大正七年(オ)第六十七號
大正七年七月二日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 解散シタル合資會社カ債務ノ辯濟ヲ爲ササルニ拘ハラス清算ノ結果殘餘財産ヲ生シタリト爲シ社員ニ對シ各其出資額ノ割合ニ應シ右殘餘財産ノ分配ヲ爲シタルハ違法ニシテ會社ハ分配ヲ受ケタル各社員ニ對シ之カ取戻ヲ請求スル權利ヲ有スルモノトス(判旨第一點)
- 一 如上會社ノ取戻請求權ハ其債權ヲ組成スルモノニシテ商法第六十三條ニ所謂會社財産ニ包含スヘキキノトス(同上)
(參照)會社財産ヲ以テ會社ノ債務ヲ完濟スルコト能ハサルトキハ各社員連帶シテ其辯濟ノ責ニ任ス(商法第六十三條)
右當事者間ノ計算殘金及立替金請求事件ニ付大阪控訴院カ大正六年十一月七日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ一部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
主文
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告費用ハ上告人ノ負擔トス
理由
上告論旨第一點ハ原判決ハ商法第六十三條ノ解釋ヲ誤リタル違法ノ判決ナリ本上告論點ハ原判決中合資會社丸大運送店ハ解散後殘餘財産ヲ有スルヲ以テ未タ無限責任社員タル被上告人等ニ無限責任義務ノ發生セサルモノナリヤ否ヤノ點ノ判示ニ關係ス此點ニ關シ原判決ハ各種ノ證據ニ依リ右合資會社丸大運送店ハ其資本及積立金ニ該當スル二千七百五十圓ノ價格ヲ有スル財産ヲ清算上殘餘財産ト爲シ之ヲ各社員ニ配當シタルコトヲ認定シ次ニ「合資會社カ債務ヲ負煮セル場合ニ於テ解散ヲ爲シ其債務ヲ辯濟スルコト無ク會社財産ヲ各社員ニ配當シ計算ニ付キ各社員ノ承認ヲ得タリトスルモ未タ其債務ヲ完濟セサル間ハ適法ニ清算ヲ結了シタリト爲スニ由ナク故ニ縱令清算結了ノ登記ヲ受クルモ尚會社ハ清算ノ範圍内ニ於テ存續シ債務ヲ負擔セルモノト爲ササルヘカラス而シテ斯ノ如ク會社ニ屬スル債務ヲ完濟スルコトナク會社財産ヲ各社員ニ配當シ不法ニ清算ヲ遂ケタル場合ハ會社ノ各社員ニ對シ自己ノ債務ノ存スル限リ其配當ニ係ル財産ノ取戻權ヲ有ス可ク此權利ハ各社員ノ資力ノ存スル限度ニ於テ會社ノ財産ヲ組織セルモノナリ」ト論シ次ニ右分配ヲ受ケタル各社員カ此分配金返還ノ義務ヲ履行シ得ヘキ資力アリト認定シ終ニ「左スレハ會社ハ控訴人(上告人)ニ對スル債務ヲ完濟スルニ足ル財産ヲ有セルモノナルヲ以テ被控訴人(被上告人)兩名ハ未タ商法第六十三條ノ擔保義務ヲ負フヘキモノニアラス」ト爲セリ右ノ判示ハ明カニ商法ノ法則ヲ誤解セルモノナリト信ス右判示中合資會社カ解散ヲ爲シタル場合ニ未タ債務ノ完濟ヲ爲サスシテ其財産ヲ分配シ計算ニ付キ各社員ノ承認ヲ得タリトスルモ未タ其債務ヲ完濟セサル間ハ適法ニ清存ヲ結了シタリト云フヘカラス此場合ニハ會社ハ未タ清算ノ範圍ニ於テ存續スルコトハ御院判例ニ於テモ認メラレ且學説ニ於テモ畧ホ一定セル點ナルヲ以テ上告人ハ此點ニ關シ攻撃スルモノニアラス原判決ハ更ニ進ンテ此場合ニハ會社ハ此分配金ノ取戻ヲ求ムルコトヲ得ヘク此返還義務者カ相當資力アルトキハ此取戻請求權ハ會社財産ト認ムヘク從テ會社ノ無資力ヲ妨クルモノト爲セリ是レ上告人ノ承服セサル點ナリトス(一)先ツ商法第六十三條ノ會社財産トハ如斯一旦分配シタルモノノ取戻權マテモ包舍スルモノナリヤ同法ノ精神ヨリ云フモ右ハ會社ノ現存財産ノ意義ナラサルヘカラス此ノ如キモノ迄ヲ探究シテ會社財産ト爲ストキハ債權者ノ安全ノ爲メニ設ケラレタル同條ノ效用ハ大半減却セラルヘシ(二)又商法第九十三條ニハ單ニ「清算人ハ會社ノ債務ヲ辯濟シタル後ニアラサレハ會社財産ヲ社員ニ分配スルコトヲ得ス」ト規定スルノミニシテ此規定ニ違反シテ辯濟ヲ爲シタル場合ニ付キ其辯濟ノ效力如何ニ付テハ何等規定スルコトナシ然レトモ此點ニ關シ參考トスヘキハ商法第六十七條ナルヘシ同條第一項ハ損害填補ヲ爲サスシテ利益配當ヲ爲スコトヲ得サラシムル規定ニシテ債務完濟ヲ爲サスシテ財産分配ヲ爲スコトヲ得サラシムル規定ト其思想ヲ一ニス而シテ此第六十七條ニ於テハ同條第一項違反ノ制裁トシテ「前項ノ規定ニ違反シテ配當ヲ爲シタルトキハ會社ノ債權者ハ之ヲ返還セシムルコトヲ得」ト規定シ債權者ニ於テ其返還請求ヲ爲スト之ヲ爲サスシテ會社社員ニ請求スルトノ自由ヲ與フ此理ハ第九十五條ニ違反シテ殘餘財産ノ分配ヲ爲シタル場合ニ於テモ同一ナラサルヘカラス即チ債權者ニ於テ財産分配ノ不法ヲ主張シ之ヲ受ケタル社員ニ對シ其取戻ヲ請求スルト之ヲ請求セスシテ會社ノ無資力ヲ理由トシテ各社員ニ商法第六十三條ノ責任ヲ問フトハ全ク其自由ナラサルヘカラス然ラサレハ右九十五條ノ場合ト六十七條ノ場合トノ權衡ヲ失フヘシ又原判決ノ如ク解スルトキハ右九十五條ニ違反シテ配當アリタル場合ニ付キ損權者ハ分配ヲ受ケタル總社員ノ無資力迄ヲモ立證セサレハ會社ノ無資力ヲ證明スルコト能ハスシテ商法第六十三條ノ適用ハ不當ニ減縮セラルヘシ(三)又本條ノ解釋ニ付キテハ商法第百三條ヲ引イテ解スルコトヲ得ヘシ同條第二項ニハ「前項ノ期間經過後ト雖モ分配セサル殘餘財産尚存スルトキハ會社ノ債權者ハ之ニ對シテ辯濟ノ請求ヲ爲スコトヲ得」ト規定セリ若シ原判決ノ言フカ如ク債務ノ完了セサルニ爲シタル殘餘財産ノ分配ハ絶對無效ニシテ此場合之カ取戻請求權カ直チニ會社財産ナリト稱スルコトヲ得ルナラハ右第百三條第二項ニ於テ分配セサル殘餘財産ノ存在スル場合ノミニ付キ未完濟債權者ノ權利ヲ認ムヘキカ如ク區別的取扱ヲ爲スノ必要ナカルヘシ何トナレハ原判決ノ如キ論理ヨリ推ストキハ未完濟債權者アル限リ財産分配セラルルモ之ニ依リ同額ノ取戻權ヲ生シ此未完濟債權者ニ對シテハ會社財産トシテハ増損スル所ナケレハナリ然レトモ右第百三條ニ於テ如斯無差別的取扱ヲ爲ササルヲリ見レハ縱令未完濟債權者アリ從テ商法第九十五條ニ違反シテ分配セラルルモ苟モ一旦分配セラレタル以上ハ之ヲ會社財産トシテ取扱ハス從テ其取戻請求權アリトノ理由ニ依リ商法第六十三條ノ適用ヲ拒否スルノ注意ニアラサルコトヲ知ルニ足ルヘシト云フニ在リ
然レトモ原判決ノ確定セル事實ニ依レハ被上告人兩名カ無限責任社員タリシ訴外合資會社丸大運送店ハ明治四十四年十二月十三日解散シタルモ本訴ノ債務ヲ辯濟スルコトナク清算ノ結果金二千七百五十圓ノ殘餘財産ヲ生シタリト爲シ被上告人其他勘佐岩太郎平井安太郎兩名ノ社員ニ對シ各其出資額ノ割合ニ應シ右殘餘財産ヲ分配シタルモノニ外ナラサレハ其分配ハ違法ニシテ會社ハ分配ヲ受ケタル各社員ニ對シ之カ取戻ヲ請求スル權利ヲ有スルヤ論ヲ竢タス而シテ會社ノ此取戻請求權ハ其債權ヲ組成スルモノニシテ商法第六十三條ノ所謂會社財産