原告神田區三崎町三丁目一番地職業不詳藤原ツ子訴訟代理人關幸太郎氏より被告神田區仲猿樂町十七番地職業不詳藤原勝次訴訟代理人辯護士天野敬一氏間扶養料請求事件に付き東京地方裁判所第四民事部裁判長判事今村恭太郎判事三宅徳業判事鈴木英太郎三氏は原告の請求を棄却す訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を下したり其(事實)に原告訴訟代理人は被告は原告に對し明治三十二年十月より被告の終身間毎月金二十五圓宛の扶養料を其月十日限り給付すべし、訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと申立て(原告請求の要旨)は原告は被告の妻にして今より二十五年以前婚姻を爲位たるものなるが其婚姻當時には夫婦共無財産なりしも爾來夫婦心を合せて辛苦經營したる爲め遂に數万の資産を貯ふるに至りたるに被告は四五年以前より妾を蓄ひ常に其妾と同居して原告とは同居せす諌むれとも用ひす明治三十二年七月中原告か被告の出張先なる甲州地方に起き諌言を加へたる時の如きは啻に之を用ひさるのみならす被告は不法にも原告に對し腕力を用ひ暴行を加ふるに至りたり斯くの如くにして被告は到底原告と同居することを肯せさるのみならす扶養料をも給付せす全く原告を遺棄して顧りみす然るに原告は齡既に五十五年に達し自ら生活を爲すこと能はさるを以て原告の需要と被告の身分及ひ資力とに依り扶養料の程度を定め本訴訟の請求に及ひたりと言ふに在り
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却すとの判决受度と申立(答辯の要領)は被告と嚴告と夫婦たることは相違なきも被告は原告訴訟代理人の主張する如く財産を有せす又妾を蓄ふる事實なきみのならす原告と同居することを拒み之に暴行を加へ又は之を遺棄したることなく明治廿九年以來原告に遣はしたる金員は其額約五千圓に達したり以上の次第なるを以て原告の請求に應することを得すと言ふに在り
(判决理由)原告は被告に對し一定の扶養料を給付すへしと主張すれとも元來扶養義務者なるものは民法第九百六十一條に依り其選擇に從ひ扶養權利者を引取りて之を養ひ又は之を引取らすして生活の資料を給付する事を得るものなるを以て扶養權利者と雖も隨意に扶養の方法を定め之を請求することを得るものにあらず故に本訴原告の請求は不當なりと認むと判决せり