不法行爲損害金賠償請求ノ件
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大審院民事判決録(民録)13輯1144頁

明治四十年(オ)第二百三十五號
明治四十年十一月二十一日第一民事部判决

◎判决要旨

  • 一 商標法第二十條特許法第六條第二項ハ商標ニ關スル民事訴訟及ヒ告訴ニ付キ何等ノ制限ヲ加ヘサルヲ以テ其民事訴訟ニ付テハ他働的タルト受働的タルトヲ問ハサルハ勿論商標ノ無効又ハ確認若クハ其侵害ニ因ル損害要償ノ如キ直接商標ニ關スル事項ヲ目的トスル場合ノミニ限ラス汎ク代理人ニ於テ本人ヲ代表スヘキ法意ナリ
    (參照)特許法第六條乃至第十條第十二條第十三條第十五條第二十一條第二十三條第二十八條乃至第三十七條第四十三條及第五十一條ノ規定ハ商標ニ關シテ之ヲ準用ス(商標法第二十條)
    特許ニ關シ出願若ハ請求ヲ爲サントスル者又ハ特許證主ニシテ帝國内ニ住所ヲ有セサルトキハ帝國内ニ住居ヲ有スル者ニ就キ代理人ヲ定ムヘシ」前項代理人ハ此ノ法律及之ニ基キテ發スル命令ノ定ムル所ニ依リ特許局ニ對シテ爲スヘキ手續又ハ特許ニ關スル民事訴訟及告訴ニ付本人ヲ代表スルモノトス(特許法第六條)

第一審 大阪地方裁判所
第二審 大阪控訴院

上告人 江藤岩彦 
訴訟代理人 谷口勵 松岡歸之
被上告人 ゼアトランチツクレフアイニングコンパニー
右日本代理人 ジユリアスダブリユーコプマン 
訴訟代理人 秋山源藏

右當事者間ノ不法行爲損害金賠償請求事件ニ付大阪控訴院カ明治三十九年十二月七日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ

判决

原判决ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ大阪控訴院ニ差戻ス

理由

上告理由ハ原判决ノ要旨ハ商標法第二十二條(第二十條ノ誤ナラン)ニ依リ準用スヘキ特許法第六條ニハ特許ニ關シ出願若シクハ請求セントスル者又ハ特許證主ニシテ帝國内ニ住所ヲ有セサル時ハ帝國内ニ住所ヲ有スル者ニ就キ代理人ヲ定ム可キコトヲ明シ又其代理人ノ權限トシテ特許局ニ對シ爲スヘキ手續又ハ特許ニ關スル民事訴訟及ヒ告訴ニ付テノミ本人ヲ代表スヘキ旨ヲ規定セリ而シテ其所謂民事訴訟トハ商標ノ無効若クハ商標ノ確認或ハ其侵害ニ付テ損害要償等直接商標ニ關スルコトヲ目的トスルモノニシテ其他ニ及ハサルコトハ法文ノ解釋上疑ヒナキ所ナリ本訴ハ不法行爲ヲ原因トシ控訴人(上告人)カ被控訴人(被上告人)ヨリ其商標ヲ侵害セラレタリトノ不實ノ告訴ヲ受ケ爲メニ被リタル損害ノ賠償ヲ請求スルニアルモノナレハ直接商標ニ關スルコトヲ目的トスルモノニアラサルコト明カナリ左スレハ全ク商標ニ關スル民事訴訟ニアラサルト同時ニ被控訴人ノ代理人タルコプマンカ本訴ニ付キ被控訴人ヲ代表スル權限ナキヲ以テ控訴人カ本訴ヲ帝國裁判所ニ提起シタルハ管轄違ノ訴ナリト判示シ不適法トシテ之ヲ排斥セラレタリ然レトモ商標法第二十條ニ基キ準用スル所ノ特許法第六條ノ如キ特許ニ關シ帝國内ニ住所ヲ有セサル商標主ニ對シ帝國内ニ住所ヲ有スルモノニ付キ代理人ヲ定ムヘキコトヲ命スルト共ニ商標ニ關スル民事訴訟及告訴ニ付キ本人ヲ代表セシメ又其筋ニ對シ爲スヘキ手續上ノ責任ヲモ有セシムル所以ノモノハ蓋シ商標ノ專用權ニ關スル保護ヲ全カラシムルノ法旨ニ出テタルモノト信セリ加之凡ソ關スルトノ用例ハ普通ノ解釋上又ハ學説ニヨルモ當然廣義ニ解スヘキヲ以テ前記第六條ニ所謂特許ニ關スルトアル用語モ亦同一ニ解釋スヘキモノナレハ原判决ノ如ク該條ノ規定ハ商標ノ無効若クハ商標權ノ確認又ハ其侵害ニ付テノ損害要償等直接商標ニ關スルコトヲ目的トスル民事訴訟ノミニアラス苟モ之レニ原因シテ生シタル民事訴訟ハ直接ナルト間接ナルトヲ問ハス總テ關ストノ用語ニ包含スルモノト解釋セサルヘカラス何トナレハ一審判决ニモ説明セラルヽ如ク一面代理人ニ告訴ニ付本人ヲ代表スル權利アルコトヲ認メナカラ他ノ一面ニ於テ不法ノ告訴ニ基キ權利ヲ侵害セラレ損害ヲ生シタル者ニ民法上ノ救濟ヲ認メサルカ如キ不條理ノコトナキハ勿論其告訴ニ依リ普通生スヘキ刑事訴訟法第十三條ニ基ク民法上ノ救濟ニ付テモ亦本人ヲ代表スルノ資格アリトスルハ法律上當然ニ付キ本訴ノ如キ場合ニアリテハ其代理人タルコプマンカ本人ヲ代表シテ事ニ當ルヘキモノナレハナリ若シ原判决ノ如ク前記第六條ノ法文ヲ狹義ニ解釋スルトキハ却テ帝國ニ住所ヲ有セサル特許證主ノ代理人ハ如何ナル不法行爲アルモ帝國裁判所ハ裁判權ヲ有セサルモノトシテ帝國臣民ハ裁判上ノ救護ヲ受クルコト能ハサルニ至ル豈如斯不條理ノ結果ヲ容認スルモノナランヤ該條ハ即チ上告人所論ノ如キ趣意ナルヤ明カナリ然ラハ即チ上告人ニ於テ本訴ヲ帝國裁判所ニ提出シタルハ相當ノ手續ナルニ原院カ之レヲ不適法ナリトシテ棄却シタルハ不當ニ法律ヲ適用シタル不法ノ裁判ナリト云ヒ」被上告人答辯ハ本件ハ商標法第二十條ニ依リ準用セラルヘキ特許法第六條ノ商標ニ關スル民事訴訟ニ該當スルヤ否ヤヲ論及スルニアリ而シテ上告人カ被上告會社ニ對シ大阪地方裁判所ニ提起シタル損害賠償ノ民事訴訟ハ其請求ノ原因タル事實ハ被上告會社カ嘗テ上告人ニ對シ無登録商標ヲ以テ登録商標ナリト事實ヲ誣ヒ以テ不實ノ告訴ヲ爲シタルハ被上告會社ノ故意若クハ過失ニ因リテ上告人ノ權利ヲ侵害シタルモノナリト主張スルニアリテ即チ本件ハ單純ナル不法行爲ヲ原因トナシ直接商標ニ關スルコトヲ目的トナルニアラサルコト明ナルヲ以テ前記法條ニ該當スル民事訴訟ニアラサルコト論ヲ俟タス殊ニ上告人ノ所謂不法行爲ナルモノハ不實ノ告訴ニシテ其不實ノ告訴ナルモノハ無登録商標ヲ登録商標ナリト事實ヲ僞リタルニアリト謂フト雖モ商標登録ノ有無カ偶マ告訴ノ爭點トナリタレハトテ直チニ之ヲ以テ本件民事訴訟ノ目的ナ商標ニ關スルモノト謂フヲ得ス既ニ原判决カ説明スル如ク特許法第六條ノ所謂特許ニ關スル民事訴訟トハ之ヲ商標法ニ準用スルトキハ商標主ノ商標無効其商標權ノ確認又ハ其侵害ニ付損害賠償ノ要求等直接商標ニ關スルコトヲ目的トスル訴訟ヲ意味スルコトハ解釋上敢テ疑ヲ容ルヽ所ナキナキ商標主タル被上告會社ノ日本ニ於ケル商標代理人ジユリアスダブルユコプマンハ商標法第二十條特許法第六條ニヨリ商標ニ關スル民事訴訟又ハ告訴ニ關シ能働的若クハ受働的ニ本人ヲ代表スル權能ヲ有スルト雖モ不實ノ告訴ニヨル不法行爲ヲ原因トスル本件ハ商標ノ實質ニ何等ノ關係ヲ有セサル爭議ナルヲ以テ右代理人コプマンハ本訴ニ付テ商標主タル被上告會社ヲ代表スル權限ナキカ故ニ上告人ハ商標代理人ニ對シ本訴ヲ提起スルヲ得サルモノトス假リニ上告人カ主張スル不法行爲カ商標主タル被上告會社若クハ其日本ニ於ケル商標代理人ノ故意若クハ重過失ニ因リ犯サレタルモノトセハ夫ハ商標主若クハ其代理人タル資格ニヨラスシテ其行爲ニ關スル責任ヲ問フヘキモノナレハ上告人所論ノ如キ不法行爲アル場合ニ於テハ帝國裁判所ノ管轄内ニ在ル不法行爲者ニ對シ民法上ノ救濟ヲ求メ得ラルヘキ筋合ニ付特許法第六條ノ下ニ被上告會社ノ日本ニ於ケル代理人ニ對シ本訴ヲ提起シタルハ不法ナリトス以上ノ理由ニヨリ上告人ノ訴ハ管轄違ナリト云フニ在リ
仍テ按スルニ商標法第二十條ニ於テ準用スル特許法第六條ノ第二項ハ其第一項ノ代理人カ法律命令ノ定ムル所ニ依リ特許局ニ對シテ爲スヘキ手續又ハ特許ニ關スル民事訴訟及ヒ告訴ニ付本人ヲ代表スル旨規定セルノミニシテ其特許ニ關スル民事訴訟及告訴ニ付更ニ何等ノ制限ヲ加ヘス商標ニ付テモ亦同一ナルヲ以テ商標ニ關スル民事訴訟ニ付テハ他働的タルト受働的タルトニ拘ハラサルハ勿論商標ノ無効又ハ確認若クハ其侵害ニ因ル損害要償ノ如キ直接商標ニ關スルコトヲ目的トスル場合ノミニ限ラス代理人ニ於テ本人ヲ代表スヘキ法意ナリト解スルヲ以テ正當ト謂ハサル可カラス然リ而シテ本件上告人カ請求ノ原因トスル所ヲ見ルニ被上告人ハ商標第八八八七號及ヒ同第一三三九號ノ商標主ニシテ帝國内ニ住所ヲ有セサルヲ以テ商標法第二十條特許法第六條ニ從ヒ「ジユリアスダブルユーコプマン」ヲ其代理人トセル者ナルカ上告人ニ於テ被上告人ノ登録商標ヲ表記シタル空鑵竝ニ空函ニ其情ヲ知リテ擅ニ少等ノ同商品ヲ入リ以テ之ヲ販賣セリトノ不實ナル事實ヲ構ヘ明治三十五年十二月二十二日大阪地方裁判所檢事局ヘ告訴ヲ爲シタリ因テ上告人ハ家宅ヲ搜索セラレタル上商品ヲ大概差押ヘラレ爲メニ營業ヲ杜絶シ剩ヘ明治三十六年一月十六日ヨリ同年三月十一日マテ獄舍ニ囚禁セラレタルノミナラス其前後社交上擯斥セラレ財産名譽身心ニ若干ノ損害ヲ蒙リタリト云フニ在リテ即チ本訴ハ商標主タル被上告人カ上告人ヲ商標法違反者トシテ告訴シタルニ因ル損害ノ賠償ヲ求ムルモノユヘ所謂商標ニ關スル民事訴訟ナルコト多言ヲ俟タサルヘシ然レハ「ジユリアスダブルユーコプマン」カ商標法第二十條特許法第六條ニ基ク被上告人ノ代理人タルニ於テハ本訴ニ付被上告人ヲ代表スルモノタルコト勿論ナリ然ルニ原院カ特許法第六條第二項ノ特許ニ關スル民事訴訟ハ商標ニ付テハ商標ノ無効又ハ確認若クハ其侵害ニ因ル損害要償ノ如キ直接商標ニ關スルコトヲ目的トスル訴訟ノミニ限ル意味ナリトシ而シテ本訴ハ直接商標ニ關スルコトヲ目的トスルモノニ非スシテ所謂商標ニ關スル民事訴訟ニ非ストテ本訴ニ付コプマンニ被上告人ヲ代表スル權限ナシトシ因テ管轄違ノ訴トシテ上告人ノ控訴ヲ棄却シタルハ不法ニシテ全部破毀ヲ免カレサルモノトス
上來説明ノ如クナルヲ以テ民事訴訟法第四百四十七條第一項同第四百四十八條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判决スルモノナリ