親族會ノ決議ニ對スル不服ノ件

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大審院民事判決録（民録）23輯448頁

上告論旨第一點ハ上告人ハ本件ノ答辯トシテ第一審以來第二審ニ於テモ引繼キ先ツ本案前ノ抗辯トシテ（一）被上告人ハ本件訴ノ原因トシテ大正四年四月二十一日上告人等カ爲シタル原藤泰子ノ親族會ノ決議ハ其招集ヲ後見監督人岡惣吉ニ通知セサルハ不當ナリトシ民法第九百五十一條一个月ノ期間即チ大正四年五月二十日ニ訴ヲ提起シ更ニ同年八月十四日ニ至リ準備書面ヲ以テ數多ノ獨立シタル事實ヲ列記シ本訴ノ請求原因ト爲スモ期間經過ノ後ニ於テハ許ス可カラサルモノトス（二）被上告人ハ初メ原藤泰子ノ後見人タル資絡ニ於テ本訴ヲ提起シ（訴状原告ノ表示御參照）後ニ決議事項ノ利害關係人ナリトシテ不服ノ訴ヲ維持セント主張シタルニ依リ訴ヲ變更シタルモノナリト異議ヲ申立テタリ（大正五年三月三十一日答辯書及第一審判決書事實摘示ノ部御參照）然ルニ原判決ハ此（二）ノ抗辯ニ對シ何等ノ説明ヲ與ヘサルハ理由不備ノ裁判ナリトスト云フニ在リ

然レトモ第一審ニ於テ上告人ノ訴訟代理人カ本案前ノ抗辯トシテ論旨ニ謂ヘル（二）ノ抗辯ヲ提出シタルコトハ第一審判決ノ事實摘示ニ依リテ明白ナルモ原審口頭辯論調書ニハ右抗辯カ提出セラレタル旨ノ記載ナキノミナラス原判決ニハ上告人ノ訴訟代理人ニ於テ第一審判決ニ本案ニ對スル抗辯トシテ掲記シアル所ト被上告人ノ主張ニ係ル第一事實ハ親族會ノ決議ノ日ヨリ三十日ヲ經過シタル後ニ提出セラレタルモノナレハ不服ノ事由トシテ許スヘキニ非サルコト及ヒ假ニ岡惣吉カ後見監督人ニシテ同人ニ通知ナカリシトスルモ同人自身ノ請求ナラハ格別被上告人ヨリ本訴請求ヲ爲スノ理由トナルモノニ非サルコトトヲ演述シタル旨ノ摘示アルニ過キサルヲ以テ前掲（二）ノ抗辯ハ原審ニ於テ提出セラレタルモノト爲スヲ得ス故ニ原審カ其點ニ付判斷説明ヲ爲ササリシトテ理由不備ノ不法アルモノト謂フヲ得ス

同第二點ハ被上告人ハ大正四年四月二十一日上告人等カ親族會員トシテ爲シタル原藤泰子ノ親族會ノ決議ハ其招集ヲ後見監督人岡惣吉ニ通知セサルハ不當ナリトノ事實ヲ請求ノ原因トシテ法定期間内ニ訴ヲ提起シ更ニ同年八月十四日準備書面ヲ以テ數多ノ事實ヲ列記シ請求原因ト爲シタルモ法定期間經過ノ後ニ於テハ許ス可カラサルモノナルニ原判決ハ「本件訴ハ適法ナル期間内ニ提起セラレタルモノナレハ訴状以外ニ第一事實ヲ以テ本訴請求ノ原因ト爲シタルハ事實ヲ補充シタルニ過キサルヲ以テ（民事訴訟法第百九十六條第一參照）訴ノ提起カ一个月ノ期間内ニ存セシ以上事實上ノ主張ヲ補充シ請求原因ト爲スコトハ適法トス」ト判示セラレタリ然レトモ訴ハ一定ノ請求ノ原因タル事實ヲ表示シ其事實ノ當否ニ付キ裁斷ヲ仰ク可キモノニシテ此事實タルヤ諸種ノ法定條件（所謂訴訟條件）ヲ具備スルコトヲ要ス然ラサレハ其實體ノ當否ヲ判斷スヘキニアラス而シテ民事訴訟法第百九十六條ニ依リ法律上又ハ事實上ノ主張ヲ補充スルコトヲ得ルモ此補充ノ事實タルヤ亦一ノ請求原因トシテ勿論法令ノ制限ニ覊束セラレス總テノ訴訟要件ヲ具備スルモノナラサル可カラス同一事實ニシテ一ハ裁斷ヲ受クルコトヲ得ルモ他ハ之ヲ受クルコト能ハサルノ不條理アリ換言スレハ同一事實ニシテ補充ナル時ハ理由アリトシ單純ノ訴ナル時ハ其理由ナシトノ條理アル可カラス本件第一事實ニ付テ之ヲ觀ルニ大正四年四月二十一日爲シタル親族會ノ決議ニ對スル不服ノ訴トシテ同年八月十四日ニ至リ之ヲ提起シタリトセハ其法定期間經過ニヨリ不適法タルヤ明瞭ナリ若シ夫レ事實補償ノ場合ハ此限リニ非ラストセンカ啻ニ不條理ナルノミナラス民法第九百五十一條商法第百六十三條等不確定ナル關係ヲ永續セシメサル立法上ノ精神ニ背反スルモノト謂ハサルヘカラス故ニ民事訴訟法第百九十六條ノ法律上又ハ事實上ノ主張ヲ補償スル場合ト雖モ他ノ法令ノ規定ニ制限アルモノハ之ニ依ルヘク（民事訴訟法第五百四十五條第三項等）決シテ無制限ナルコト能ハサルモノトス依テ原判決ハ此點ニ於テ破毀セラルヘキモノト信スト云フニ在リ

然レトモ親族會ノ決議ニ對スル不服ノ訴ハ一个月ノ期間内ニ提起スヘキコト民法第九百五十一條ニ規定スル所ナルモ一个月内ニ非サレハ不服ノ事由ヲ主張スルコトヲ得サルモノトシ又ハ數箇ノ事由アルトキハ之ヲ同時ニ主張スルヲ必要トセル規定ナキカ故ニ一个月内ニ訴ノ提起セラレタル以上ハ其訴ニ於テ訴状ニ記載シタル事由ノ外ニ補充トシテ他ノ不服ノ事由ヲ主張スルコトハ法律上妨アルモノニ非ス然レハ被上告人カ訴状ニハ後見監督人タル岡惣吉ニ對シ招集ノ通知ナカリシコトヲ不服ノ事由トセシニ過キサリシニセヨ補充トシテ後見監督人立會ノ上被後見人ノ財産ヲ調査シ其目録ヲ調製シタルコト其他ノ事由ヲ主張シタルハ違法ニ非サルヲ以テ原審カ之ヲ認容シタレハトテ毫モ不法ニアラス

上來説明ノ如ク本上告ハ適法ノ理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス