小切手金竝約束手形金請求ノ件
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大審院民事判決録（民録）21輯1076頁
大正四年（オ）第三百七號
大正四年六月二十八日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 手形ハ他人ニ委任シ代理人ノ名義ヲ以テ振出サシムルコトヲ得ルノミナラス本人ノ名義ヲ以テ振出サシムルコトヲ妨ケサルモノトス
第一審 東京地方裁判所
第二審 東京控訴院
右當事者間ノ小切手金竝約束手形金請求事件ニ付東京控訴院カ大正四年二月九日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
主文
本件上告ハ之ヲ棄却ス
理由
上告論旨ハ原判決ハ其理由ニ於テ「按スルニ前段認定セル如ク控訴人ハ其營業ニ必要ナル限リ小切手又ハ約束手形ヲ振出ス權限ヲ高木謙太郎ニ附與シ其振出ニ際シテハ控訴人ノ氏名ヲ記載シ且控訴人名義ノ印影ヲ押捺スルコトヲ許容セルモノナルヲ以テ右ノ如ク控訴人ノ營業ノ必要上高木謙太郎カ本件小切手竝約束手形ヲ振出シタルコトハ即高木謙太郎カ控訴人ノ附與セル權限ニ基キ代理人トシテ行動セルモノニシテ右振出行爲ハ代理權限内ノ行爲トシテ當然本人タル控訴人ニ對シテ效力ヲ及ホスヘキモノトス但手形ノ形式上代理關係現ハレサルヲ以テ手形ノ所持人ニ對シテハ手形面ニ現ハレタル所ニヨリ控訴人ノ署名ニ代ル記名捺印ノ存スルモノトシテ控訴人自ラ振出行爲者ト看做サレ手形上ノ責任ヲ負擔スヘキモノトス商法第四百三十六條ハ唯代理人カ自己ノ氏名ヲ署シタル場合ニ付テノミ規定シタルモノニシテ代理人カ手形行爲ヲ爲ス場合ノ形式ヲ限定シタルモノニ非スト解スヘキヲ以テ本件ノ如キ場合ヲ同條ニヨリ代理ノ效力ヲ生セサルモノト認ムルヲ得サルハ勿論ナリ云云」ト判示セラレタリ然レトモ手形行爲ノ代理人カ有效ナル手形行爲ヲ爲スニハ商法第四百三十六條ノ規定ニ據リ必ス本人ノ爲ニスルコトヲ手形面上ニ明記シテ代理人之ニ署名スルコトヲ要スルモノニシテ代理人ノ手形行爲ハ之レ以外ノ形式ニ出ツルコトヲ得サルモノナルハ手形ノ有價證劵タル性質及商法第四百三十六條ノ明文ヨリ見テ寔ニ當然ナル所ナリ故ニ若シ本人カ一定ノ手形行爲ヲ爲スノ意思ヲ有スルニ當リ之ニ必要ナル事實行爲ヲ他人ニ單純ナル機關トシテ爲サシメタルトキハ其手形行爲ハ本人ノ行爲トシテ有效ナルモ代理人ナル者カ本件ノ如ク手形振出ノ必要如何ヲ自由ニ判斷シタル上其必要アリト認ムル場合ニ於テ手形面上ニ代理人トシテ自己ヲ表示スルコトナクシテ單ニ本人ノ氏名ノミヲ記載シ且ツ本人名義ノ印影ヲ押捺スルニ止マルトキハ其ノ手形行爲ハ手形法上何等ノ效力ヲ生セサルモノト云ハサルヘカラス何トナレハ如此場合ニ於テハ手形ノ名義人タル本人ハ行爲意思ヲ欠缺シ又事實上ノ行爲者タル代理人ハ手形上ノ署名者ニアラサルヲ以テ結局何レニ對シテモ何等ノ效力ヲモ及ホササルヘキヲ以テナリ是レ代理人カ單純ナル本人ノ機關ト區別セラルル所以ナリトス然ルニ原判決ハ前記ノ如ク本件手形振出人タル高木謙太郎カ控訴人ノ代理人ニシテ單純ナル機關ニアラサルコトヲ認メナカラ同人カ控訴人ノ氏名ヲ記載シ且ツ印影ヲ押捺セル本件小切手竝ニ約束手形ニ付キ控訴人ヲ振出行爲者ナリト看做シ行爲意思ヲ欠缺スル控訴人ニ手形上ノ責任ヲ負擔セシメタルハ法則ヲ不法ニ適用セルモノト信スト云フニ在リ
然レトモ手形振出行爲ハ一ノ要式行爲ニシテ此行爲ハ一般ノ法律行爲ト同シク之ヲ他人ニ委任シ代理人ノ名義ヲ以テ手形ヲ振出サシムルコトヲ得ヘキハ論ナキノミナラス手形振出行爲ヲ他人ニ委任シ本人ノ氏名ヲ記載シ及本人ノ印形ヲ押捺シ即本人ノ名義ヲ以テ手形ヲ振出サシムルコトヲ妨ケサルモノニシテ前者ノ場合ニ於テハ代理人カ本人ノ爲ニスルコトヲ手形ニ記載セサルトキハ本人ハ手形上ノ責任ヲ負フモノニ非サルモ後者ノ場合ニ於テハ手形ノ形式上代理關係現ハレサルヲ以テ本人ハ自ラ振出行爲ヲ爲シタルモノト看做サレ手形上ノ責任ヲ負フヘキモノトス商法第四百三十六條ハ前示ノ如ク手形ノ代理人カ本人ノ爲ニスルコトヲ示サスシテ手形ニ署名シタル場合ハ本人ニ手形上ノ責任ナキコトヲ規定シタルニ止リ代理人ヲシテ本人名義ヲ以テ手形ヲ振出サシムルコトヲ得サラシムル法意ヲ含蓄スルモノニ非ラス故ニ本論旨ハ其理由ナシ依テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス