明治四十三年(オ)第三百八十九號
明治四十四年三月二十三日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 會社カ株主總會ヲ招集スルニ當リ或株主ニ通知ヲ發送セサルトキハ縱令其株主カ總會ニ出席シタル場合ト雖モ該總會ノ決議ハ商法第百六十三條第一項ノ規定ニ依リ無効トシテ宣言セラルヘキモノトス
(參照)總會招集ノ手續又ハ其決議ノ方法カ法令又ハ定款ニ反スルトキハ株主ハ其決議ノ無効ノ宣告ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得(商法第百六十三條第一項)
上告人 山崎林次郎
訴訟代理人 成瀬復一 池田季雄
被上告人 株式會社横濱米鹽雜穀取引所
法律上代理人 林利左衛門
右當事者間ノ株主總會決議無効宣言請求事件ニ付東京控訴院カ明治四十三年六月二十七日言渡シタル判決ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判決
原判決ヲ破毀ス
第一審判決ヲ廢棄ス
明治四十年六月十七日横濱市港町五丁目横濱館ニ於テ開會シタル株式會社横濱米鹽雜穀取引所ノ清算事務ニ關スル臨時株主總會ニ於テ爲シタル(第一)現任清算人ヲ解任スルコト(第二)新ニ林利左衛門、木村政次郎、柳元靜馬ヲ清算人ニ選任スルコト(第三)現任清算人ノ報酬ハ他日株主ニ殘餘財産分配ノ際贈與スルコト(第四)後任清算人ノ報酬ハ三名ニ對シ一个月金百圓以上五百圓未滿ヲ給スルコトノ決議ハ全部之ヲ無効トス
訴訟費用ハ上告人ノ闕席ニ因リ生シタル分ハ上告人之ヲ負擔シ其他ハ總テ被上告人之ヲ負擔スヘシ
理由
上告理由第一點ハ原判決ハ商法第百五十六條ヲ不法ニ適用シタル違法アリト思料ス原判決ハ其爭點第一トシテ掲ケタル商法第百五十六條ノ適用ニ關シ總會ノ目的及ヒ決議事項ヲ會日二週間前ニ通知セラレサル株主アリタル場合ト雖モ該株主カ自ラ該總會ニ出席シテ決議權ヲ行使シタル以上ハ該株主ハ勿論其他ノ株主ト雖該手續ノ欠缺ニ基由シテ無効ノ主張ヲ爲スコトヲ得サルモノナリトノ趣旨ノ解釋ヲ下サレタリ然レトモ右解釋ハ總會ノ通知カ嚴格ナル形式的法定要件タルコトヲ無視シタル不當ノ見解ナリト思料ス抑原判決主要ノ理由タル通知ヲ爲サレサリシ株主カ總會ニ出席シタルトキハ決議ノ効力ヲ阻却セストノ理論ノ當否ハ直チニ商法第百五十六條ノ立法主義如何ニ依リテ定マルモノト思料セラル按スルニ同條ニ於テ特ニ各株主ニ對シテ通知ヲ發スルコトヲ要ストシ且ツ其期間ヲ限定シタルノ點ニ徴スレハ通知カ嚴格ナル形式的要件タルヲ知ルニ足ルヘシ蓋シ若シ原判決ノ見解ノ如クスレハ本件ノ如キ瑕疵アル總會ノ決議ハ通知洩ノ株主カ出席スルト否トニ依リテ換言スレハ該株主ノ意思ニ依リテノミ其効力ヲ左右セラルルノ結果トナルモノニシテ該條制定ノ主義ヲ根本ヨリ破壞スルモノト謂フヘシ況ンヤ原判決ノ理由ヲ推シ擴ムルトキハ若シ極メテ少數ノ株主ニノミ違法ナル通知ヲ發シ他ハ單ニ事實上知了シテ出席シタル場合ニ於テモ決議ハ有効ナルヘキ結論ヲ生シ又通知カ二週間ノ期間ヲ存セスシテ發セラレタル場合ニ於テモ總會ニ於テ異議ヲ述ヘサルトキハ有効ナル決議タルノ結果ヲ生スル次第ニシテ議論ノ誤レルコトハ此點ニ徴シ最モ明白ナラント信ス加之該條ノ規定カ講學上所謂命令法ニ屬シ例ヘハ定款ノ規定又ハ個個ノ株主トノ特約ニ依リテ期間ノ變更又ハ不通知