明治四十年(オ)第四百八號
明治四十年十二月六日第二民事部判决
◎判决要旨
- 一 新辯論ニ基キテ爲スヘキ判决カ闕席判决ト符合セサルニ拘ハラス新判决ニ於テ闕席判决ヲ廢棄セサルハ失當ナレトモ之カ爲メ當事者ノ利害ニ何等ノ影響ヲ及ホサヽルヲ以テ上告ノ理由ト爲ラス
上告人 西崎猛太郎
訴訟代理人 印東胤一
被上告人 野田英一
右當事者間ノ損害要償事件ニ付大阪控訴院カ明治四十年六月二十七日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ一部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告論旨ノ第一點ハ原判决ハ法則ヲ適用セサル不法アリ原判决ハ大審院ノ破毀差戻ニ依リ更ニ審理判决セラレタルモノニシテ其破毀セラレタルハ大阪控訴院カ本件當事者間ニ明治三十八年十一月十一日言渡サレタル對席判决ナルヲ以テ其判决ニ依リ維持セラレタル明治三十八年六月二十二日被上告人ニ敗訴ヲ言渡サレタル闕席判决ハ依然存在スルモノナリ其然ル所以ハ御院判决例(三八(オ)第一號)ノ示サルヽ所ナリ故ニ本件ニ於テ原院カ上告人ニ敗訴ヲ言渡サンニハ必ラス先ツ明治三十八年六月二十二日大阪控訴院カ言渡シタル闕席判决ヲ廢棄セサルヘカラス然ルニ原判决ハ事茲ニ出テス直ニ上告人ニ敗訴(被控訴人ノ請求ヲ却下シタル)ヲ言渡シタルハ違法ニシテ隨テ原院カ明治三十九年十二月二十日ノ闕席判决ヲ維持シタル原判决ハ民事訴訟法第二百六十一條ニ違背シタル判决ト云ハサルヲ得ス是レ法則ヲ適用セサル不法アリト云フ所以ナリ原判决ハ明治三十九年十二月二十日言渡シタル闕席判决ヲ維持シタルモノニ係リ而シテ其闕席判决ナルモノハ第一審判决ノ上告人勝訴ノ部分排斥シタルモノトス然シナカラ右闕席判决ハ御院明治三十九年(オ)第六三號ノ判决ノ主意ニ基キタルモノニシテ其御院判决ハ原審カ明治三十八年十一月十一日言渡シタル判决ヲ破毀セシモノナリ其破毀セラレタル判决ハ同年六月二十二日言渡シタル本件控訴ハ之ヲ棄却ストノ闕席判决ヲ維持シタルモノニ係ル即チ御院差戻ノ判决ハ右對席判决ヲ破毀シタルニ過キスシテ同年六月二十二日言渡シタル闕席判决タル本件控訴ハ之ヲ棄却ストノ闕席判决ニ對シテハ何等ノ效力ヲ及スヘキモノニアラス故ニ其闕席判决ハ今尚依然トシテ存在シ效力ヲ有ス故ニ爾後ノ闕席判决若クハ對席判决カ此闕席判决ト符合セサル以上ハ其前ノ闕席判决ヲ爾後ノ判决ニ於テ廢棄若クハ維持セサルヘカラス此點ハ御院判例ノ示ス所ナリ原判决茲ニ出テサルハ訴訟手續ニ關スル法則ヲ不當ニ適用シタルモノナリト云フニ在リ
仍テ按スルニ闕席判决ニ對スル故障ノ申立ニ因リ新辯論ニ基キ爲ス判决カ闕席判决ト符合セサルトキハ闕席判决ヲ廢棄ス可キコトハ民事訴訟法第二百六十一條ノ規定スル所ナルヲ以テ其新判决ニ於テ關席判决ヲ廢棄セサルハ固ヨリ其當ヲ得タルモノト謂フヲ得ス然レトモ新判决ニ於テ闕席判决ヲ廢棄セスシテ之ト符合セサル判决ヲ爲シタルトキト雖モ闕席判决ハ維持セラレタルモノニ非スシテ廢棄セラレタルコト自ラ明白ナレハ其廢棄ノ宣言ナキカ爲メニ當事者ノ利害ニ何等ノ影響ヲ及ホスコトナシ故ニ本上告論旨ハ適法ノ上告理由ト爲スニ足ラス
第二點ハ一件記録ニヨレハ明治三十八年十二月十八日ノ闕席辯論調書係判事ハ石川正、伏見正史、小幡信篤、矢追秀作、五十嵐鞠次郎ノ諸氏翌年一月三十一日ノ列席判事ハ石川正、伏見正史、小幡信篤矢追秀作、井上鐵太郎同年四月六日ノ列席判决ハ石川正、伏見正史、小幡信篤、多喜澤秀雄、長嶺教心ノ諸氏ナリ即チ各辯論調書ニ於ケル列席判事ハ等シク變更アリ故ニ裁判ノ構成ニ變更ヲ來スモノナルカ故ニ裁判所ハ辯論ヲ更審スルノ必要アルニモ拘ラス原院カ其更審ヲ爲サスシテ辯論ヲ終結シタルハ不法ナリト云フニ在リ
然レトモ記録ヲ調査スルニ原審最終ノ口頭辯論調書ニ當事者雙方ノ代理人ハ訴訟ノ關係ヲ表明シ證據調ノ結果ニ付キ辯論ヲ爲シタル旨明記シアルニ依リ其口頭辯論ニ於テ當事者カ事件ノ全體ニ付キ辯論ヲ爲シタルコトヲ知ル可シ而シテ其口頭辯論ハ原判决ノ基本ト爲リタル辯論ナルコト明白ナルヲ以テ其辯論ニ臨席シタル判事ニ於テ原判决ヲ爲シタルハ適法ナリ故ニ本上告論旨モ其理由ナシ
第三點ハ原院ハ甲第二四六號カ商法所定ノ要件タル三百三十三條ニ違反シタルカ故ニ其各證ハ貨物引換證ノ效力ナシト原院ハ認定シタリ然レトモ上告人ハ第一審以來商法所定ノ要件タル貨物引換證ノ權利ヲ主張シタルニアラスシテ一ノ運送契約ニ基ク其履行ニ違反シタルカ故ニ一般民法上ノ契約即チ無名契約トシテ其契約ノ效力ヲ主張シテ本件ノ賠償ヲ求ムルニアルコトハ其原院事實ノ摘示ニ於テ甚タ明確ナリ故ニ原判决ハ此甲號各證ヲ排斥セントセハ其契約ノ内容如何ヲ判定シ尚ホ且ツ普通ノ契約ニヨリ之カ履行ヲ求メ得ヘキ權利アルヤ否ヤヲ斷定セサルヘカラス原判决茲ニ出テサルハ重要ナル爭點ヲ無視シタル違法アリ」第四點ハ上告人ハ原院ニ於テ原判决事實摘示第一ノ如ク荷送人高谷房太郎運送人中國運送株式會社間ニ於テハ甲第二四六號ヲ持參シタル者ニ證券引換貨物ヲ授受スヘキ契約アリシ事ヲ主張シタリ而シテ此主張ハ被上告人ノ爭ハサル所ナリ故ニ第一ノ運送人ト荷送人ト爲シタル運送契約ハ第二以下ノ運送人ニ對シテ當然其效力ヲ及スヘキヲ以テ右契約ハ被上告人ニ對シテモ亦其效力ヲ有スヘキモノナリ此點ハ本件ノ爭點ヲ决スルニ重要ナルモノニシテ苟クモ其契約ナルモノ存在スル以上ハ被上告人ハ上告人ニ對シ該運送品ヲ引渡スヘキ責務アレハナリ然ルニ原院ハ其貨物引換證カ商法所定ノ要件ヲ具備セサルヲ以テ貨物引換證ニアラスト判斷シタルノミニシテ此爭點ニ對シテ判斷ヲ爲サヽルハ違法ナリト云フニ在リ
然レトモ原院ハ諸般ノ證據ヲ綜合シテ本件係爭ノ引換證ハ商法所定ノ貨物引換證ト同一ノ效力ヲ有スヘキ證券トシテ發行セラレタルモノト認定シ而シテ契約ノ如何ニ拘ハラス貨物引換證タルノ效力ヲ有セシムルニハ商法所定ノ要件ヲ具備スルコトヲ要スル所以及ヒ本件引換證ハ其要件ヲ具備セサルコトヲ説明シ之ヲ根據トシテ上告人ノ請求ヲ斥ケタルコト判文上明白ナレハ本件引換證ニ付キ特別ノ契約アリトノ上告人ノ主張ニ對シ判斷ヲ與ヘタルモノナルヤ知ル如シ而シテ商法所定ノ貨物引換證ト同一ノ效力ヲ有セシムル契約ヲ以テ證券ヲ發行スルモ法定ノ要件ヲ具備スルニ非サレハ其效ナキコトハ曩ニ當院カ本件ニ付キ與ヘタル判决ニ於テ表示シタル所ナリ故ニ右上告論旨ハ何レモ其理由ナシ
第五點ハ甲第二四六號證カ商法所定ノ貨物引換證ニアラスシテ一般普通ノ契約ナリト主張シ而シテ其契約ヨリ生スル效力ヲ第三者ニ對抗スルモノト定メタル以上ハ一般民法ノ規定ニヨリ債權讓渡ノ手續ニヨリテ之ヲ移輔スルモノニアラスシテ格段ナル一種ノ契約ヨリ第三者ハ其權利ヲ承繼シ主張スヘキ特約ナル以上ハ債權讓渡ノ手續ナキカ故ニ上告上カ貨物引換ヲ求メ得ヘキモノニアラストノ原判决ノ認定ハ甚タ不當タルヲ免カレス元來債權讓渡ナルモノハ債務者ノ承諾ヲ要スルコトヲ必要トシタル所以ハ其契約ノ要素カ他人ニ對抗シ得ヘカラサル契約ナルカ爲メノニ故ニ若シモ其契約ニシテ他人ニ對抗シ得ヘキモノナランニハ債權讓渡ノ手續ヲ要セサルコト法律上甚タ明確ナル斷定ナリ故ニ原判决カ無造作ニ債權讓渡ノ手續ナシトシテ上告人ノ主張ヲ排斥シタルハ違法ナリト云フニ在リ
然レトモ契約ノ效力ハ法律ニ別段ノ規定アル場合ノ外ハ第三者ニ及フモノニアラサルヲ以テ契約ノ當事者間ニ特別ノ意思表示ヲ爲スモ商法所定ノ貨物引換證ニ非サル證券ヲ以テ其當事者以外ノ者ニ貨物引換證ト同一ノ效力ヲ及ホスコトヲ得ス故ニ本上告論旨ハ其前提ニ於テ既ニ謬レルヲ以テ採用スルニ足ラス
第六點ハ上告人ハ甲第二四六號ハ一種ノ地方慣習ニヨリ爲サレタル取引ナリト主張シタル事ハ原院判决ニ於テ明確ナリ而シテ原判决ハ此點ヲ判斷スルニ當リ商法第一條ヲ引用シタリト雖モ元來同法第一條ハ商法ニ規定ナキ場合ニ商慣習法ヲ適用シ商慣習法ナキ時ハ民法ヲ適用スルモノナリ故ニ此適用ニ付テハ普通事實タルノ慣習ト法的慣習トノ二種アルコトハ本條民法第九十二條ノ末段ニヨリ明瞭ナリ
原院ハ上告人ノ主張カ法的慣習ト認メ商法第一條ヲ適用シ民法第九十二條末段ヲ適用セサルハ法ノ解釋ヲ誤リタルモノナリト云フニ在リ
然レトモ貨物引換證ノ記載要件ニ關スル商法ノ規定ハ強行的規定ナレハ民法第九十二條ニ所謂公ノ秩序ニ關セサル規定ニ非ス故ニ假令上告人主張ノ如キ慣習ノ事實アリトスルモ其慣習ニ從フコトヲ得サルヲ以テ本上告論旨ハ到底原判决破毀ノ理由ト爲スニ足ラス
以上ノ理由ニ依リ民事訴訟法第四百三十九條第一項ノ規定ニ從ヒ主文ノ如ク判决スルモノナリ
明治四十年(オ)第四百八号
明治四十年十二月六日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 新弁論に基きて為すべき判決が闕席判決と符合せざるに拘はらず新判決に於て闕席判決を廃棄せざるは失当なれども之が為め当事者の利害に何等の影響を及ぼさざるを以て上告の理由と為らず
上告人 西崎猛太郎
訴訟代理人 印東胤一
被上告人 野田英一
右当事者間の損害要償事件に付、大坂控訴院が明治四十年六月二十七日言渡したる判決に対し上告人より一部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告論旨の第一点は原判決は法則を適用せざる不法あり。
原判決は大審院の破毀差戻に依り更に審理判決せられたるものにして其破毀せられたるは大坂控訴院が本件当事者間に明治三十八年十一月十一日言渡されたる対席判決なるを以て其判決に依り維持せられたる明治三十八年六月二十二日被上告人に敗訴を言渡されたる闕席判決は依然存在するものなり。
其然る所以は御院判決例(三八(オ)第一号)の示さるる所なり。
故に本件に於て原院が上告人に敗訴を言渡さんには必らず先づ明治三十八年六月二十二日大坂控訴院が言渡したる闕席判決を廃棄せざるべからず。
然るに原判決は事茲に出でず直に上告人に敗訴(被控訴人の請求を却下したる)を言渡したるは違法にして随で原院が明治三十九年十二月二十日の闕席判決を維持したる原判決は民事訴訟法第二百六十一条に違背したる判決と云はざるを得ず。
是れ法則を適用せざる不法ありと云ふ所以なり。
原判決は明治三十九年十二月二十日言渡したる闕席判決を維持したるものに係り。
而して其闕席判決なるものは第一審判決の上告人勝訴の部分排斥したるものとす。
然しながら右闕席判決は御院明治三十九年(オ)第六三号の判決の主意に基きたるものにして其御院判決は原審が明治三十八年十一月十一日言渡したる判決を破毀せしものなり。
其破毀せられたる判決は同年六月二十二日言渡したる本件控訴は之を棄却すとの闕席判決を維持したるものに係る。
即ち御院差戻の判決は右対席判決を破毀したるに過ぎずして同年六月二十二日言渡したる闕席判決たる本件控訴は之を棄却すとの闕席判決に対しては何等の効力を及すべきものにあらず。
故に其闕席判決は今尚依然として存在し効力を有す。
故に爾後の闕席判決若くは対席判決が此闕席判決と符合せざる以上は其前の闕席判決を爾後の判決に於て廃棄若くは維持せざるべからず。
此点は御院判例の示す所なり。
原判決茲に出でさるは訴訟手続に関する法則を不当に適用したるものなりと云ふに在り
仍て按ずるに闕席判決に対する故障の申立に因り新弁論に基き為す判決が闕席判決と符合せざるときは闕席判決を廃棄す可きことは民事訴訟法第二百六十一条の規定する所なるを以て其新判決に於て関席判決を廃棄せざるは固より其当を得たるものと謂ふを得ず。
然れども新判決に於て闕席判決を廃棄せずして之と符合せざる判決を為したるときと雖も闕席判決は維持せられたるものに非ずして廃棄せられたること自ら明白なれば其廃棄の宣言なきか為めに当事者の利害に何等の影響を及ぼすことなし故に本上告論旨は適法の上告理由と為すに足らず
第二点は一件記録によれば明治三十八年十二月十八日の闕席弁論調書係判事は石川正、伏見正史、小幡信篤、矢追秀作、五十嵐鞠次郎の諸氏翌年一月三十一日の列席判事は石川正、伏見正史、小幡信篤矢追秀作、井上鉄太郎同年四月六日の列席判決は石川正、伏見正史、小幡信篤、多喜沢秀雄、長峯教心の諸氏なり。
即ち各弁論調書に於ける列席判事は等しく変更あり。
故に裁判の構成に変更を来すものなるが故に裁判所は弁論を更審するの必要あるにも拘らず原院が其更審を為さずして弁論を終結したるは不法なりと云ふに在り
然れども記録を調査するに原審最終の口頭弁論調書に当事者双方の代理人は訴訟の関係を表明し証拠調の結果に付き弁論を為したる旨明記しあるに依り其口頭弁論に於て当事者が事件の全体に付き弁論を為したることを知る可し、而して其口頭弁論は原判決の基本と為りたる弁論なること明白なるを以て其弁論に臨席したる判事に於て原判決を為したるは適法なり。
故に本上告論旨も其理由なし。
第三点は原院は甲第二四六号が商法所定の要件たる三百三十三条に違反したるが故に其各証は貨物引換証の効力なしと原院は認定したり。
然れども上告人は第一審以来商法所定の要件たる貨物引換証の権利を主張したるにあらずして一の運送契約に基く其履行に違反したるが故に一般民法上の契約即ち無名契約として其契約の効力を主張して本件の賠償を求むるにあることは其原院事実の摘示に於て甚た明確なり。
故に原判決は此甲号各証を排斥せんとせば其契約の内容如何を判定し尚ほ且つ普通の契約により之が履行を求め得べき権利あるや否やを断定せざるべからず。
原判決茲に出でさるは重要なる争点を無視したる違法あり。」第四点は上告人は原院に於て原判決事実摘示第一の如く荷送人高谷房太郎運送人中国運送株式会社間に於ては甲第二四六号を持参したる者に証券引換貨物を授受すべき契約ありし事を主張したり。
而して此主張は被上告人の争はざる所なり。
故に第一の運送人と荷送人と為したる運送契約は第二以下の運送人に対して当然其効力を及すべきを以て右契約は被上告人に対しても亦其効力を有すべきものなり。
此点は本件の争点を決するに重要なるものにして苟くも其契約なるもの存在する以上は被上告人は上告人に対し該運送品を引渡すべき責務あればなり。
然るに原院は其貨物引換証が商法所定の要件を具備せざるを以て貨物引換証にあらずと判断したるのみにして此争点に対して判断を為さざるは違法なりと云ふに在り
然れども原院は諸般の証拠を綜合して本件係争の引換証は商法所定の貨物引換証と同一の効力を有すべき証券として発行せられたるものと認定し、而して契約の如何に拘はらず貨物引換証たるの効力を有せしむるには商法所定の要件を具備することを要する所以及び本件引換証は其要件を具備せざることを説明し之を根拠として上告人の請求を斥けたること判文上明白なれば本件引換証に付き特別の契約ありとの上告人の主張に対し判断を与へたるものなるや知る如し、而して商法所定の貨物引換証と同一の効力を有せしむる契約を以て証券を発行するも法定の要件を具備するに非ざれば其効なきことは曩に当院が本件に付き与へたる判決に於て表示したる所なり。
故に右上告論旨は何れも其理由なし。
第五点は甲第二四六号証が商法所定の貨物引換証にあらずして一般普通の契約なりと主張し、而して其契約より生ずる効力を第三者に対抗するものと定めたる以上は一般民法の規定により債権譲渡の手続によりて之を移輔するものにあらずして格段なる一種の契約より第三者は其権利を承継し主張すべき特約なる以上は債権譲渡の手続なきが故に上告上が貨物引換を求め得べきものにあらずとの原判決の認定は甚た不当たるを免がれず元来債権譲渡なるものは債務者の承諾を要することを必要としたる所以は其契約の要素が他人に対抗し得べからざる契約なるか為めのに故に若しも其契約にして他人に対抗し得べきものならんには債権譲渡の手続を要せざること法律上甚た明確なる断定なり。
故に原判決が無造作に債権譲渡の手続なしとして上告人の主張を排斥したるは違法なりと云ふに在り
然れども契約の効力は法律に別段の規定ある場合の外は第三者に及ぶものにあらざるを以て契約の当事者間に特別の意思表示を為すも商法所定の貨物引換証に非ざる証券を以て其当事者以外の者に貨物引換証と同一の効力を及ぼすことを得ず。
故に本上告論旨は其前提に於て既に謬れるを以て採用するに足らず
第六点は上告人は甲第二四六号は一種の地方慣習により為されたる取引なりと主張したる事は原院判決に於て明確なり。
而して原判決は此点を判断するに当り商法第一条を引用したりと雖も元来同法第一条は商法に規定なき場合に商慣習法を適用し商慣習法なき時は民法を適用するものなり。
故に此適用に付ては普通事実たるの慣習と法的慣習との二種あることは本条民法第九十二条の末段により明瞭なり。
原院は上告人の主張が法的慣習と認め商法第一条を適用し民法第九十二条末段を適用せざるは法の解釈を誤りたるものなりと云ふに在り
然れども貨物引換証の記載要件に関する商法の規定は強行的規定なれば民法第九十二条に所謂公の秩序に関せざる規定に非ず。
故に仮令上告人主張の如き慣習の事実ありとするも其慣習に従ふことを得ざるを以て本上告論旨は到底原判決破毀の理由と為すに足らず
以上の理由に依り民事訴訟法第四百三十九条第一項の規定に従ひ主文の如く判決するものなり。