假登記假處分ノ更正申請却下ノ決定ニ對スル再抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）21輯475頁

抗告理由ハ抗告人先代河野とよハ明治十六年以來埼玉縣北足立郡鴻巣町大字鴻巣字西側二千九百二十二番宅地百五十六坪ノ内西南部三十坪ヲ建物敷地用トシテ當時所有ノ鈴木はるヨリ借リ受ケ尋テ茲ニ家屋ヲ築造シテ之ニ居住シ且ツ毎日滯リナク其借地料ヲ支拂ヒ居リタルヲ以テ大正元年十一月二十五日右宅地百五十六坪ノ内西南部三十坪ニ對シ建物所有ヲ目的トスル地上權ノ假登記ヲ受ケンカ爲メ浦和區裁判所ニ地上權假登記假處分命令ヲ申請シタリ而シテ其申請ニ際シ右宅地百五十六坪ノ内西南部三十坪ト表示スヘキヲ誤リテ東南部三十坪ト表示シタル爲メ同日浦和區裁判所ニ於テ右「不動産ノ内其東南部三十坪ニ對シ北足立郡鴻巣町大字鴻巣字西側二百三十五番地申請人河野とよノ爲メ建物所有ノ爲メ地代一个月六十五錢ノ存續期間ノ定メナキ地上權設定ノ假登記假處分ヲ命ス」トノ決定ヲ受ケ之ニ基キ登記謄本ノ如ク右宅地東南部三十坪云云ト登記セラレタリ因テ右とよノ相續人タル抗告人ハ之カ更正決定ヲ求ムル爲メ大正三年二月十日浦和區裁判所ニ對シ右宅地ノ表示ノ誤レル所以ヲ詳述シ假登記更正決定ノ申請ヲ爲シタルニ同裁判所ハ事實ヲ誤認シタルモノト見エ同月二十六日附決定書ノ如ク右申請ヲ却下シタリ抑モ假登記ハ假登記義務者ノ承諾アリタル場合ヲ除クノ外假登記權利者ノ申請ニ因リ其目的タル不動産ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所ヨリノ囑託ニ基キ（假登記假處分命令ノ正本ヲ添附シテ）之ヲ爲スヘキモノナリ而シテ右假處分命令ハ假登記權利者カ假登記原因ヲ疏明シタルトキハ右區裁判所ハ必ス之ヲ發スルコトヲ要スルモノナルコトハ不動産登記法第三十二條ニ明定スル所ナルヲ以テ右假登記ノ更正決定ヲ申請スルニ際シテモ其更正決定ヲ求ムル所以ヲ疏明スレハ足ルモノニシテ必ス之レカ證明ヲ要スヘキモノニアラサルコトハ前記第三十二條ノ類推解釋ニヨリテ明カナリトス然ルニ原決定ハ「右表示ノ誤リハ常則上認容スヘカラサル觀念ナルニ拘ハラス抗告人ハ此點ニ付何等的確ナル證據ヲ提出シ居ラサルヲ以テ事實上西南ノ地域ヲ誤リテ東南部ト表示シタリトノ事實ハ之ヲ認ムルニ由ナシ」ト説明シ抗告人ニ對シ右誤レル所以ノ證明（疏明ニアラス）ノ責任ヲ負擔セシメタルハ法律ノ要求セサル重キ立證責任ヲ抗告人ニ負ハシムルモノニシテ明カニ法律ニ違背シタル裁判ナリト思料ス假リニ抗告人ニ右證明ノ責任アリトスルモ河野とよカ前記地上權假登記假處分命令ヲ申請スルニ際シ其疏明用トシテ添附シタル大正三年十一月二十四日附山崎春吉及金澤勘次郎ノ證明書竝借地料ノ受取書ニ抗告人カ右更正決定命令ヲ申請スルニ際シ添附シタル大正四年一月九日附北足立郡鴻巣町長石田正及同月七日附山崎春吉竝金澤勘次郎ノ各證明書ヲ對照シテ考覈スルトキハ右西南部ト表示スヘキヲ東南部ト誤リ表示シタルモノナルコトハ洵トニ明カナルヲ以テ此點ニ關スル立證ハ充分ニナサレタルモノト思料ス假リニ原決定ニ所謂何等的確ナル證據ヲ提出セサル云云ヲ以テ疏明方法ナシトノ意味ニ解センカ前叙ノ如ク此點ニ關シテハ充分ニ疏明セラレタルニ拘ラス之ヲ觀過シテ疏明ナシト判斷セラレタルハ明カニ抗告人カ提出シタル疏明ヲ無視シタル裁判ナリト思料ス假登記ノ更正ヲ申請スルニハ其申請書ニ登記上利害關係ヲ有スル第三者ノ承諾書又ハ之ニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルヲ要スルモノナルコトハ不動産登記法第六十四條第五十六條ノ規定スル所ナルヲ以テ利害關係ヲ有スル第三者タル岡本定吉ニ對シ右更正申請ヲ爲スニ際シ之レカ承諾ヲ求メタルニ同人ハ之レニ應セサリシヲ以テ止ムナク之レニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ヲ求メンカ爲メ浦和區裁判所ニ對シ之レカ假登記更正決定ヲ申請シタル所以ナリ然ルニ同區裁判所ハ之ヲ却下シ尋テ浦和地方裁判所ニ抗告シタルニ是亦「假リニ抗告人ノ主張事實カ眞實ナリトスルモ本件假登記ハ曩キニ鈴木はるト抗告人先代トノ間ニ於テ爲サレ岡本定吉ハ其後はるヨリ本件宅地ヲ買受其旨登記ヲ爲シタルモノナレハ同人ハ登記上利害ノ關係ヲ有スル第三者ナリ隨テ適法ニ本件假登記ノ更正申請ヲ爲サント欲セル抗告人ハ須ク不動産登記法第六十四條第五十六條ニ則リ定吉ノ承諾書又ハ是レニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附セサルヘカラサルニ拘ハラス事茲ニ出テサリシヲ以テ本件申請ハ之ヲ認容ス可キモノニアラス」トノ理由ヲ以テ右抗告人ノ抗告ヲ却下シタリ是レ明ニ不動産登記法ノ解釋ヲ誤リタル裁判ナリト思料ス（不動産登記法第五十六條第六十四條ハ地上權假登記更正ノ場合ニモ亦適用アルモノト思料ス）又假登記假處分命令ノ申請ヲ却下シタル決定ニ對シテハ即時抗告ヲ爲シ得ヘク右抗告ニ付テハ非訟事件手續法ノ規定ヲ準用スルモノナルコトハ不動産登記法第三十二條ノ明定スル所ナリ而シテ右假登記ノ更正決定命令ノ申請ヲ却下シタル裁判ニ對シテモ亦非訟事件手續法ノ規定ヲ準用スヘキモノナレハ抗告裁判所ハ本件抗告ノ事由ニ付何等ノ立證ナシトノ理由ヲ以テ抗告ヲ棄却スルコト能ハス必スヤ同法第十一條ニ基キ職權ヲ以テ假令當事者ニ於テ證據ヲ提出セサルモ必要ト認ムル證據調ヲ爲シ以テ相當ノ裁判ヲ爲ササル可カラス然ルニ原裁判所ハ事茲ニ出テス「抗告人ハ本件地上權ノ目的物タル地域ハ宅地ノ中心ヨリ見レハ西南部ナルニ拘ハラス登記簿上東南部トアルハ抗告人先代カ誤テ鴻巣停車場ヲ中心トシテ方位ヲ定メタルニ職由スル旨主張スルモ凡ソ宅地内ノ方位ヲ定ムルニ其宅地以外ノ他ノ場所ヲ中心トスルカ如キハ常則上認容スヘカラサル觀念ナルニ拘ハラス本件記録ヲ閲スルニ抗告人ハ此點ニ付何等的確ナル證據ヲ提出シ居ラサルニヨリ事實上西南部ノ地域ヲ誤リテ東南部ト表示シタリトノ事實ハ之ヲ認ムルニ由ナシ」ト説明シ輙スク抗告人ノ主張ヲ排斥シタルハ非訟事件手續法ノ規定ヲ誤解シタル不法アルモノト謂ハサル可カラス（明治四十年八月三日東京控訴院休暇部決定最近判例集第一卷百二十八頁參照）不動産登記法第六十四條第五十六條ハ更正登記ノ登記方法ニ關スル規定ナリ而シテ假登記ノ更正ヲ申請スル場合ニアリテモ右規定ノ趣旨ニ基ツキ其申請書ニ登記上利害關係ヲ有スル第三者アルトキハ其承諾書又ハ之ニ對抗スルコトヲ得可キ裁判ノ謄本ヲ添附スルコトヲ要スルモノナルヲ以テ本件假登記ノ更正ニ關シ利害關係ヲ有スル第三者タル岡本定吉ニ對シ右更正ノ申請ヲ爲スニ際シ之カ承諾ヲ求メタルニ同人ハ之ニ應セサリシヲ以テ止ムナク之ニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ヲ得ンカ爲メ浦和區裁判所ニ對シ右假登記更正決定ノ假處分命令ヲ求メタル次第ナリ

