嫡出子否認控訴事件
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法律新聞(新聞)5号9頁


控訴人栃木縣下都賀郡寒川村大字中里四十五番地平民農橋本逸作右訴訟代理人辯護士高橋拾六石沼佐一の兩氏より被控訴人茨城縣眞壁郡關本町大字關本肥土三十一番地植木茂十郎方住控訴人妻橋本イマ分娩無名男子右特別代理人茨城縣眞壁郡關本町大字關本肥土三十一番地平民農植木茂十郎に係る明治三十三年(ネ)第四十四號嫡出子否認事件の控訴に付き(事實)控訴代理人は一定の申立として第一審判决を廢棄し更に被控訴人は控訴人の嫡出子に非らざることを確認すべしとの判决あらんことを求むと申立被控訴特別代理人は同式の呼出を受けながら明治三十三年十月二日午前九月と定めたるに該辯論期日に出頭せず東京控訴院民事第三部裁判長判事横田秀雄判事中山勝之助同藤田重守同布施文四郎同松岡義正の五氏は檢事江村忠之助氏の立會を經て(判决主文)本件控訴は之を棄却す第二審の訴訟費用は控訴人の負擔とすとの判决を下し其(理由)には民法第八百二十二條の規定に基き夫が其妻たる者の婚姻中に懷胎したる子を嫡出にあらずとして之を否認せんとせば其否認の訴は夫が子の出生を知りたる時より一年内に之を提起することを要するは同法第八百二十五條の規定に徴し明かなり依て本訴は果して右期間内に提起したるものなるや否やを審案するに控訴人の主張事實に付き之を見るに控訴人は明治廿六年四月中被控訴人の母橋本エマと結婚したる處僅かに五ヶ月にして同年九月中被控訴人の母は控訴人家を家出し明治廿七年二月に至り突然控訴人に對し同居請求の訴を起したる〓〓り其請求を認諾したるも歸家せずして明治三十一年四月廿七日に至り明治廿七年四月五日實父植木茂十郎方に於て被控訴人を分娩したる旨主張し其入籍請求の訴を起したるものにして他に立證なき限りは控訴人が被控訴人の出生を知りたるは右入籍請求の訴を起したるときにありと看做さゞる可らず左すれば其當時より明治三十二年六月二十九日即本訴提起の日に至る迄既に一年以上を經過せるを以て前掲規定に照らし其期間後に起したる本訴は宜しく不適法なりとして之を却下すべきものとす然れば即ち第一審判决は其理由に於て相違するも結局之れと同一なるを以て本件控訴は之れを棄却するを相當なりとす被控訴人は期日に出頭せざるも人事訴訟手續法第三十九條第一項同法第十一條第二項の規定により對席として判决を爲す可きものとすとの説明に依り控訴人は敗訴したり(本月四日言渡)