養女離縁請求控訴事件
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法律新聞(新聞)3号7頁


扣訴人南多摩郡稻城村板濱農榎本萬藏より被扣訴人同郡同村農榎本ハルに係る養女離縁請求扣訴事件に付控訴人は第一審判决を廢棄し被控訴人の請求を棄却する判决を求むと云ひ被控訴人は控訴の棄却を求むと答辯したり
右に對し東京控訴院民事第一部裁判長富谷鉎太郎判事高橋文之助堀田馬三鈴木喜三郎平島及平の五氏は曰く本件の爭点なる被控訴人は控訴人より處待又は重大なる侮辱を受けたる實ありや否を案するに當院に於ける參考の爲め訊問したる榎本かめは被控訴人は控訴人萬藏の養女と爲る前表面雇女の如く其實萬藏の妾にて在りし旨を供述するに拘らず萬藏は曾て暴行を加へ若くは虐待したることなき旨を斷言し其供述の摸樣忽て信を措くに足れり而して被控訴人に於ても養蠶の爲め控訴人方に雇れたる際即ち其養女と爲りし前控訴人と情を通したることある旨を陳供するに因り之を察すれば控訴人に於ては被控訴人に對し不倫の行を強ひたることなく却つて被控訴人は好意上私通を容れ憚らさる者にして毫も侮辱又は虐待せられたることなしと認定す但石田太七の供述中には控訴人に不穩當なる所爲ある如き陳述なきに非すと雖も太七なる者は被控訴人か養女となりし后萬藏より無償に讓受けたる田、畑、林一町歩を買受け旦之を被控訴人に賣戻す約束を爲したる如き關係を有するに因り此者の陳述は惣て信用し難し此他被控訴人の主張を認むるに足る立證なきを以て養女離縁の請求は採用せすとの裁判を言渡したり