土地所有權移轉登記手續請求ノ件

平易表示にする 原文表示にする

大審院民事判決録（民録）24輯1603頁

上告論旨第一点は原裁判所は訴訟手続に付きての規定に違背して審理を為し裁判を為したる不法あり。 （一）即ち原審訴訟記録を閲するに第二回口頭弁論（大正五年十一月十六日午前九時）の際に於ける裁判所の構成部員は裁判長判事川井猪太郎判事小林頔雄判事小野寺彦判事小野寺彦にして第三回口頭弁論（大正五年十二月十四日午前九時）の際に於ては裁判長判事小林頔雄判事小野寺彦判事伊達亮治が裁判所を構成したり。 換言すれば第三回口頭弁論公開の際には裁判所の構成部員に変更あり。 即ち此場合に趣摯は裁判所は審理を更新せざるべからざるに敢て之を為さずして裁判長は証人千葉弥七、達谷窟恂太郎、滝沢つぎに対し訊問を為し尚ほ「証拠調関係書類未到来に付き弁論を詠期す」との決定を言渡し次回の弁論期日を来る大正六年一月十八日午前九時と指定し当事者双方の出頭を命じたり（二）第四回口頭弁論（大正六年一月十八日午前九時）の際に於ける裁判所の構成部員は又第三回口頭弁論の際と異なり。 裁判長判事川井猪太郎判事小林頔雄判事小野寺彦なり。 此場合に於ても裁判所は等しく審理を更新せざるべからざるに之を為さずして裁判長は「証拠調関係書類未到来に付き弁論を延期す」との決定を言渡したり。 （三）尚ほ第七回口頭弁論（大正六年八月二日午前九時）の際に於ける裁判所の構成部員は裁判長判事鈴木銈太郎判事小野寺彦判事伊達亮治にして第八回口頭弁論（大正六年九月十三日午前九時）の際には第七回の場合とは異なり。 構成部員は裁判長判事小野寺彦判事佐久間松次郎判事伊達亮治にして部員に変更あるにも拘はらず裁判所は前同様又審理を更新せず原裁判所は訴訟手続に付ての規定に違背して審理を為し裁判を為したる不法ありと謂ひ」同第二点は原判当は第二審証人千葉弥七、達谷窟恂太郎、滝沢つぎの各証言を起用して理由を説明したり。 右三名の証人は原審第三回口頭弁論（大正五年十二月十四日午前九時）の際に訊問せられたるものにして其裁判所の構成部員は裁判長判事小林頔雄判事小野寺彦判事伊達亮治の三人にして此の構成部員は第二回口頭弁論の際に於ける構成部員と異なることは前第一の理由中に述べたる所の如し。 即ち此場合に趣摯は裁判所は審理を更新して、而して[しこうして]後を証人の訊問を為さざるべからざるにも拘はらず之を更新せずして証人を訊問したる失当あり然かも此失当なる手続に依りて為されたる証人の訊問調書（証言）を採で以て判断の資料に供したる原判決は其違法なること言へ竢たず。 即ち原判決は破毀せらるべきものと思料すと謂ふに在り

然れども[しかれども]本件の如く受訴裁判所が証拠調期日に証拠調を為す場合又は単に弁論期日を延期する場合に於て仮令[たとい]裁判所の構成に変更ありとするも其以前必ずしも弁論の更新を為すことを要するものにあらず。 故に本論旨は孰れ[いずれ]も其理由なし。

上告論旨第三点は（一）原裁判所は証人滝沢つぎを訊問するに当り同証人は控訴人の実母なる旨を陳述したるにも拘はらず之れに宣誓せしめたるは訴訟手続上違法なりと曰はざるべからず。 （二）加之[しかのみならず]被控訴代理人は此訴訟手続の違背に付き異議を述べたるにも拘はらず原判決中に同証人の証言を援用して理由を説明したる不法ありと謂ふに在り

然れども[しかれども]証人滝沢つぎの喚問申請書に徴するに同人の訊問事項は被上告人の代理人として係争の権利関係に関し為したる行為なること明かなれば裁判所が同証人に対し宣誓を命じたるは不法にあらざるのみならず仮に宣誓を命ずべき場合にあらざりしものとするも原審口頭弁論調書に依れば上告人が此点に付き何等異議を述べたる形跡なきを以て責問権を放棄したるものと解することを得べし。 故に本論旨は其理由なきものと謂はざるを得ず。

上告論旨第四点は判決主文は当事者の理由ある一方の一定の申立を採で以て之を作成すべきものにして裁判所は当事者の一定の申立を慢りに変更すべからざるものたるや言を竣たず。 原判決を見るに其主文に於て「原判決を廃棄す被控訴人は控訴人より金四十円の給付を得ると同時に被控訴人所有の（下略）」と云ふ[いう]も控訴人は此の主文と同一なる一定の申立を為さず控訴人は其の一定の申立に於て「原判決を廃棄し被控訴人は控訴人より金四十円の給付を得るに於ては被控訴人所有の（下略）」と申立てたり。 即ち控訴人は「金四十円の給付を得るに於ては（下略）」と申立で其後何等之が訂正申立を為したることなきにも拘はらず原判決は其の主文に於て慢りに「金四十円の給付を得ると同時に（下略）」と変更したり。 「給付を得るに於ては」と「給付を得ると同時に」とは其の意自ら異なる前者は「給付を受けたるならば」の意味にして条件に係り後者は然らず斯かる[かかる]明瞭なる区別あるにも拘はらず原判決は前述する如く判決主文を作成したるは失当たるを免がれざるものと思料すと謂ふに在り

然れども[しかれども]原判決の主文も当事者の申立も共に残代金四十円を支払ふと同時に本件登記義勤の履行を為すに在ること明かなりと認む故に本論旨も亦[また]其理由なきものとす。

乃で民事訴訟法第四百三十九条第一項に従ひ主文の如く判決す