ハ即チ此種ノ財産權ヲモ包含スヘキモノナルコトハ明治四十四年(オ)第三百二十二號事件ニ付キ同年十二月十五日本院ニ於テ判決シタル趣旨ニ照シ明白ニシテ此解釋ハ正當ナレハ前示會社ニ對シ上告人カ本訴ノ債權ヲ有セル事實及ヒ右殘餘財産ノ分配ヲ受ケタル社員ニ於テ會社ニ對スル返還義務ヲ履行シ得ル資力アリ從テ會社ハ上告人ニ對シ其債務ヲ完濟スルニ足ル財産ヲ有セル事實ヲ確定セル原判決カ商法第六十三條ニ基ク上告人ノ本訴請求ヲ排斥シタルハ正當ニシテ本論旨ハ理由ナシ(判旨第一點)
同第二點ハ原判決ハ理由不備ノ判決ナリ假リニ原判決理由中上告状前段ニ於テ摘示シタルカ如キ理論ヲ採用スルトスルモ不法分配ノ取戻權ヲ會社財産ト見ル爲メニハ返還義務ヲ負擔スル各社員(不法分配ヲ受ケタル各社員)ニ返還ノ資力アルコトヲ判示セサルヘカラス換言スレハ(一)右不法分配ヲ受ケタル者ハ何某何某ナリ(二)何某ハ何圓ノ分配ヲ受ケ何某ハ何圓ヲ受ケタリ(三)右何某ハ如何ナル財産ヲ有シ返還資力アリ何某ハ又如何ナル財産ヲ有シ之レヲ返還スル資力アリトノ點ヲ明ニ判示セサルヘカラス何トナレハ右返還義務ハ各人箇別ナルヲ以テ其内ノ一人カ有福ナルモ此者ハ他ノ無資力ナル者ノ返還義齡ヲ補充スヘキ義務アラサルヲ以テ如上ノ確定ヲ爲スニアラサレハ會社財産ノ實額ヲ知ルコト能ハス(尤モ一人ノ返還義務ヲ以テ債務ヲ滿足シ得ヘキ場合ニ一人ニ付キ此認定ヲ爲シタル場合ハ格別ナリ)然ルニ原判決ハ此等ノ點ヲ確定セス殊ニ返還義務者ノ數タモ定メスシテ漫然返還義務ノ存在ヲ以テ會社財産ノ存在ヲ認定シタルハ理由ヲ具備セサル違法アリ殊ニ原判決ハ社員中岩崎篤松ニ付テハ其不動産ヲ有スルコトヲ判示スレトモ其他ノ者ニ付キテハ單ニ會社解散後同一社員ニ依リ組織セラレタル組合ニ於テ爾來相當ノ利益ヲ收受シ來レル一事ヲ以テ其資力アルコトヲ定ムル資料ト爲セリ然レトモ某某カ此組合ニ於テ幾何ノ持分ヲ有スルヤヲ定ムルニアラサレハ此事實ヲ以テ組合員ノ資力ヲ定ムルコトヲ得サルノ理ナリ況ンヤ如斯僅カナル組合持分ヲ有スルモ他ニ負債アルトキハ其者ハ直チニ返還義務ニ付キ不能ヲ來スニ於テヲヤ原判決ハ到底此點ニ關シ理由ヲ備ヘサルモノタルノ此難ヲ免レスト云フニ在リ
按スルニ會社カ不法ニ分配シタル殘餘財産ノ取戻ヲ請求スル權利カ商法第六十三條ノ會社財産ヲ組成スルモノナルコト前點説示セルカ如クナルヲ以テ會社カ其取戻權實行ノ目的ヲ達シ得ルニ於テハ會社ノ無限責任社員ハ未タ同條ノ責任ヲ履行スヘキ時期ニ到達セサルモノト謂フヘシ從テ同條ノ適後ヲ排除センニハ右分配ヲ受ケタル社員ニ於テ返還義務ヲ履行シ得ヘキ資力アルコトヲ判示セサル可ラサルハ寔ニ所論ノ如シト雖モ其資力アルコトヲ明示スルヲ以テ足リ一一具體的ニ各社員ノ資力ノ程度ヲ判示スルヲ要スルモノニ非ス原判決ヲ觀ルニ原院ハ其判文ニ於テ會社ノ取戻權ハ各社員ノ資力ノ存スル限度ニ於テ會社ノ財産ヲ組織スルモノナリト前提シ被上告人岩崎篤松其他各社員ハ會社ニ對スル返還義務ヲ履行シ得ヘキ資力アリト認定シタルコト明白ナルヲ以テ商法第六十三條ノ適用ヲ排除シ上告人ノ請求ヲ棄却シタル點ニ於テ裁判ノ理由ヲ具備スルモノト謂フヘシ然ラハ本論旨モ亦理由ナシ
以上説明ノ如クニシテ本件上告ハ理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百五十二條 七十七條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
