明治三十八年(オ)第五百四十三號
明治三十八年十二月十八日第二民事部判决
◎判决要旨
- 一 民事訴訟法第五十三條以下ニ規定シタル訴訟ノ從參加ハ主參加ト異ナリ他ノ當事者間ニ於ケル訴訟ニ依リテ權利上利害ノ關係ヲ有スル者カ原告若クハ被告ニ附隨シ一方ノ訴訟行爲ヲ補助スルコトノミヲ目的トスルモノニシテ參加人自ラ獨立シテ當事者ト爲リ又ハ共同訴訟人ト爲ルモノニ非ス(判旨第一點)
- 一 民事訴訟法第五十五條ハ專ラ補助ヲ受ケタル當事者ト從參加人トノ關係ノミヲ規定シタルモノニシテ補助ヲ受ケタル原告若クハ被告ノ相手方ト從參加人トノ間ニ確定判决ノ効力ヲ及ホサシムル法意ニ非ス(同上)
(參照)從參加人ハ訴訟ヨリ脱退シタルトキト雖モ其補助シタル原告若クハ被告トノ關係ニ於テハ其訴訟ノ確定裁判ヲ不當ナリト主張スルコトヲ得ス(民事訴訟法第五十五條第一項) - 一 登記事項ニ誤謬アルモ之ヲ更正シ得ヘキモノナル以上ハ登記ノ効力ヲ失フコトナシ(判旨第四點)
上告人 豐田儀兵衛
訴訟代理人 村田繼述
被上告人 大場ハル
右當事者間ノ所有權確認請求事件ニ付明治三十八年十月三日大阪控訴院カ言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告理由第一點ハ原判决ハ民事訴訟法第四百三十五條法則ヲ不當ニ適用セサル不法アリ本件ノ事實關係ハ被上告人カ明治三十五年十月六日競落ニ依リ家屋ノ所有權ヲ得タルニ付其權利ヲ確認セヨトノ請求原因ナリ(原判决及ヒ第一審判决事實摘示ノ部參照)故ニ係爭家屋ハ上告人ノ所有ナリヤ將タ被上告人ノ所有ナルヤノ論爭ニ係レリ而シテ此事實關係タル大阪地方裁判所三六(レ)第八七號事件ニ於テ本當事者間ニ對シ上告人ノ所有家屋ナリト判决サレ既ニ其判决ハ確定セリ上告人ハ原院ニ於テ其事實關係ヲ申立乙第一號證ノ一、二、三ヲ提出シテ一事再理タルコトヲ論爭セリ乃チ被上告人カ其訴訟ノ從參加人トシテ(乙第一號證ノ三)前訴判决事實摘示ノ部ニ(控訴人カ「高橋鶴吉」現住ノ家屋ハ元ト訴外人神戸勘五郎ノ所有ナル處從參加人ハ明治三十五年十月六日競落許可决定ニ由リ該家屋ノ所有權ヲ取得シ之ヲ控訴人ニ賃貸シタル旨陳述シタリ)ト摘示シタル如ク前訴ニ於テ被上告人カ本訴請求原因ト同一ノ事實關係ヲ主張シテ等シク自己ノ所有家屋ナリト論爭スルニ在リ故ニ上告人ハ其事實ヲ否認シ上告人ノ所有家屋ナリト主張シ(乙第一號證ノ一、二、三、上告人ノ主張事實摘示ノ部參照)タリ左レハ前訴ニ於テ判决主文ニ包含サレタル直接關係ノ事實原因ハ係爭家屋ハ上告人(前訴被控訴人)ノ所有ナルヤ將タ被上告人(前訴從參加人)ノ所有ナルヤニ在リ而テ其判决ニ(乙第一號證ノ三)控訴人カ現住セル家屋ハ訴外人政岡ムメノ所有地上ニ建設シアリテ被控訴人ノ所有家屋ナリト認ム云々ト判定サレ其判决ハ本訴ト同一ノ事實關係ナリトス果シテ然ラハ被上告人カ同一ノ請求原因ヲ主張シテ再ヒ上告人ニ對シ請求スルヲ原院カ漫然事實審理ヲ爲ス如キハ一事不再理ノ原則ニ背反シ確定判决ヲ無視スルモノト謂ハサルヲ得ス或ハ前訴ハ從參加人ナリ資格ニ於テ異レリト論スル者アランカ凡ソ判决ハ其權利ヲ主張シ論爭シタル當事者即チ關係人間ニ於テ確定スルモノナルコト論ヲ竢タス然ラハ則チ從參加トハ他人間ニ權利拘束トナリタル訴訟ニ於テ自己ノ權利ニ基キ自己ノ利益ノ爲メ之ニ參加スル者ナルヲ以テ一ノ當事者即チ附從當事者ト云フヲ得ヘク判决モ亦此當事者ニ對シテモ言渡サレタルコト明瞭ナリトス果シテ然ラハ被上告人ハ前訴ニ於テ所有權ヲ主張シ自己ノ家屋ナリト論爭シ其敗訴ノ判决確定シタルニ拘ハラス同一ノ請求原因ニ基キ本訴ヲ提起シタルモノナリ而シテ此事實關係ハ當事者間爭ヒナク原院モ亦認メタル所ナリ故ニ原判决ハ一事不再理ノ原則ニ背反シ法則ヲ適用セサルモノト謂ハサルヲ得ス原判决説明ニ依レハ(乙第一號各證ニ依レハ該訴訟事件ニ於テハ被控訴人ハ高橋鶴吉ニ對シ賃貸借契約ノ解除ヲ原因トシテ畧中家屋ノ明渡ヲ請求シ控訴人ハ從參加人トシテ高橋鶴吉ヲ補助シタル案件ニ係リ控訴人ハ單ニ被告ヲ補助センカ爲メ之ニ附隨シタルニ過キス)トアリ其趣意タル頗ル不明ナリト雖モ蓋シ前訴ハ上告人カ賃貸借契約ノ解除ヲ原因トシテ家屋明渡ヲ請求シ本訴ハ被上告人カ所有權ヲ原因トシテ其確認ヲ求ムル案件ナルヲ以テ請求原因ノ異ナレリトノ趣意カ若クハ前訴ハ被上告人カ高橋鶴吉ヲ補助ノ爲メ無意味ニ之ニ附隨シタルニ過キスシテ自己ノ權利ヲ主張シ自己ノ利益ノ爲メ論爭シタルニ非ストノ趣意ナルカ其文意ヲ解スルニ甚タ苦ムト雖モ蓋シ二者ノ一ニ外ナラサル可シ若シ前者ノ意ナリトセンカ原院ハ請求ノ直接關係ノ事實ヲ看過シ從テ請求原因ノ何タル事ヲ誤解シタルモノト謂ハサルヲ得ス何トナレハ前訴ニ於テ被上告人カ主張シタル請求權ノ因リテ生スル直接關係ノ事實ハ係爭家屋ハ競落ニ因リ自己ノ所有ニ歸シタリト云フニ在リ(乙第一號證一、二、三)此場合ニ於テ被上告人カ原告ノ從參加人ナリト假定シテ其請求原因ハ何レニアリヤト問ヘハ取モ直サル競落ニ因リ所有權ヲ得タリト云フ事實關係ナルコトハ一目瞭然タルヘシ而シテ本訴ノ請求原因モ亦同一ノ事實關係ナルコト論ヲ竢タス然ラハ則チ其原因ハ同一ナルニ請求原因ノ事實關係ヲ誤認シテ前訴ハ賃貸借契約ノ解除ヲ原因トシ云々ト説明シタル結果一事不再理ノ原則ヲ適用セサル不法タルヲ免レス蓋シ請求ノ原因トハ請求權ノ因リテ生スル直接關係ノ事實ノ謂ヒタルコトハ御院ノ判例トシテ認メラルヽ所ナリ(三十五年(オ)第四百九十八號判例)若シ後者ノ趣意ナリト解センカ從參加人ハ民事訴訟法第五十三條第五十四條ニ規定スル如ク一方ノ勝訴ニ依リ利害關係ヲ有スルヲ以テ自己ノ權利ニ基キ自己ノ利益ノ爲メ一方ヲ補助シ尚ホ獨立シテ故障異議又ハ上訴ヲ爲スノ權利ヲ有スルナリ然ラハ則チ原判决説明ノ如ク(則チ控訴人ハ單ニ被告ヲ補助センカ爲メ之ニ附隨シタルニ過キス控訴人ト被控訴人トノ間ニ確定判决ノ効力ヲ生スヘキ場合ニ非サルカ故ニ本件ヲ目シテ一事再理ナリトスルヲ得ス)ト云フ如キ無意味ニ附隨スルモノニアラサルコト明カナリ蓋シ其判示タル一方ヲ補助センカ爲メ附隨スルカ故從參加人ナリト云フニ止リ恰モ白色ナルカ故白色ナリト云フト一般毫モ上告人ノ主張ニ對シテ何等ノ説明モ與ヘラレサルナリ上告人ハ原院ニ於テ被上告人ハ前訴ノ從參加人ナリ同一ノ事實關係ナリト主張シタリ故ニ此點ヲ排斥センニハ前訴ハ從參加人ナルヲ以テ其事項ハ云々ナリ其事實及法律關係ハ如斯ナリ故ニ確定判决ノ効力ヲ生スルモノニ非ストノ事實關係ノ理由ヲ付シテ之カ判斷ヲ爲サヽル可カラス然ルニ原院ノ判决茲ニ出テサルハ民事訴訟法第四百三十六條裁判ニ理由ヲ付セサル不當ノ判决タルコトヲ免レサルヘシ何トナレハ(控訴人ハ單ニ被告ヲ補助センカ爲メ之ニ附隨シタルニ過キス)トノ數語ニ止リ恰モ從參加人ノ資格其物ニ付爭アリタル如ク説明シ上告人ノ主張事實ニ對シテハ一事再理ニ非ストノ理由遺脱シアルカ故ナリ加之其冒頭ニ(賃貸借契約ノ解除ヲ原因トシ畧中云々案件ニ係リ)ト説示シ直ニ(控訴人ハ從參加人トシテ畧中云々附隨シタルニ過キス)トノ説明ニ止メアルヲ以テ本訴ノ原因ハ果シテ前訴ト同一ニ非サルヤ如何ノ點ニ至リテハ何等ノ説明モナク此點ヨリ視ルモ是亦裁判ニ理由ヲ付セサル不法アリト謂ハサルヲ得ス」第二點ハ民事訴訟法第五十五條ヲ不當ニ適用セサル不法ナリ同條ニ日ク從參加人ハ訴訟ヨリ脱退シタルトキト雖モ其補助シタル原告若クハ被告トノ關係ニ於テハ其訴訟ノ確定裁判ヲ不當ナリト主張スルコトヲ得ストアリ苟モ從參加人トシテ補助シタル限リハ半途訴訟ヨリ脱退シタルト雖モ其確定裁判ニ對シテハ不當ナリト主張スルコトヲ許サス况ヤ本件被上告人ノ如キ徹頭徹尾從參加人トシテ自己ノ權利ヲ主張シタル者ニ於テヲヤ既ニ被上告人カ從參加人トシテノ關係ハ第一點ニ於テ開陳シタル通リナリ然ラハ則チ本訴ニ於テ同一ノ事實原因ヲ主張シ其確定判决ニ對シ不當ヲ主張スルモノナルコトハ炳乎トシテ火ヲ視ルヨリ明カナルヲ以テ當然被上告人ノ請求ヲ却下スヘキモノトス然ルニ原院カ其條項ヲ誤解シ事實上ノ判斷ヲ與ヘタルハ不法ト謂ハサルヲ得ス今原院判文ヲ視ルニ(被控訴人ハ民事訴訟法第五十五條ヲ引用シ控訴人ハ前訴ノ不當ヲ主張スルヲ得スト云フト雖モ該法條ヲ(チ)ハ(ハ)ノ誤ナラン 從參加人ト其補助シタル當事者ノ關係ヲ規定シタルモノニシテ)トアリテ補助者タル從參加人ト被補助者タル被告(若クハ原告)トノ關係ニ於テ從參加人ハ被補助者タル被告ニ對シ確定裁判ノ不當ヲ主張スルコトヲ得サルトノ意ナリト説明セリ蓋シ該法條タル讀テ字ノ如ク補助者タル從參加人ハ被補助者タル被告トノ關係ニ付自己ト其相手方間トノ確定裁判ニ對シ相手方ニ對シテ不當ヲ主張スルコトヲ許サストノ律意ナルコト明ナルヘシ之ヲ詳説セハ其訴訟ノ確定裁判ニ對シテハ其參加期ノ遲速ニ拘ラス(同條第二項ノ場合ハ格別)事實ノ確定ニ關スルト法律ノ適用ニ關スルトヲ分タス其裁判不當ナリト主張スルヲ許サヽルモノニシテ確定判决ノ効力ハ原被當事者間ニ止ルトノ原則ヲ特ニ從參加人カ訴訟半途脱退ノ場合ニ迄擴張規定シタルモノニシテ從參加人ナルト將タ告知參加人ナルトヲ問ハス苟モ訴訟ニ干與シタル上ハ其勝敗雙方間ニ對スル確定裁判ノ効力ヲ定メタルコト明瞭ナリトス若シ原院解釋ノ如クセハ被補助者タル被告カ敗訴セハ補助者タル從參加人モ亦敗訴スルヲ以テ敗訴者カ敗訴者ニ對シ確定裁判ノ不當ヲ主張スルコトヲ得ストノ奇觀ヲ呈スルニ至ルヘシ豈如斯キ理アランヤ是民事訴訟法第五十五條ヲ不當ニ適用セサルモノトスト云フニ在リ
然レトモ民事訴訟法第五十三條以下ニ規定シタル訴訟ノ從參加ハ主參加ト異ナリ他ノ當事者間ニ於ケル訴訟ニ依リ權利上利害ノ關係ヲ有スル者カ原告若クハ被告ニ附隨シ一方ノ訴訟行爲ヲ補助スルノミヲ目的トスルモノニシテ參加人自ラ獨立シテ當事者トナリ又ハ共同訴訟人トナルモノニアラサルコトハ同第五十三條ノ法文上洵ニ明瞭ニシテ從參加人モ亦一ノ當事者ナリトノ上告論旨ハ法律ノ誤解タルヲ免レス又同法第五十五條從參加人ハ云々補助シタル原告若クハ被告トノ關係ニ於テハ其訴訟ノ確定裁判ヲ不當ナリト主張スルヲ得ストアルハ專ラ從參加人ト補助ヲ受ケタル原告若クハ被告トノ關係ノミヲ規定シタルモノニシテ例ヘハ甲乙間ニ成立タル賣買ノ目的物ニ付丙ハ其所有者ナリト主張シ買主ナル乙ニ對シテ訴訟ヲ提起シ賣樂ナル甲ハ其訴訟ニ參加シ買主ナル乙ヲ補助シタルモ結局丙ノ勝訴ニ歸シ其裁判確定シタル場合ニ於テ敗訴シタル買主乙ヨリ參加人タリシ甲ニ對シ損害要償ノ權利アリト主張スルニ當リ甲ハ右乙丙間ノ確定判决ヲ不當ナリト論爭スルヲ得サルノ類ヲ指シタルモノ即チ補助サレタル當事者ト從參加人トノ間ニ確定判决ノ効力ヲ及ホスノ法意ニシテ補助サレタル原告若クハ被告ノ相手方ト從參加人トノ間ニ其効力アラシムル規定ニアラサルコトハ補助シタル原告若クハ被告トノ關係ニ於テハ云々ト特書シアル法文ニ依テ判然タリ故ニ乙第一號證ノ三ナル上告人ト高橋鶴吉トノ間ニ於ケル確定判决ハ高橋鶴吉ヲ補助シタル從參加人タリシ被上告人ニ對シ上告人ヨリ其既判効ヲ對抗シ得ヘキモノニアラス被上告人ハ右ノ上告人ト高橋鶴吉トノ間ニ受ケタル確定判决アルニ拘ハラス
上告人ニ對シテハ更ニ同一ノ訴訟物ニ付其權利ヲ主張スルコトヲ得ヘキナリ何トナレハ民事訴訟法第五十五條ニ補助サレタル原告若クハ被告ノ相手方ト從參加人トノ關係ヲ包含セサルコトハ前段説明ノ如クニシテ其他是ニ關スル規定アルコトナケレハナリ然レハ本件ハ一事不再理ノ法則ニ悖戻スルコトナク且從參加ニ關スル原判决ノ見解ハ適法ニシテ上告論旨ノ如キ違法アルコトナシ(判旨第一點)
第三點ハ原判决ハ法則ニ違背シ立證ノ責任ヲ不當ニ上告人ニ負ハシメタル不法アリ凡ソ請求者即チ原告タル者ハ自己ノ權利ヲ立證シ其反證ニ對シテハ尚ホ進テ之ヲ排斥スル擧證ノ責ニ任セサルヘカラス而テ本件被上告人ハ第一審ノ原告ナルヲ以テ當然其責任ヲ盡サヽルヲ得ス今原判文ヲ通讀スルニ其冐頭ニ(被控訴人ハ自己カ神戸勘五郎ヲシテ云々明治三十五年一月十八日同人ヨリ之ヲ買取リ爾來所有シ居ルモノナリト云フト雖モ證人前田磯吉ノ陳述ニ依レハ云々被控訴人ノ主張ハ事理ニ反シ信ヲ措キ難キノミナラス)又(甲第五號證ニ依レハ云々被控訴人ハ係爭物件ニ該當スト主張スルモノハ勘五郎カ西區境川町七百九十番七百九十九番ノ合併ノ一一反一畝五歩地上建物十二坪五合トシテ同月六日附保存登記ヲ受ケタルモノナルコト明白ニシテ第一審ノ證人金森又一郎當審ノ證人吉田般治ノ各證言云云從テ係爭家屋ハ被控訴人ノ所有ニアラサルコト明ナリトス)トアリ恰モ上告人カ請求者タル原告ノ地位ナルカ如ク看做シ上告人ノ主張ヲ排斥セルハ其結果自然ニ係爭物件ハ被上告人ノ所有ニ歸スルモノ、如ク説明シ以テ上告人カ十分ノ立證アラサルヲ以テ其主張ハ不當ナリトノ趣意ニ判示シアリ是立證方法ニ關スル法則ニ違背シ立證ノ責任ヲ不當ニ上告人ニ負ハシメタル者ト謂ハサルヲ得ス或ハ原判文其後段ニ(之ニ反シテ第一審ノ證人越岡友吉ハ云々但シ吉田般治ハ係爭建物ノ同上地番合併ノ一ニアラスト證言セリ其證言ヲ眞實ナリトセハ保存登記ハ所在地番ノ表示ニ付聊カ實地ト相違スル所アルモノヽ如シト雖モ其相違ノ如キハ畢竟誤謬ニ過キスシテ更正ヲ爲シ得ヘキモノナルカ故云々甲第一號證ニ依レハ明治三十四年五月八日勘五郎カ保存登記ヲ爲シタル前示ノ建物則チ係爭物件ニ付控訴人ハ同日抵當權ヲ取得シ云々)ト説明シアルヲ以テ上告人ニ責任ヲ負ハシメタルニ非スト論スル餘地アランカ行文上到底如斯ク解スルコトヲ得サルナリ何トナレハ前段ニ於テ上告人ノ主張ヲ排斥シテ上告人ノ所有家屋ニ非スト認定シ後段ニ於テ之ニ反シテ第一審ノ證人越岡友吉云々聊カ實地ト相違スル所アルモノ、如シト雖モ其相違ノ如キハ畢竟誤謬ニ過キスシテ云々ト説明シ反テ被上告人ノ主張事實ハ證人ノ證言等建物存在ノ地番ニ關シ相違アルモ畢竟誤謬ニ過キスト暴斷シテ稍々被上告人ノ所有家屋ト認メ得ラルヽトノ趣旨ニ解スルヨリ外無カルヘシ果シテ然ラハ原告ノ地位タル上告人ノ主張請求ハ立證不充分ナルカ故其所有家屋ニ非スト斷定シ飜テ其餘派トシテ被告ノ地位タル被上告人ノ抗辯ハ稍々是認スルニ足ルトノ趣旨ヲ以テ説明シタルニ異ナラサルナリ是則チ立證ノ責任ヲ顛倒シテ上告人ニ負ハシメタル不當ノ判决ト謂ハサルヲ得スト云フニ在リ
然レトモ原判决ハ其説明ノ後段ニ於テ原告タル被上告人ノ立證趣旨ヲ是認シタル理由ヲ詳細ニ明示シアレハ上告人所論ノ如キ立證責任ヲ被告タル上告人ニ負ハシメタル判旨ニアラス上告論旨ハ畢竟原判决ノ理由ハ説明ノ順序ヲ誤リタルモノトシ其判旨ハ上告人ノ解スル如クナラサルヘカラスト論爭スルモノヽ如クナレトモ當事者ノ攻撃防禦ノ方法ニ對スル判斷ハ孰ヲ先ニシ孰ヲ後ニスルモ其判旨ノ存スル所ヲ解シ得ルヲ以テ足レリトス而テ原判决ノ説明ハ上告人ノ抗辯ヲ排斥シテ被上告人ノ主張ヲ其立證ニ依テ是認シタル理由明瞭ナルニ依リ上告論旨ハ理由ナシ
第四點ハ法律ニ違背シテ事實ヲ確定シタル不法アリ凡ソ不動産ニ關スル權利ノ得喪及ヒ變更ニ付第三者ニ對抗センニハ登記法ノ定ムル所ニ從ヒ登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ストハ民法第百七十七條ニ規定スル所ナリ建物ノ登記ニ關シテハ登記法第七十八條以下ニ定ムル如ク其建物ノ敷地タル地目字若クハ番號段別坪數等規定ニ基キ登記スルニ非レハ建物登記ノ表示アリト云フコトヲ得ス表示アラサル上ハ假令事實上登記シタリトスルモ法律上登記ナキト一般之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得サル筋合ナリ本件被上告人ノ請求事實ハ其目的タル西區境川町南ハ尻無川北側堤防ニ接シ東ハ築港大道路ニ架設セル境川第一橋ノ西詰ヨリ南折シテ尻無川北側堤防ニ達スル道路ニ接スル所ニ存在スル建坪十一坪二合五勺ノ木造瓦茸二階家本家一棟ヲ請求スト云フニ在リ(第一審第二審事實摘示ノ部參照)甲第一號證登記簿謄本ノ如ク登記ヲ經タリト稱スルモ請求自體ニ於テ其登記簿ニ表示シタル所ノ西區境川町七百九十六、七百九十七番合併ノ一、畑二反八畝二十一歩ノ地上ニ建設シアル建物ヲ請求スト云フニ在ラスシテ前記ノ如ク南ハ尻無川北側堤防ニ接シ東ハ築港云々ノ位置ニ在ル建物ヲ請求スルモ其敷地ノ坪數番號ハ知ラスト云フニ在リ而テ事實上亦係爭建物ハ甲第一號證記載ノ番號及ヒ其反別地上ニ在ルニ非ス此事實ハ原院モ亦其判文上(證上吉田般治ハ係爭建物ノ所在地ハ七百九十六番七百九十七番合併ノ二ニシテ同上地番合併ノ一ニ非スト證言セリ其證言ヲ眞實ナリトセハ右保存登記ハ所在地番ノ表示ニ付聊カ實地ト相違スル所アルモノ、如シ)トアル如ク認メタル所ナリ之ニ反シ上告人ノ抗辯ハ現ニ西區境川町七百九十八番七百九十九番合併ノ一、畑一反一畝五歩地上ニ在ルコト市街偏入後同町九百九十二番ノ一、市街宅地六十九坪四合八勺タルコト(甲第五號證登記簿ヲ以テ立證セリ)該地所有者ハ政岡ムメタルコト(乙第二號ノ一、土地臺帳謄本)九百九十二番ノ一、市街宅地六十九坪四合八勺ハ明治三十五年一月中上告人カ政岡ムメヨリ賃借シ其當時ヨリ引續キ高橋鶴吉ノ居住スルコト(乙第四號ノ一、三奧田光太郎金川喜助ノ證言)而テ其地上ノ係爭家屋ハ明治三十四年四月六日上告人カ登記ヲ經テ買取タルコト(甲第五號證)ヲ立證抗辯シ尚ホ進テ被上告人カ登記ヲ經タリト云フ甲第一號證表示ノ建物敷地タル七百九十六、七百九十七合併ノ一地所所有者ハ和田アヰナルコト(乙第二號ノ二)ヲ立證シタリ以上ノ各證ハ被上告人モ亦認メタル所ニシテ如斯ク上告人ハ係爭家屋ヲ表示シタル登記簿家屋ノ敷地反別番號及ヒ地所所有者等完全ニ立證シタリ然ラハ則チ原院カ乙號各證ヲ排斥シ進テ被上告人ノ所有家屋ナリト判定シ之ヲ第三者タル上告人ニ對抗セシメンニハ適切ナル證據ヲ指示シ色由ヲ付シテ乙號各證ヲ排斥セサルヘカラス普通ノ場合ニ於テ證據ノ採否ハ原院ノ職權ニシテ採用シタル所以ノ證據ヲ擧示セハ其反對證ハ自然ニ排斥サル、筋合ナリト雖モ本件ニ於テ上告人カ呈出シタル如キ法律上合法ノ證據ヲ排斥センニハ其理由ヲ付シテ排斥セサル可ラス何トナレハ其被上告人請求自體ハ登記ヲ經タリト稱スル甲第一號證登記簿ノ表示ト悉皆相違シ法律上登記ナキモノト看做スヘキ事由ニ屬スルニ反シテ上告人ノ主張事實ハ反別番號坪數等全然甲第五號證登記簿ノ通リニシテ此ノ證據タル第三者ニ對シ有力ナル法律上ノ効果ヲ有スルカ故ナリ然ルニ原院ハ此合法有力ナル證據ヲ排斥スルニ當リ一字一語モ其理由ヲ付セス單ニ(控訴人ハ自己カ神戸勘五郎ヲシテ明治三十四年四月六日登記ヲ經テ云々爾來所有シ居ルモノナリト云フト雖モ云々被控訴人ノ主張ハ事實ニ反シ信ヲ措キ難シ云々)ト説明シテ漫然排斥シ去リ直ニ上告人ノ抗辯不當ト判定シタルハ法律上登記ナキモノト看做サレ從テ第三者タル上告人ニ對抗シ得サル被上告人ノ請求事實ヲ資テ直ニ上告人ニ對抗セシメタルモノト謂ハサルヲ得ス是レ法律ニ違背シテ事實ヲ確定シタル不法タルコトヲ免レサルヘシト云フニ在リ
然レトモ原判决ニ認定シタル事實ニ據レハ係爭建物ノ所在地ハ大阪市西區境川町七百九十六番七百九十七番合併ノ二ニシテ其建物ハ被上告人カ取得シタリト主張スルモノニ該當シ上告人カ神戸勘五郎ヨリ買取タル建物ハ係爭物ニ該當セサルコト明瞭ナリ而シテ系爭物ノ保存登記ハ公薄上七百九十六番七百九十七番合併ノ一トシテ登記シアレトモ其合併ノ一トアルハ二ノ誤謬ニシテ其誤謬ハ更正シ得ヘキモノナルコトモ被上告人ノ立證ニ據リ原判决ノ認ムル所ナリ既ニ其誤謬ノ更正スルヲ得ヘキモノナル以上ハ未タ其更正ヲ經サルモ之ヲ無効ト爲スヘキニ非ス故ニ原裁判カ此理由ニ依リ被上告人ノ主張スル登記ハ誤謬アルモ其効力ヲ失ハサルモノト判斷シテ被上告人ノ主張ヲ是認シタルハ適法ニシテ上告論旨ハ理由ナシ(判旨第四點)
第五點ハ判决ハ民事訴訟法第二百三十三條第二百三十五條ノ手續規定ニ背反シタルヲ以テ無効ノ判决ナリトス同第二百三十三條ニ判决ハ口頭辯論ノ終結スル期日又ハ直ニ指定スル期日ニ於テ之ヲ言渡ストアリ又第二百三十五條ニ判决ノ言渡ハ當事者又ハ其一方ノ在延スルト否トニ拘ラス其効力ヲ有ストアルヲ以テ判决ニ効力ヲ有セシメンニハ當事者ノ在延スルト否トニ拘ラス其言渡ハ必ス指定シタル期日ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要スルモノトス蓋シ其言渡ハ素ト出延ノ當事者ニ向テ爲スヘキモノナルカ故ナリ今原院九月二十一日辯論調書ヲ閲ルニ(裁判長ハ結審ヲ告ヶ來ル二十八日午前八時判决言渡スヘキ旨ヲ告ケ當事者ハ承諾セリ)トアリ然ラハ則チ其期日ニハ必ス言渡サヽル可ラス若シ言渡スハルトキハ判决トシテ其効力ヲ有セサルコト明カナリトス因テ其點ニ付調査スルニ記録中(明治三十八年十月三日午前九時四十分言渡ス)ト記載アル判决言渡調査ナルモノアリト雖モ先ニ當事者ニ對シ指定シタル期日ハ如何ニ經過シタルヤ何等視ルヘキノ調書若クハ决定書アラサルヲ以テ裁判所カ職權上先ノ期日ヲ變更シタルニモ非ス新期日ヲ指定シタルニモ非ス又當事者ニ言渡期日ヲ通知シタルニモ非ス或ハ其判决言渡調書ナルモノハ他ノ書類ノ誤リテ綴込レタルヤモ知ル可ラル到底法律上本件ニ對スル判决言渡調書ト看做スコトヲ得サルナリ何トナレハ九月二十一日ノ辯論調書ト因果ノ關係有ラサルカ故ナリ果シテ然ラハ言渡サヽル判决ナルヲ以テ無効ト謂ハサルヲ得スト云フニ在リ
依テ訴訟記録ヲ査閲スルニ明治三十八年十月三日判决言渡ニ付出頭スヘキ旨ノ呼出状ヲ上告人等ニ送達シタル送達證書ヲ記録ニ添附シアルニ依リ原裁判所ハ前ニ指定シタル期日ヲ變更シテ適法ニ判决言渡ノ手續ヲ爲シタルコト明白ナルヲ以テ上告論旨ハ理由ナシ
以上説明スル如ク本件上告ハ一モ適法ノ理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ノ規定ニ依リ之ヲ棄却スヘキモノトス
明治三十八年(オ)第五百四十三号
明治三十八年十二月十八日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 民事訴訟法第五十三条以下に規定したる訴訟の従参加は主参加と異なり。
他の当事者間に於ける訴訟に依りて権利上利害の関係を有する者が原告若くは被告に附随し一方の訴訟行為を補助することのみを目的とするものにして参加人自ら独立して当事者と為り又は共同訴訟人と為るものに非ず(判旨第一点)
- 一 民事訴訟法第五十五条は専ら補助を受けたる当事者と従参加人との関係のみを規定したるものにして補助を受けたる原告若くは被告の相手方と従参加人との間に確定判決の効力を及ぼさしむる法意に非ず(同上)
(参照)従参加人は訴訟より脱退したるときと雖も其補助したる原告若くは被告との関係に於ては其訴訟の確定裁判を不当なりと主張することを得ず。
(民事訴訟法第五十五条第一項) - 一 登記事項に誤謬あるも之を更正し得べきものなる以上は登記の効力を失ふことなし(判旨第四点)
上告人 豊田儀兵衛
訴訟代理人 村田継述
被上告人 大場はる
右当事者間の所有権確認請求事件に付、明治三十八年十月三日大坂控訴院が言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告理由第一点は原判決は民事訴訟法第四百三十五条法則を不当に適用せざる不法あり。
本件の事実関係は被上告人が明治三十五年十月六日競落に依り家屋の所有権を得たるに付、其権利を確認せよとの請求原因なり。
(原判決及び第一審判決事実摘示の部参照)故に係争家屋は上告人の所有なりや将た被上告人の所有なるやの論争に係れり。
而して此事実関係たる大坂地方裁判所三六(レ)第八七号事件に於て本当事者間に対し上告人の所有家屋なりと判決され既に其判決は確定せり上告人は原院に於て其事実関係を申立乙第一号証の一、二、三を提出して一事再理たることを論争せり乃ち被上告人が其訴訟の従参加人として(乙第一号証の三)前訴判決事実摘示の部に(控訴人が「高橋鶴吉」現住の家屋は元と訴外人神戸勘五郎の所有なる処従参加人は明治三十五年十月六日競落許可決定に由り該家屋の所有権を取得し之を控訴人に賃貸したる旨陳述したり。
)と摘示したる如く前訴に於て被上告人が本訴請求原因と同一の事実関係を主張して等しく自己の所有家屋なりと論争するに在り。
故に上告人は其事実を否認し上告人の所有家屋なりと主張し(乙第一号証の一、二、三、上告人の主張事実摘示の部参照)たり左れば前訴に於て判決主文に包含されたる直接関係の事実原因は係争家屋は上告人(前訴被控訴人)の所有なるや将た被上告人(前訴従参加人)の所有なるやに在り而て其判決に(乙第一号証の三)控訴人が現住せる家屋は訴外人政岡むめの所有地上に建設しありて被控訴人の所有家屋なりと認む云云と判定され其判決は本訴と同一の事実関係なりとす。
果して然らば被上告人が同一の請求原因を主張して再ひ上告人に対し請求するを原院が漫然事実審理を為す如きは一事不再理の原則に背反し確定判決を無視するものと謂はざるを得ず。
或は前訴は従参加人なり。
資格に於て異れりと論する者あらんか凡そ判決は其権利を主張し論争したる当事者即ち関係人間に於て確定するものなること論を竢たず。
然らば則ち従参加とは他人間に権利拘束となりたる訴訟に於て自己の権利に基き自己の利益の為め之に参加する者なるを以て一の当事者即ち附従当事者と云ふを得べく判決も亦此当事者に対しても言渡されたること明瞭なりとす。
果して然らば被上告人は前訴に於て所有権を主張し自己の家屋なりと論争し其敗訴の判決確定したるに拘はらず同一の請求原因に基き本訴を提起したるものなり。
而して此事実関係は当事者間争ひなく原院も亦認めたる所なり。
故に原判決は一事不再理の原則に背反し法則を適用せざるものと謂はざるを得ず。
原判決説明に依れば(乙第一号各証に依れば該訴訟事件に於ては被控訴人は高橋鶴吉に対し賃貸借契約の解除を原因として略中家屋の明渡を請求し控訴人は従参加人として高橋鶴吉を補助したる案件に係り控訴人は単に被告を補助せんか為め之に附随したるに過ぎず)とあり其趣意たる頗る不明なりと雖も蓋し前訴は上告人が賃貸借契約の解除を原因として家屋明渡を請求し本訴は被上告人が所有権を原因として其確認を求むる案件なるを以て請求原因の異なれりとの趣意が若くは前訴は被上告人が高橋鶴吉を補助の為め無意味に之に附随したるに過ぎずして自己の権利を主張し自己の利益の為め論争したるに非ずとの趣意なるか其文意を解するに甚た苦むと雖も蓋し二者の一に外ならざる可し若し前者の意なりとせんか原院は請求の直接関係の事実を看過し。
従て請求原因の何たる事を誤解したるものと謂はざるを得ず。
何となれば前訴に於て被上告人が主張したる請求権の因りて生ずる直接関係の事実は係争家屋は競落に因り自己の所有に帰したりと云ふに在り(乙第一号証一、二、三)此場合に於て被上告人が原告の従参加人なりと仮定して其請求原因は何れにありやと問へは取も直さる競落に因り所有権を得たりと云ふ事実関係なることは一目瞭然たるべし、而して本訴の請求原因も亦同一の事実関係なること論を竢たず。
然らば則ち其原因は同一なるに請求原因の事実関係を誤認して前訴は賃貸借契約の解除を原因とし云云と説明したる結果一事不再理の原則を適用せざる不法たるを免れず蓋し請求の原因とは請求権の因りて生ずる直接関係の事実の謂ひたることは御院の判例として認めらるる所なり。
(三十五年(オ)第四百九十八号判例)若し後者の趣意なりと解せんか従参加人は民事訴訟法第五十三条第五十四条に規定する如く一方の勝訴に依り利害関係を有するを以て自己の権利に基き自己の利益の為め一方を補助し尚ほ独立して故障異議又は上訴を為すの権利を有するなり。
然らば則ち原判決説明の如く(則ち控訴人は単に被告を補助せんか為め之に附随したるに過ぎず控訴人と被控訴人との間に確定判決の効力を生ずべき場合に非ざるが故に本件を目して一事再理なりとするを得ず。
)と云ふ如き無意味に附随するものにあらざること明かなり。
