明治四十年(オ)第四百四十八號
明治四十年十二月二十日第二民事部判决
◎判决要旨
- 一 裁判所カ指定シタル中間判决言渡ノ期日ニ當事者雙方出頭セサルモ之ニ因リテ訴訟手續ヲ休止スヘキモノニ非ス
上告人 内田勇太郎
訴訟代理人 添田増男
被上告人 西内佐助
右當事者間ノ賣掛代金請求事件ニ付東京控訴院カ明治四十年十月七日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告理由第一點ハ原判决ハ民事訴訟法ノ原則ヲ看過シ同法第四百二條第四百十九條ヲ適用セサル違法アリ何トナレハ第一審判决ハ原被雙方ニ對シ一部宛勝敗ノ裁判ヲ爲シタルコト誠ニ明カナリ然リ而シテ控訴人ハ第一審判决全部ニ對シ控訴ヲ提起セシモノナルカ故ニ自己ノ勝訴判决ニ付テモ亦併セテ之レヲ爲シタルカ如キ結果ヲ生シタルモノトス蓋シ利益ナケレハ訴權ナシトハ民事訟訴法ノ大原則ナリ而シテ此原則ハ上訴權ニ付テモ亦等シク適用セラルヽモノナルカ故ニ原審裁判長ハ民事訴訟法第四百二條ニ依リ判然許ス可カラサル控訴トシテ之ヲ却下ス可ク若シ裁判長ニ於テ之ヲ看過シタル時ハ控訴裁判所ハ之ヲ許ス可カラサルモノト爲シ控訴ヲ不適法トシテ棄却スルヲ要スルコトハ同法第四百十九條ニ規定スル所トス然ルニ原審ハ裁判長ヲ初メ裁判所ニ於テモ掲記法則ニ則ラサルカ如キハ之レ即チ法則ヲ適用セサル違法ノ判决ナリト信ス亦假リニ勝訴判决ニ對スル控訴ハ適法ナリトスルモ之ヲ却下スル理由ニ付テハ敗訴判决ノ控訴ニ對スル控訴棄却トハ自ラ其理由ヲ異ニセサルヘカラス何トナレハ前者ハ控訴提起形式的ノ要件ニ關シ後者ハ控訴實質的内容ノ理由ニ屬スレハナリ然ルニ原審ハ後者ニ對シテ而巳裁判ヲ爲シ前者ニ付テ何等ノ判决ヲ爲サヽルカ如キハ結局裁判ニ理由ヲ付セサル不法アルヲ免カレスト信スト云フニ在リ依テ按スルニ控訴人タル上告人ハ第一審ニ於テ勝訴ノ言渡ヲ受ケタル部分ニ對シテモ敗訴ノ部分ト共ニ控訴ノ申立ヲ爲シタルコト第一審ノ判决及ヒ控訴状ニ徴シテ明白ナリ故ニ原院ニ於テ右勝訴ノ部分ニ對スル控訴ハ不適法ノ控訴ナリトシ之ヲ棄却スヘキハ當然ナルニ事茲ニ出テス適法ナル控訴ナリトシ之ヲ受理シ其控訴ヲ理由ナキモノト判定シ之ヲ棄却シタルハ其當ヲ得サルモ其控訴ヲ棄却シタルハ民事訴訟法第四百五十三條ニ所謂他ノ理由ニ因リ裁判ノ正當ニ歸スルモノナレハ本論旨ハ上告適法ノ理由トナラス
上告理由第二點ハ原判决ハ既ニ取下ト看做サレタル請求ニ付判决ヲ爲シタル第一審裁判ニ對スル控訴ヲ棄却シタル違法アリ要ハ第一審裁判所ハ明治三十七年五月十八日口頭辯論ヲ終結シ同月二十三日中間判决ヲ以テ取引ハ原告ト被告トノ間ニ成立シタルモノトストノ判决ヲ言渡シ而シテ該判决ハ原告ノ申請ニ依リ同年七月十一日原被雙方ニ對シ送達セラレタルモノナリ乍去當事者ハ此判决ニ對シ上訴期間内ニ上訴ヲナサヽルノミナラス明治三十九年六月二十八日マテ暗默ノ合意ニ依リ訴訟手續ヲ休止シタルモノトス然ルニ被上告人ハ明治三十九年六月二十八日東京地方裁判所明治三十七年(ワ)第三九號賣掛代金請求事件ニ對シ口頭辯論期日指定ノ申請ヲ同應ニ爲シ依テ以テ本件ニ付第一審ハ上告人ニ敗訴ノ判决ヲ言渡シタルニ付該判决ニ對シ原審ニ控訴ヲ爲シタル處第二審ハ不法ニモ亦之ヲ棄却シタリ蓋シ第一審中間判决ニ對シ獨立ノ上訴ヲ爲シ得ルヤ否ヤハ議論ノ餘地アリヘク故ニ若シ夫レ假リニ獨立ノ控訴ヲ許スモノトセハ明治三十七年八月十一日マテニ上訴ヲ爲スニアラサレハ上訴期間ヲ經過スルヲ以テ控訴ヲ爲スコトヲ得サルモノナルニ不拘當事者ハ控訴ノ申立ヲ爲サヽリシヲ以テ基經過ノ時ヨリ訴訟手續休止ノ暗默ノ合意ヲ爲シタルモノト看做ス可ク亦假リニ獨立ノ控訴ヲ許サヽルモノトセハ中間判决言渡シアリタル時ヨリ當事者ハ訴訟手續ノ休止ノ合意ヲ爲シタルモノト看做サル可ク左レハ右孰レニセヨ本件中間判决ハ本案訴訟ノ進行ヲ中止ス可キ一原因タリシコト誠ニ明瞭ナル事實ナリトス然ルニ此中止原因消滅シタルニ拘ハラス當事者ニ於テ訴訟手續ノ進行ヲ要求セサリシ如キハ之ヲ訴訟手續ノ休止ト觀ルノ外ナシ左レハ其休止ノ時ヨリ一个年内ニ當事者ヨリ口頭辯論ヲ開クノ申請ヲ爲サヽル時ハ本訴及ヒ反訴ヲ取下ケタルモノト看做スモノトス然ルニ當事者ハ其休止ノ時ヨリ二十二个月餘以上何等申請ヲ爲サヽリシヲ以テ原告ノ請求ハ其一个年經過ノ時既ニ取下ケラレタルモノトス
然ルニ第一審ハ此法律上ノ取下アリタルコトヲ看過シ依テ以テ上告人ニ對シ敗訴ヲ言渡シタルニ付第二審ニ控訴ヲ爲シタル處原審モ亦之ヲ看過シ控訴棄却ノ判决ヲ爲シタルカ如キハ民訴第百八十八條等ヲ不法ニ適用セサル違法アルモノトス蓋シ民事訴訟法ハ所謂當事者專行主義若クハ不干渉主義ヲ採用シタルニ依リ訴訟ノ行否ハ一ニ當事者ノ意欲ニ繋リ裁判所ハ當事者ノ意ナキニ進テ裁判ヲ爲スノ職務ナク又職權ナシ而シテ一旦既ニ繋屬スル所ノ訴訟ハ當事者ニ於テ之ヲ取下クルカ若クハ和解スルニ非ラサルヨリハ之ヲ止メ終ルノ意思ヲ見ルコト能ハス止ムルニ非ス而シテ其進行ノ手續ヲ續行セス是レ之ヲ訴訟手續ノ休止ト爲シ民訴第百八十八條ニ規定スル所トス而シテ此規定ハ素ト外國ノ例ニ傚フタルニ非ス又他ノ規定ト權衡ヲ保タンカ爲メニモ否ス畢竟我國從前ノ實驗ニ基キ實務上ノ便益ヲ圖ルカ爲メニ設ケラレタリ所謂實務上ノ利益トハ若シ夫レ休止ノ儘ニシテ際限ナカラシメンカ事件ハ何時ニ至ルモ落着ニ至ラス帳簿ハ消ヘス啻ニ事務停滯ノ外觀ヲ呈スルノミニアラス實際ノ事務ノ煩雜ヲ來スヲ以テナリ亦本件ト同一視ス可キ中止中斷ノ理由既ニ消滅セシ後或ハ事件ノ差戻又ハ移送アリタル時ニ一个年内ニ當事者ヨリ口頭辯論ヲ開クノ申立ヲ爲サヽル時ハ其事件ハ取下ケタルモノト看做スモノトス(法曹記事第五號二十六頁乃至二十九頁等參照)トノ學説アルノミナラス現今實際事務取扱上モ如斯實例ノ場合ニ於テハ當事者ノ申請アルニアラサレハ口頭辯論期日ノ呼出状ヲ發セサルヤニ聞知ス若シ夫レ果シテ然ラハ右上告趣旨ハ我民訴法立法ノ所以ニ適合シ學説ニ反セス亦實際執務ノ便益ニモ適フ所アレハ何レノ點ヨリ之ヲ論スルモ原判决ハ到底不法アルヲ免カレサルモノト信スト云フニ在リ
◎依テ按スルニ民事訴訟法第百八十八條ニ口頭辯論ノ期日ニ於テ當事者雙方出頭セサルトキハ訴訟手續ハ其一方ヨリ更ニ口頭辯論ノ期日ヲ定ム可キコトノ申立ツルマテ之ヲ休止ス一个年内ニ前項ノ申立ヲ爲サヽルトキハ本訴及ヒ反訴ヲ取下ケタルモノト看做ストアリ故ニ裁判所カ定メタル口頭辯論ノ期日ニ於テ當事者雙方出頭セサルトキハ之ニ因リテ訴訟手續ハ休止スヘシト雖モ本案第一審裁判所ハ明治三十七年五月十八日ニ於テ同月二十三日午前九時中間判决ヲ言渡スヘキ旨ヲ告ケタルノミニテ同日ヲ以テ口頭辯論ノ期日ト爲シタルモノニアラサルコトハ同裁判所ノ口頭辯論調書ニ徴シテ洵ニ明確タリ左スレハ同日ニ於テ當事者雙方出頭セス闕席ニテ中間判决ノ言渡ヲ爲シタリト雖モ之ニ因リ本案ノ訴訟手續ヲ休止スヘキ理ナシ故ニ同裁判所ニ於テ明治三十九年六月二十八日ノ口頭辯論期日指定申請ニ基キ同年十月三日ニ至リ口頭辯論ヲ開キタルモ所謂ノ如キ不法アルモノトスルヲ得ス依テ本論旨モ亦其理由ナシ
上告理由第三點ハ原判决ハ當事者ノ申立趣旨ヲ誤解シ事實ヲ不法ニ認定シテ判决シタル違法アリ要ハ上告人(控訴人)ハ第一、二審ニ於テ福島虎太郎ハ被上告人(被控訴人)ノ代理人ナリト申立テタレハ原判决事實ノ部ニハ明カニ原告代理人福島虎太郎ト認定シタルニ不拘其理由ノ部ニ於テ福島虎太郎ハ上告人ノ代理人ナリト誤認シ以テ不法ニ事實ヲ認定シタリ蓋シ本件ハ福島虎太郎カ被上告人ノ代理人ナリヤ否ヤニ依テ决セラル可ク重要ノ爭點ニ屬ス然ルニ原審ハ此重要爭點ヲ誤解シ依テ以テ控訴棄却ノ判决ヲ爲シタルカ如キハ不法ニ事實ヲ認定シ不當ノ裁判ヲ爲シタル違法アルモノトスト云フニ在リ依テ審按スルニ原判决理由中福島虎太郎カ控訴人ノ代理人トシテ右行爲ヲ爲シタル事實ハ云々トアルモ右控訴人ノ代理人トハ被控訴人ノ代理人ノ誤記ナルコトハ原判文ノ全趣旨ニ徴シテ洵ニ明白ニシテ毫末ノ疑ヲ容レス斯ノ如キ誤謬ハ原院ニ於テ民事訴訟法第二百四十一條ノ規定ニ從ヒ何時ニテモ更正シ得ヘキモノナレハ此誤謬ニ基キ原判决ヲ破毀シ得ヘキモノニアラス故ニ本論旨モ亦上告適法ノ理由トナラス
以上説明ノ如ク本件上告ハ一モ適法ノ理由ナキニ依テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス
明治四十年(オ)第四百四十八号
明治四十年十二月二十日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 裁判所が指定したる中間判決言渡の期日に当事者双方出頭せざるも之に因りて訴訟手続を休止すべきものに非ず
上告人 内田勇太郎
訴訟代理人 添田増男
被上告人 西内佐助
右当事者間の売掛代金請求事件に付、東京控訴院が明治四十年十月七日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告理由第一点は原判決は民事訴訟法の原則を看過し同法第四百二条第四百十九条を適用せざる違法あり。
何となれば第一審判決は原被双方に対し一部宛勝敗の裁判を為したること誠に明かなり。
然り、而して控訴人は第一審判決全部に対し控訴を提起せしものなるが故に自己の勝訴判決に付ても亦併せて之れを為したるが如き結果を生じたるものとす。
蓋し利益なければ訴権なしとは民事訟訴法の大原則なり。
而して此原則は上訴権に付ても亦等しく適用せらるるものなるが故に原審裁判長は民事訴訟法第四百二条に依り判然許す可からざる控訴として之を却下す可く若し裁判長に於て之を看過したる時は控訴裁判所は之を許す可からざるものと為し控訴を不適法として棄却するを要することは同法第四百十九条に規定する所とす。
然るに原審は裁判長を初め裁判所に於ても掲記法則に則らざるが如きは。
之れ即ち法則を適用せざる違法の判決なりと信ず。
亦仮りに勝訴判決に対する控訴は適法なりとするも之を却下する理由に付ては敗訴判決の控訴に対する控訴棄却とは自ら其理由を異にせざるべからず。
何となれば前者は控訴提起形式的の要件に関し後者は控訴実質的内容の理由に属すればなり。
然るに原審は後者に対して而己裁判を為し前者に付て何等の判決を為さざるが如きは結局裁判に理由を付せざる不法あるを免がれずと信ずと云ふに在り。
依て按ずるに控訴人たる上告人は第一審に於て勝訴の言渡を受けたる部分に対しても敗訴の部分と共に控訴の申立を為したること第一審の判決及び控訴状に徴して明白なり。
故に原院に於て右勝訴の部分に対する控訴は不適法の控訴なりとし之を棄却すべきは当然なるに事茲に出でず適法なる控訴なりとし之を受理し其控訴を理由なきものと判定し之を棄却したるは其当を得ざるも其控訴を棄却したるは民事訴訟法第四百五十三条に所謂他の理由に因り裁判の正当に帰するものなれば本論旨は上告適法の理由とならず
上告理由第二点は原判決は既に取下と看做されたる請求に付、判決を為したる第一審裁判に対する控訴を棄却したる違法あり。
要は第一審裁判所は明治三十七年五月十八日口頭弁論を終結し同月二十三日中間判決を以て取引は原告と被告との間に成立したるものとすとの判決を言渡し、而して該判決は原告の申請に依り同年七月十一日原被双方に対し送達せられたるものなり。
乍去当事者は此判決に対し上訴期間内に上訴をなさざるのみならず明治三十九年六月二十八日まで暗黙の合意に依り訴訟手続を休止したるものとす。
然るに被上告人は明治三十九年六月二十八日東京地方裁判所明治三十七年(ワ)第三九号売掛代金請求事件に対し口頭弁論期日指定の申請を同応に為し依て以て本件に付、第一審は上告人に敗訴の判決を言渡したるに付、該判決に対し原審に控訴を為したる処第二審は不法にも亦之を棄却したり。
蓋し第一審中間判決に対し独立の上訴を為し得るや否やは議論の余地ありへく故に若し夫れ仮りに独立の控訴を許すものとせば明治三十七年八月十一日までに上訴を為すにあらざれば上訴期間を経過するを以て控訴を為すことを得ざるものなるに不拘当事者は控訴の申立を為さざりしを以て基経過の時より訴訟手続休止の暗黙の合意を為したるものと看做す。
可く亦仮りに独立の控訴を許さざるものとせば中間判決言渡しありたる時より当事者は訴訟手続の休止の合意を為したるものと看做さる可く左れば右孰れにせよ本件中間判決は本案訴訟の進行を中止す可き一原因たりしこと誠に明瞭なる事実なりとす。
然るに此中止原因消滅したるに拘はらず当事者に於て訴訟手続の進行を要求せざりし如きは之を訴訟手続の休止と観るの外なし。
左れば其休止の時より一个年内に当事者より口頭弁論を開くの申請を為さざる時は本訴及び反訴を取下けたるものと看做すものとす。
然るに当事者は其休止の時より二十二个月余以上何等申請を為さざりしを以て原告の請求は其一个年経過の時既に取下けられたるものとす。
然るに第一審は此法律上の取下ありたることを看過し依て以て上告人に対し敗訴を言渡したるに付、第二審に控訴を為したる処原審も亦之を看過し控訴棄却の判決を為したるが如きは民訴第百八十八条等を不法に適用せざる違法あるものとす。
蓋し民事訴訟法は所謂当事者専行主義若くは不干渉主義を採用したるに依り訴訟の行否は一に当事者の意欲に繋り裁判所は当事者の意なきに進で裁判を為すの職務なく又職権なし。
而して一旦既に繋属する所の訴訟は当事者に於て之を取下くるか若くは和解するに非らざるよりは之を止め終るの意思を見ること能はず止むるに非ず。
而して其進行の手続を続行せず是れ之を訴訟手続の休止と為し民訴第百八十八条に規定する所とす。
而して此規定は素と外国の例に倣ふたるに非ず又他の規定と権衡を保たんか為めにも否す。
畢竟我国従前の実験に基き実務上の便益を図るか為めに設けられたり所謂実務上の利益とは若し夫れ休止の儘にして際限ながらしめんか事件は何時に至るも落着に至らず帳簿は消へず啻に事務停滞の外観を呈するのみにあらず。
実際の事務の煩雑を来すを以てなり。
亦本件と同一視す可き中止中断の理由既に消滅せし後或は事件の差戻又は移送ありたる時に一个年内に当事者より口頭弁論を開くの申立を為さざる時は其事件は取下けたるものと看做すものとす。
(法曹記事第五号二十六頁乃至二十九頁等参照)との学説あるのみならず現今実際事務取扱上も如斯実例の場合に於ては当事者の申請あるにあらざれば口頭弁論期日の呼出状を発せざるやに聞知す。
若し夫れ果して然らば右上告趣旨は我民訴法立法の所以に適合し学説に反せず亦実際執務の便益にも適ふ所あれば何れの点より之を論するも原判決は到底不法あるを免がれざるものと信ずと云ふに在り
◎依て按ずるに民事訴訟法第百八十八条に口頭弁論の期日に於て当事者双方出頭せざるときは訴訟手続は其一方より更に口頭弁論の期日を定む。
可きことの申立つるまで之を休止す一个年内に前項の申立を為さざるときは本訴及び反訴を取下けたるものと看做すとあり。
故に裁判所が定めたる口頭弁論の期日に於て当事者双方出頭せざるときは之に因りて訴訟手続は休止すべしと雖も本案第一審裁判所は明治三十七年五月十八日に於て同月二十三日午前九時中間判決を言渡すべき旨を告げたるのみにて同日を以て口頭弁論の期日と為したるものにあらざることは同裁判所の口頭弁論調書に徴して洵に明確たり左すれば同日に於て当事者双方出頭せず闕席にて中間判決の言渡を為したりと雖も之に因り本案の訴訟手続を休止すべき理なし。
故に同裁判所に於て明治三十九年六月二十八日の口頭弁論期日指定申請に基き同年十月三日に至り口頭弁論を開きたるも所謂の如き不法あるものとするを得ず。
依て本論旨も亦其理由なし。
上告理由第三点は原判決は当事者の申立趣旨を誤解し事実を不法に認定して判決したる違法あり。
要は上告人(控訴人)は第一、二審に於て福島虎太郎は被上告人(被控訴人)の代理人なりと申立てたれば原判決事実の部には明かに原告代理人福島虎太郎と認定したるに不拘其理由の部に於て福島虎太郎は上告人の代理人なりと誤認し以て不法に事実を認定したり。
蓋し本件は福島虎太郎が被上告人の代理人なりや否やに依て決せらる可く重要の争点に属す。
然るに原審は此重要争点を誤解し依て以て控訴棄却の判決を為したるが如きは不法に事実を認定し不当の裁判を為したる違法あるものとすと云ふに在り。
依て審按ずるに原判決理由中福島虎太郎が控訴人の代理人として右行為を為したる事実は云云とあるも右控訴人の代理人とは被控訴人の代理人の誤記なることは原判文の全趣旨に徴して洵に明白にして毫末の疑を容れず斯の如き誤謬は原院に於て民事訴訟法第二百四十一条の規定に従ひ何時にても更正し得べきものなれば此誤謬に基き原判決を破毀し得べきものにあらず。
故に本論旨も亦上告適法の理由とならず
以上説明の如く本件上告は一も適法の理由なきに依て民事訴訟法第四百三十九条第一項に従ひ主文の如く判決す