大正八年(オ)第九百八十號
大正九年五月二十四日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 商人ニ對シ登記ニ依リ其商號ノ專用權ヲ附與スル所以ハ他人カ同一又ハ類似ノ商號ヲ使用スルコトニ依リ商號ノ混同誤認ヲ生センコトヲ妨止スヘキ權利ヲ與ヘ取引市場ニ於ケル商人ノ地位ヲ保護セントスルニ外ナラサレハ二箇ノ商號カ果シテ相類似セルヤ否ハ取引上世人ヲシテ混同誤認ヲ生セシムル虞アルヤ否ヲ標準トシテ之ヲ判斷スヘキモノトス
- 一 商號ノ類似セルヤ否ハ商號自體ニ付キ觀察スルコトヲ要スルハ勿論ナルモ必スシモ常ニ商號全體ニ付キテノミ之ヲ觀察セサルヘカラサルモノニ非スシテ寧ロ商號ノ主要部分カ何レニ存スルヤヲ見テ決スヘキモノトス
- 一 如上ノ場合ニ於テ商號ニ使用セル文字ノ多數カ彼此相異ナル場合ト雖モ取引市場ニ於テ世人カ却テ少數ナル主要部分ヲ以テ當該商人ノ畧稱又ハ通稱トシテ之ヲ呼唱シ其主要部分ノミノ同一又ハ類似セルカ爲メニ世人ヲシテ商號ノ混同誤認ヲ生セシムル虞アル場合ニ於テハ之レ亦商號ノ相類似セルモノトスルコトヲ妨ケサルモノトス
上告人 河邊米作
從參加人 合資會社豐橋十萬社
法律上代理人 奧田萬通
訴訟代理人 後藤徳太郎
被上告人 田邊福藏
訴訟代理人 中島松次郎 後藤文一郎 後藤文憲
右當事者間ノ商號使用差止登記抹消請求事件ニ付名古屋地方裁判所カ大正八年十月十三日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
理由
上告論旨第一點ハ原判決ハ「兩者ノ商號ハ果シテ類似セルヤ否ヤヲ按スルニ控訴人及被控訴人ノ商號中各冠詞ヲ度外シ單ニ十方舍ト十方社トヲ比較スレハ語音相通シ眞ニ擬ハシク從テ類似ノ商號ト斷シ得ヘケンモ類似ノ商號ナルヤ否ヤハ右ノ如ク單ニ使用セル字句ノ一部分而已ヲ比照シ云爲スヘキモノニ非スシテ須ク全體ヲ通シ判斷セサル可カラサルヤ論ヲ竢タサル所ナリ而シテ本件控訴人ノ商號ハ豐橋十方社被控訴人ノ商號ハ丸田田邊十方舍ナレハ二者全然相違シ居リテ類似ノ商號ト認メ難シノミナラス縱シヤ被控訴人主張ノ如ク其證號中丸田ヲ省キ且舍ノ字ヲ故ラ社ノ字ト替ヘ田邊十方社ナル商號ヲ使用シタリトス且控訴人ノ商號ト類似シ居ルモノト云フヲ得サレハ云云」トノ理由ノ下ニ上告人ノ本訴請求ヲ排斥セラレタリ先ツ本件二箇ノ商號ハ類似商號ナルヤ又ハ非訟事件手續法第百五十八條ニ所謂判然區別シ難キモノナルヤ否ヤノ問題ハ事實問題ナリヤ果タ法募問題ナルヤ換言セハ上告理由タルヘキモノナリヤ一ハ豐橋十方社ニシテ一ハ丸田田邊十方舍ナル事ハ雙方何等ノ爭ナク唯問題ハ此兩箇ノ商號ノ法律上所謂類似商號ナリヤ否ハ判然區別シ得ヘカラサル商號ナリヤト云フニアルカ故ニ全ク法規適用ノ問題ニシテ事實問題ニアラサルコト明カナリ從テ上告ノ理由タルヘキ一點ノ疑ナシ然ラハ本件兩商號ハ類似商號又ハ判然區別シ難キ商號ナリヤ否ヤト云フニ此點ヲ區別スルノ標準ハ全ク商取引ノ實状ニ依シ決セサル可カラス換言セハ取引社會ノ一般見解ニ依リ決ス可キモノナリトス商號ハ云フ迄モナク商人カ營業上自己ヲ他人ト區別スルカ爲メ用ユル所ノ名ナリ從テ自己固有ノ名字ニ重キヲ置コ此自己固有ノ名字コソ實ニ商號ノ主眼點ナリ加之其者ト取引スル他人ニ於テモ亦此主眼點タル固有ノ名字ニ著眼シ此部分ヲ呼稱シテ以テ商號全體ノ表示ニ代フルハ繁劇敏治ナル取引界ニ於ケル一般ノ状態ナリトス此ノ如ク自他共ニ商號ノ固有主眼ノ名字ニ著目シテ取引ノ行ハレアル以上ハ商號ノ類似ナルヤ否ヤヲ區別スルニ方リテモ亦此取引界現時ノ状態ニ立脚シテ判斷セサル可カラサルハ商號保護ノ精神ヨリスルモ當然云フヲ竣タサル所ナリ本件上告人ノ商號ハ豐橋十方社ナルモ其固有ノ主眼點ハ十方社ナリ而シテ上告人ハ久シキ以前ヨリ十方社ト呼稱シ葬式道具ノ販賣及葬式人夫