出頭せず
右に對し東京控訴院民事第一部裁判長富谷鉎太郎判事高橋文之助鈴木喜三郎堀田馬三平島及平の五氏は曰く親族會の决議に代はるべき裁判は親族會が决議せんとしたる事項に關する决定に相違なきも一私人の團体たる親族會が爲したる决議と異なり裁判所に於て爲したる决定なれば之に對する不服は特別の規定あれば格別無らざる以上は法律の規定に從ひ上訴の途に依り之を爲すの外新に訴を提起し之が不服に對する裁判を求むるを得ざるは殆んど言を俟たざる所なり然り而して親族會の决議に代はるべき裁判は非訴事件の裁判にして之に對する上訴の途は非訴事件取扱法第百二條に規定しあれば之に依りてのみ不服を申立つることを得せしむる法意なること分明なりとす然らば則ち控訴人が新に本訴を提起し親族會の决議に代はるべき東京區裁判の裁判の取消を求むるは其當を失するものなるを以て其訴は却下すべきものにして本件控訴は其理由なきものとす依て民事訴訟法第五十條第三項第四百廿四條第七十七條に依り控訴を棄却せり云々