大正七年(オ)第六十七号
大正七年七月二日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 解散したる合資会社が債務の弁済を為さざるに拘はらず清算の結果残余財産を生じたりと為し社員に対し各其出資額の割合に応し右残余財産の分配を為したるは違法にして会社は分配を受けたる各社員に対し之が取戻を請求する権利を有するものとす。
(判旨第一点)
- 一 如上会社の取戻請求権は其債権を組成するものにして商法第六十三条に所謂会社財産に包含すべききのとす(同上)
(参照)会社財産を以て会社の債務を完済すること能はざるときは各社員連帯して其弁済の責に任ず。
(商法第六十三条)
右当事者間の計算残金及立替金請求事件に付、大坂控訴院が大正六年十一月七日言渡したる判決に対し上告人より一部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
主文
本件上告は之を棄却す
上告費用は上告人の負担とす。
理由
上告論旨第一点は原判決は商法第六十三条の解釈を誤りたる違法の判決なり。
本上告論点は原判決中合資会社丸大運送店は解散後残余財産を有するを以て未だ無限責任社員たる被上告人等に無限責任義務の発生せざるものなりや否やの点の判示に関係す此点に関し原判決は各種の証拠に依り右合資会社丸大運送店は其資本及積立金に該当する二千七百五十円の価格を有する財産を清算上残余財産と為し之を各社員に配当したることを認定し次に「合資会社が債務を負煮せる場合に於て解散を為し其債務を弁済すること無く会社財産を各社員に配当し計算に付き各社員の承認を得たりとするも未だ其債務を完済せざる間は適法に清算を結了したりと為すに由なく故に縦令清算結了の登記を受くるも尚会社は清算の範囲内に於て存続し債務を負担せるものと為さざるべからず。
而して斯の如く会社に属する債務を完済することなく会社財産を各社員に配当し不法に清算を遂けたる場合は会社の各社員に対し自己の債務の存する限り其配当に係る財産の取戻権を有す。
可く此権利は各社員の資力の存する限度に於て会社の財産を組織せるものなり。」と論し次に右分配を受けたる各社員が此分配金返還の義務を履行し得べき資力ありと認定し終に「左すれば会社は控訴人(上告人)に対する債務を完済するに足る財産を有せるものなるを以て被控訴人(被上告人)両名は未だ商法第六十三条の担保義務を負ふべきものにあらず。」と為せり右の判示は明かに商法の法則を誤解せるものなりと信ず。
右判示中合資会社が解散を為したる場合に未だ債務の完済を為さずして其財産を分配し計算に付き各社員の承認を得たりとするも未だ其債務を完済せざる間は適法に清存を結了したりと云ふべからず。
此場合には会社は未だ清算の範囲に於て存続することは御院判例に於ても認められ、且、学説に於ても略ほ一定せる点なるを以て上告人は此点に関し攻撃するものにあらず。
原判決は更に進んで此場合には会社は此分配金の取戻を求むることを得べく此返還義務者が相当資力あるときは此取戻請求権は会社財産と認むべく。
従て会社の無資力を妨ぐるものと為せり是れ上告人の承服せざる点なりとす。
