顯本法華宗管長不當處分取消請求事件
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法律新聞(新聞)4号8頁


原告東京市淺草區松山町四十五番地本立寺住職山岡令俊被告東京市淺草區永住町九十六番地顯本法華宗管長板垣日暎仝顯本法華宗務廳誥宗務總監田邊善知間の不當處分取消請求訴訟事件に付き東京地方裁判所第三忍事部裁判長判事松岡義正判事關口環判事島田鐵吉の三氏は原告の訴は之を却下す訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を言渡せり被告板垣日暎は明治三十二年十一月十四日午前第十時の口頭辯論期日に出頭せず原告訴訟代理人は被告兩名に對し被告等の明治三十二年九月三十日原告を三階降等に處し且學士に貶したる處分を取消すへしとの判决を求む且被告板垣日暎に對しては欠席判决あらんことを求むと申立てたり
被告田邊善知は本訴却下の判决を求むと申し立て(其陳述の要旨)は訴状に依れは本訴は顯本法華宗の宗規に因り爲したる教師の等級を下したる處分を不當なりとし之れか取消を求むるものなるを以て通常裁判所の裁判すべき處にあらず抑各宗派は明治十七年太政官布達第十九號に依り各管長に宗制の事項を委任せられたるを以て本宗亦宗制を定め内務省の認可を經たり而して現行の宗制は明治二十二年八月廿七日内務省の認可を受けたるものにして管長は該宗制に基き原告を降等したるに外にらす從て本件は民事に屬すと認むること能はず依て茲に無訴權の妨訴抗辯を提出すと云ふにあり原告訴訟代理人は妨訴抗辯却下の判决を求むと申立て(其答辯の要旨)は被告板垣日暎は立教を目的とする僧侶の組合の理事にして被告田邊善知は其補助機關なり而して右組合員たる僧侶の任免黜陟の權は國家より管長に委任せられたるものなれとも管長は此權を行使するに當りては組合規則たる宗規の定むる所に凖據せさるへからす然るに被告は宗規に違背し原告を降等し以て原告の權利を害したり本訴は右降等處分の取消を目的とするものなるを以て通常裁判所の裁判すへき處なり故に被告の抗辯は其理由なしと云ふに在り
(判决理由)僧侶の任免黜陟か國家の委任に因り管長の職權に專屬することは明治十七年太政官布達第十九號に依り明瞭なり從て僧侶の任免黜陟に關する事項は民事として通常裁判所の裁判する處なりと認むる能はす本件は原告か被告に對し管長たるの職權に專屬する降等處分の取消を求むるものなれば前顯の法理に依り民事として通常裁判所たる當地方裁判所の裁判權に屬する事項と云ふこと能はすとて主文の如く判决したり
(附記)此判决に服せす原告は東京控訴院へ控訴したるも九月廿四日其控訴は棄却せられたり