明治四十四年(オ)第百七十一號
明治四十四年十二月十六日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 一部辨濟ノ提供ハ債權者ノ承諾ナキ限リ債務ノ本旨ニ從ヒテ爲ス辨濟ノ現實ナル提供ト爲ラサルモノナレハ債權者カ之カ受領ヲ拒ミタル爲メ債務者ニ於テ之ヲ供託スルモ其供託シタル部分ニ相當スル債務ヲ免ルルヲ得サルモノトス(判旨第一點)
- 一 債權者カ一旦債務者ノ承諾ヲ經テ利息制限法ノ制限ニ超ユル利息ヲ元金ニ組入レタル後ト雖モ債務者カ辨濟ヲ拒ム限リハ債權者ハ利息制限法ノ規定ニ從ヒ更ニ計算ヲ爲シ元利金ノ辨濟ヲ請求セサルヘカラス(判旨第二點)
上告人 沼田豐吉
被上告人 池上辰雄
右法定代理人 池上すゑ
訴訟代理人 竹下延保 町井鐵之助
右當事者間ノ貸金竝ニ報酬金請求事件ニ付東京控訴院カ明治四十四年四月五日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ一部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判決
原判決ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ東京控訴院ニ差戻ス
理由
上告趣旨ノ第四ハ原院ハ上告人カ被上告人ニ對シ本件債務ノ辨濟トシテ金三百七十六圓九十四錢八厘ヲ提供セシモ被上告人ハ受領ヲ拒ミシカ故ニ明治三十九年六月二十日之ヲ供託セリトノ抗辯ニ對シ
「供託ノ金員ハ債務ノ本旨ニ適應セシモノニアラサルコト前説明ニ依リテ自カラ明白ナルカ故ニ供託ノ効力ヲ生セス」ト説明シタルモ金錢債務ヲ負フモノカ金錢ヲ以テ供託シタルコトカ何故ニ債務ノ本旨ニ適應セシモノニアラサルカ原判文上之ヲ解スヘキ文詞ナシ或ハ原院ハ多額ノ金錢債務ヲ負フモノカ少額ノ債務ヲ負フモノナリトシ自己ノ主張金額ヲ供託スルハ債務ノ本旨ニ適應スルモノニアラストノ趣旨ナルヤモ知ルヘカラサルモ苟クモ金錢債務タル上ハ債務者カ全部辨濟ノ趣旨ニテ提供スルト一部辨濟ノ趣旨ニテ提供スルトニヨリ債務ノ本旨ニ適應スルヤ否ヤノ問題ヲ生スヘキ筈ナシ債務者カ全部辨濟ノ趣旨ニテ提供シタリトテ債權者ハ其受領ニ依リ債權殘部ヲ喪失スルノ理由ナケレハ之カ受領ヲ拒絶シ得ヘキ理由ナク從テ債務者ハ其提供供託シタル金額丈ノ債務ヲ免カルヘキハ當然ナリ然ルニ原院カ彼レカ如キ説明ヲ附シタルハ其理由ヲ解スル能ハサル所ニシテ結局原判決ハ理由不備ノ不法アルヲ免カレスト云フニ在リ
然レトモ辨濟ノ提供ハ債務ノ本旨ニ從ヒテ現實ニ之ヲ爲スコトヲ要スルヲ以テ債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル辨濟即チ一部辨濟ノ提供ハ苟クモ債權者ノ承諾ナキ限リハ債務ノ本旨ニ從ヒテ爲ス辨濟ノ現實ナル提供ト爲ラス從テ債權者カ一部辨濟ノ受領ヲ拒ミタル爲メ債務者ニ於テ之ヲ供託スルモ其供託シタル部分ニ相當スル債務ヲ免カルルコトヲ得サルノ筋合ナリトス故ニ此點ニ於ケル原判決ノ趣旨ハ正當ニシテ本論旨ハ上告ノ適法ナル理由ト爲ラサルモノトス(判旨第一點)
上告趣旨ノ第三ハ假リニ入金當時ニハ不法ノ點ナクトモ後日ニ至リ其入金ヲ利息制限法制限超過ノ利息ト差引スルコトヲ承認スルトキハ最初ヨリ不法ノ原因ノ爲メ入金シタルト同一視スヘキモノトスルモ尚ホ原判決ハ法律ニ違背シテ事實ヲ確定シ且ツ利息制限法ノ適用ヲ誤リタル不法アルヲ免カレス其理由ハ原院カ上告人ニ於テ承認シタリト認メタル甲第五號證ニ依レハ明治三十八年七月一日以後同年十二月三十一日迄ニ上告人ニ於テ數囘ニ入金シタル合計金四千五十四圓九十九錢ハ入金ノ都度貸付元金ノ辨濟ニ充當シアリテ其間ノ利子及報酬ニ充當セラレタルコトナシ即チ甲第五號證ニ依レハ三十八年七月一日ノ入金七百八十圓及百八十圓九十六錢ハ同日ノ貸付元金六千八百八十五圓六十三錢三厘ノ辨濟ニ充當シテ貸付元金(即チ差引殘)ヲ五千九百二十四圓六十七錢三厘ニ減シ更ニ同日附新貸付金百八十圓九十六錢ヲ貸付元金ニ組込ミ貸付元金六千百五圓六十三錢三厘トナシ以下順次同一方法ニテ入金アル毎ニ貸付元金ノ辨濟ニ充テ新貸付金ハ之ヲ貸付元金ニ組込ミ以テ三十八年十二月三十一日ニ至リ同日ノ入金五百圓ヲ貸付元金ノ辨濟ニ充テタル差引殘即チ貸付元金ハ四千二百八十三圓八十三錢三厘ト記載シアリテ上告人カ明治三十八年七月一日ヨリ同年十二月三十一日迄ニ入金シタル四千五十四圓九十九錢ハ一厘タモ同期間ノ利子報酬ノ辨濟ニ充テラレタルコトナシ而シテ同期間ノ利息即チ原院ノ所謂利子及ヒ報酬(合計千二百七十三圓十四錢六厘)ハ之ヲ前記ノ貸付元金四千二百八十三圓八十三錢三厘ノ外ニ利息トシテ別ニ記載シアリテ之ニ對シ一厘ノ入金タモアルコトナク之ヲ貸付元金四千二百八十三圓八十三錢三厘ニ加算シ貸付元金ヲ五千五百五十六圓九十七錢九厘ト掲記セリ即チ甲第五號證ノ記載ニ依レハ同期間ノ利息合計一千二百七十三圓十四錢六厘ハ未タ全ク支拂ハレサルモノニシテ假利上告人ハ同證ノ計算ヲ承認シタリトスルモ上告人ハ此ノ百圓ニ付日歩十三錢三厘六毛強ナル高利率ニ依ル利子報酬ヲ貸付元金ニ加算スルコトヲ承認シタリト云フニ過キスシテ未タ之カ辨濟ヲ爲シタルニアラス而シテ此利子報酬ハ何レモ貸金ニ對スルモノニシテ利息制限法ニ違背スルモノタルコトハ原院ノ確定シタル事實ナレハ假令之ヲ元金ニ加算シ支拂ヲ爲スコトヲ承認スルモ未タ現實支拂ヲ爲ササル限リハ利息制限法ノ規定上之ヲ支拂フノ義務ナキハ原院ノ説明スル所ニシテ御院判例ニ徴スルモ亦然リトス(御院民事部判決録明治三十九年度八七七頁)果シテ然ラハ假令明治三十八年七月一日以前ニ於ケル利子及ヒ報酬ハ上告人ニ於テ辨濟充當ノ計算ヲ承認シタルカ故ニ最早之カ計算ノ更正ヲ爲スヲ得サルモノナリトスルモ同日以後同年十二月三十一日迄ニ至ル間ノ利子及報酬ニ付テハ未タ嘗テ辨濟充當ナル事實ノ存シタルコトナク單ニ之ヲ貸付元金ニ加算スルコトヲ承認シタルニ過キサレハ被上告人カ今日裁判上之レカ支拂ヲ請求スル以上ハ原院ハ須ク利息制限法ノ規定ニ從ヒ計算ヲ遂ケ同法制限ニ超過スル部分ノ契約ハ總テ之ヲ無効ナリトシ被上告人ノ請求ヲ排斥セサルヘカラス又民法ノ規定ニ照スモ利息制限法ノ制限超過部分ハ同法ノ規定ニ依リ之ヲ支拂フノ義務ナキモノナレハ之ヲ元金ニ加算スルノ意思表示ヲ爲シタリトテ民法ニ依ル消費貸借ノ成立スヘキ理由ナシ(民法第五百八十八條)然ルニ原院ハ甲第五號證ノ記載ニ反シ同證ニハ明治三十八年七月一日以後同年十二月三十一日迄ノ上告人ノ入金四千五十四圓九十九錢ナルモノハ同年七月一日ノ貸付元金六千八百八十五圓六十三錢三厘ニ同日以後八月十一日迄ノ貸出一千四百五十三圓十九錢ト七月一日ヨリ十二月三十一日迄ノ利子及ヒ報酬千二百七十三圓十四錢六厘トノ加算額ト差引計算シ被上告人ノ債權ハ同年十二月三十一日ニ於テ金五千五百五十六圓九十七錢九厘ト記載シアルモノノ如ク判示シ以テ明治三十八年七月一日ヨリ同年十二月三十一日迄ノ利子及ヒ報酬一千二百七十三圓十四錢六厘ハ同期間ノ入金ヲ以テ任意辨濟セシモノト認ムヘキヲ以テ之ニ對シ利息制限法ノ規定ヲ適用ス可キ限リニアラスト判示シタルハ甲第五號證ニ記載ナキ事項ヲ以テ同號證ニ記載アルモノトシ以テ上告人ノ抗辯ヲ斥ケタルモノニシテ結局證據ニ違背シテ事實ヲ確定シ且利息制限法ノ適用ヲ誤リタル不法ノ判決タルコトヲ免カレスト云ヒ」第五ハ本件當事者間ニ於ケル明治三十八年七月一日ヨリ同年十二月三十一日迄ノ取引關係ニ付テハ先ニ提出シタル上告理由追加書第三點ニ於テ之レカ詳細ヲ盡シタレ共同日以前ノ取引ニ付テモ亦同樣ノ不法アルノミナス利息制限法超過ノ利息ヲ元金ニ組入レ計上シタル不法ヲ看過シ輙ク認容シタル失當アルヲ免レスト信ス元來被上告人カ上告人ニ對スル請求ハ明治三十七年四月十日ヨリ同三十九年四月十六日ニ亘ル滿二个年餘ノ取引關係ノ計算尻ナルコトハ被上告人ノ主張スル所ニシテ訴状竝ニ口救辯論調書ノ記載ニ徴シ明ナリ然ルニ原院ハ其判決理由ニ於テ甲第五號證ニハ明治三十八年七月一日ニ於ケル控訴人(被上告人)ノ貸金ハ金六千八百八十五圓六十三錢三厘ニシテ…‥…云云ト説明シ恰モ現實ニ被上告人ハ上告人ニ同日六千八百八十五圓六十三錢三厘ヲ貸付ケタルモノノ如ク判示シタリト雖モ右六千八百八十五圓六十三錢三厘ハ現實ニ被上告人カ貸付ケタルニアラスシテ同年五月一日ヨリ同年六月三十日迄ノ取引關係ニ於ケル貸付元金ニ對スル入金差引元金ト期間内同元金ニ對スル高率ノ利子トヲ加算シタル元利金ヲ翌月一日即チ明治三十八年七月一日貸付元金トナシタルモノナルコトハ被上告人ノ主張スル所ナルノミナラス同期間中ノ計算ニ係ル甲第一號證ノ記載ニ依リ明瞭ナリトス今同號證ノ計算ニ付キ説明センニ同證ニ依レハ明治三十八年五月一日ノ貸付元金ハ六千九百十八圓二十三錢六厘ニシテ内金千百三十二圓六十三錢ヲ同月三日辨濟ニ充當シ更ニ同額ノ金圓ノ外金八百二十圓ヲ新ニ貸付ケ合計金七千七百三十圓二十二錢六厘ヲ貸付元金トシ又同月四日ノ新貸付千圓ヲ加ヘ金八千七百三十圓二十二錢六厘トシ尚ホ同月十二日ノ新貸付金五百八十二圓ヲ加算シ九千三百十二圓ヲ加算シ九千三百十二圓二十二錢六厘ヲ貸付元金トシ内同月十三日六百九十二圓二十八錢ヲ辨濟ニ充當シテ貸付元金ヲ八千六百十九圓九十四錢六厘ニ減シ以下順次同一方法ニヨリ入金アル毎ニ貸付元金ノ辨濟ニ充テ新貸付金ハ之ヲ貸付元金ニ組入レテ同年六月三十日ニ至リ五月一日ノ貸付元金六千九百十八圓二十二錢六厘ノ外同期間内ニ八囘ニ新ニ貸付タル金七千五百九十五圓九十五錢トヲ合セ貸付金合計金一萬四千五百十四圓十七錢六厘トシ入金總額八千二百八十九圓四十三錢ヲ控除シ差引殘高ヲ六千二百二十四圓七十四錢六厘トシ別ニ利息合計金六百六十圓八十八錢七厘トセルヲ以テ入金額ハ總テ貸付元金ノ辨濟ニ充當シアリテ其間ノ利息及ヒ報酬ニ充當セラレタルコトナシ而シテ被上告人ノ主張スル所ニヨルモ從來日歩百圓ニ付キ金三錢五厘宛ノ割ニ相當スル利息ヲ支拂フ外枕木販賣ノ盡力ニ報ユル爲メ賣却枕木一挺ニ對シ金二錢宛ノ報酬支拂契約ヲ變更シ同年五月一日ヨリ貸付元金百圓ニ對シ一日金十三錢三厘六毛ノ報酬ヲ支拂フヘキコトト爲シタリト云フニアリテ其利率計算モ亦同割合ニ依リタルモノナルコト算數上明白ナリ然ラハ則チ明治三十八年五月一日以後同年六月三十日ニ至ル間ノ利息及報酬ニ付テハ未タ曾テ辨濟充當ナル事實ナケレハ上告理由追加第三點ニ於テ論述シタルト同一ノ理由ニ依リ其請求ノ不法ナルコト多言ヲ要セス加之原院カ認メテ貸付元金トナシタル明治三十八年七月一日金六千八百八十五圓六十三錢三厘ハ現實ニ同日貸付ケタルモノニアラスシテ同年五月一日ヨリ同年六月三十日迄ノ貸付元金ニ入金ヲ差引タル殘元金六千二百二十四圓七十四錢六厘別ニ其期間内貸付元金ニ對スル百圓ニ付金十三錢三厘六毛ノ高率ヲ積算シタル金六百五十六圓五十七錢九厘外ニ別口六千百五十三圓ニ對スル二口分ノ利息不足分四圓三十錢八厘ヲ組入レ合計金六千八百八十五圓六十三錢三厘ヲ更ニ同年七月一日貸付ノ元金トナシタルモノナルコトハ被上告人ノ主張スル所ニシテ又甲第一號證ニ依リ明ナリ果シテ然ラハ原院ノ認定スル如ク假令上告人ハ被上告人ノ利息制限法超過ノ利息ヲ現金ニ組入ルルコトヲ承認シタルモノトスルモ制限法超過ノ利息ヲ元金ニ組入ルルカ如キハ法律ノ許容セサル所ニシテ少クモ其超過部分ニ付テハ消費貸借ノ成立スヘキ謂ハレナキコトハ夙ニ御院ノ判例ニ於テモ認メラルル所ニシテ敢テ喋喋ヲ要セス然ルニ原院ハカカル重要ナル點ヲ看過シ明治三十年七月一日ノ貸付現金ハ六千八百八十五圓六十三錢三厘ニシテ云云ト説明シ其以前ニ於ケル取引當初即チ明治三十年四月十日ヨリ同年六月三十日マテノ取引關係ニ付テハ毫モ顧慮スル所ナク漫然如上ノ如ク説示シ去リタルハ當事者ノ主張ト證據ニ違背シテ不當ニ事實ヲ確定シタル不法アルト同時ニ利息制限法超過ノ利息ト雖モ一旦元金ニ組入レタルトキハ其金額ハ確定不動ノモノトナシタル失當アル判決ニシテ此點ニ於テモ亦法律ニ違背シ不當ニ事實ヲ確定シタル非難ヲ免レサルヘシト信スト云ヒ」又第六ハ明治三十八年五月一日ヨリ同年六月三十日マテノ取引關係ニ付テハ以上第五點ニ於テ論述シタル所ナレトモ遡テ其以前ノ取引即チ明治三十七年四月十日ヨリ同三十八年四月三十日マテノ取引關係ニ於テモ前同樣ノ批難アルヲ免レス今同期間ノ取引ヲ(第一)明治三十八年一月一日ヨリ同年四月三十日マテノ取引(第二)明治三十七年四月十日ヨリ同年十二月三十日マテノ取引關係ノ二箇ニ區別シ之レカ説明ヲ試ンニ「第一」明治三十八年一月ヨリ同年四月三十日マテノ計算尻金六千九百十圓二十二錢六厘ハ即チ翌五月一日新貸付元金ニシテ甲第三號證四號證ノ貸付勘定書ニ依リ明瞭ナリ即チ甲第三號證ニ依レハ明治三十八年一月一