請負營業ヲナシ來リ大正六年九月十五日商號登記ヲ經テ此商號權ヲ確保シアルモノナリ然ルニ被上告人ハ元上告人ノ使用人ナリシニ拘ハラス不正ノ竸爭ノ目的ヲ以テ其後大正七年六月十九日丸田田邊十方舍ナル商號ヲ登記シ上告人ノ向側ニ於テ上告人ト全然同一ノ商業ヲ開始シタルモノナリ然カモ被上告人ノ商號ハ亦十方舍ヲ主眼トスルコトハ被上告人カ特ニ十方社ト語音相通スル十方舍ナル文字ヲ用ヒタルニ見ルモ明カニシテ唯之ヲ糊魔化ス可ク巧ニ丸田田邊ナス文字ヲ冠セシメタル迄ナリ加之一般取引ノ實際ニ見ルモ上告人自カラハ勿論十方社ト云ヒ被上告人モ亦自己ヲ稱スルニ單ニ十方舍ト云ヒ世人ハ亦十方社トシテ兩者ヲ呼稱シタルノ現状ナレハ取引先ヨリノ書面等常ニ何レモ單ニ十方社宛トアリ加之被上告人自身ハ其廣告等モ甲第一號證ノ一二ノ如ク單ニ田邊十方舍トシテ掲載シ丸田田邊十方舍抔稱セス看板ノ如キモ小サク横ニ田邊トシ十方舍ノ文字ヲ巨大ニ記載シアル等十方舍カ其商號ノ固有眼目ナリ此ノ如ク本件兩商號ノ主眼目カ十方社ノ三字ニ歸著スル以上ハ社ト舍ノ如キハ全ク國音相通スルカ故ニ兩者ハ類似商號又ハ判然區別シ難キ商號ナルコト商取引ノ實際上ヨリシテ一點疑ノ餘地ナシ原判決亦「各商號中冠詞ヲ度外シ單ニ十方社ト十方舍ヲ比較スレハ類似ノ商號ト斷シ得ヘケンモ」ト云ヒ此點ハ十分認メラレアルモノナレ尤モ原判決ハ前掲ノ如ク「單ニ使用セル字句ノ一部分而己ヲ比照シ云爲ス可キニアラス全體ヲ通シ判斷セサル可カラス」トノ理由ヲ附加シテ上告人ノ請求ヲ排斥セラレタルモノナルモ此ノ如キハ全ク取引ノ實際ヲ無視セル形式論ニシテ若シ此ノ如キ議論ヲ許容スル時ハ左ナキタニ危キ商業道徳ハ益危殆ニ傾キ惡徳ナル冒用者ヲシテ其慾ヲ恣ニスルニ至ラシム可ク商號保護ノ實抔到底望ム可カラサルヘシ之ヲ要スルニ原判決ハ本件兩商號ヲ以テ類似商號ニアラストセラレタルハ全ク法則ニ違背セルモノト思料ス(東京地方裁判所四二四第一八五號決定法律新聞第六二九號第一一丁大阪控訴院第三民事部六(ネ)第二〇〇號判決法律新聞第一三二四號二九丁參照)ト云ヒ』同第二點ハ原判決ハ其理由ノ部ニ於テ「右兩者ノ商號カ果シテ類似セルヤ否ヤヲ按スルニ控訴人及ヒ被控訴人ノ商號中各冠詞ヲ度外シ單ニ十方舍ト十方社ヲ比較スレハ語音相通シ眞ニ擬ハシク從テ類似ノ商號ト斷シ得ヘケンモ類似ノ商號ナルヤ否ヤハ右ノ如ク單ニ使用セル字句ノ一部分而已ヲ比照シ云爲スヘキモノニアラスシテ須ク全體ヲ通シ判斷セサルヘカラサルヤ論ヲ竢タサル所ナリ而シテ本件控訴人ノ商號ハ豐橋十方社被控訴人ノ商號ハ丸田田邊十方舍ナレハ二者全然相違シ居リテ類似ノ商號ト認メ難キノミナラス縱シ程被鬪訴人主張ノ如ク其商號中丸田ヲ省キ且舍ノ字ヲ故ヲ社ノ字ト替ヘ田邊十方社ナル商號ヲ使用シタリトスルモ尚且控訴人ノ商號ト類似シ居ルモノト謂フヲ得サレハ彼此ノ商號類似セリトノ前提ノ下ニ請求スル本訴ノ失當ナルコトハ他ノ説明ヲ竢タスシテ明ナリ」ト説示シ上告人ノ訴求ヲ排斥セリ然レトモ被上告人ハ元ト豐橋十方社ノ名ヲ以テ葬式道具ノ販賣及ヒ葬式人夫請負業ヲ營メル上告人方ノ雇人タリシモノニシテ上告人カ舊來ノ營業所タル豐橋市大字副屋五十七番戸ヲ去リ其向ヒ側ナル同大字三十三番戸ニ移轉スルヤ被上告人ハ先是家主ト打合セノ上上告人ノ舊營業家屋ヲ借受ケ同所ニ於テ同一營業ヲ開始シ商號登記簿面ニ於テハ丸田田邊十方舍ナル商號ノ登記ヲ受ケナカラ同營業所屋上ノ看板ニハ十方舍ト大書シ其兩側ニハ小サク丸田田邊ト割リ書シテ其營業ニ從事シ又新聞ノ廣告等ニ於テハ田邊十方舍ノ名ヲ以テ營業ノ廣告ヲ掲載シ斯ル手段ヲ講シテ上告人竝ニ從參加人等ト對峙シ同一營業ニ從事セルモノナリ左レハ實際葬具其他ノ注文ヲ爲ス者カ上告人ト被上告人方トヲ取違ヘ又郵便物カ彼是混同シテ配達セラルルコト珍ラシカラサル有樣ニシテ如上ノ事實ヨリ推セハ被上告人ノ營業開始カ不正ノ竸爭ノ目的ニ出テ而カモ其不正ノ竸爭ノ目的ヲ達成スル爲メ殊更ニ上告人竝ニ從參加人ノ商號ト擬ハシキ商號ヲ撰ミ其商號中ノ主要部分ニ上告人等ノ商號中ノ主要部分ヲ成セル十方舍ナル文字ヲ使用セルコト明ナリ故ニ本件訴求ノ當否ハ法律常識上殆ント言ヲ要セサル程明白ナリト思料セラルルニ拘ハラス原判決ハ意外ニモ前記判示ノ下ニ上告人等ノ訴求ヲ排斥セラルルニ至リタリ然レトモ若シ原判決ノ如キ見解ニシテ是認シ得ラルヘキモノナリトセンカ猾智ナル一部ノ商人等ハ常ニ此種ノ小策ヲ弄シテ商法第二十條ノ規定ヲ潛脱シ類似ノ商號ヲ掲ケテ公然不正ノ競爭ヲ爲シ終ニ之等ノ行爲ヲ防止スルニ由ナカルヘシ原判決ハ前記ノ如ク其理由中ニ於テ「單ニ使用セル字句ノ一部分而已ヲ比照シ云爲スヘキモノニアラスシテ須ク全體ヲ通シ判斷セサル可ラサルヤ論ヲ竣タサル所ナリ」ト説示スレトモ原判決ノ誤解ハ全ク此前提ニ基因セリ此點ニ關シテハ御院判例ヲ引クヲ便トスルヲ以テ茲ニ之ヲ引用センニ「會社ノ通稱又ハ畧稱カ取引市場ニ於テ世人カ會社ノ種類名稱ニ重キヲ措カスシテ其特定名稱ヲ重視セル結果之ニ因リテ取引ノ實際上商號ノ混同誤認ヲ實現セル以上ハ縱令會社ノ通稱又ハ畧稱ナリトモ若クハ其商號ノ一部ナル特定中稱ナリトモ之ヲ以テ商號ノ類似ナルコトヲ認ムルノ妨トナラス(六年(オ)一〇三二號大正七年一月二十六日御院第三民事部判決)トアリ二箇ノ係爭商號ノ類似ナルヤ否ヤヲ判斷スルニハ如何ナル標準ニ依ルヘキヤハ炳乎トシテ明カナリ而シテ右判決ノ正當ナルコトヲ證スヘキ材料トシテハ商標侵害事件ニ付特許局竝ニ御院カ二箇ノ商標ノ類似セルヤ否ヤハ兩者ノ圖形ノ全體ニ於テ判斷スヘキモノニアラスシテ圖形ノ要部又ハ取引上ノ呼稱ニ依テ甄別スヘシトナセル判例ノ存セルコト是ナリ而シテ此判例ハ今日何人ト雖モ之ヲ是認セル所ニシテ之等ノ判例ヲ參照セハ原判決ノ前記説明ノ失當ナルヘキコト明瞭ナリ仍テ進ンテ本件豐橋十方社ナル商號中如何ナル部分カ其要部ヲ爲シ如何ナル部分カ取引上ノ呼稱トナルヘキヤヲ稽フルニ上告人ノ商號トセル豐橋十方社ハ豐橋市ニ存スルモノナルヲ以テ自然豐橋ナル文字ハ特異ノ稱呼ヲナササルヲ以テ特異ノ商號トシテ剩ス所ハ單ニ十方社ナル三字ニ歸スルノ外ナシ而シテ此十方社ナル語ハ恐ラク佛語ノ十方世界又ハ十方極樂淨土等ノ語ヨリ之ヲ取リタルモノナラン其語ハ洵ニ葬具葬儀ヲ取扱ヘル營業上ノ呼稱トシテ特異格好ナル文字ニシテ殊ニ上告人ノ如ク二十年來此呼稱ニ依リ同一營業ヲ持續セル以上ハ此十方社ナル文字竝ニ呼稱カ上告人等ノ營業ニ付キ重要ナル特定名稱ヲナセルコト明カナリ而シテ右ノ事情ノ存スル場合ニ於テ上告人ノ營業所ノ向ヒニ於テ而モ上告人ノ舊營業所タリシ場所ニ於テ同營業ヲ開始シ其商號ノ要部ニ十方舍ナル文字ヲ用ヒタリトセハ誰カ兩者ノ商號ヲ擬ハシトセサランヤ要スルニ商法第二十條ノ類似トハ此擬ハシキコトヲ云フニ外ナラスシテ此ニ擬ハシトハ社會取引上兩者カ混同ノ虞アルヲ以テ足ルモノナリ上告人ト差向ヒニ同一營業ヲ開始シ而カモ商號ノ要部ニ上告人ト同樣十方舍ナル文字ヲ用ヒナハ兩者ノ商號カ擬ハシカルヘキコト又何ソ言ヲ須ヒンヤ而シテ十方舍ナル文字カ其商號ノ要部ヲナスモノナルコトハ原判決ニ於テモ爾餘ノ附隨ノ文字ヲ冠詞ト稱シ十方社ナル三字ト區別セルニ依リテモ明ナリ而シテ尚以上論旨ノ正當ナルコトヲ證スル爲メ一例ヲ假設センニ若シ人アリテ株式會社三越呉服店又ハ株式會社白木屋呉服店ノ向ヒニ之等兩者ト同樣ノ營業ヲ開始シ而シテ其商號ノ要部ニ三越呉服店又ハ白木屋呉服店ノ文字ヲ用ヒタリトセンニ誰レカ此種ノ商號ヲ以テ三越又ハ白木屋ノ商號ト擬ハシカラスト爲スモノアランヤ而シテ本件カ此設例ト同一ナルコトハ上來所述スル所ニ依リテ明カナリ故ニ原判決カ商號類似セルヤ否ヤハ商號ノ全體ニ依テノミ判斷セサルヘカラスト爲シ其通稱又ハ畧稱若クハ商號ノ要部ヲ爲ス一部ノ類似ハ商號ノ類似ヲ爲スモノニアラストナセルハ前記判例ノ旨趣ニ背反セルノミナラス又他面ニ於テハ前記同一事件ノ「商法第二十條ニ所謂類似ノ商號ナリヤ否ヤヲ鑑別スルニハ(中畧)一般市場ニ於テ世人カ彼是混同誤認スル虞ナキ程度ノモノナリヤ否ヤヲ其商號自體ニ付キ觀察スルヲ主要トシ併セテ取引界ノ實情ヲ參酌スルヲ妨ケサルモノトス」トノ判旨ニモ違背セル失當アルモノナリト思料ス而シテ尚ホ從參加人ノ信スル所ニ依レハ假リニ百歩ヲ讓リ本件被上告人ノ商號カ商法第二十條ニ所謂類似ノ商號ニ非ストスルモ本件被上告人ノ行爲ハ明カニ善良ナル風俗ニ反スル行爲ナルヲ以テ之ヲ不法行爲ト解スルニ妨ナク從テ本件差止ノ請求ハ此點ヨリ觀察スルモ之ヲ許容セラルヘキヲ當然ナリト思料ス而シテ如上論爭ノ問題カ事實認定ノ問題ニ屬セスシテ御院ノ判斷ヲ受クヘキ法律問題ニ屬スルコトハ既ニ同種ノ案件ニ付屡々受理判決ヲ與ヘラレタル事例ニ徴シ明白ナルヲ以テ此ニ呶呶セス要スルニ原判決ハ上來所論ノ違法アルヲ以テ之ヲ破毀セラルヘキモノナリト思料スト云フニ在リ
仍テ按スルニ商人ニ對シ登記ニ依リ其商號ノ專用權ヲ附與スル所以ハ他人カ同一又ハ類似ノ商號ヲ使用スルコトニ依リ商號ノ混同誤認ヲ生センコトヲ妨止スヘキ權利ヲ與ヘ取引市場ニ於ケル商人ノ地位ヲ保護セントスルニ外ナラサレハ二箇ノ商號カ果シテ相類似セルヤ否ヤハ取引上世人ヲシテ混同誤認ヲ生セシムル虞アルヤ否ヤヲ標準トシテ之ヲ判斷スヘク從テ其商號自體ニ付キ觀察スルコトヲ要スルハ勿論ナルモ必スシモ常ニ商號全體ニ付テノミ之ヲ觀察セサルヘカラサルモノニアラスシテ寧ロ商號ノ主要部分カ何レニ存スルヤヲ見テ縱令其全體ノ觀察ニ於テ商號ニ使用セル文字ノ多數カ彼此相異ナル場合ト雖モ取引市場ニ於テ世人カ却テ少數ナル主要部分ヲ以テ當該商人ノ畧稱又ハ通稱トシテ之ヲ呼唱シ其主要部分ノミノ同一又ハ類似セルカ爲メニ世人ヲシテ商號ノ混同誤認ヲ生セシムル虞アル場合ニ於テハ是亦商號ノ相類似セルモノトスルコトヲ妨ケサルモノトス是レ當院ノ夙ニ判例トシテ示ス所ナリ(大正六年(オ)第一〇三二號大正七年一月二十六日言渡判決參照)本件ニ於テ上告人ハ豐橋市内ニ豐橋十方社ナル商號ヲ用ヒテ葬儀道具ノ販賣及ヒ葬式人夫請負ノ營業ニ從事シ來リタル所大正六年九月十五日之カ商號ノ登記ヲ受ケタルニ被上告人ハ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ大正七年六月十九日丸田田邊十方舍ナル商號ノ登記ヲ受ケ同商號又ハ田邊十方社ナル名稱ノ下ニ同市ニ於テ同一營業ヲ開始シタルモノニシテ上告人ノ商號ノ主要部分ハ十方社ナル文字ニ存シ世人モ亦單ニ十方社ナル畧稱ノ下ニ取引ヲ爲シ來レルヨリ自然兩者ノ混同ヲ生スルニ至レリト謂フニ在リ然ラハ如上二箇ノ商號カ相類似セルヤ否ヤハ獨リ商號ノ全體ニ付キ觀察スルノミナラス十方社ナル文字カ葬儀社ヲ意味スル一般名稱ニアラスシテ上告人カ自己ヲ表彰スル爲メニ特ニ商號ノ主要部分トシテ之ヲ使用シ世人モ亦上告人ヲ表彰スル畧稱又ハ通稱トシテ取引上唱呼シ來リタルヤ否ヤヲ觀察シテ他人カ其商號中ニ之ト同一又ハ類似ノ文字ヲ用ユルコトカ世人ヲシテ商號ノ混同誤謬ヲ生セシムル虞ヲ來ササルヤ否ヤヲ判斷スルコトニ依リ之ヲ決セサルヘカラサルコト前説示スル如クナルニ拘ハラス原審ハ其商號中ノ一部タル十方社ト十方舍トヲ比較スレハ類似ノ商號ナリト雖モ商號ノ類似スルヤ否ヤハ單ニ使用セル文字ノ一部分ノミヲ比照スヘキモノニアラスシテ其全體ニ付キ判斷セサルヘカラスト説示シ豐橋十方社ト丸田田邊十方舍又ハ田邊十方社トハ類似ノ商號ニアラスト判示シタルハ即チ商號類似ノ有無ノ判斷ニ關スル法則ヲ誤解セル失當アリ原判決ハ此點ニ於テ破毀ヲ免レス上告ハ理由アルヲ以テ民事訴訟法第四百四十七條第一項第四百四十八條第一項ヲ適用シ主文ノ如ク判決ス
大正八年(オ)第九百八十号
