明治三十八年(オ)第四百八十號
明治三十九年一月二十日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 株金拂込ノ催告ハ各株主ニ對シ二週間前ニ之ヲ行フコトヲ要ス從テ該期間ヲ存セサル催告ハ無効ナリ(判旨第二點)
- 一 株金拂込ノ催告ニシテ其要件ヲ具備セサルカ爲メ無効ニ歸シタル以上ハ縱令事實上二週間ヲ經過セル後再ト催告ヲ爲スモ商法第百五十二條第二項ニ謂フ通知ノ効力ヲ生スルコトナシ(判旨第三點)
(參照)株金ノ拂込ハ二週間前ニ之ヲ各株主ニ催告スルコトヲ要ス」株主カ期日ニ拂込ヲ爲ササルトキハ會社ハ更ニ一定ノ期間内ニ其拂込ヲ爲スヘキ旨及ヒ其期間内ニ之ヲ爲ササルトキハ株主ノ權利ヲ失フヘキ旨ヲ其株主ニ通知スルコトヲ得但其期間ハ二週間ヲ下ルコトヲ得ス(商法第百五十二條)
上告人 株式會社瀬戸益友銀行
右法定代理人 萬代登與治
訴訟代理人 川島龜夫
被上告人 松本武明
右當事者間ノ株金不足額請求事件ニ付大阪控訴院カ明治三十八年五月三十一日言渡シタル判决ニ對シ上告人ハ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判决
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告ニ係ル訴訟費用ハ上告人之ヲ負擔ス可シ
理由
上告論旨ノ第一點ハ原院ハ其判决理由ニ於テ「本案ニ付按スルニ商法第百五十二條第一項ニ依レハ株金ノ拂込ハ二週間前ニ之ヲ各株主ニ催告スルコトヲ要ストアルカ故ニ各株主ハ此規定ニ從ヒ催告ヲ受クルニ非サレハ株金拂込ノ義務ヲ生セス從テ拂込期日ヲ經過スレハトテ會社ハ之ニ對シテ同條第二項及第百五十三條第二項第三項等ノ手續ヲ爲シ株主ヲシテ其權利ヲ喪失セシメ株式ヲ競賣シ其不足額ヲ從前ノ株主ニ請求スルヲ得サルモノトス然ルニ成立ニ爭ナキ乙第八號證ニ依レハ本件第五囘株金拂込ノ期日ハ明治三十四年十二月二十五日ニシテ其催告ハ同月十六日ニ之ヲ爲シタルモノナルカ故ニ二週間ノ期間ヲ存セス該催告ハ不適法ニシテ假令被控訴人ハ期日ニ拂込ヲ爲サスシテ控訴會社カ商法第百五十二條第二項ノ手續ヲ盡クシタリトスルモ被控訴人ニ於テハ株主タル權利ヲ喪失スルモノニ非ス然ラハ控訴人カ商法第百五十三條ニ依リ被控訴人ヲ以テ從前ノ株主トシテ本件不足額ノ請求ヲ爲スハ其不當ナルヤ明カナリ」ト説明スレトモ之明ニ主要ノ爭點ヲ遺脱シ且法則ヲ不當ニ適用シタル違法ノ裁判ナリ今第二審判决事實ノ摘示ヲ見ルニ「云々舊方共第一審判决中ノ事實摘示ノ通リ供延シタルヲ以テ之ヲ引用ス」ト掲載シ其引用セル第一審判决ノ事實摘示ヲ見ルニ「被告ハ一株五十圓ナル原告會社ノ株式二十株ヲ所持シ居リタルニ明治三十四年十二月十五日ノ决議ニ依ル第五囘ノ拂込金一株ニ付七圓五十錢ヲ同月三十一日限リ拂込ムヘク同十六日被告ニ通知シタルニ被告ハ其拂込ヲ爲サヽルニヨリ更ニ明治三十五年二月十五日限リ右拂込ヲ爲スヘク然ラサレハ株主タル權利ヲ失フヘキ旨同月一日被告ニ對シ催告シタルニ被告ハ尚拂込ヲ爲サヽルニ依リ原告ハ同年五月三日右二十株ヲ競賣ニ付シタルモ賣却スルコトヲ不得云々」ト記載アルカ故ニ(一)上告人カ被上告人ニ對シテ株金ノ請求ヲ爲シタル第一囘ハ明治三十四年十二月十六日ニシテ(二)其第二囘ハ明治三十五年二月一日タルコト(三)被上告人ノ株