家屋明渡損害賠償請求事件
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法律新聞(新聞)4号5頁


原告東京市淺草區山之宿町五十二番地平民無業岡田ミヨ訴訟代理人辯護士三浦大五郎氏被告仝市淺草區田原町三丁目十番地平民芋商宇田川左五兵衛訴訟代理人辯護士鈴木昌玄氏間の家屋明渡竝に損害賠償請求訴訟事件に付き東京地方裁判所第三民事部裁判長判事松岡義正判事島田鐵吉仝三宅徳業三氏は被告は原告に東京市淺草區田原町三丁目十番地所在原告所有の木造瓦葺二階建家屋壹棟此建坪二十坪八合五勺内二階拾坪零五勺を速に明渡し且明治三十二年六月二十九日より本件判决施行濟迄壹ケ月金五圓五十錢の割合に於て損害金を支拂ふ可し訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を言渡したり
(事實)原告訴訟代理人は主文記載の如き判决を求むと申立て原告は本件係爭家屋を明治三十二年六月二十九日訴外竹内キウより買受けたる處被告は故なく之を占有するを以て被告に對し明渡を要求したれとも被告は之に應せす且つ本訴訟爭物の賃貸借より生する賃金は一ヶ月金五圓五十錢なるを以て被告の不當なる占有の爲めに原告は右金圓に相當する損害を被むれり依て茲に本訴を提起したる次第なりと演述し立證として甲一號證を提出し乙第一號證を否認したり
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却し訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を求むと申立て『第一』に本訴は占有のみに關する訴訟なるを以て區裁判所の管轄に屬するものなり然るに本訴を東京地方裁判所に提起したるを以て本件は管轄違ひたることを免かれす『第二』本件係爭家屋は訴外淺原重左衛門の所有にして仝人より一ケ月五圓五十錢にて賃借し居る次第なるを以て原告の請求に應すること能はすと演述し立證として乙第一號證を提出し甲號證の成立を否認したり
(判决理由) 甲第一號證の成立に爭ひなきを以て該證に依り本件係爭家屋は原告の所有物なりと認定し又淺原重左衛門の證言に依り本件係爭家屋の賃貸借より生する賃金は金五圓五十錢なりと認定す從て原告の請求は正當なりと云はさるを得ず而して本件は原告か其所有權を主張し以て明渡を求むるものなるか故に被告主張の如く占有のみに關る訴訟と云ふへからす從て被告の第一防禦方法は不當なりと云ふ可し又淺原重左衛門の證言及び乙第一號證は被告主張の如き事實を證せすして反て原告か本件係爭家屋の所有者たること竝に甞て被告か訴外竹内キウより金五圓五十錢にて本件係爭家屋を賃借したることを證するものなるを以て該證に依り被告の第二防禦方法を理由ありと認むること能はすと云ふに在り