ノ特例ヲ置クコトヲ許ササルコトハ最モ明白ナルトコロナルヲ以テ之ト同樣ニ通知洩レノ株主ノ意思ヲ以テ該條明定ノ要件ノ欠缺ヲ補フコトヲ許ササルコトモ亦自ラ命令法規ノ性質ヨリ流出スル當然ノ法理ト信セラル原判決ノ解釋ハ實際ノ便宜問題ト實害ノ有無如何ノ問題ニノミ重キヲ置キ夫ノ衡平法的觀念ヲノミ標準トシタルモノニシテ商法第百五十六條カ明文上各株主ニ通知ヲ發スルコトヲ總會召集ノ要件トシ形式上必ス被通知者カ通知以前ニ召集事實ヲ知了セルト否トヲ問ハス株主全員ニ通知ヲ爲スヘキコトヲ規定シタルノ立法ノ趣意ヲ顧ミサルモノトス若シ原判決ノ論法ヲ以テスレハ或ル理由ニ因リ召集ノ日時議案等ヲ知了シタル株主ニハ通知ノ必要ナク從テ假令之ヲ欠缺シタル場合ニモ決議ハ有効ナリト論結セサルヲ得ス蓋シ原判決ノ論據ノ一トシテハ現實ノ知了ナルコトニ重キヲ置キタルコト判文上明白ナレハナリ又原判決ニ於テハ論據ノ一トシテ株主カ自ラ不通知ニ對スル異議權ヲ抛棄シタルモノナルヲ以テ効力ニ影響ヲ及ホサストノ論旨ヲ示サレタルモ異議權ノ抛棄カ抛棄者ノ提訴權ニ影響ヲ及ホスヤ否ヤノ問題ハ論究ノ値ナシトセサルモ本件ノ如ク全然第三者カ提訴シタル場合ニ於テハ株主ノ異議ノ抛棄ハ第三者ノ權利ニ消長ヲ及ホスヘキ理由トナルヘキモノニアラサルヤ多辯ヲ要セサルトコロナルノミナラス原判決ノ所論ヲ擴張スルトキハ通知洩レノ株主カ總會ニ於テ異議ヲ留保スルコトカ提訴ノ要件タルカ如キ結果ニ歸着シ一面通知洩レノ株主カ召集ノ事實ヲ知了シテ出席シタルコト自體カ決議ヲ有効ナラシムトノ論旨ト彼此撞着スルトコロモアリ正當ナル理論ト謂フヲ得スト信セラル而シテ通知洩レノ事實ニ本キ決議ノ無効ヲ主張スルコトハ該株主自身ニ限ラス第三者ト雖其事實ニ本キ無効ヲ主張スルコトヲ得ルモノトセル御院判例(四一(オ)第四七一號)ノ精神ヨリスルモ該株主ノ異議抛棄カ第三者ノ訴求ニ影響ヲ及ホササルモノト解スルノ正當ナルヲ知ルニ足ルヘシ何トナレハ若シ否ラストセンカ獨立不覊ナルヘキ第三者ノ主張權カ全ク該株主出席ノ有無又ハ異議申述ノ存否ナル他人ノ行爲ニ左右セラルル結果トナレハナリ要スルニ原判決ノ採レル解釋ハ全ク商法第百五十六條ノ誤解ニ出テタル失當ノモノト思料セラルト云ヒ」之レニ對スル答辯ハ株主稻垣彌三郎ニ對シ總會招集ノ通知ヲ欠キタルハ商法第百五十六條ニ違背スル不法アリト云フニアルモ該主張ハ左ノ理由ニ依リ不當ナリトス一、商法第百五十六條ニ於テ總會ノ目的及決議スヘキ事項ヲ二週間前ニ株主ヘ通知スヘキ旨ヲ規定セル理由ハ各株主ヲシテ豫メ決議事項ヲ熟知セシムルノ目的ニ出テタルモノニシテ該目的ニ依リ各株主ヲ保護スヘキ精神ニ外ナラスサレハ假令通知ヲ受ケサルモ株主ニ於テ既ニ決議事項ヲ熟知シ總會ニ出席シテ異議ナク之レカ決議ニ加ハリタル場合ニ於テハ其總會タルヤ毫モ法規ノ精神ニ悖ル所ナキヲ以テ通知ヲ受ケサリシ株主自身ト雖モ後日之カ異議ヲ主張スルノ權利ナキコト明カナルヲ以テ無關係ナル他ノ株主ニ決議無効ヲ主張スル權利ナキハ明白ナル事理トス二、而シテ稻垣彌三郎カ本訴株主總會ニ出席ヲナシ異議ナク決議ニ加ハリタルコトハ當事者間ニ爭ナキノミナラス原判決ノ認ムル所ナリトス三、商法第百五十六條ノ精神ハ右第一項ニ辯明スルカ如クナルモ同條ノ精神ヲ誤解シ本訴ノ如キ抗爭ヲ試ムル者アルヲ恐レ商法改正修正案ニ於テハ第百六十三條ニ於テ右ニ關スル法條ヲ設ケ株主ハ總會ニ於テ決議ニ對シ異議ヲ述ヘタルトキ又ハ正當ノ理由ナクシテ總會ニ出席スルコトヲ拒マレタルトキ若クハ株主カ總會ヘ出席セサル場合ニ於テ自己ニ對スル總會招集ノ手續カ法令又ハ定款ニ反スルコトヲ理由トスルトキニ限リ決議無効ノ訴ヲナスコトヲ許ス旨ヲ規定シ立法ノ趣旨ヲ明カニセリト云フニ在リ
依テ按スルニ株主總會ヲ招集スルニハ總會ノ目的及ヒ決議スヘキ事項ヲ記載セル通知ヲ會日ヨリ二週間前ニ各株主ニ對シテ發スルコトヲ要スルハ商法第百五十六條ニ明記スル所ナリ本件ニ付原院ハ第二爭點トシテ「株主稻垣彌三郎ニ對シ總會招集ノ通知ヲ發セサリシヤ云云」ノ摘示ヲ爲シ此爭點ノ判斷ニ於テハ同人カ招集ノ通知ヲ受ケサリシコトヲ確定シタルニ止マリ通知發送ノ有無ノ斷定ヲ爲ササル如キ外觀ナキニ非サルモ右爭點ノ摘示ノ文詞竝ニ引用シタル甲一、四號證其他全體ノ文意ニ徴スレハ右ハ招集ノ通知ノ發送ナクシテ株主稻垣カ其通知ヲ受ケサリシコトヲ認メタル判旨ナリト解ス此認定事實ニ依レハ係爭株主總會ノ決議ハ商法第百五十六條ニ定メタル招集手續ニ違背シタル場合ニ在〓〓以テ同第百六十三條第一項ノ規定ニ依リ無効トシテ宣言セラルヘキモノト謂ハサルヲ得ス何トナレハ招集手續ノ欠缺ハ原判旨ノ如ク通知ノ發送ナカリシニ拘ハラス株主カ總會ニ出席シタルニ因リ適法ノモノト爲ル如キ區別ヲ爲スコトヲ容ササル嚴格ナル規定ナルコトハ法文上一點ノ疑ヲ容レサレハナリ故ニ原判決ニハ上告論旨ノ如ク其全部ニ及フ破毀ノ理由アルモノトス而シテ右確定事實ニ依レハ原告ノ請求ヲ是認スヘキ場合ナルニ因リ他ノ説明ヲ省キ民事訴訟法第四百四十七條第四百五十一條第一號第七十八條第一項及ヒ第二百六十二條ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス
明治四十三年(オ)第三百八十九号
明治四十四年三月二十三日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 会社が株主総会を招集するに当り或株主に通知を発送せざるときは縦令其株主が総会に出席したる場合と雖も該総会の決議は商法第百六十三条第一項の規定に依り無効として宣言せらるべきものとす。
(参照)総会招集の手続又は其決議の方法が法令又は定款に反するときは株主は其決議の無効の宣告を裁判所に請求することを得。
(商法第百六十三条第一項)
上告人 山崎林次郎
訴訟代理人 成瀬復一 池田季雄
被上告人 株式会社横浜米塩雑穀取引所
法律上代理人 林利左衛門
右当事者間の株主総会決議無効宣言請求事件に付、東京控訴院が明治四十三年六月二十七日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
判決
原判決を破毀す
第一審判決を廃棄す
明治四十年六月十七日横浜市港町五丁目横浜館に於て開会したる株式会社横浜米塩雑穀取引所の清算事務に関する臨時株主総会に於て為したる(第一)現任清算人を解任すること(第二)新に林利左衛門、木村政次郎、柳元静馬を清算人に選任すること(第三)現任清算人の報酬は他日株主に残余財産分配の際贈与すること(第四)後任清算人の報酬は三名に対し一个月金百円以上五百円未満を給することの決議は全部之を無効とす。
訴訟費用は上告人の闕席に因り生じたる分は上告人之を負担し其他は総で被上告人之を負担すべし。
理由
上告理由第一点は原判決は商法第百五十六条を不法に適用したる違法ありと思料す原判決は其争点第一として掲げたる商法第百五十六条の適用に関し総会の目的及び決議事項を会日二週間前に通知せられざる株主ありたる場合と雖も該株主が自ら該総会に出席して決議権を行使したる以上は該株主は勿論其他の株主と雖該手続の欠欠に基由して無効の主張を為すことを得ざるものなりとの趣旨の解釈を下されたり。
然れども右解釈は総会の通知が厳格なる形式的法定要件たることを無視したる不当の見解なりと思料す抑原判決主要の理由たる通知を為されざりし株主が総会に出席したるときは決議の効力を阻却せずとの理論の当否は直ちに商法第百五十六条の立法主義如何に依りて定まるものと思料せらる按ずるに同条に於て特に各株主に対して通知を発することを要すとし且つ其期間を限定したるの点に徴すれば通知が厳格なる形式的要件たるを知るに足るべし蓋し若し原判決の見解の如くすれば本件の如き瑕疵ある総会の決議は通知洩の株主が出席すると否とに依りて換言すれば該株主の意思に依りてのみ其効力を左右せらるるの結果となるものにして該条制定の主義を根本より破壊するものと謂ふべし。
況んや原判決の理由を推し拡むるときは若し極めて少数の株主にのみ違法なる通知を発し他は単に事実上知了して出席したる場合に於ても決議は有効なるべき結論を生じ又通知が二週間の期間を存せずして発せられたる場合に於ても総会に於て異議を述べざるときは有効なる決議たるの結果を生ずる次第にして議論の誤れることは此点に徴し最も明白ならんと信ず。
加之該条の規定が講学上所謂命令法に属し例へば定款の規定又は個個の株主との特約に依りて期間の変更又は不通知の特例を置くことを許さざることは最も明白なるところなるを以て之と同様に通知洩れの株主の意思を以て該条明定の要件の欠欠を補ふことを許さざることも亦自ら命令法規の性質より流出する当然の法理と信ぜらる原判決の解釈は実際の便宜問題と実害の有無如何の問題にのみ重きを置き夫の衡平法的観念をのみ標準としたるものにして商法第百五十六条が明文上各株主に通知を発することを総会召集の要件とし形式上必す被通知者が通知以前に召集事実を知了せると否とを問はず株主全員に通知を為すべきことを規定したるの立法の趣意を顧みざるものとす。
若し原判決の論法を以てずれば或る理由に因り召集の日時議案等を知了したる株主には通知の必要なく。
従て仮令之を欠欠したる場合にも決議は有効なりと論結せざるを得ず。
蓋し原判決の論拠の一としては現実の知了なることに重きを置きたること判文上明白なればなり。
又原判決に於ては論拠の一として株主が自ら不通知に対する異議権を放棄したるものなるを以て効力に影響を及ぼさずとの論旨を示されたるも異議権の放棄が放棄者の提訴権に影響を及ぼすや否やの問題は論究の値なしとせざるも本件の如く全然第三者が提訴したる場合に於ては株主の異議の放棄は第三者の権利に消長を及ぼすべき理由となるべきものにあらざるや多弁を要せざるところなるのみならず原判決の所論を拡張するときは通知洩れの株主が総会に於て異議を留保することが提訴の要件たるが如き結果に帰着し一面通知洩れの株主が召集の事実を知了して出席したること自体が決議を有効ならしむとの論旨と彼此撞着するところもあり正当なる理論と謂ふを得ずと信ぜらる。
而して通知洩れの事実に本き決議の無効を主張することは該株主自身に限らず第三者と雖其事実に本き無効を主張することを得るものとせる御院判例(四一(オ)第四七一号)の精神よりずるも該株主の異議放棄が第三者の訴求に影響を及ぼさざるものと解するの正当なるを知るに足るべし何となれば若し否らずとせんか独立不羈なるべき第三者の主張権が全く該株主出席の有無又は異議申述の存否なる他人の行為に左右せらるる結果となればなり。
要するに原判決の採れる解釈は全く商法第百五十六条の誤解に出でたる失当のものと思料せらると云ひ」之れに対する答弁は株主稲垣弥三郎に対し総会招集の通知を欠きたるは商法第百五十六条に違背する不法ありと云ふにあるも該主張は左の理由に依り不当なりとす。
一、商法第百五十六条に於て総会の目的及決議すべき事項を二週間前に株主へ通知すべき旨を規定せる理由は各株主をして予め決議事項を熟知せしむるの目的に出でたるものにして該目的に依り各株主を保護すべき精神に外ならずされば仮令通知を受けざるも株主に於て既に決議事項を熟知し総会に出席して異議なく之れが決議に加はりたる場合に於ては其総会たるや毫も法規の精神に悖る所なきを以て通知を受けざりし株主自身と雖も後日之が異議を主張するの権利なきこと明かなるを以て無関係なる他の株主に決議無効を主張する権利なきは明白なる事理とす。
二、。
而して稲垣弥三郎が本訴株主総会に出席をなし異議なく決議に加はりたることは当事者間に争なきのみならず原判決の認むる所なりとす。
三、商法第百五十六条の精神は右第一項に弁明するが如くなるも同条の精神を誤解し本訴の如き抗争を試むる者あるを恐れ商法改正修正案に於ては第百六十三条に於て右に関する法条を設け株主は総会に於て決議に対し異議を述べたるとき又は正当の理由なくして総会に出席することを拒まれたるとき若くは株主が総会へ出席せざる場合に於て自己に対する総会招集の手続が法令又は定款に反することを理由とするときに限り決議無効の訴をなすことを許す旨を規定し立法の趣旨を明かにせりと云ふに在り
依て按ずるに株主総会を招集するには総会の目的及び決議すべき事項を記載せる通知を会日より二週間前に各株主に対して発することを要するは商法第百五十六条に明記する所なり。
本件に付、原院は第二争点として「株主稲垣弥三郎に対し総会招集の通知を発せざりしや云云」の摘示を為し此争点の判断に於ては同人が招集の通知を受けざりしことを確定したるに止まり通知発送の有無の断定を為さざる如き外観なきに非ざるも右争点の摘示の文詞並に引用したる甲一、四号証其他全体の文意に徴すれば右は招集の通知の発送なくして株主稲垣が其通知を受けざりしことを認めたる判旨なりと解す此認定事実に依れば係争株主総会の決議は商法第百五十六条に定めたる招集手続に違背したる場合に在〓〓以て同第百六十三条第一項の規定に依り無効として宣言せらるべきものと謂はざるを得ず。
何となれば招集手続の欠欠は原判旨の如く通知の発送なかりしに拘はらず株主が総会に出席したるに因り適法のものと為る如き区別を為すことを容さざる厳格なる規定なることは法文上一点の疑を容れざればなり。
故に原判決には上告論旨の如く其全部に及ぶ破毀の理由あるものとす。
而して右確定事実に依れば原告の請求を是認すべき場合なるに因り他の説明を省き民事訴訟法第四百四十七条第四百五十一条第一号第七十八条第一項及び第二百六十二条に従ひ主文の如く判決す