日ノ貸付元金ハ一萬四百五十七圓九十錢ニシテ追次入金アル毎ニ元金ニ充當シ新貸付金ハ元金ニ加ヘ以テ同年四月三十日ニ至リ貸付總額金一萬九千三百六十四圓二十三錢ノ内入金總額金一萬五千三十二圓五十八錢ヲ控除シ差引殘金四千三百三十一圓六十五錢ノ外貸付日數ニ應スル日歩金三錢五厘ノ利息金三百四十八圓八十三錢一厘トヲ加ヘタル金四千六百八十圓四十八錢一厘ト甲第四號證ノ別途貸付勘定書ノ計算尻金二千二百二十九圓七十四錢五厘ヲ合算シタル金六千九百十圓二十二錢六厘ハ翌月一日ノ新貸付元金ト爲シタルコト先ニ述ヘタル所ノ如シ而シテ前記甲第三號證ノ計算ニ付テハ日歩金三錢五厘ノ利息ノミヲ合算シタルモノナリト雖モ甲第四號證ニ付テハ日歩三錢五厘ノ外手數料トシテ三錢三厘三毛合計六錢八厘三毛ヲ貸付日數ニ應シ利息手數料トシテ計算シタルコトハ同號證ノ記載ニ徴シテ明白ナリ即チ明治三十八年一月十六日ノ貸付元金ハ三百四十圓ニシテ外ニ新貸付金ヲ加ヘタル一萬千二百七圓ヘ三百四十圓ヲ入金シタル殘元金八百六十七圓ニ更ニ二口ノ新貸付金ヲ加ヘ同月三十日ニ至リ貸付總額二千四百六十二圓三十錢入金額金三百四十圓ヲ控除シタル二千百二十二圓三十錢ノ外ニ貸付日數ニ應スル日歩金六錢八厘三毛ノ利率ニ依ル利息金百七圓四十四錢五厘ヲ加ヘ二千二百二十九圓七十四錢五厘ト爲シタルモノナレハ利息手數料金六錢八厘三毛ノ内三錢二厘九毛ノ外ハ利息制限法超過ノ利息ニシテ而モ未タ辨濟ノ充當アリタル事實ナキノミナラス利息制限法超過ノ利息ヲ元金ニ組入レ五月一日ニ於テ新貸付元金ト爲シタル違法アリ又「第二」ノ明治三十七年四月十日ヨリ同年十二月三十一日マテノ計算ニ付テハ甲第二號證貸借勘定書ニ明ナル如ク明治三十七年四月十日ノ貸付元金ハ六千二十三圓三十一錢二厘ニシテ入金アル毎ニ元金ノ辨濟ニ充テ新貸付金ハ更ニ元金ニ組入レ順次此ノ如クシテ最後ニ貸付元金總額一萬三千七百九圓九十一錢二厘ノ内入金總額金七千三百八十七圓二十七錢三厘ヲ控除シタル殘額金六千四百二十二圓五十三錢五厘ニ日歩三錢五厘ノ割合ニ於ケル利息七百六十一圓十三錢五厘ノ外ニ枕木十六萬挺ニ對スル報酬一挺ニ付二錢ノ割合ニ於ケル金三千二百圓ト別ニ三千六百二十一挺ニ對スル同割合ノ報酬金七十二圓四十二錢トヲ合算シ金一萬四百五十七圓九錢トシ之ヲ翌年一月一日ノ新貸付元金トナシタルモノナレハ枕木一挺ニ付金二錢ノ割合ノ報酬總額金三千二百七十二圓四十二錢ハ即チ利息制限法超過ノ利息ヲ元金ニ組入レ新消費貸借ト爲シタルモノナルニ原院カ之ヲ有効ノ消費貸借ト爲シタルハ是亦上告理由第五點ト同一ノ理由ニ依リ不法ノ判決タルヲ免レスト信スト云フニ在リ
按スルニ債務者カ債權者ニ對シ任意ニテ利息制限法ノ制限ニ超ユル利息ヲ現實ニ給付シタルトキハ爾後債權者ニ對シ右制限外ノ利息ノ返還ヲ請求スルコトヲ得スト雖モ債務者カ單ニ債權者ニ對シ利息制限法ノ制限ニ超ユル利息ヲ元金ニ組入ルルコトヲ承諾シタル一事ハ之ヲ以テ債權者カ債務者ヨリ現實ニ右利息ノ給付ヲ受ケタル場合ト同視スルコトヲ得ス然ラサレハ不當ニ利息制限法ノ適用範圍ヲ縮少シ公益上債務者ヲ保護セントスル同法ノ精神ヲ失ハシムルニ至ルヘシ是ニ由リテ之ヲ觀レハ債權者ハ一旦債務者ノ承諾ヲ經テ利息制限法ノ制限ニ超ユル利息ヲ元金ニ組入レテ計算シタル後ト雖モ債務者ニ於テ任意ニ辨濟ヲ爲スコトヲ拒ム限リハ債權者ハ利息制限法ノ規定ニ背反セサル限度ニ於テ更ニ計算ヲ爲シ元利金ノ辨濟ヲ請求スルノ途ニ出テサル可カラサルコト洵ニ明白ナリ(明治三十九年(オ)第五十號同年五月十九日言渡當院判例參照)然ルニ原判決ハ事茲ニ出テスシテ「甲第五號證計算書ハ同年六七月頃ノ作成ニ係リ當時被控訴人モ亦之ヲ承認セシモノト認定ス從テ同證記載ノ明治三十八年十二月三十一日ニ至ル迄ノ被控訴人ノ入金ハ控訴人ノ貸金竝ニ利子及ヒ報酬ニ任意辨濟セシモノト認ムヘク之ニ對シ利息制限法ノ規定ヲ適用スヘキ限ニアラサルニ依リ控訴人ノ貸金ニ付テハ當初ヨリ同法ノ制限内ニ於テ利子及ヒ報酬金ヲ計算スヘキモノナリトノ被控訴代理人ノ抗辯ハ其理由ナク」ト判示シ前顯ノ法則ニ違背シタリ故ニ本論旨ハ正當ニシテ上告ノ理由アルモノトス(判旨第二點)
如上ノ理由ニ依リ民事訴訟法第四百四十七條及ヒ第四百四十八條ニ則リ主文ノ如ク評決シタリ
明治四十四年(オ)第百七十一号
明治四十四年十二月十六日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 一部弁済の提供は債権者の承諾なき限り債務の本旨に従ひて為す弁済の現実なる提供と為らざるものなれば債権者が之か受領を拒みたる為め債務者に於て之を供託するも其供託したる部分に相当する債務を免るるを得ざるものとす。
(判旨第一点)
- 一 債権者が一旦債務者の承諾を経で利息制限法の制限に超ゆる利息を元金に組入れたる後と雖も債務者が弁済を拒む限りは債権者は利息制限法の規定に従ひ更に計算を為し元利金の弁済を請求せざるべからず。
(判旨第二点)
上告人 沼田豊吉
被上告人 池上辰雄
右法定代理人 池上すゑ
訴訟代理人 竹下延保 町井鉄之助
右当事者間の貸金並に報酬金請求事件に付、東京控訴院が明治四十四年四月五日言渡したる判決に対し上告人より一部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
判決
原判決を破毀し更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を東京控訴院に差戻す
理由
上告趣旨の第四は原院は上告人が被上告人に対し本件債務の弁済として金三百七十六円九十四銭八厘を提供せしも被上告人は受領を拒みしか故に明治三十九年六月二十日之を供託せりとの抗弁に対し
「供託の金員は債務の本旨に適応せしものにあらざること前説明に依りて自から明白なるが故に供託の効力を生ぜず」と説明したるも金銭債務を負ふものが金銭を以て供託したることが何故に債務の本旨に適応せしものにあらざるか原判文上之を解すべき文詞なし。
或は原院は多額の金銭債務を負ふものが少額の債務を負ふものなりとし自己の主張金額を供託するは債務の本旨に適応するものにあらずとの趣旨なるやも知るべからざるも苟くも金銭債務たる上は債務者が全部弁済の趣旨にて提供すると一部弁済の趣旨にて提供するとにより債務の本旨に適応するや否やの問題を生ずべき筈なし。
債務者が全部弁済の趣旨にて提供したりとて債権者は其受領に依り債権残部を喪失するの理由なければ之が受領を拒絶し得べき理由なく。
従て債務者は其提供供託したる金額丈の債務を免がるべきは当然なり。
然るに原院が彼れが如き説明を附したるは其理由を解する能はざる所にして結局原判決は理由不備の不法あるを免がれずと云ふに在り
然れども弁済の提供は債務の本旨に従ひて現実に之を為すことを要するを以て債務の全部を消滅せしむるに足らざる弁済即ち一部弁済の提供は苟くも債権者の承諾なき限りは債務の本旨に従ひて為す弁済の現実なる提供と為らず。
従て債権者が一部弁済の受領を拒みたる為め債務者に於て之を供託するも其供託したる部分に相当する債務を免がるることを得ざるの筋合なりとす。
故に此点に於ける原判決の趣旨は正当にして本論旨は上告の適法なる理由と為らざるものとす。
(判旨第一点)
上告趣旨の第三は仮りに入金当時には不法の点なくとも後日に至り其入金を利息制限法制限超過の利息と差引することを承認するときは最初より不法の原因の為め入金したると同一視すべきものとするも尚ほ原判決は法律に違背して事実を確定し且つ利息制限法の適用を誤りたる不法あるを免がれず其理由は原院が上告人に於て承認したりと認めたる甲第五号証に依れば明治三十八年七月一日以後同年十二月三十一日迄に上告人に於て数回に入金したる合計金四千五十四円九十九銭は入金の都度貸付元金の弁済に充当しありて其間の利子及報酬に充当せられたることなし。
即ち甲第五号証に依れば三十八年七月一日の入金七百八十円及百八十円九十六銭は同日の貸付元金六千八百八十五円六十三銭三厘の弁済に充当して貸付元金(即ち差引残)を五千九百二十四円六十七銭三厘に減じ更に同日附新貸付金百八十円九十六銭を貸付元金に組込み貸付元金六千百五円六十三銭三厘となし以下順次同一方法にて入金ある毎に貸付元金の弁済に充で新貸付金は之を貸付元金に組込み以て三十八年十二月三十一日に至り同日の入金五百円を貸付元金の弁済に充てたる差引残即ち貸付元金は四千二百八十三円八十三銭三厘と記載しありて上告人が明治三十八年七月一日より同年十二月三十一日迄に入金したる四千五十四円九十九銭は一厘たも同期間の利子報酬の弁済に充てられたることなし、而して同期間の利息即ち原院の所謂利子及び報酬(合計千二百七十三円十四銭六厘)は之を前記の貸付元金四千二百八十三円八十三銭三厘の外に利息として別に記載しありて之に対し一厘の入金たもあることなく之を貸付元金四千二百八十三円八十三銭三厘に加算し貸付元金を五千五百五十六円九十七銭九厘と掲記せり。
