違法登記抹消通知異議申立却下決定ニ對スル抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）19輯679頁

抗告の趣旨は本件は要するに登記したる目的第六号金融同志会の事項が信託業なるか将又銀行営業なるかの点に在り抗告裁判所は本件に関し積立金は一定の会員より積立てしむるものなりと雖[いえども]も積立金利殖の方法に付ては何等の制限なきを以て一方に於て金銭貸付を営業とする抗告会社が該積立を貸付資金に供し得べきは洵に[まことに]明白なる所なり。 云云及び一面富豊なる貸付資金を獲得することとなり結局抗告会社の事業は一般預金を吸収して之が貸付を為し云云又苟も金銭貸付業者が此等預金を以て其資金に供し依て金銭の融通媒介を為す以上之を銀行業と為すに何の支障あることなし云云と判示せられたれども是れ業務の内容を誤解せられたるものなり。 抑金融同志会の目的は現今既設の千数百の会社の営業と同一にして其営業案内に示す如く「協定せる方法に依り一定の会の会員を募集し特定の信託積立金を為さしめ之が利殖を図ると共に会員に限り相互資金の融通を為すこと」と謂ふに在りて信託金及び之が融通金は凡で一定せる会員に限るものにして其信託金の如きは例令厘毫の零砕金と雖[いえども]も（会社の取得すべき手数料は格別）之を会員以外の他人に融通貸付を為すものにあらず。 否利用融通する能はざるは計算上洵に[まことに]明白なり。 左れば普通銀行業の如く一般預金を吸収して之を営業資金に供し以て金銭の融通媒介を為す業務とは全く其趣旨を異にせり。 故に本件の営業目的は抗告会社が右金融同志会の委託に依り其事務を代理すると将又抗告会社自ら之が業務を執行すると否とを論せず現行法規上信託行為の一にして営業税法に所謂信託業の範囲に属すべきものと確信す。 然るに抗告裁判所が信託業の法則を無視し銀行条例を適用して抗告棄却の裁判を与へられたるは不当に付き更に抗告に及ぶと云ふ[いう]に

在り

按ず[あんず]るに公に開きたる店舗に於て営業として諸預り及び貸付を併せ為す者を銀行とすることは銀行条例第一条の規定する所なり。 而して[しこうして]其所謂諸預りとは各種の当座預金定期預金等を指称し銀行は預金契約の趣旨に従ひ要求払又は定期払等の債務を負ひ常に必す預金者に対し預金返還の責に任ずるものとす。 殊に各種の当座預金に付ては銀行に於て常に要求払の債務を負担し預金者は随時に之を引出すことを得るものにして公衆より一面に於て斯る要求払の預金を他の預金と共に収受して営業資金に供し他の一面に於て貸付等の方法に依り之を運用することは普通銀行の主たる営業に[すでに]して銀行事業に[すでに]必要欠く可からざる事項なりとす。 然るに近時世に無尽講に類する事業を営む会社あり其事業として行ふ。 所を見るに大抵一定の会員を募集し各会員に数回出金の規定を設けて毎回一定の金額を積立てしめ之に依て得たる金額を以て毎回抽籤[ちゅうせん]若くは入札の方法に依り会員の一人に対し一定の金額を限度として貸付を為すものにして其会員と会社との法律関係を考ふるに会員は会社に対し毎回一定の積立金を為す義務を負ひ当籤又は落札の場合に於て所定金額の貸付を受くる権利を取得し又会社は会員に対し毎回一定の積立金を為さしむる権利を取得して当籤又は落札したる会員に所定金額の貸付を為す義務を負担するを普通とす。 故に斯の如き会社は一種の金融機関たること疑なしと雖[いえども]も其事業として各会員より毎回収受する所定の金員に付ては会社は普通銀行の預金に於けるが如き要求払又は定期払等の債務を負担することなく唯当籤又は落札したる会員に所定金額の貸付を為す義務を負ふに過ぎずして又会員は当籤又は落札の場合に所定金額の貸付を受くる権利を有するも自己の供出したる全員を随時に引出し又は定期に返還を受くることを得ざるを以て其事業は銀行に欠く可からずる諸預りの業務を欠如し純然たる銀行事業と謂ふことを得ず。 本件の事実は抗告人が原審に於て登記事項中第六号に付き主張したる所に依れば抗告会社は叙上の如き無尽講に類する事業を営むものに外ならざるが如し。 果して然らば抗告会社が無尽講類似の事業の外に尚ほ金銭貸付業を為すも諸預りを併せ為すものに非ざるを以て銀行事業を為すものとして処分することを得ざるものとす。 然るに原裁判所は単に抗告会社が会員より積立金を収受し之を貸付資金に供することを認めたるに止まり其積立金の収受が果して普通銀行に欠く可からざる諸預りの事業に[すでに]当るや否やを判定するに足るべき事実を確定せずして直に抗告会社の行ふ事業を銀行事業なりと断定したるは違法たるを免れず本件抗告は此点に於て結局其理由あるを以て非訴事件手続法第二十五条民事訴訟法第四百六十四条の規定に従ひ主文の如く決定す