(一)先づ商法第六十三条の会社財産とは如斯一旦分配したるものの取戻権までも包舎するものなりや同法の精神より云ふも右は会社の現存財産の意義ならざるべからず。
此の如きもの迄を探究して会社財産と為すときは債権者の安全の為めに設けられたる同条の効用は大半減却せらるべし(二)又商法第九十三条には単に「清算人は会社の債務を弁済したる後にあらざれば会社財産を社員に分配することを得ず。」と規定するのみにして此規定に違反して弁済を為したる場合に付き其弁済の効力如何に付ては何等規定することなし。
然れども此点に関し参考とすべきは商法第六十七条なるべし同条第一項は損害填補を為さずして利益配当を為すことを得さらしむる規定にして債務完済を為さずして財産分配を為すことを得さらしむる規定と其思想を一にす。
而して此第六十七条に於ては同条第一項違反の制裁として「前項の規定に違反して配当を為したるときは会社の債権者は之を返還せしむることを得。」と規定し債権者に於て其返還請求を為すと之を為さずして会社社員に請求するとの自由を与ふ此理は第九十五条に違反して残余財産の分配を為したる場合に於ても同一ならざるべからず。
即ち債権者に於て財産分配の不法を主張し之を受けたる社員に対し其取戻を請求すると之を請求せずして会社の無資力を理由として各社員に商法第六十三条の責任を問ふとは全く其自由ならざるべからず。
然らざれば右九十五条の場合と六十七条の場合との権衡を失ふべし。
又原判決の如く解するときは右九十五条に違反して配当ありたる場合に付き損権者は分配を受けたる総社員の無資力迄をも立証せざれば会社の無資力を証明すること能はずして商法第六十三条の適用は不当に減縮せらるべし(三)又本条の解釈に付きては商法第百三条を引いて解することを得べし同条第二項には「前項の期間経過後と雖も分配せざる残余財産尚存するときは会社の債権者は之に対して弁済の請求を為すことを得。」と規定せり。
若し原判決の言ふが如く債務の完了せざるに為したる残余財産の分配は絶対無効にして此場合之が取戻請求権が直ちに会社財産なりと称することを得るならば右第百三条第二項に於て分配せざる残余財産の存在する場合のみに付き未完済債権者の権利を認むべきが如く区別的取扱を為すの必要なかるべし何となれば原判決の如き論理より推すときは未完済債権者ある限り財産分配せらるるも之に依り同額の取戻権を生じ此未完済債権者に対しては会社財産としては増損する所なければなり。
然れども右第百三条に於て如斯無差別的取扱を為さざるをり見れば縦令未完済債権者あり。
従て商法第九十五条に違反して分配せらるるも苟も一旦分配せられたる以上は之を会社財産として取扱はず。
従て其取戻請求権ありとの理由に依り商法第六十三条の適用を拒否するの注意にあらざることを知るに足るべしと云ふに在り
然れども原判決の確定せる事実に依れば被上告人両名が無限責任社員たりし訴外合資会社丸大運送店は明治四十四年十二月十三日解散したるも本訴の債務を弁済することなく清算の結果金二千七百五十円の残余財産を生じたりと為し被上告人其他勘佐岩太郎平井安太郎両名の社員に対し各其出資額の割合に応し右残余財産を分配したるものに外ならざれば其分配は違法にして会社は分配を受けたる各社員に対し之が取戻を請求する権利を有するや論を竢たず。
而して会社の此取戻請求権は其債権を組成するものにして商法第六十三条の所謂会社財産は。