大正九年五月二十四日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 商人に対し登記に依り其商号の専用権を附与する所以は他人が同一又は類似の商号を使用することに依り商号の混同誤認を生ぜんことを妨止すべき権利を与へ取引市場に於ける商人の地位を保護せんとするに外ならざれば二箇の商号が果して相類似せるや否は取引上世人をして混同誤認を生ぜしむる虞あるや否を標準として之を判断すべきものとす。
- 一 商号の類似せるや否は商号自体に付き観察することを要するは勿論なるも必ずしも常に商号全体に付きてのみ之を観察せざるべからざるものに非ずして寧ろ商号の主要部分が何れに存するやを見で決すべきものとす。
- 一 如上の場合に於て商号に使用せる文字の多数が彼此相異なる場合と雖も取引市場に於て世人が却て少数なる主要部分を以て当該商人の略称又は通称として之を呼唱し其主要部分のみの同一又は類似せるか為めに世人をして商号の混同誤認を生ぜしむる虞ある場合に於ては之れ亦商号の相類似せるものとすることを妨げざるものとす。
上告人 川辺米作
従参加人 合資会社豊橋十万社
法律上代理人 奥田万通
訴訟代理人 後藤徳太郎
被上告人 田辺福蔵
訴訟代理人 中島松次郎 後藤文一郎 後藤文憲
右当事者間の商号使用差止登記抹消請求事件に付、名古屋地方裁判所が大正八年十月十三日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
理由
上告論旨第一点は原判決は「両者の商号は果して類似せるや否やを按ずるに控訴人及被控訴人の商号中各冠詞を度外し単に十方舎と十方社とを比較すれば語音相通し真に擬はしく。
従て類似の商号と断し得べけんも類似の商号なるや否やは右の如く単に使用せる字句の一部分而己を比照し云為すべきものに非ずして須く全体を通じ判断せざる可からざるや論を竢たざる所なり。
而して本件控訴人の商号は豊橋十方社被控訴人の商号は丸田田辺十方舎なれば二者全然相違し居りて類似の商号と認め難しのみならず縦しや被控訴人主張の如く其証号中丸田を省き、且、舎の字を故ら社の字と替へ田辺十方社なる商号を使用したりとす、且、控訴人の商号と類似し居るものと云ふを得ざれば云云」との理由の下に上告人の本訴請求を排斥せられたり先づ本件二箇の商号は類似商号なるや又は非訟事件手続法第百五十八条に所謂判然区別し難きものなるや否やの問題は事実問題なりや果た法募問題なるや換言せば上告理由たるべきものなりや一は豊橋十方社にして一は丸田田辺十方舎なる事は双方何等の争なく唯問題は此両箇の商号の法律上所謂類似商号なりや否は判然区別し得べからざる商号なりやと云ふにあるが故に全く法規適用の問題にして事実問題にあらざること明かなり。
従て上告の理由たるべき一点の疑なし。
然らば本件両商号は類似商号又は判然区別し難き商号なりや否やと云ふに此点を区別するの標準は全く商取引の実状に依し決せざる可からず。
換言せば取引社会の一般見解に依り決す可きものなりとす。
商号は云ふ迄もなく商人が営業上自己を他人と区別するか為め用ゆる所の名なり。
従て自己固有の名字に重きを置こ此自己固有の名字こそ実に商号の主眼点なり。
加之其者と取引する他人に於ても亦此主眼点たる固有の名字に著眼し此部分を呼称して以て商号全体の表示に代ふるは繁劇敏治なる取引界に於ける一般の状態なりとす。
此の如く自他共に商号の固有主眼の名字に著目して取引の行はれある以上は商号の類似なるや否やを区別するに方りても亦此取引界現時の状態に立脚して判断せざる可からざるは商号保護の精神よりずるも当然云ふを竣たざる所なり。
本件上告人の商号は豊橋十方社なるも其固有の主眼点は十方社なり。
