控訴人横濱市永樂町二丁目二十番地貸座敷業橋本秀次郎訴訟代理人關島宇兵衛氏より被控訴人同市不老町二丁目九十四番地旅人宿業林神治郎訴訟代理人近藤綱衛氏に係る東京控訴院明治卅二年(ネ)第四百八十號辯償金請求控訴事件に付控訴人は原判决を廢棄し被控訴人は金百廿五圓竝明治三十二年二月六日より執行濟の日に至る年百分の五の利息を加へ之を控訴人に辯償すへし訴訟費用は第一二審共被控訴人の負擔たるへしとの判决を求むと申立被控訴人は本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とすとの判决を求むと申立て其事實として控訴人は明治三十一年八月宗宮常次郎なるものを雇入れ其際被控訴人をして身元保証を爲さしめ常次郎が金品等を拐帶したる塲合には被控訴人に於て辯償すへき旨を契約せり然るに常次郎は同卅二年二月六日控訴人の得意先田邊四左衛門より掛金百二十五圓を受領し該金携帶の侭逃走せしを以て本訴を提起せりと演述も被控訴人は控訴人主張の如く控訴人に對し常次郎の身元保証を爲したるに相違なきも同人か拐帶等を爲したる塲合に其辯償を約したることなきのみならす常次郎か拐帶の事實は認めさる所なるを以て控訴人の請求に應し難しと抗辯せり
右に對し東京控訴院民事第二部裁判長小山温判事羽生顯親保田久三郎粟田松藏齋藤十一郎の五氏は曰く要するに甲第五號証第五項には「本人持逃等致候節は搜索方ハ雇主ニ不拘總テ引受人ニ於テ取計萬事引受御迷惑且〓損毛等相掛申間敷候事」とあるに過きされば其趣旨とする所は常次郎か持逃等を爲したる塲合には控訴人に於て其搜索方を擔當し控訴人に對し迷惑をも損毛をも加へすと云ふに止り而して其所謂損毛とは搜索に付て生すへき損害を指示したるものなること誠に明白なり加之該証第四項には「本人萬一不良の心を生し御損毛等相生し候ては不相成故篤と其人物御見定の上ならでは大切の御品御預け被成間敷候事」とあるに依り金圓其他貴重品の取扱に關しては總て控訴人か常次郎に對する信用に一任したること明白なるへく從て被控訴人か其金圓取扱の結果に付責任を約したるにあらさることを推知するに足れり要するに當事者間には控訴人主張の如き契約を爲したることなしと認むるを以て控訴人の請求は看認め難しとの理由に依り控訴棄却の言渡を爲したり