隱居身分登記取消決定ニ對スル抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）15輯683頁

抗告理由は宮城控訴院は身分登記又は戸籍に関する事件に付き戸籍吏の処分を不当とする者は戸籍法第二百三条により其戸籍役場の所在地を管轄する区裁判所に抗告を為すべきものにして本件郡山区裁判所の裁判は。 即ち此規定に基きたるものなり。 而して[しこうして]此区裁判所の裁判に対しては同法第二百八条により法律に違背したる裁判なることを理由とするときに限り地方裁判所に抗告申立を為すことを得るものにして地方裁判所の裁判に対しては再ひ抗告を為すことを得ざるものなれば原審福島地方裁判所の裁判に対して更に当院に抗告申立を為すことを得ざるものなり。 「又抗告人は原審及び当院へ為したる抗告は共に非訟事件手続法によりたるものなりと主張すれども戸籍吏の処分を不当とする抗告事件の裁判に付ては戸籍法第二百八条に特別の規定あるが故に非訟事件手続法第二十条第二十四条は此場合に適用することを得ず。 即ち戸籍吏の処分を不当とする事件に付ては戸籍法第二百三条第二百八条により抗告再抗告を為すべきものにして非訟事業手続法第二十条第二十四条により抗告再抗告を為すことを得ざるものとす。」云云との裁判を与へられたるは全く法律の解釈を誤りたる不法の裁判なりと思料せり元来戸籍吏の不当処分に対し抗告を為したる者は桑原いしにして抗告人にあらざれば抗告当事者にあらざる抗告人に於て戸籍法により抗告再抗告を為し得ざることは戸籍法第二百三条第二百八条の規定により明瞭なり。 抑も同法第二百三条は其明文の如く戸籍吏の処分を不当とする者の抗告規定にして。 従て同法第二百八条は右抗告当事者の再抗告を為し得る場合を規定したるものなれば右抗告人にあらざれば該条の規定に基き抗告再抗告を為し得ざるものなること頗る[すこぶる]明瞭なりと思料せり。 而して[しこうして]抗告人は戸籍吏の処分に対し抗告を為したるものにあらざれば右戸籍法により抗告を為すことを得ざるは勿論再抗告を為すことをも得ざるものなれば戸籍法によりては絶対に抗告申立を為すべき資格を有せざるものと云はざるべからず。 然れども[しかれども]抗告人は戸籍吏に対する抗告当事者にあらざるも戸籍吏と其抗告人なる被抗告人桑原いしとの抗告事件の裁判により実質上抗告人は其権利を害せられたる者にして全く非訟事件手続法第二十条に該当する者なるを以て同法により其保護を得んか為め本抗告を為したるものなり。 即ち郡山区裁判所の裁判が抗告人の権利を害したるものなるにより福島地方裁判所なる抗告裁判所に抗告を為したるものにして非訟事件手続法第二十四条の規定により再抗告を為し得べきものなること明瞭なるに原控訴院は抗告人の地位を誤り戸籍法により抗告を為し得ざる抗告人に対し戸籍法に依り抗告すべきものと為し抗告人の抗告を棄却したるは頗る[すこぶる]不法の裁判にして原控訴院の裁判は全く新なる独立の抗告理由の生じたるものなれば更に御院に抗告を為す所以なりと云ふ[いう]に在り

按ず[あんず]るに身分登記に関し戸籍吏の処分を不当とする抗告は戸籍法第二百三条以下の規定に従ふべきものにして非訟事件手続法を当然適用すべきものにあらず。 而して[しこうして]戸籍法第二百八条に依れば裁判所の決定に対しては法律に違背したる裁判なることを理由とするときに限り抗告を為すことを得べく其手続は民事訴訟法の規定に従ふべきものなるを以て本件の如く戸籍吏の為したる隠居身分登記を不当とし之に対して区裁判所に抗告を為し同裁判所の決定を受けたる上は其決定に対しては法律に違背したる裁判なることを理由として一回限り更に地方裁判所に抗告を為すことを得るに止まり同裁判所の決定に対しては抗告人の何人たると又如何[いかん]なる理由を生じたるとを問はず抗告を為すことを得ざるものとす。 然れば本件に付、抗告人が当院に抗告を為したるは不適法なりとす。 依て民事訴訟法第四百六十三条に従ひ主文の決定を与ふるものなり。