而して上告人は久しき以前より十方社と呼称し葬式道具の販売及葬式人夫請負営業をなし来り大正六年九月十五日商号登記を経で此商号権を確保しあるものなり。
然るに被上告人は元上告人の使用人なりしに拘はらず不正の競争の目的を以て其後大正七年六月十九日丸田田辺十方舎なる商号を登記し上告人の向側に於て上告人と全然同一の商業を開始したるものなり。
然かも被上告人の商号は亦十方舎を主眼とすることは被上告人が特に十方社と語音相通する十方舎なる文字を用ひたるに見るも明かにして唯之を糊魔化す可く巧に丸田田辺なす文字を冠せしめたる迄なり。
加之一般取引の実際に見るも上告人自からば勿論十方社と云ひ被上告人も亦自己を称するに単に十方舎と云ひ世人は亦十方社として両者を呼称したるの現状なれば取引先よりの書面等常に何れも単に十方社宛とあり加之被上告人自身は其広告等も甲第一号証の一二の如く単に田辺十方舎として掲載し丸田田辺十方舎抔称せず看板の如きも小さく横に田辺とし十方舎の文字を巨大に記載しある等十方舎が其商号の固有眼目なり。
此の如く本件両商号の主眼目が十方社の三字に帰著する以上は社と舎の如きは全く国音相通するが故に両者は類似商号又は判然区別し難き商号なること商取引の実際上よりして一点疑の余地なし。
原判決亦「各商号中冠詞を度外し単に十方社と十方舎を比較すれば類似の商号と断し得べけんも」と云ひ此点は十分認められあるものなれ尤も原判決は前掲の如く「単に使用せる字句の一部分而己を比照し云為す可きにあらず。
全体を通じ判断せざる可からず。」との理由を附加して上告人の請求を排斥せられたるものなるも此の如きは全く取引の実際を無視せる形式論にして若し此の如き議論を許容する時は左なきたに危き商業道徳は益危殆に傾き悪徳なる冒用者をして其慾を恣にするに至らしむ可く商号保護の実抔到底望む可からざるべし之を要するに原判決は本件両商号を以て類似商号にあらずとせられたるは全く法則に違背せるものと思料す(東京地方裁判所四二四第一八五号決定法律新聞第六二九号第一一丁大坂控訴院第三民事部六(ネ)第二〇〇号判決法律新聞第一三二四号二九丁参照)と云ひ』同第二点は原判決は其理由の部に於て「右両者の商号が果して類似せるや否やを按ずるに控訴人及び被控訴人の商号中各冠詞を度外し単に十方舎と十方社を比較すれば語音相通し真に擬はしく。
従て類似の商号と断し得べけんも類似の商号なるや否やは右の如く単に使用せる字句の一部分而己を比照し云為すべきものにあらずして須く全体を通じ判断せざるべからざるや論を竢たざる所なり。
而して本件控訴人の商号は豊橋十方社被控訴人の商号は丸田田辺十方舎なれば二者全然相違し居りて類似の商号と認め難きのみならず縦し程被闘訴人主張の如く其商号中丸田を省き、且、舎の字を故を社の字と替へ田辺十方社なる商号を使用したりとするも尚、且、控訴人の商号と類似し居るものと謂ふを得ざれば彼此の商号類似せりとの前提の下に請求する本訴の失当なることは他の説明を竢たずして明なり。」と説示し上告人の訴求を排斥せり。
然れども被上告人は元と豊橋十方社の名を以て葬式道具の販売及び葬式人夫請負業を営める上告人方の雇人たりしものにして上告人が旧来の営業所たる豊橋市大字副屋五十七番戸を去り其向ひ側なる同大字三十三番戸に移転するや被上告人は先是家主と打合せの上上告人の旧営業家屋を借受け同所に於て同一営業を開始し商号登記簿面に於ては丸田田辺十方舎なる商号の登記を受けながら同営業所屋上の看板には十方舎と大書し其両側には小さく丸田田辺と割り書して其営業に従事し又新聞の広告等に於ては田辺十方舎の名を以て営業の広告を掲載し斯る手段を講して上告人並に従参加人等と対峙し同一営業に従事せるものなり。
左れば実際葬具其他の注文を為す者が上告人と被上告人方とを取違へ又郵便物が彼是混同して配達せらるること珍らしからざる有様にして如上の事実より推せば被上告人の営業開始が不正の競争の目的に出で而かも其不正の競争の目的を達成する為め殊更に上告人並に従参加人の商号と擬はしき商号を撰み其商号中の主要部分に上告人等の商号中の主要部分を成せる十方舎なる文字を使用せること明なり。
故に本件訴求の当否は法律常識上殆んど言を要せざる程明白なりと思料せらるるに拘はらず原判決は意外にも前記判示の下に上告人等の訴求を排斥せらるるに至りたり。
然れども若し原判決の如き見解にして是認し得らるべきものなりとせんか猾智なる一部の商人等は常に此種の小策を弄して商法第二十条の規定を潜脱し類似の商号を掲げて公然不正の競争を為し終に之等の行為を防止するに由なかるべし原判決は前記の如く其理由中に於て「単に使用せる字句の一部分而己を比照し云為すべきものにあらずして須く全体を通じ判断せざる可らざるや論を竣たざる所なり。」と説示すれども原判決の誤解は全く此前提に基因せり此点に関しては御院判例を引くを便とするを以て茲に之を引用せんに「会社の通称又は略称が取引市場に於て世人が会社の種類名称に重きを措かずして其特定名称を重視せる結果之に因りて取引の実際上商号の混同誤認を実現せる以上は縦令会社の通称又は略称なりとも若くは其商号の一部なる特定中称なりとも之を以て商号の類似なることを認むるの妨とならず(六年(オ)一〇三二号大正七年一月二十六日御院第三民事部判決)とあり二箇の係争商号の類似なるや否やを判断するには如何なる標準に依るべきやは炳乎として明かなり。
而して右判決の正当なることを証すべき材料としては商標侵害事件に付、特許局並に御院が二箇の商標の類似せるや否やは両者の図形の全体に於て判断すべきものにあらずして図形の要部又は取引上の呼称に依て甄別すべしとなせる判例の存せること是なり。
而して此判例は今日何人と雖も之を是認せる所にして之等の判例を参照せば原判決の前記説明の失当なるべきこと明瞭なり。
仍て進んで本件豊橋十方社なる商号中如何なる部分が其要部を為し如何なる部分が取引上の呼称となるべきやを稽ふるに上告人の商号とせる豊橋十方社は豊橋市に存するものなるを以て自然豊橋なる文字は特異の称呼をなさざるを以て特異の商号として剰す所は単に十方社なる三字に帰するの外なし。
而して此十方社なる語は恐らく仏語の十方世界又は十方極楽浄土等の語より之を取りたるものならん其語は洵に葬具葬儀を取扱へる営業上の呼称として特異格好なる文字にして殊に上告人の如く二十年来此呼称に依り同一営業を持続せる以上は此十方社なる文字並に呼称が上告人等の営業に付き重要なる特定名称をなせること明かなり。
而して右の事情の存する場合に於て上告人の営業所の向ひに於て而も上告人の旧営業所たりし場所に於て同営業を開始し其商号の要部に十方舎なる文字を用ひたりとせば誰が両者の商号を擬はしとせさらんや要するに商法第二十条の類似とは此擬はしきことを云ふに外ならずして此に擬はしとは社会取引上両者が混同の虞あるを以て足るものなり。
上告人と差向ひに同一営業を開始し而かも商号の要部に上告人と同様十方舎なる文字を用ひなは両者の商号が擬はしかるべきこと又何そ言を須ひんや。
而して十方舎なる文字が其商号の要部をなすものなることは原判決に於ても爾余の附随の文字を冠詞と称し十方社なる三字と区別せるに依りても明なり。
而して尚以上論旨の正当なることを証する為め一例を仮設せんに若し人ありて株式会社三越呉服店又は株式会社白木屋呉服店の向ひに之等両者と同様の営業を開始し、而して其商号の要部に三越呉服店又は白木屋呉服店の文字を用ひたりとせんに誰れか此種の商号を以て三越又は白木屋の商号と擬はしからずと為すものあらんや。
而して本件が此設例と同一なることは上来所述する所に依りて明かなり。