即ち甲第五号証の記載に依れば同期間の利息合計一千二百七十三円十四銭六厘は未だ全く支払はれざるものにして仮利上告人は同証の計算を承認したりとするも上告人は此の百円に付、日歩十三銭三厘六毛強なる高利率に依る利子報酬を貸付元金に加算することを承認したりと云ふに過ぎずして未だ之が弁済を為したるにあらず。
而して此利子報酬は何れも貸金に対するものにして利息制限法に違背するものたることは原院の確定したる事実なれば仮令之を元金に加算し支払を為すことを承認するも未だ現実支払を為さざる限りは利息制限法の規定上之を支払ふの義務なきは原院の説明する所にして御院判例に徴するも亦然りとす。
(御院民事部判決録明治三十九年度八七七頁)果して然らば仮令明治三十八年七月一日以前に於ける利子及び報酬は上告人に於て弁済充当の計算を承認したるが故に最早之が計算の更正を為すを得ざるものなりとするも同日以後同年十二月三十一日迄に至る間の利子及報酬に付ては未だ嘗て弁済充当なる事実の存したることなく単に之を貸付元金に加算することを承認したるに過ぎざれば被上告人が今日裁判上之れが支払を請求する以上は原院は須く利息制限法の規定に従ひ計算を遂け同法制限に超過する部分の契約は総で之を無効なりとし被上告人の請求を排斥せざるべからず。
又民法の規定に照すも利息制限法の制限超過部分は同法の規定に依り之を支払ふの義務なきものなれば之を元金に加算するの意思表示を為したりとて民法に依る消費貸借の成立すべき理由なし。
(民法第五百八十八条)然るに原院は甲第五号証の記載に反し同証には明治三十八年七月一日以後同年十二月三十一日迄の上告人の入金四千五十四円九十九銭なるものは同年七月一日の貸付元金六千八百八十五円六十三銭三厘に同日以後八月十一日迄の貸出一千四百五十三円十九銭と七月一日より十二月三十一日迄の利子及び報酬千二百七十三円十四銭六厘との加算額と差引計算し被上告人の債権は同年十二月三十一日に於て金五千五百五十六円九十七銭九厘と記載しあるものの如く判示し以て明治三十八年七月一日より同年十二月三十一日迄の利子及び報酬一千二百七十三円十四銭六厘は同期間の入金を以て任意弁済せしものと認むべきを以て之に対し利息制限法の規定を適用す可き限りにあらずと判示したるは甲第五号証に記載なき事項を以て同号証に記載あるものとし以て上告人の抗弁を斥けたるものにして結局証拠に違背して事実を確定し、且、利息制限法の適用を誤りたる不法の判決たることを免がれずと云ひ」第五は本件当事者間に於ける明治三十八年七月一日より同年十二月三十一日迄の取引関係に付ては先に提出したる上告理由追加書第三点に於て之れが詳細を尽したれ共同日以前の取引に付ても亦同様の不法あるのみなす利息制限法超過の利息を元金に組入れ計上したる不法を看過し輙く認容したる失当あるを免れずと信ず。
元来被上告人が上告人に対する請求は明治三十七年四月十日より同三十九年四月十六日に亘る満二个年余の取引関係の計算尻なることは被上告人の主張する所にして訴状並に口救弁論調書の記載に徴し明なり。
然るに原院は其判決理由に於て甲第五号証には明治三十八年七月一日に於ける控訴人(被上告人)の貸金は金六千八百八十五円六十三銭三厘にして…‥…云云と説明し恰も現実に被上告人は上告人に同日六千八百八十五円六十三銭三厘を貸付けたるものの如く判示したりと雖も右六千八百八十五円六十三銭三厘は現実に被上告人が貸付けたるにあらずして同年五月一日より同年六月三十日迄の取引関係に於ける貸付元金に対する入金差引元金と期間内同元金に対する高率の利子とを加算したる元利金を翌月一日即ち明治三十八年七月一日貸付元金となしたるものなることは被上告人の主張する所なるのみならず同期間中の計算に係る甲第一号証の記載に依り明瞭なりとす。
今同号証の計算に付き説明せんに同証に依れば明治三十八年五月一日の貸付元金は六千九百十八円二十三銭六厘にして内金千百三十二円六十三銭を同月三日弁済に充当し更に同額の金円の外金八百二十円を新に貸付け合計金七千七百三十円二十二銭六厘を貸付元金とし又同月四日の新貸付千円を加へ金八千七百三十円二十二銭六厘とし尚ほ同月十二日の新貸付金五百八十二円を加算し九千三百十二円を加算し九千三百十二円二十二銭六厘を貸付元金とし内同月十三日六百九十二円二十八銭を弁済に充当して貸付元金を八千六百十九円九十四銭六厘に減じ以下順次同一方法により入金ある毎に貸付元金の弁済に充で新貸付金は之を貸付元金に組入れて同年六月三十日に至り五月一日の貸付元金六千九百十八円二十二銭六厘の外同期間内に八回に新に貸付たる金七千五百九十五円九十五銭とを合せ貸付金合計金一万四千五百十四円十七銭六厘とし入金総額八千二百八十九円四十三銭を控除し差引残高を六千二百二十四円七十四銭六厘とし別に利息合計金六百六十円八十八銭七厘とせるを以て入金額は総で貸付元金の弁済に充当しありて其間の利息及び報酬に充当せられたることなし、而して被上告人の主張する所によるも従来日歩百円に付き金三銭五厘宛の割に相当する利息を支払ふ外枕木販売の尽力に報ゆる為め売却枕木一挺に対し金二銭宛の報酬支払契約を変更し同年五月一日より貸付元金百円に対し一日金十三銭三厘六毛の報酬を支払ふべきことと為したりと云ふにありて其利率計算も亦同割合に依りたるものなること算数上明白なり。
然らば則ち明治三十八年五月一日以後同年六月三十日に至る間の利息及報酬に付ては未だ曽て弁済充当なる事実なければ上告理由追加第三点に於て論述したると同一の理由に依り其請求の不法なること多言を要せず。
加之原院が認めて貸付元金となしたる明治三十八年七月一日金六千八百八十五円六十三銭三厘は現実に同日貸付けたるものにあらずして同年五月一日より同年六月三十日迄の貸付元金に入金を差引たる残元金六千二百二十四円七十四銭六厘別に其期間内貸付元金に対する百円に付、金十三銭三厘六毛の高率を積算したる金六百五十六円五十七銭九厘外に別口六千百五十三円に対する二口分の利息不足分四円三十銭八厘を組入れ合計金六千八百八十五円六十三銭三厘を更に同年七月一日貸付の元金となしたるものなることは被上告人の主張する所にして又甲第一号証に依り明なり。
果して然らば原院の認定する如く仮令上告人は被上告人の利息制限法超過の利息を現金に組入るることを承認したるものとするも制限法超過の利息を元金に組入るるが如きは法律の許容せざる所にして少くも其超過部分に付ては消費貸借の成立すべき謂はれなきことは夙に御院の判例に於ても認めらるる所にして敢て喋喋を要せず。
然るに原院はかかる重要なる点を看過し明治三十年七月一日の貸付現金は六千八百八十五円六十三銭三厘にして云云と説明し其以前に於ける取引当初即ち明治三十年四月十日より同年六月三十日までの取引関係に付ては毫も顧慮する所なく漫然如上の如く説示し去りたるは当事者の主張と証拠に違背して不当に事実を確定したる不法あると同時に利息制限法超過の利息と雖も一旦元金に組入れたるときは其金額は確定不動のものとなしたる失当ある判決にして此点に於ても亦法律に違背し不当に事実を確定したる非難を免れざるべしと信ずと云ひ」又第六は明治三十八年五月一日より同年六月三十日までの取引関係に付ては以上第五点に於て論述したる所なれども遡で其以前の取引即ち明治三十七年四月十日より同三十八年四月三十日までの取引関係に於ても前同様の批難あるを免れず今同期間の取引を(第一)明治三十八年一月一日より同年四月三十日までの取引(第二)明治三十七年四月十日より同年十二月三十日までの取引関係の二箇に区別し之れが説明を試んに「第一」明治三十八年一月より同年四月三十日までの計算尻金六千九百十円二十二銭六厘は。
即ち翌五月一日新貸付元金にして甲第三号証四号証の貸付勘定書に依り明瞭なり。
即ち甲第三号証に依れば明治三十八年一月一日の貸付元金は一万四百五十七円九十銭にして追次入金ある毎に元金に充当し新貸付金は元金に加へ以て同年四月三十日に至り貸付総額金一万九千三百六十四円二十三銭の内入金総額金一万五千三十二円五十八銭を控除し差引残金四千三百三十一円六十五銭の外貸付日数に応する日歩金三銭五厘の利息金三百四十八円八十三銭一厘とを加へたる金四千六百八十円四十八銭一厘と甲第四号証の別途貸付勘定書の計算尻金二千二百二十九円七十四銭五厘を合算したる金六千九百十円二十二銭六厘は翌月一日の新貸付元金と為したること先に述べたる所の如し、而して前記甲第三号証の計算に付ては日歩金三銭五厘の利息のみを合算したるものなりと雖も甲第四号証に付ては日歩三銭五厘の外手数料として三銭三厘三毛合計六銭八厘三毛を貸付日数に応し利息手数料として計算したることは同号証の記載に徴して明白なり。
即ち明治三十八年一月十六日の貸付元金は三百四十円にして外に新貸付金を加へたる一万千二百七円へ三百四十円を入金したる残元金八百六十七円に更に二口の新貸付金を加へ同月三十日に至り貸付総額二千四百六十二円三十銭入金額金三百四十円を控除したる二千百二十二円三十銭の外に貸付日数に応する日歩金六銭八厘三毛の利率に依る利息金百七円四十四銭五厘を加へ二千二百二十九円七十四銭五厘と為したるものなれば利息手数料金六銭八厘三毛の内三銭二厘九毛の外は利息制限法超過の利息にして而も未だ弁済の充当ありたる事実なきのみならず利息制限法超過の利息を元金に組入れ五月一日に於て新貸付元金と為したる違法あり。
又「第二」の明治三十七年四月十日より同年十二月三十一日までの計算に付ては甲第二号証貸借勘定書に明なる如く明治三十七年四月十日の貸付元金は六千二十三円三十一銭二厘にして入金ある毎に元金の弁済に充で新貸付金は更に元金に組入れ順次此の如くして最後に貸付元金総額一万三千七百九円九十一銭二厘の内入金総額金七千三百八十七円二十七銭三厘を控除したる残額金六千四百二十二円五十三銭五厘に日歩三銭五厘の割合に於ける利息七百六十一円十三銭五厘の外に枕木十六万挺に対する報酬一挺に付、二銭の割合に於ける金三千二百円と別に三千六百二十一挺に対する同割合の報酬金七十二円四十二銭とを合算し金一万四百五十七円九銭とし之を翌年一月一日の新貸付元金となしたるものなれば枕木一挺に付、金二銭の割合の報酬総額金三千二百七十二円四十二銭は。
即ち利息制限法超過の利息を元金に組入れ新消費貸借と為したるものなるに原院が之を有効の消費貸借と為したるは是亦上告理由第五点と同一の理由に依り不法の判決たるを免れずと信ずと云ふに在り
按ずるに債務者が債権者に対し任意にて利息制限法の制限に超ゆる利息を現実に給付したるときは爾後債権者に対し右制限外の利息の返還を請求することを得ずと雖も債務者が単に債権者に対し利息制限法の制限に超ゆる利息を元金に組入るることを承諾したる一事は之を以て債権者が債務者より現実に右利息の給付を受けたる場合と同視することを得ず。
然らざれば不当に利息制限法の適用範囲を縮少し公益上債務者を保護せんとする同法の精神を失はしむるに至るべし是に由りて之を観れば債権者は一旦債務者の承諾を経で利息制限法の制限に超ゆる利息を元金に組入れて計算したる後と雖も債務者に於て任意に弁済を為すことを拒む限りは債権者は利息制限法の規定に背反せざる限度に於て更に計算を為し元利金の弁済を請求するの途に出でさる可からざること洵に明白なり。
(明治三十九年(オ)第五十号同年五月十九日言渡当院判例参照)然るに原判決は事茲に出でずして「甲第五号証計算書は同年六七月頃の作成に係り当時被控訴人も亦之を承認せしものと認定す。
従て同証記載の明治三十八年十二月三十一日に至る迄の被控訴人の入金は控訴人の貸金並に利子及び報酬に任意弁済せしものと認むべく之に対し利息制限法の規定を適用すべき限にあらざるに依り控訴人の貸金に付ては当初より同法の制限内に於て利子及び報酬金を計算すべきものなりとの被控訴代理人の抗弁は其理由なく」と判示し前顕の法則に違背したり。
故に本論旨は正当にして上告の理由あるものとす。
(判旨第二点)
如上の理由に依り民事訴訟法第四百四十七条及び第四百四十八条に則り主文の如く評決したり。