控訴人長野縣南安曇郡明盛村三澤傳助訴訟代理人伊藤久藏仝岡崎正也氏復代理人降籏熊次郎の三氏より被控訴人長野縣南安曇郡明盛村三澤ソメ訴訟代理人兩角彦六氏に係る離婚確認請求控訴事件に付控訴人は第一審判决の全部を廢棄し更に被控訴人の請求は之を棄却すとの判决を求むと申立て被控訴人は本件控訴の棄却を求むる旨申立てたり
右に對し東京控訴院民事第二部裁判長小山温判事羽生顯親保田久三郎粟田松藏齊藤十一郎の五氏は曰く本件請求の原因は被控訴人の元と夫たりし控訴人は先きに被控訴人との間に爲したる離婚を否認するのみならず其後被控訴人か他の者と取結はんとせし婚姻に對し不實に重婚の告訴を爲し其他種々干渉を試み以て尚ほ其夫權の存するものゝ如く主張するに付き該離婚の確認を求むと云ふに在り然らは其請求は單に離婚ありたりとの事實を確認せしむるにあらずして夫婦關係の消滅を確認せしめんとするにあるや明なるを以て本件は人事訴訟手續法の所謂婚姻事件に非さること勿論なれは民事訴訟として毫も不適法の廉なし控訴人は被控訴人か本訴を提起したるは養父等の教唆に出て其實控訴人との夫婦關係は依然存續するものなりと主張すれとも其是認する甲第一號證即ち扣訴人及其父三澤傳市より立會人三澤銀四郎三澤常吉に宛てたる離別約定書と題する證書には「明治廿九年十月中自分三男三澤傳助三澤永太郎へ養子として遣し云々、貴殿の取扱に應し速に離縁し然る上は三澤永太郎の聟養子等相貫候共毛頭苦情申間敷候云々」とありて其文中「離縁し」の語は後段「聟養子云々」の記載に對照して養子離縁夫婦離婚の二者を包含せる意味なること疑を容れさるのみならず第一審に於て取調へたる證人三澤銀四郎及三澤常吉の各訊問調書中には明かに同人等に於て明治卅一年六月中本件當事者間の苦情を仲裁し結局扣訴人へは金員を與へ離縁離婚を包含せる離別を請諾せしめ甲第一號證受取り置きたる趣旨の答辯記載しありて之を信用し得へきに付き當時協議の上雙方間に離婚をも遂けたるものなりと認定せさる可らす而して扣訴人提出の乙第一號證は被扣訴人に於て其實家近隣の情人に送りたる書翰なりと云ひ其宛名なく文中別に控訴人に對し夫婦間の關係を申述へたりと認む可き点あらさるを以て扣訴人の主張を利する何等の證據と爲すに足らす又其援用に係る第一審の證人三澤金三郎の訊問調書に付ては右離婚の前年二月中授受したる金員に關する陳述のみなるを以て本件の判斷に影響する所なしとの理由に基き扣訴棄却を言渡したり