即ち此種の財産権をも包含すべきものなることは明治四十四年(オ)第三百二十二号事件に付き同年十二月十五日本院に於て判決したる趣旨に照し明白にして此解釈は正当なれば前示会社に対し上告人が本訴の債権を有せる事実及び右残余財産の分配を受けたる社員に於て会社に対する返還義務を履行し得る資力あり。
従て会社は上告人に対し其債務を完済するに足る財産を有せる事実を確定せる原判決が商法第六十三条に基く上告人の本訴請求を排斥したるは正当にして本論旨は理由なし。
(判旨第一点)
同第二点は原判決は理由不備の判決なり。
仮りに原判決理由中上告状前段に於て摘示したるが如き理論を採用するとするも不法分配の取戻権を会社財産と見る為めには返還義務を負担する各社員(不法分配を受けたる各社員)に返還の資力あることを判示せざるべからず。
換言すれば(一)右不法分配を受けたる者は何某何某なり。
(二)何某は何円の分配を受け何某は何円を受けたり(三)右何某は如何なる財産を有し返還資力あり何某は又如何なる財産を有し之れを返還する資力ありとの点を明に判示せざるべからず。
何となれば右返還義務は各人箇別なるを以て其内の一人が有福なるも此者は他の無資力なる者の返還義齢を補充すべき義務あらざるを以て如上の確定を為すにあらざれば会社財産の実額を知ること能はず(尤も一人の返還義務を以て債務を満足し得べき場合に一人に付き此認定を為したる場合は格別なり。
)然るに原判決は此等の点を確定せず殊に返還義務者の数たも定めずして漫然返還義務の存在を以て会社財産の存在を認定したるは理由を具備せざる違法あり。
殊に原判決は社員中岩崎篤松に付ては其不動産を有することを判示すれども其他の者に付きては単に会社解散後同一社員に依り組織せられたる組合に於て爾来相当の利益を収受し来れる一事を以て其資力あることを定むる資料と為せり。
然れども某某が此組合に於て幾何の持分を有するやを定むるにあらざれば此事実を以て組合員の資力を定むることを得ざるの理なり。
況んや如斯僅かなる組合持分を有するも他に負債あるときは其者は直ちに返還義務に付き不能を来すに於てをや原判決は到底此点に関し理由を備へざるものたるの此難を免れずと云ふに在り
按ずるに会社が不法に分配したる残余財産の取戻を請求する権利が商法第六十三条の会社財産を組成するものなること前点説示せるが如くなるを以て会社が其取戻権実行の目的を達し得るに於ては会社の無限責任社員は未だ同条の責任を履行すべき時期に到達せざるものと謂ふべし。
従て同条の適後を排除せんには右分配を受けたる社員に於て返還義務を履行し得べき資力あることを判示せざる可らざるは寔に所論の如しと雖も其資力あることを明示するを以て足り一一具体的に各社員の資力の程度を判示するを要するものに非ず原判決を観るに原院は其判文に於て会社の取戻権は各社員の資力の存する限度に於て会社の財産を組織するものなりと前提し被上告人岩崎篤松其他各社員は会社に対する返還義務を履行し得べき資力ありと認定したること明白なるを以て商法第六十三条の適用を排除し上告人の請求を棄却したる点に於て裁判の理由を具備するものと謂ふべし。
然らば本論旨も亦理由なし。
以上説明の如くにして本件上告は理由なきを以て民事訴訟法第四百五十二条 七十七条に依り主文の如く判決す