不動産賣買無効確認及登記抹消請求事件ノ期日指定申請ノ件

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大審院民事判決録（民録）16輯241頁

本件抗告の趣旨は名古屋控訴院明治四十二年民控第二三七号不動産売買無効確認及登記抹消請求控訴事件に付、明治四十三年二月八日同院法廷に於て受命判事より和解を試みられたる結果抗第一号の如く和解と為りたり。 然るに民法第八百八十六条の規定に依れば親権を行ふ。 母が未成年の子に代はり不動産に関する和解を為すときは親族会の同意を要するものなるに親権者たる相沢@069311;@069403;は親族会の同意を経すして和解を為し受命判事も亦[また]此規定に依拠せず親権者が和解行為に付ての能力を有するや否の職権調査をも為しすして杜撰に和解せしめたるに依り相沢@069311;@069403;は法定代理人の資格を以て同法第八百八十七条の規定に基き抗第二号の如く和解を取消したり。 因で前記民控第二三七号事件の訴訟は右和解に対し親族会の追認又は同意の決議あるまでは適法に完結落着せざること勿論なれば之れが和解の取消されたると同時に口頭弁論期日の指定申請を待で弁論を開始せらる可きものと確信し抗第三号の如く期日指定の申請を為したる処抗第四号の如く却下の決定を与へられたり該決定は不幸にして理由の明示なきに依り如何[いかん]なる理由の下に却下せられたるか之を解するに苦むと雖[いえども]も蓋し[けだし]法廷に於て和解を了したるものなれば訴訟事件は既に終局を告げたるものに付、後日其和解を取消したりとて更に口頭弁論を開始し訴訟を進行すべきものに非らずとの趣旨に出でたるものならん果して然らば甚た正鵠を失したるものと云はざるを得ず。 民法第百二十条は取消したる行為は初めより無効なりしものと見做すと規定するにあらずや和解に基く訴訟の終了は和解と離る可からざるものなれば既に和解を適法に取消し初めより無効と為りたる上は之れが和解に基く訴訟の終了せざることは最も看易き道理にして一点の疑を容るる余地なきものなり。 論者の如く和解は取消されたるも訴訟の終了は有効なりとすれば本案訴訟の和解は親族会の同意を経さる為め其和解は取消したるも訴訟は終了したるを以て控訴人は結局第一審の敗訴の判決に服せざるを得ざる不幸に遭遇するものと云はざるを得ず。 豈[あに]斯くの如き不道理の法理は那辺に存するか毫も[ごうも]之を解すること能はざるなり。 故に前陳の如く和解に基く訴訟の終了は和解の取消に依り其訴訟事件は和解前の程度に復すべく。 従て口頭弁論期日指定の申請ある上は相当の期日を指定し弁論を開始すべきは訴訟手続上毫も[ごうも]疑なき所なりとす。 然るに原審裁判長は漫然却下の決定を与へられたるは抗告人の服従すること能はざる次第なりと云ふ[いう]に在り

依て審按ず[あんず]るに民法第八百八十六条の規定に従へは親権を行ふ。 母が未成年の子に代はりて不動産又は重要なる動産に関する和解又は仲裁契約を為すには親族会の同意を得ることを要すとあり其次条には親権を行ふ。 母が前条の規定に違反して為したる行為は子又は其法定代理人に於て之を取消すことを得と規定しありて右和解に付ては裁判上のものなると其他のものなるとを区別せざるが故に本件の如く抗告人の法定代理人が其母たる親権者にして原院の訟延に於て訴訟の目的たる不動産に関して和解を為すに当り親族会の同意を得たることなきより法定代理人に於て和解を取消し之を其対手人たる伊藤甚吉（被控訴人）に通知したることは一件記録に徴して明白なるを以て当事者が期日指定の申請を為したる場合に於て原院裁判長は期日を指定し更に弁論を開く可きものとす。 而して[しこうして]和解取消の効力如何[いかん]の如きは弁論を聴きたる上判断す可きものにして裁判長の意見のみに依りて決す可きものに非ず。 然るに原裁判長が事茲に[ここに]出でずして本件期日指定の申請を却下したるは違法にして抗告は其理由あるを以て民事訴訟法第四百六十四条第一項に従ひ原裁判を廃棄し更に原院裁判長に委任して期日指定の裁判を為さしむるものとす。