右假登記ノ更正ヲ求ムル場合ニアリテモ登記義務者（本件ニアリテ右岡本定吉ハ前所有者鈴木はるヨリ本件不動産ヲ買受ケ承諾人タル地位ニアルヲ以テ假登記義務者ナリ）カ之ニ承諾ヲ與ヘサルトキハ不動産登記法第三十二條ノ趣旨ニ基キ假登記權利者ハ之カ更正決定ヲ求ムル爲メ其事由ヲ疏明シテ其目的タル不動産ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所ニ申請スルヲ得ヘク而シテ右申請ヲ受ケタル裁判所ハ之ニ關スル假處分命令ヲ發スルコトヲ要スルモノト思料ス

然ルニ同區裁判ハ之ヲ却下シ尋テ浦和地方裁判所ニ抗告シタルニ是又「假リニ抗告人ノ主張事實カ眞實ナリトスルモ本件假登記ハ曩ニ鈴木はるト抗告人先代トノ間ニ於テ爲サレ岡本定吉ハ其後はるヨリ本件宅地ヲ買受其旨登記ヲ爲シタルモノナレハ同人ハ登記上利害ノ關係ヲ有スル第三者ナリ隨テ適法ニ本件假登記ノ更正申請ヲ爲サント欲セハ抗告人ハ須ク不動産登記法第六十四條第五十六條ニ則リ定吉ノ承諾書又ハ是レニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附セサルヘカラサルニ拘ハラス事茲ニ出ラサリシヲ以テ本件申請ハ之ヲ認容スヘキモノニアラス」トノ理由ヲ以テ右抗告人ノ抗告ヲ却下シタリ是レ明カニ不動産登記法ノ解釋ヲ誤リタル裁判ナリト思料スト云フニ在リ

然レトモ（一）假登記ニ對スル更正ノ申請ニ付テモ不動産登記法第三十二條第二項ニ依リ申請者ハ其事由ヲ疏明スヘク此點ニ關シテハ非訟事件手續法ノ準用ニ依リ裁判所カ職權ヲ以テ必要ナル證據調ヲ爲スヘキモノニアラス去レハ原審カ宅地内ノ方位ヲ定ムルハ其中心ヨリ觀ルヲ以テ通常トスルモノナルニ抗告人ニ於テ的確ナル疏明ヲ爲ササルモノトシ本件地上權ノ目的タル地域カ實際宅地ノ西南部ナルヲ誤リテ東南部ト表示シタル事實ヲ認メサルハ相當ナリ（二）不動産登記法第六十四條第五十六條ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ハ更正ノ裁判其モノヲ謂フニ非スシテ更正ヲ承諾セサル第三者ニ對シ出訴ノ末得タル裁判ヲ謂フモノニシテ之ヲ添附スルニ非サレハ更正ノ申請ヲ爲スコトヲ許サレサルモノナルヲ以テ原審カ本件假登記ハ曩ニ鈴木はるト抗告人先代トノ間ニ於テ爲サレ抗告人カ更正申請ノ對手人ト爲シタル岡本定吉ハ其後はるヨリ本件宅地ヲ買受ケ其旨登記ヲ爲シタルモノナレハ同人ハ登記上利害ノ關係ヲ有スル第三者ニシテ之ニ對抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルニ非サレハ更正申請ノ許容ス可カラサル旨ヲ判示シタルハ相當ニシテ之ヲ不法トスル本論旨ハ總テ抗告適法ノ理由ナシ

以上説明ノ如クナルヲ以テ非訟事件手續法第二十五條ニ依リ主文ノ如ク決定セリ