式ヲ競賣シタルハ同年五月三日タルコトノ三點ニ於テハ確定ニシテ上告人ノ主張シタル事實ナリ而シテ被上告人ハ之ニ對スル抗辯トシテ(イ)第一囘ノ請求ヲ受ケタルハ明治三十四年十二月十六日ナレトモ其期限ヲ同月二十五日ト爲セルカ故ニ不法ナリ(ロ)競賣ノ事實ヲ認メスト云フニアレトモ競賣ノ事實竝ニ其年月日ハ證人生本國太ヲ申請シ原裁判所ノ採用スル所トナリ此點ニ關スル上告人ノ主張ハ一應立證セラレタルモノナリ只(イ)點ノ抗辯ニ對シテ被上告人ヨリ乙八號證ヨ提出セルカ故ニ此點ニ關スル上告人ノ主張ハ事實ニアラストスルモ尚(一)株金第一囘ノ請求ハ明治三十四年十二月十六日ニ之ヲ爲シ同月二五十日限リト爲シタルコト(二)第二囘ノ請求即失權通知ハ同三十五年二月一日ニ爲シタルコト(三)株式ノ競賣ハ同年五月三日ニ行ハレタルコトハ強テ原院ノ否認セサル所ニ係リ此ノ如キ事實トスルモ上告人ノ請求不當ナリトシ控訴ヲ棄却シタルコト前掲判决理由ニ明ナリ然レトモ商法第百五十二條第一項ノ株金拂込ハ二週間前ニ之ヲ各株主ニ催告スルコトヲ要ストノ規定ハ株金ノ拂込ハ廣告等ヲ爲シタルノミナラス必ス(一)各株主ニ催告スルコトヲ要ス(二)其催告ハ二週間前タルコトヲ要ストノ二要件ヲ包含スルコト明白ナレトモ本件ノ如ク明治三十四年十二月十六日ニ同月二十五日ヲ期限トシテ催告ヲ爲シ株主タル被上告人カ同日迄ニ拂込ヲ爲サヽルモ之ヲ放任シ置キ二週間後ノ明治三十五年二月一日ニ於テ始テ第二囘ノ柴告即チ失權ノ通知ヲ爲シタルハ果シテ原院判决ノ如ク違法ナリヤ否ヤノ審按ヲ受ケント欲スルモノナリ抑同條ノ二週間前ニ云々催告スルコトヲ要ストハ株主ニ對シテ二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘサルヘカラス換言スレハ株主ニ於テハ二週間後ニ拂込ヲ爲セハ足ル旨ノ規定ト解セサルヘカラス何トナレハ假令催告書ニ二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘ居ルモ事實二囘ノ催告ヲ二週間以内ニ爲シタルトキハ同法條ニ違背スルト同一論理ニテ催告書ニ二週間ノ期間ヲ存セスト雖事實二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘタル時即チ本件ノ如キ場合ニ於テハ素ヨリ商法第百五十二條第一項ニ違背スルモナニアラス何トナレハ同條ノ所謂二週間前云々トハ事實二週間前タルコトヲ要スル意味ニシテ必スシモ催告書ノ記載如何ヲ問ハサル法意ナルコトハ前段論旨ノ如ク催告書ニ二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘ居ルモ事實二週間ニ失權ノ通知ヲ爲スノ不法ナルト共ニ催告書以二週間ニ充タサル期間ヲ定メ居ルモ事實二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘタルトキハ何等該法條ニ牴觸スルコトナク適法ノ手續ト云ハサルヘカラス而カモ原院ハ此法理ヲ看過シテ本件當事者間ノ第一囘株金拂込催告書ニ記載セル期間カ二週間ニ充タストノ一理由ニテ事實二週間以上ノ猶豫ヲ與ヘタリヤ否ヤヲ審按セスセテ直チニ控訴ヲ棄却シタルハ違法ノ裁判ナリト云フニ在リ
依テ按スルニ上告人カ原審ニ於テ攻撃方法ノ一トシテ主張セシ所ハ上告人ハ明治三十四年十二月十五日ノ决議ニ依ル第五囘ノ株式拂込金一株ニ付七圓五十錢ヲ同月三十一日ニ拂込ムヘキ旨同月十六日ニ被上告人ニ通知シタルヲ以テ其催告ハ適法ナリト云フニ在リ被上告人カ之ニ對シ防禦方法トシテ主張セシ所ハ被上告人カ第五囘株金拂込ノ催告ヲ受ケタルハ明治三十四年十二月十六日ニシテ其拂込期日ハ同月二十五日ナリシカ故ニ上告人ノ爲シタル催告ハ無効ナリト云フニ在リテ上告人カ本論旨ニ陳フル如キ事實ヲ原審ニ於テ主張シタル形蹟毫モ記録中ニ存セス故ニ原院ニ於テ右係爭事實ニ對シテ判斷シタル以上ハ本論旨ニ陳フル如キ事項ニ付キ審理判决セサリシトテ之ヲ不法ト云フヲ得ス
上告論旨ノ第二點ハ原判决ハ商法第百五十二條第一項ノ期間ヲ存セサル株式拂込催告ハ無効ニシテ絶對的ニ拂込義務ヲ生セサルモノトシ之ヲ前提トシテ縱令法定ノ猶豫期間ヲ經過シタル以後ニ同條第二項及第百五十三條ノ手續ヲ爲シタリトスルモ何等効力ヲ生セサル旨ヲ説明シ上告人ノ請求ヲ排斥セリ
抑モ株金拂込ノ義務ハ商法第百四十四條ニ規定ニ依リ初メヨリ發生セルモノニシテ第百五十二條ノ催告ハ單ニ其拂込期日ヲ確定スルニ過キス故ニ其拂込ヲ柴告シタルトキハ株主ハ法律上二週間ノ猶豫期間ヲ有セルニ過キスシテ其期間ノ表示カ二週間ニ充タサリシ場合ト雖モ柴告其者ハ决シテ無効ニアラサルナリ然ルニ之カ爲メ絶對的ニ株金拂込義務ヲ生セスト爲シタル原判决ハ不法ナリト云フニ在リ
依テ按スルニ株金拂込ノ催告ハ各株主ニ對シテ二週間前ニ之ヲ爲スコトヲ要スルハ商法第百五十二條第一項ノ規定スル所ナリ故ニ二週間前ニ爲サヽル株金拂込ノ催告ハ其要件ヲ具備セサルカ爲メ無効ニ屬スルモノナルコト論ヲ俟タス故ニ本論旨モ亦適法ノ上告理由タラス(判旨第二點)
上告論旨ノ第三點ハ商法第百五十二條第一項ノ二週間ハ拂込猶豫期間ナリヤ拂込義務發生ノ要件ナリヤヲ一决セハ本件上告ノ當否ヲ判斷シ得ルナリ拂込義務ハ株式引受又ハ讓受ト同時ニ發生スルコト前陳ノ如シ故ニ第百五十二條第一項ノ催告ハ義務發生ノ要件ニ非ラスシテ拂込期日ノ始期ヲ定ムルニ過キス株金拂込期日ト其金額ハ定款ニ則リ决議ヲ爲スコトニ因リ確定シ而シテ各株主ニ催告スルコトニ依ツテ株主ハ其指定ノ期日ニ其株金額ヲ拂込マサル可ラサルモ法律ハ其催告ヨリ二週間ノ拂込猶豫ヲ與ヘンカ爲メニ第百五十二條第一項ヲ規定セリ故ニ此期間ハ法定ノ猶豫期間ナルヲ以テ若シ拂込催告書ニ二週間ノ猶豫ヲ存セサリシ場合ト雖モ株主ハ法定ノ猶豫ヲ受クルノ權利アリ然レトモ其拂込催告ハ全然無効ナルモノニアラス故ニ若シ其猶豫ヲ受クル必要ヲ感セサル株主ハ右催告ニ基キ之ヲ拂込ムハ勿論適法ニシテ且ツ有効ノ法律行爲ナリトス既ニ催告ノ事實アリテ株金拂込期日ノ始期定リタル以上ハ其拂込猶豫期間カ法定ノ期間ニ充タサリシトテ催告ノ事實ヲ沒却シ無効ノ催告ト爲スハ法律ノ精神ニ背キタル解釋ナリ此場合ニハ唯タ期日ノ指定ニ服從スルノ義務ナキニ過キス從テ指定ノ期日ニ拂込マサリシトスルモ期日後直ニ遲滯ノ責ナキ効果ヲ生スレトモ同條ニ項ニ依リ二週間經過ノ後再應其拂込ヲ催告セラルヽトキハ前ニ二週間ノ猶豫ヲ與ヘサリシヲ理由トシテ後ノ催告ヲ云爲シ得ヘキモノニアラス法律カ再應ノ催告ヲ爲サシムルコトヲ規定セル上ヨリ見ルモ右期間ハ拂込猶豫期間ト解シ得ヘシ既ニ猶豫期間ナリトセハ其通知期間ニ錯誤アリトスルモ法定ノ保護ヲ得ラルヽヲ以テ其柴告ヲ全然無効トスルノ必要ナシ法定ノ要件ノ一ヲ欠クトキハ違法タルモ絶對的ニ無効ナアラサルナリ假リニ要件ノ一ヲ欠クトキハ無効ナリトスルモ本件ノ如キハ要件ノ一ヲ全然欠キタルニアラスシテ其一ニ瑕瑾アルニ過キス而シテ其瑕瑾ハ法律ノ規定ニ依リ救濟セラルヽモノナレハ其違法ハ全部ノ無効ヲ來ササルモノト解釋スルヲ至當トス斯ク解釋スルハ法律ノ精神ニ適合スヘク又實際事ニ害ナキナリ原院ハ字句ニ拘泥シ強テ狹隘ナル解釋ヲ下シ實際ニ添ハサル判决ヲ爲シタル非難ヲ免レス事實二週間ノ猶豫ヲ與ヘテ次ノ手續ヲ爲シタルトキハ催告書ノ記載如何ヲ問ハサル法意ナリト解釋スヘキニ原院ハ現ニ二週間ノ猶豫ヲ與ヘテ次ノ手續ヲ爲シタル事實ヲ認メナカラ其催告ヲ全然無効ト爲シタルハ違法ノ判决ナリト云フニ在リ
依テ按スルニ二週間前ニ爲サヽル株金拂込ノ催告ハ催告トシテ其効ヲ生セサルコトハ既ニ前段説示ノ如シ而シテ其無効ハ右二週日ノ期間カ株金拂込ノ猶豫期間ナルト株金拂込義務發生ノ要件ナルト否トニ依リ影響ヲ受クヘキモノニアラサレハ右期間カ猶豫期間ナルヤ若クハ拂込義務發生ノ要件ナルヤ否ハ今茲ニ論定スルノ要ナシ然リ而シテ其二週日ノ期間ヲ與ヘサル催告カ法律上無効ナル以上ハ縱令ヒ事實二週間ヲ經過シタル後チ再ヒ其拂込ヲ催告スルモ其事實カ商法第百五十二條第二項ニ謂フ通知ノ効力ヲ生スルモノニアラサルコト誠ニ明瞭ナルヲ以テ原院カ云々「本件第五囘株金拂込ノ期日ハ明治三十四年十二月二十五日ニシテ其催告ハ同月十六日ニ爲サレタルモノナルカ故ニ二週間ノ期間ヲ存セス該催告ハ不適法ニシテ假令被控訴人ハ期日ニ拂込ヲ爲サスシテ控訴會社カ商法第百五十二條第二項ノ手續ヲ盡シタリトスルモ被控訴人ニ於テハ株主タル權利ヲ喪失スルモノニ非ス」云々ト説示シ上告人ノ請求ヲ排斥シタルハ正當ニシテ毫モ法則ニ違背シタル所ナシ(判旨第三點)
以上ノ理由ニ依リ本件上告ハ民事訴訟法第四百五十二條ニ則リ之ヲ棄却スヘキモノトス
明治三十八年(オ)第四百八十号
明治三十九年一月二十日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 株金払込の催告は各株主に対し二週間前に之を行ふことを要す。
従て該期間を存せざる催告は無効なり。
(判旨第二点)
- 一 株金払込の催告にして其要件を具備せざるか為め無効に帰したる以上は縦令事実上二週間を経過せる後再と催告を為すも商法第百五十二条第二項に謂ふ通知の効力を生ずることなし(判旨第三点)
(参照)株金の払込は二週間前に之を各株主に催告することを要す。」株主が期日に払込を為さざるときは会社は更に一定の期間内に其払込を為すべき旨及び其期間内に之を為さざるときは株主の権利を失ふべき旨を其株主に通知することを得。
但其期間は二週間を下ることを得ず。
(商法第百五十二条)
上告人 株式会社瀬戸益友銀行
右法定代理人 万代登与治
訴訟代理人 川島亀夫
被上告人 松本武明
右当事者間の株金不足額請求事件に付、大坂控訴院が明治三十八年五月三十一日言渡したる判決に対し上告人は全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
判決
本件上告は之を棄却す
上告に係る訴訟費用は上告人之を負担す可し
理由
上告論旨の第一点は原院は其判決理由に於て「本案に付、按ずるに商法第百五十二条第一項に依れば株金の払込は二週間前に之を各株主に催告することを要すとあるが故に各株主は此規定に従ひ催告を受くるに非ざれば株金払込の義務を生ぜず。
従て払込期日を経過すればとて会社は之に対して同条第二項及第百五十三条第二項第三項等の手続を為し株主をして其権利を喪失せしめ株式を競売し其不足額を従前の株主に請求するを得ざるものとす。
然るに成立に争なき乙第八号証に依れば本件第五回株金払込の期日は明治三十四年十二月二十五日にして其催告は同月十六日に之を為したるものなるが故に二週間の期間を存せず該催告は不適法にして仮令被控訴人は期日に払込を為さずして控訴会社が商法第百五十二条第二項の手続を尽くしたりとするも被控訴人に於ては株主たる権利を喪失するものに非ず。
然らば控訴人が商法第百五十三条に依り被控訴人を以て従前の株主として本件不足額の請求を為すは其不当なるや明かなり。」と説明すれども之明に主要の争点を遺脱し、且、法則を不当に適用したる違法の裁判なり。
今第二審判決事実の摘示を見るに「云云旧方共第一審判決中の事実摘示の通り供延したるを以て之を引用す」と掲載し其引用せる第一審判決の事実摘示を見るに「被告は一株五十円なる原告会社の株式二十株を所持し居りたるに明治三十四年十二月十五日の決議に依る第五回の払込金一株に付、七円五十銭を同月三十一日限り払込むべく同十六日被告に通知したるに被告は其払込を為さざるにより更に明治三十五年二月十五日限り右払込を為すべく然らざれば株主たる権利を失ふべき旨同月一日被告に対し催告したるに被告は尚払込を為さざるに依り原告は同年五月三日右二十株を競売に付したるも売却することを不得云云」と記載あるが故に(一)上告人が被上告人に対して株金の請求を為したる第一回は明治三十四年十二月十六日にして(二)其第二回は明治三十五年二月一日たること(三)被上告人の株式を競売したるは同年五月三日たることの三点に於ては確定にして上告人の主張したる事実なり。
而して被上告人は之に対する抗弁として(イ)第一回の請求を受けたるは明治三十四年十二月十六日なれども其期限を同月二十五日と為せるが故に不法なり。
(ロ)競売の事実を認めずと云ふにあれども競売の事実並に其年月日は証人生本国太を申請し原裁判所の採用する所となり此点に関する上告人の主張は一応立証せられたるものなり。
只(イ)点の抗弁に対して被上告人より乙八号証よ提出せるが故に此点に関する上告人の主張は事実にあらずとするも尚(一)株金第一回の請求は明治三十四年十二月十六日に之を為し同月二五十日限りと為したること(二)第二回の請求即失権通知は同三十五年二月一日に為したること(三)株式の競売は同年五月三日に行はれたることは強で原院の否認せざる所に係り此の如き事実とするも上告人の請求不当なりとし控訴を棄却したること前掲判決理由に明なり。
然れども商法第百五十二条第一項の株金払込は二週間前に之を各株主に催告することを要すとの規定は株金の払込は広告等を為したるのみならず必す(一)各株主に催告することを要す。
(二)其催告は二週間前たることを要すとの二要件を包含すること明白なれども本件の如く明治三十四年十二月十六日に同月二十五日を期限として催告を為し株主たる被上告人が同日迄に払込を為さざるも之を放任し置き二週間後の明治三十五年二月一日に於て始て第二回の柴告即ち失権の通知を為したるは果して原院判決の如く違法なりや否やの審按を受けんと欲するものなり。
抑同条の二週間前に云云催告することを要すとは株主に対して二週間以上の猶予を与へざるべからず。
換言すれば株主に於ては二週間後に払込を為せば足る旨の規定と解せざるべからず。
何となれば仮令催告書に二週間以上の猶予を与へ居るも事実二回の催告を二週間以内に為したるときは同法条に違背すると同一論理にて催告書に二週間の期間を存せずと雖事実二週間以上の猶予を与へたる時即ち本件の如き場合に於ては素より商法第百五十二条第一項に違背するもなにあらず。
何となれば同条の所謂二週間前云云とは事実二週間前たることを要する意味にして必ずしも催告書の記載如何を問はざる法意なることは前段論旨の如く催告書に二週間以上の猶予を与へ居るも事実二週間に失権の通知を為すの不法なると共に催告書以二週間に充たざる期間を定め居るも事実二週間以上の猶予を与へたるときは何等該法条に牴触することなく適法の手続と云はざるべからず。
而かも原院は此法理を看過して本件当事者間の第一回株金払込催告書に記載せる期間が二週間に充たずとの一理由にて事実二週間以上の猶予を与へたりや否やを審按せずせて直ちに控訴を棄却したるは違法の裁判なりと云ふに在り
依て按ずるに上告人が原審に於て攻撃方法の一として主張せし所は上告人は明治三十四年十二月十五日の決議に依る第五回の株式払込金一株に付、七円五十銭を同月三十一日に払込むべき旨同月十六日に被上告人に通知したるを以て其催告は適法なりと云ふに在り被上告人が之に対し防禦方法として主張せし所は被上告人が第五回株金払込の催告を受けたるは明治三十四年十二月十六日にして其払込期日は同月二十五日なりしか故に上告人の為したる催告は無効なりと云ふに在りて上告人が本論旨に陳ふる如き事実を原審に於て主張したる形蹟毫も記録中に存せず。
故に原院に於て右係争事実に対して判断したる以上は本論旨に陳ふる如き事項に付き審理判決せざりしとて之を不法と云ふを得ず。
上告論旨の第二点は原判決は商法第百五十二条第一項の期間を存せざる株式払込催告は無効にして絶対的に払込義務を生ぜざるものとし之を前提として縦令法定の猶予期間を経過したる以後に同条第二項及第百五十三条の手続を為したりとするも何等効力を生ぜざる旨を説明し上告人の請求を排斥せり
抑も株金払込の義務は商法第百四十四条に規定に依り初めより発生せるものにして第百五十二条の催告は単に其払込期日を確定するに過ぎず。
故に其払込を柴告したるときは株主は法律上二週間の猶予期間を有せるに過ぎずして其期間の表示が二週間に充たざりし場合と雖も柴告其者は決して無効にあらざるなり。
然るに之が為め絶対的に株金払込義務を生ぜずと為したる原判決は不法なりと云ふに在り
依て按ずるに株金払込の催告は各株主に対して二週間前に之を為すことを要するは商法第百五十二条第一項の規定する所なり。
故に二週間前に為さざる株金払込の催告は其要件を具備せざるか為め無効に属するものなること論を俟たず。
故に本論旨も亦適法の上告理由たらず(判旨第二点)
上告論旨の第三点は商法第百五十二条第一項の二週間は払込猶予期間なりや払込義務発生の要件なりやを一決せば本件上告の当否を判断し得るなり。