故に原判決が商号類似せるや否やは商号の全体に依てのみ判断せざるべからずと為し其通称又は略称若くは商号の要部を為す一部の類似は商号の類似を為すものにあらずとなせるは前記判例の旨趣に背反せるのみならず又他面に於ては前記同一事件の「商法第二十条に所謂類似の商号なりや否やを鑑別するには(中略)一般市場に於て世人が彼是混同誤認する虞なき程度のものなりや否やを其商号自体に付き観察するを主要とし併せて取引界の実情を参酌するを妨げざるものとす。」との判旨にも違背せる失当あるものなりと思料す。
而して尚ほ従参加人の信ずる所に依れば仮りに百歩を譲り本件被上告人の商号が商法第二十条に所謂類似の商号に非ずとするも本件被上告人の行為は明かに善良なる風俗に反する行為なるを以て之を不法行為と解するに妨なく。
従て本件差止の請求は此点より観察するも之を許容せらるべきを当然なりと思料す。
而して如上論争の問題が事実認定の問題に属せずして御院の判断を受くべき法律問題に属することは既に同種の案件に付、屡屡受理判決を与へられたる事例に徴し明白なるを以て此に呶呶せず要するに原判決は上来所論の違法あるを以て之を破毀せらるべきものなりと思料すと云ふに在り
仍て按ずるに商人に対し登記に依り其商号の専用権を附与する所以は他人が同一又は類似の商号を使用することに依り商号の混同誤認を生ぜんことを妨止すべき権利を与へ取引市場に於ける商人の地位を保護せんとするに外ならざれば二箇の商号が果して相類似せるや否やは取引上世人をして混同誤認を生ぜしむる虞あるや否やを標準として之を判断すべく。
従て其商号自体に付き観察することを要するは勿論なるも必ずしも常に商号全体に付てのみ之を観察せざるべからざるものにあらずして寧ろ商号の主要部分が何れに存するやを見で縦令其全体の観察に於て商号に使用せる文字の多数が彼此相異なる場合と雖も取引市場に於て世人が却て少数なる主要部分を以て当該商人の略称又は通称として之を呼唱し其主要部分のみの同一又は類似せるか為めに世人をして商号の混同誤認を生ぜしむる虞ある場合に於ては是亦商号の相類似せるものとすることを妨げざるものとす。
是れ当院の夙に判例として示す所なり。
(大正六年(オ)第一〇三二号大正七年一月二十六日言渡判決参照)本件に於て上告人は豊橋市内に豊橋十方社なる商号を用ひて葬儀道具の販売及び葬式人夫請負の営業に従事し来りたる所大正六年九月十五日之が商号の登記を受けたるに被上告人は不正の競争の目的を以て大正七年六月十九日丸田田辺十方舎なる商号の登記を受け同商号又は田辺十方社なる名称の下に同市に於て同一営業を開始したるものにして上告人の商号の主要部分は十方社なる文字に存し世人も亦単に十方社なる略称の下に取引を為し来れるより自然両者の混同を生ずるに至れりと謂ふに在り。
然らば如上二箇の商号が相類似せるや否やは独り商号の全体に付き観察するのみならず十方社なる文字が葬儀社を意味する一般名称にあらずして上告人が自己を表彰する為めに特に商号の主要部分として之を使用し世人も亦上告人を表彰する略称又は通称として取引上唱呼し来りたるや否やを観察して他人が其商号中に之と同一又は類似の文字を用ゆることが世人をして商号の混同誤謬を生ぜしむる虞を来さざるや否やを判断することに依り之を決せざるべからざること前説示する如くなるに拘はらず原審は其商号中の一部たる十方社と十方舎とを比較すれば類似の商号なりと雖も商号の類似するや否やは単に使用せる文字の一部分のみを比照すべきものにあらずして其全体に付き判断せざるべからずと説示し豊橋十方社と丸田田辺十方舎又は田辺十方社とは類似の商号にあらずと判示したるは。
即ち商号類似の有無の判断に関する法則を誤解せる失当あり原判決は此点に於て破毀を免れず上告は理由あるを以て民事訴訟法第四百四十七条第一項第四百四十八条第一項を適用し主文の如く判決す