供託公債還付申請事件ニ付テノ決定ニ對スル再抗告ノ件
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大審院民事判決録（民録）21輯106頁
大正四年（ク）第四十四號
大正四年二月十五日第二民事部決定
◎決定要旨
- 一 衆議院議員選擧法第八十五條第一項供託法第一條ニ依リ供託ヲ爲シタル場合ニ於ケル供託者ト金庫トノ關係ハ所謂供託契約ニ基ク私法的法律關係ナルヲ以テ供託法第八條第二項ニ依リ供託原因ノ消滅シタルコトヲ理由トシテ供託物ノ取戻ヲ請求スル權利ハ一種ノ債權ナリトス（判旨第二點）
（參照）原告人ハ訴状ヲ提出スルト同時ニ保證金トシテ三百圓又ハ之ニ相當スル額面ノ公債證書ヲ供託ス可シ（衆議院議員選擧法第八十五條第一項）
法令ノ規定ニ依リテ供託スル金錢及ヒ有價證券ハ金庫ニ於テ之ヲ保管ス（供託法第一條）供託者ハ民法第四百九十六條ノ規定ニ依レルコト、供託カ錯誤ニ出テシコト又ハ其原因カ消滅シタルコトヲ證明スルニ非サレハ供託物ヲ取戻スコトヲ得ス（供託法第八條第二項） - 一 數人共同シテ供託ヲ爲シタル場合ニ於テ其目的カ性質上不可分ナルトキハ各供託者ハ民法第四百二十八條ノ規定ニ依リ總債權者ノ爲メニ供託物ノ返還ヲ請求スルヲ得ルモノトス（同上）
（參照）債權ノ目的カ其性質上又ハ當事者ノ意思表示ニ因リテ不可分ナル場合ニ於テ數人ノ債權者アルトキハ各債權者ハ總債權者ノ爲メニ履行ヲ請求シ又債務者ハ總債權者ノ爲メ各債權者ニ對シテ履行ヲ爲スコトヲ得（民法第四百二十八條）
原審 東京控訴院
抗告人 西尾吉右衛門 外一名
代理人 田坂貞雄 吉田三市郎
右抗告人ハ供託公債還付申請事件ニ付東京控訴院カ大正三年十二月二十四日與ヘタル決定ニ對シ本院ニ抗告ヲ爲シタリ依テ決定スルコト左ノ如シ
原決定ヲ廢棄シ更ニ相當ノ裁判ヲ爲スコトヲ東京控訴院ニ委任ス
理由
抗告理由ハ原裁判ハ本件供託物還付ノ請求權ハ抗告人外一名ノ共有ナルコトヲ認定セリ然ラハ本請求權ハ性質上不可分ナルヲ以テ民法第四百二十八條ニ據リ債權者タル抗告人等ニ於テ之ヲ行使スルコトヲ得ヘシ而シテ其保存行爲又ハ管理行爲タルト否トヲ問ハサルナリ然ルニ保存行爲又ハ管理行爲ニアラサルヲ理由トシテ申請ヲ棄却セラレタルハ不當ナリ又之ヲ共有物トシテ觀察スルモ其返還請求ハ保管ノ變更ニ止マリ訴訟事件ノ本權ト更ニ關係スル所ナキヲ以テ性質上管理行爲ニシテ處分行爲ニアラサルヤ論ナシ此點ニ於テモ原裁判ハ失當ナリト謂フニ在リ
本件ニ付キ先ツ抗告カ適法ナルヤ否ヤヲ調査スルニ本件供託物ハ抗告人兩名及ヒ大石哲哉ノ三名カ衆議院議員選擧法第八十五條第一項ニ依リ共同原告トシテ本訴ヲ提起スルニ付キ保證トシテ供託シタルモノナレハ其供託物ノ還付ヲ裁判所ニ申請スルハ所謂訴訟手續ニ關スルモノト謂フヘク從テ衆議院議員選擧法第百八條及ヒ民事訴訟法第四百五十五條前段ノ規定ニ依リ本件抗告ハ許スヘキモノト認ム而シテ其他抗告ノ要件ニ缺クル所ナキヲ以テ本件抗告ハ適法ナルモノトス
判旨第二點 進テ本案ニ付キ審査スルニ本件ノ如ク衆議院議員選擧法第八十五條第一項供託法第一條ニ依リ供託ヲ爲シタル場合ニ於ケル供託者ト金庫トノ關係ハ所謂供託契約ニ基ク私法的法律關係ナルヲ以テ本件ノ如ク供託法第八條第二項ニ依リ供託原因ノ消滅シタルコトヲ理由トシテ供託物ノ取戻ヲ請求スル權利ハ一種ノ債權ナリト解セサルヘカラス而シテ此供託物取戻請求權ニ付テハ供託法其他ノ法令中他ニ何等別段ノ規定ナキヲ以テ民法ノ債權ニ關スル一般ノ規定ニ依リ其權利ノ性質ヲ判斷スヘキモノトス一件記録ニ徴スレハ本件供託物ハ四分利公債額面金三百圓ニシテ抗告人兩名及ヒ大石哲哉ノ三名カ供託シタルモノナルヲ以テ債務ノ目的カ性質上不可分ナル場合ニ於ケル不可分債權ト解スルヲ相當トス然レハ各供託者ハ民法第四百二十八條ノ規定ニ依リ總債權者ノ爲メニ供託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得ヘク從テ又其供託物ノ返還ヲ裁判所ニ申請スルコトヲ得ルモノト謂ハサルヲ得ス故ニ裁判所ニ於テ供託原因ノ消滅シタル事實ヲ認定シ得ル以上ハ假令供託者三名共同ニアラス抗告人兩名ノミニテ供託物返還ノ申請ヲ爲シタリトスルモ其還付ヲ命スルヲ相當トスヘキ筋合ナルニ原院カ本件供託物返還ノ請求權ハ供託者三名ノ共有ニシテ共有者三名ノ意思ニ因ルニアラサレハ供託物返還ノ請求ヲ爲スコトヲ得サルモノトシ抗告人兩名ノ本件供託物還付ノ申請ヲ却下シタルハ不當ト謂ハサルヲ得ス仍テ本件抗告論旨後段ハ不當ナルモ前段ハ理由アルモノト認メ民事訴訟法第四百六十四條第一項ニ依リ主文ノ如ク決定ス