産業組合法違反事件ノ決定ニ對スル再抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）20輯347頁

抗告論旨は山形県東田川郡東村大字中野新田字大東四十四番地有限責任櫛引販売組合が大正二年六月二十二日組合総会に於て理事及監事任期満了に付き其改選の際抗告人十名は理事に小野寺重吉五十嵐辰次郎佐藤利作宮崎清七五十嵐久作は監事に選任せられたるに依り右理事が二週間内に其登記事項の変更登記申請を為すべき処之を懈怠[けたい]して同年十二月十三日に至り之が登記申請を為したるは産業組合法第十四条第二項に違背したるものにして同法第九十三条第一項に該当するものとして科料金各五円に処すと山形地方裁判所に於て決定したるに付き再抗告人等は之を不当とし宮城控訴院に対し不服の抗告を為したるも同院に於て抗告棄却の決定なるも一、原審に於て商法第百六十四条第二項第百八十九条の如く組合と其理事又は監事間の関係は委任に関する規定に従ふ旨の規定あることなければ産業組合の理事又は監事選任の決議は委任の関係を生ずるものに非ずして単独行為たる性質を有し云云と説示し単独行為なりとの前提の下に抗告棄却の決定相成りたるも産業組合法第五条に本法に別段の規定あるものを除くの外商法及商法施行法中商人に関する規定を準用すと規定あると産業組合法の理事に準用すべき民法第五十四条は代表する理事の代理権を認め進んで代理権行使の効力に関する規定を定め特に産業組合法には選任せられたる理事及監事は其選任を辞することを得ずとの規定あることなければ単独行為なりと云ふ[いう]を得ず。 考ふるに商法に於ける会社と取締役との関係は商法第百六十四条第二項第百八十九条委任の規定を準用すとの規定に拠り変更登記の期間起算点を定めたるに非ずして商法第五十一条第一項及第五十三条の変更登記の申請は商法第百六十七条の二の規定に拠り就職より二週間の期間内に登記申請すれば足るなり。 故に公益の目的を以て設立を認むる一の組合が営利的の会社の機関よりも酷なる責任を負担すべき理なく特に本件組合定款第十八条第二項に後任者の就職する迄其職務を行ふものとすと定めあり。 且つ産業組合法第十四条第二項の自体に拠るも登記前に在りては其変更を以て第三者に対抗することを得ずとの規定あるを綜合[そうごう]考究すれば産業組合法第十四条第二項の登記申請の期間起算点は理事就職の時なること甚た明瞭なることと信ず。 二、組合員死亡したるときは其死亡の事実を知りたる時より二週間内に其登記を申請すべし。 （明治三十八年（ク）第百八十九号判例）右理由に依れば死亡なる事実以外に其事実を知悉する事実を認む。 然れば本件選任の事実以外に其選任の事実を知悉する事実を認めざるを得ず。 従て其知悉する事実を認むるとは就職辞職の事実を認むると同一にして本件変更登記申請の期間起算点は其何れにするも選任せられたる理事の就職の時よりと解するを以て至当なりと信ずと云ふ[いう]に在り

按ず[あんず]るに産業組合法第二十五条第二項には産業組合の理事及び監事は組合設立の場合を除く外組合員総会の決議に依り組合員中より選任すべきことを規定すと雖[いえども]も同法中理事又は監事に選任せられたる組合員は当然就職すべき義務あることを規定せざるのみならず同法第十七条以下の規定に依れば組合員の権利及び義務は平等にして組合員は組合の業務に干与す[くみす]る権利を有せず。 又義務を負ふものに非ざるに反し同法第三十二条第三十四条に準用せる民法の規定に依れば理事は組合に対し組合の業務を執行し監事は組合に対し組合財産の状況及び理事の業務執行を監督する責任を負ふものなり。 如此[かくのごとき]く理事又は監事に特殊の責任を負担せしむるに付、本人の承諾を要せざるものと為すは私法の原則に反するものと云ふ[いう]べし。 故に総会に於て理事又は監事に選任せられたる組合員は組合定款に特別の規定ある場合を除く外其就職を承諾したる時より理事又は監事と為るものと云はざるべからず。 本件有限責任櫛引取売組合は産業組合法の規定に依り設立せし組合にして大正二年六月二十二日の組合員総会に於て理事及び監事の改選決議を為し抗告人等を理事に選任したること記録に依り明かなりと雖[いえども]も抗告人等が其就職を承諾したる事実の徴すべきなく、且、記録中の組合定款に依るも理事に選任せられたる組合員は当然就職すべき責務あることを規定せざるを以て抗告人等が本件登記を申請すべき法定期間は就職を承諾したる時より計算すべきものとす。 然るに原院が総会に於ける理事改選決議の日より登記期間を起算し抗告人等が産業組合法第十四条第二項の変更登記を怠りたるものと為せるは不法の裁判にして抗告人等の抗告は其理由あるものとす。 依て非訟事件手続法第二十五条民事訴訟法第四百六十四条第一項の規定に従ひ主文の如く決定す