払込義務は株式引受又は譲受と同時に発生すること前陳の如し故に第百五十二条第一項の催告は義務発生の要件に非らずして払込期日の始期を定むるに過ぎず株金払込期日と其金額は定款に則り決議を為すことに因り確定し、而して各株主に催告することに依って株主は其指定の期日に其株金額を払込まざる可らざるも法律は其催告より二週間の払込猶予を与へんか為めに第百五十二条第一項を規定せり。
故に此期間は法定の猶予期間なるを以て若し払込催告書に二週間の猶予を存せざりし場合と雖も株主は法定の猶予を受くるの権利あり。
然れども其払込催告は全然無効なるものにあらず。
故に若し其猶予を受くる必要を感せざる株主は右催告に基き之を払込むは勿論適法にして且つ有効の法律行為なりとす。
既に催告の事実ありて株金払込期日の始期定りたる以上は其払込猶予期間が法定の期間に充たざりしとて催告の事実を没却し無効の催告と為すは法律の精神に背きたる解釈なり。
此場合には唯た期日の指定に服従するの義務なきに過ぎず。
従て指定の期日に払込まざりしとするも期日後直に遅滞の責なき効果を生ずれども同条に項に依り二週間経過の後再応其払込を催告せらるるときは前に二週間の猶予を与へざりしを理由として後の催告を云為し得べきものにあらず。
法律が再応の催告を為さしむることを規定せる上より見るも右期間は払込猶予期間と解し得べし既に猶予期間なりとせば其通知期間に錯誤ありとするも法定の保護を得らるるを以て其柴告を全然無効とするの必要なし。
法定の要件の一を欠くときは違法たるも絶対的に無効なあらざるなり。
仮りに要件の一を欠くときは無効なりとするも本件の如きは要件の一を全然欠きたるにあらずして其一に瑕瑾あるに過ぎず。
而して其瑕瑾は法律の規定に依り救済せらるるものなれば其違法は全部の無効を来さざるものと解釈するを至当とす。
斯く解釈するは法律の精神に適合すべく又実際事に害なきなり。
原院は字句に拘泥し強で狭隘なる解釈を下し実際に添はざる判決を為したる非難を免れず事実二週間の猶予を与へて次の手続を為したるときは催告書の記載如何を問はざる法意なりと解釈すべきに原院は現に二週間の猶予を与へて次の手続を為したる事実を認めながら其催告を全然無効と為したるは違法の判決なりと云ふに在り
依て按ずるに二週間前に為さざる株金払込の催告は催告として其効を生ぜざることは既に前段説示の如し、而して其無効は右二週日の期間が株金払込の猶予期間なると株金払込義務発生の要件なると否とに依り影響を受くべきものにあらざれば右期間が猶予期間なるや若くは払込義務発生の要件なるや否は今茲に論定するの要なし。
然り、而して其二週日の期間を与へざる催告が法律上無効なる以上は縦令ひ事実二週間を経過したる後ち再ひ其払込を催告するも其事実が商法第百五十二条第二項に謂ふ通知の効力を生ずるものにあらざること誠に明瞭なるを以て原院が云云「本件第五回株金払込の期日は明治三十四年十二月二十五日にして其催告は同月十六日に為されたるものなるが故に二週間の期間を存せず該催告は不適法にして仮令被控訴人は期日に払込を為さずして控訴会社が商法第百五十二条第二項の手続を尽したりとするも被控訴人に於ては株主たる権利を喪失するものに非ず」云云と説示し上告人の請求を排斥したるは正当にして毫も法則に違背したる所なし。
(判旨第三点)
以上の理由に依り本件上告は民事訴訟法第四百五十二条に則り之を棄却すべきものとす。