強制執行異議ノ件
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大審院民事判決録（民録）20輯1064頁
大正三年（オ）第二百五十五號
大正三年十二月十日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 不動産ノ賣買アリタル場合ニ於テ買主カ賣買ニ因ル所有權取得ノ假登記ヲ爲シタル後本登記ヲ爲シタルトキハ其本登記ハ假登記ノ當時ニ遡リテ効力ヲ生シ假登記後本登記前ニ登記ヲ爲シタル第三者ニ對シテ完全ニ自己ノ取得セル所有權ヲ主張シ得ルモノトス
第一審 神戸地方裁判所
第二審 大阪控訴院
右當事者間ノ強制執行異議事件ニ付大阪控訴院カ大正三年二月二十四日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ヨリ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
主文
原判決ヲ破毀シ本件ヲ大阪控訴院ニ差戻ス
理由
上告論旨ハ原判決理由ニ「強制競賣開始決定ハ差押ノ効力ヲ有スルモノニシテ從テ其効力發生以後ニ於テハ債務者ハ競賣不動産ニ付キ差押債權者ノ權利ヲ害スルカ如キ行爲ヲナスコトヲ得サルモノナルカ故ニ債務者タル熊吉カ本件強制競賣開始決定ノ送達ヲ受ケタル後ニ於テ前顯假登記ニ基ク本登記手續ヲ爲シタルハ違法ノ行爲ニシテ該本登記ハ差押債權者タル控訴人ニ對シテ効力ナキコト多辯ヲ要セス」ト判示セラレタリ然レトモ債務者タル熊吉カ本登記手續ヲ爲シタルハ單ニ登記義務ヲ履行シタルニ止マリ該不動産ヲ處分シタルモノト謂フコトヲ得ス從テ差押債權者ノ權利ヲ害シタルモノニアラサレハ之ヲ以テ違法ノ行爲ト斷スヘカラサルハ言ヲ竢タス而モ不動産登記法第七條第二項ニ假登記ヲ爲シタル場合ニ於テハ本登記ハ假登記ノ順位ニ依ルト規定シ基本登記ヲ爲シ得ヘキ時期ニ關シテハ何等制限スルコトナシ蓋シ假登記モ亦民法第百七十七條ノ所謂登記ニ外ナラサルヲ以テ寧ロ第三者ニ對シ其効力ヲ發現スルヲ本旨トスヘク然ラサレハ本登記ヲシテ假登記ノ順位ニ依ラシムヘキコトヲ規定スヘキ謂レナシ然ラハ本件強制競賣開始決定當時ハ未タ本登記ナキヲ以テ該決定ハ不法ナリト謂フヲ得サルモ其後強制競賣手續中本登記ヲ爲シタル上ハ該執行手續ヲ續行スヘカラサル正當ノ理由ヲ生シタルモノニシテ競賣手續ノ末タ完了セサル場合ニ於ケル本訴請求ハ毫モ不當ナリト謂フヲ得ス然ルニ原判決ハ假登記及差押ノ効力ヲ誤解シ上告人ニ敗訴ヲ言渡サレタルハ違法ヲ免カレサルモノトス（明治三十七年（オ）第一四三號同年四月二十日判決同年（オ）第三八五號同年十一月十八日判決明治四十二年（オ）第一二號同年三月三十一日判決參照）ト云フニ在リ
仍テ按スルニ假登記ヲ爲シタル場合ニ於テハ本登記ノ順位ハ假登記ノ順位ニ依ルコトハ不動産登記法第七條第二項ノ規定スル所ナレハ登記權利者カ假登記ヲ爲シタル後本登記ヲ爲シタルトキハ其本登記ハ假登記ノ當時ニ遡リテ効力ヲ生シ假登記後本登記前ニ登記ヲ爲シタル第三者ニ對シテ其權利ヲ主張スルコトヲ得ルモノト解セサル可カラス故ニ不動産ノ賣買アリタル場合ニ於テ買主カ賣買ニ因ル所有權取得ノ假登記ヲ爲シタル後本登記ヲ爲シタルトキハ假登記ノ當時ニ遡リ其當事既ニ所有條ヲ取得シタリシコトヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ヘク從テ假登記後本登記前ニ登記ヲ爲シタル第三者ニ對シテハ完全ニ自己ノ取得シタル所有權ヲ主張スルコトヲ得ルモノトス本件ニ付キ原審ニ於テ確定シタル事實ニ依レハ上告人ハ訴外大津熊吉ヨリ係爭不動産ヲ買受ケタル旨ノ假登記ヲ爲シタル後之ニ基ク本登記ヲ爲シ其假登記後本登記前ニ被上告人ハ大津熊吉ニ對スル債權ニ基ク強制執行ノ爲メニ係爭不動産ニ對スル強制競賣手續開始ノ決定ヲ受ケ其決定ニ基ク登記アリタルモノナリ然レハ若シ果シテ上告人カ其假登記ノ當時眞實賣買ニ因リ既ニ係爭不動産ノ所有權ヲ取得シタルモノトセンカ其權利保全ノ爲メニ爲シタル假登記ハ後ニ爲シタル本登記ト相竢テ完全ニ其効力ヲ發生シ上告人ハ假登記ノ當時既ニ其所有權ヲ取得シタリシコトヲ以テ被上告人ニ對抗スルコトヲ得ルモノト謂ハサル可カラス從テ本件係爭ノ不動産ハ既ニ上告人ノ所有ニ歸屬シタルト同時ニ大津熊吉ハ之ヲ所有セサルモノトシ同人ニ對スル債權ニ基ク強制執行ハ之ヲ續行ス可カラサルモノトシテ本訴異議ノ主張ヲ是認スルヲ正當ナリト論斷セサルヲ得ス被上告人ノ答辯ニ於テ引用スル明治四十一年（オ）第四百十四號事件ノ本院判例ハ競賣手續完了シタル場合ニ關スルモノニシテ本件ノ場合ニ適切ナラス然ルニ原裁判所カ本件強制競賣手續開始ノ決定送達後ニ上告人カ本登記ヲ爲シタルノ故ヲ以テ其登記ノ効力ナキモノトシ本訴請求ヲ排斥シタルハ假登記及ヒ之ニ基ク本登記ノ効力ニ關スル法則ニ違背シタルモノニシテ上告ハ其理由アリ依テ民事訴訟法第四百四十七條及ヒ第四百四十八條各初項ノ規定ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス