建物收去竝土地明渡請求ノ件
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大審院民事判決録（民録）26輯152頁
大正八年（オ）第九百六十六號
大正九年二月二十五日第三民事部判決
◎判決要旨
- 一 假登記ハ不動産登記法第二條ニ依リ登記ノ申請ニ必要ナル手續上ノ條件ノ具備セサルトキ又ハ不動産ニ關スル權利ノ設定移轉變更又ハ消滅ノ請求權ヲ保全セントスル場合ニ爲スモノニシテ即チ不動産ニ關スル權利ノ保全ヲ目的トスル一ノ假處分タルニ過キス從テ本登記ノ如ク確定的ニ登記名義ノ變更ヲ生スルモノニ非サレハ假登記ヲ爲シタル登記權利者ハ爾後更ニ本登記ヲ爲スニ非サレハ直ニ第三者ニ對シテ其權利ノ移轉ニ關スル本登記ヲ爲スコトヲ得サルモノトス
（參照）假登記ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ爲ス」一、登記ノ申請ニ必要ナル手續上ノ條件カ具備セサルトキ」二、前條ニ掲ケタル權利ノ設定、移轉、變更又ハ消滅ノ請求權ヲ保全セントスルトキ」右ノ請求權カ始期附又ハ停止條件附ナルトキ其他將來ニ於テ確定スヘキモノナルトキ亦同シ（不動産登記法第二條） - 一 民法第百七十七條ハ同一ノ不動産ニ關シテ正當ノ權利又ハ利益ヲ有スル第三者ヲシテ登記ニ依リテ物權ノ得喪及ヒ變更ノ事情ヲ知悉シ以テ不慮ノ損害ヲ免レシメンカ爲メニ設ケタルモノナレハ同一ノ不動産ニ關シテ所有權抵當權等ノ物權ヲ取得シタル者又ハ同一ノ不動産ヲ差押ヘタル債權者ノ如ク彼我利害相反スル者ノ利益ヲ保護スルモノトス
第一審 大分區裁判所
第二審 大分地方裁判所
右當事者間ノ建物收去竝ニ土地明渡請求事件ニ付大分地方裁判所カ大正八年七月三十一日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ一部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
主文
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告費用ハ上告人ノ負擔トス
理由
上告論旨ハ假登記ハ不動産登記法第二條ノ規定ニ因リテ登記申請ニ必要ナル手續上ノ條件カ具備セサルトキ又ハ不動産ニ關スル權利ノ設定移轉變更又ハ消滅ノ請求權ヲ保全セントスルトキ同法第三十二條ニ則リ假處分命令ニ基クカ又ハ同法第三十三條ニ從ヒ假登記義務者ノ承諾アルトキニ之ヲ申請スヘキモノナレハ假登記ハ權利ノ保全ヲ以テ唯一ノ目的トスル一ノ假處分ニシテ本登記ノ如ク確定的ニ登記名義ノ變更ヲ生スルモノニアラサルコトハ同法第五十四條第五十五條及ヒ第七條ニ徴スルモ明ナリ即チ同第五十四條ニ因レハ假登記用紙中相當區事項欄ニ之ヲ爲シ其ノ左側ニ餘白ヲ存スルコトヲ要ストアリ又同法第五十五條ニ因レハ假登記ヲ爲シタル後本登記ノ申請アリタルトキハ假登記ノ左側ノ餘白ニ其登記ヲ爲スコトヲ要ストアリテ又同法第七條第二項ニ因レハ假登記ヲ爲シタル場合ニ於テハ本登記ノ順位ハ假登記ノ順位ニ依ルトアレハナリ因是觀之假登記ナルモノハ完全ナル登記ニアラサルカ故ニ唯其登記ヲ經タル權利ヲ確保スル物權的效力アルニ止リ本登記ヲ經ルニアラサレハ其假登記ヲ經タル權利ヲ行使スルコトヲ得サルモノト謂フヘシ之本登記ト差異アル所以ナリ而シテ不動産登記法ノ規定ニ因レハ登記義務者ハ登記名義人タルコトヲ要スルモノナレハ所有權取得ニ關スル假登記ヲ經タル者カ其權利ノ本登記ヲ爲サントスルトキハ原所有者ヲ登記義務者トシテ本登記ヲ爲スヘク然ラスシテ其假登記權利者カ本登記ヲ爲サスシテ假登記ノ侭其假登記ヲ經タル權利ヲ第三者ニ賣却シテ所有權取得ノ登記ヲ爲サシメタルトキハ假登記ノ權利者ハ登記義務者タル地位ヲ脱却スルカ故ニ原所有者ニ對シ本登記ノ請求ヲ爲スコト能ハサルノミナラス現所有者ニ於テモ亦既ニ本登記ヲ爲シアルヲ以テ更ニ本登記ノ請求ヲ假登記權利者タリシ者ニ對シテ爲スコトヲ得サルコトトナルヲ以テ本登記ヲ經ルニアラサレハ假登記權利者ハ直ニ第三者ニ對シ所有權取得ノ本登記ヲ爲サシムルコトヲ得サルモノト謂ハサルヘカラス然ルニ原判決ニ依レハ被控訴人ハ右甲第二號證ノ登記ハ所有權保存ノ假登記ヲ基礎トシテ爲シタル移轉登記ニシテ被控訴人ニ對抗シ得ヘキ何等ノ效力ナキ旨論スレトモ我登記制度ニ於テハ登記ハ單ニ公示方法タルニ過キサルモノナレハ前登記カ假登記ナルト否トニヨリテ後登記ノ效力ニ消長ヲ來スモノニアラサルニ依リ假登記ヲ基礎トシテ爲シタル移轉登記ニテモ實際權利移轉ノ状態ニ符合スル以上該移轉登記ハ之ヲ有效ノ登記ト爲ササルヲ得ス云云ト斷シ以テ假登記權利者ニシテ本登記ヲ經ルコトナク直ニ第三者ニ對シ所有權取得ノ登記ヲ爲サシメ得ヘキモノト爲シタルハ結局前示法條ノ適用ヲ誤リタル違法ノ裁判ナリト謂ハサル可ラス（大審院民事判決録第二十一輯第十六卷七五六頁及横田秀雄氏著物權法十八版九六頁參照）ト云フニ在リ
按スルニ假登記ハ不動産登記法第二條ニ依リ登記ノ申請ニ必要ナル手續上ノ條件カ具備セサルトキ又ハ不動産ニ關スル權利ノ設定移轉變更又ハ消滅ノ請求權ヲ保全セントスルトキニ之ヲ爲スモノニシテ即チ假登記ハ不動産ニ關スル權利ノ保全ヲ目的トスル一ノ假處分タルニ過キス本登記ノ知ク確定的ニ登記名義ノ變更ヲ生スルモノニ非サルカ故ニ不動産ニ關スル權利ニ付假登記ヲ爲シタル登記權利者ハ爾後更ニ本登記ヲ爲スニ非サレハ單ニ假登記ヲ爲シタルノミニテハ直ニ第三者ニ對シテ其權利ノ移轉ニ關スル本登記ヲ爲スコトヲ得サルモノトス然ルニ原判決カ「我登記制度ニ於テハ登記ハ單ニ公示方法タルニ過キサルモノナレハ前ノ登記カ假登記ナルト否トニ依リテ後ノ登記ノ效力ニ消長ヲ來スモノニ非サルニヨリ假登記ヲ基礎トシテ爲シタル移轉登記ニテモ實際權利移轉ノ状態ニ符合スル以上該移轉登記ハ之ヲ有效ノ登記ト爲ササルヲ得ス」ト判示シタルハ失當ニシテ假登記ノ性質ヲ誤解シタルモノトス然レトモ本件ニ付上告人（原告）請求ノ趣旨ハ上告人所有ノ地所ニ被上告人（被告）ハ謂ハレナク本件建物ヲ建設シタルヲ以テ之カ收去竝ニ地所ノ明渡ヲ請求スト云フニ在リテ而テ被上告人ノ答辯ハ右建物ハ大正五年二月十日被上告人ニ於テ所有權保存ノ假登記ヲ爲シ同六年十二月二十八日訴外安東多一ニ賣渡シ既ニ其登記ヲ了リ現時被上告人ノ所有ニ非サルヲ以テ右請求ニ應スルコト能ハスト云フニ在テ原判決ハ訴外安東多一カ大正六年十二月二十八日賣買ニ因リテ本件家屋ヲ被上告人ヨリ買受ケタル事實ヲ認定セリ依テ右賣買ニ依リテ所有權カ安東多一ニ移轉シタル事實ヲ土地所有者タル上告人ニ對シテ主張セントスルニハ之カ登記ヲ爲スコトヲ要スルヤ否ヤヲ審按スルニ民法第百七十七條ノ規定ハ同一ノ不動産ニ關シテ正當ノ權利又ハ利益ヲ有スル第三者ヲシテ登記ニ依リテ物權ノ得喪及變更ノ事情ヲ知悉シ以テ不慮ノ損害ヲ免カレシメンカ爲メニ設ケタルモノニシテ即チ同一ノ不動産ニ關シテ所有權抵當權等ノ物權ヲ取得シタル者又ハ同一ノ不動産ヲ差押ヘタル債權者ノ如ク彼我利害相反スル者ノ利益ヲ保護スルノ趣旨ニ出テタルモノナルコトハ從來當院判例ノ示スカ如クナルヲ以テ本件事案ノ如ク叙上同一ノ建物ニ付キ正當ノ權利又ハ利益ヲ有スル第三者ニ該當セサル上告人ニ對シテ前記所有權移轉ノ事實ヲ主張セントスルニハ固ヨリ登記ヲ要スルモノニ非ス而テ原判決ハ本件建物ハ既ニ被上告人ヨリ訴外安東多一ニ賣却セラレ被上告人ハ現時其所有者ニ非サル事實ヲ認定シ依テ以テ上告人ノ提起シタル建物收去竝ニ地所明渡ノ請求ヲ否定シタルモノナルカ故ニ原判決ハ此點ニ於テ維持スルニ足ルヘク本件上告論旨ハ結局其理由ナキニ歸スルモノトス仍テ民事訴訟法第四百五十二條第四百五十三條第七十七條ニ依リ主文ノ如ク判決ス