蓋し其判示たる一方を補助せんか為め附随するが故従参加人なりと云ふに止り恰も白色なるが故白色なりと云ふと一般毫も上告人の主張に対して何等の説明も与へられざるなり。
上告人は原院に於て被上告人は前訴の従参加人なり。
同一の事実関係なりと主張したり。
故に此点を排斥せんには前訴は従参加人なるを以て其事項は云云なり。
其事実及法律関係は如斯なり。
故に確定判決の効力を生ずるものに非ずとの事実関係の理由を付して之が判断を為さざる可からず。
然るに原院の判決茲に出でさるは民事訴訟法第四百三十六条裁判に理由を付せざる不当の判決たることを免れざるべし何となれば(控訴人は単に被告を補助せんか為め之に附随したるに過ぎず)との数語に止り恰も従参加人の資格其物に付、争ありたる如く説明し上告人の主張事実に対しては一事再理に非ずとの理由遺脱しあるが故なり。
加之其冒頭に(賃貸借契約の解除を原因とし略中云云案件に係り)と説示し直に(控訴人は従参加人として略中云云附随したるに過ぎず)との説明に止めあるを以て本訴の原因は果して前訴と同一に非ざるや如何の点に至りては何等の説明もなく此点より視るも是亦裁判に理由を付せざる不法ありと謂はざるを得ず。」第二点は民事訴訟法第五十五条を不当に適用せざる不法なり。
同条に日く従参加人は訴訟より脱退したるときと雖も其補助したる原告若くは被告との関係に於ては其訴訟の確定裁判を不当なりと主張することを得ずとあり苟も従参加人として補助したる限りは半途訴訟より脱退したると雖も其確定裁判に対しては不当なりと主張することを許さず況や本件被上告人の如き徹頭徹尾従参加人として自己の権利を主張したる者に於てをや既に被上告人が従参加人としての関係は第一点に於て開陳したる通りなり。
然らば則ち本訴に於て同一の事実原因を主張し其確定判決に対し不当を主張するものなることは炳乎として火を視るより明かなるを以て当然被上告人の請求を却下すべきものとす。
然るに原院が其条項を誤解し事実上の判断を与へたるは不法と謂はざるを得ず。
今原院判文を視るに(被控訴人は民事訴訟法第五十五条を引用し控訴人は前訴の不当を主張するを得ずと云ふと雖も該法条を(チ)は(ハ)の誤ならん 従参加人と其補助したる当事者の関係を規定したるものにして)とありて補助者たる従参加人と被補助者たる被告(若くは原告)との関係に於て従参加人は被補助者たる被告に対し確定裁判の不当を主張することを得ざるとの意なりと説明せり蓋し該法条たる読で字の如く補助者たる従参加人は被補助者たる被告との関係に付、自己と其相手方間との確定裁判に対し相手方に対して不当を主張することを許さずとの律意なること明なるべし之を詳説せば其訴訟の確定裁判に対しては其参加期の遅速に拘らず(同条第二項の場合は格別)事実の確定に関すると法律の適用に関するとを分たず其裁判不当なりと主張するを許さざるものにして確定判決の効力は原被当事者間に止るとの原則を特に従参加人が訴訟半途脱退の場合に迄拡張規定したるものにして従参加人なると将た告知参加人なるとを問はず苟も訴訟に干与したる上は其勝敗双方間に対する確定裁判の効力を定めたること明瞭なりとす。
若し原院解釈の如くせば被補助者たる被告が敗訴せば補助者たる従参加人も亦敗訴するを以て敗訴者が敗訴者に対し確定裁判の不当を主張することを得ずとの奇観を呈するに至るべし豈如斯き理あらんや是民事訴訟法第五十五条を不当に適用せざるものとすと云ふに在り
然れども民事訴訟法第五十三条以下に規定したる訴訟の従参加は主参加と異なり。
他の当事者間に於ける訴訟に依り権利上利害の関係を有する者が原告若くは被告に附随し一方の訴訟行為を補助するのみを目的とするものにして参加人自ら独立して当事者となり又は共同訴訟人となるものにあらざることは同第五十三条の法文上洵に明瞭にして従参加人も亦一の当事者なりとの上告論旨は法律の誤解たるを免れず又同法第五十五条従参加人は云云補助したる原告若くは被告との関係に於ては其訴訟の確定裁判を不当なりと主張するを得ずとあるは専ら従参加人と補助を受けたる原告若くは被告との関係のみを規定したるものにして例へば甲乙間に成立たる売買の目的物に付、丙は其所有者なりと主張し買主なる乙に対して訴訟を提起し売楽なる甲は其訴訟に参加し買主なる乙を補助したるも結局丙の勝訴に帰し其裁判確定したる場合に於て敗訴したる買主乙より参加人たりし甲に対し損害要償の権利ありと主張するに当り甲は右乙丙間の確定判決を不当なりと論争するを得ざるの類を指したるもの。
即ち補助されたる当事者と従参加人との間に確定判決の効力を及ぼすの法意にして補助されたる原告若くは被告の相手方と従参加人との間に其効力あらしむる規定にあらざることは補助したる原告若くは被告との関係に於ては云云と特書しある法文に依て判然たり。
故に乙第一号証の三なる上告人と高橋鶴吉との間に於ける確定判決は高橋鶴吉を補助したる従参加人たりし被上告人に対し上告人より其既判効を対抗し得べきものにあらず。
被上告人は右の上告人と高橋鶴吉との間に受けたる確定判決あるに拘はらず
上告人に対しては更に同一の訴訟物に付、其権利を主張することを得べきなり。
何となれば民事訴訟法第五十五条に補助されたる原告若くは被告の相手方と従参加人との関係を包含せざることは前段説明の如くにして其他是に関する規定あることなければなり。
然れば本件は一事不再理の法則に悖戻することなく、且、従参加に関する原判決の見解は適法にして上告論旨の如き違法あることなし(判旨第一点)
第三点は原判決は法則に違背し立証の責任を不当に上告人に負はしめたる不法あり。
凡そ請求者即ち原告たる者は自己の権利を立証し其反証に対しては尚ほ進で之を排斥する挙証の責に任ぜざるべからず。
而て本件被上告人は第一審の原告なるを以て当然其責任を尽さざるを得ず。
今原判文を通読するに其冒頭に(被控訴人は自己が神戸勘五郎をして云云明治三十五年一月十八日同人より之を買取り爾来所有し居るものなりと云ふと雖も証人前田磯吉の陳述に依れば云云被控訴人の主張は事理に反し信を措き難きのみならず)又(甲第五号証に依れば云云被控訴人は係争物件に該当すと主張するものは勘五郎が西区境川町七百九十番七百九十九番の合併の一一反一畝五歩地上建物十二坪五合として同月六日附保存登記を受けたるものなること明白にして第一審の証人金森又一郎当審の証人吉田般治の各証言云云。
従て係争家屋は被控訴人の所有にあらざること明なりとす。
)とあり恰も上告人が請求者たる原告の地位なるが如く看做し上告人の主張を排斥せるは其結果自然に係争物件は被上告人の所有に帰するもの、如く説明し以て上告人が十分の立証あらざるを以て其主張は不当なりとの趣意に判示しあり是立証方法に関する法則に違背し立証の責任を不当に上告人に負はしめたる者と謂はざるを得ず。
或は原判文其後段に(之に反して第一審の証人越岡友吉は云云。
但し吉田般治は係争建物の同上地番合併の一にあらずと証言せり其証言を真実なりとせば保存登記は所在地番の表示に付、聊が実地と相違する所あるものの如しと雖も其相違の如きは畢竟誤謬に過ぎずして更正を為し得べきものなるが故云云甲第一号証に依れば明治三十四年五月八日勘五郎が保存登記を為したる前示の建物則ち係争物件に付、控訴人は同日抵当権を取得し云云)と説明しあるを以て上告人に責任を負はしめたるに非ずと論する余地あらんか行文上到底如斯く解することを得ざるなり。
何となれば前段に於て上告人の主張を排斥して上告人の所有家屋に非ずと認定し後段に於て之に反して第一審の証人越岡友吉云云聊が実地と相違する所あるもの、如しと雖も其相違の如きは畢竟誤謬に過ぎずして云云と説明し反で被上告人の主張事実は証人の証言等建物存在の地番に関し相違あるも畢竟誤謬に過ぎずと暴断して稍稍被上告人の所有家屋と認め得らるるとの趣旨に解するより外無かるべし果して然らば原告の地位たる上告人の主張請求は立証不充分なるが故其所有家屋に非ずと断定し翻で其余派として被告の地位たる被上告人の抗弁は稍稍是認するに足るとの趣旨を以て説明したるに異ならざるなり。
是則ち立証の責任を顛倒して上告人に負はしめたる不当の判決と謂はざるを得ずと云ふに在り
然れども原判決は其説明の後段に於て原告たる被上告人の立証趣旨を是認したる理由を詳細に明示しあれば上告人所論の如き立証責任を被告たる上告人に負はしめたる判旨にあらず。
上告論旨は畢竟原判決の理由は説明の順序を誤りたるものとし其判旨は上告人の解する如くならざるべからずと論争するものの如くなれども当事者の攻撃防禦の方法に対する判断は孰を先にし孰を後にするも其判旨の存する所を解し得るを以て足れりとす。
而て原判決の説明は上告人の抗弁を排斥して被上告人の主張を其立証に依て是認したる理由明瞭なるに依り上告論旨は理由なし。
第四点は法律に違背して事実を確定したる不法あり。
凡そ不動産に関する権利の得喪及び変更に付、第三者に対抗せんには登記法の定むる所に従ひ登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ずとは民法第百七十七条に規定する所なり。
建物の登記に関しては登記法第七十八条以下に定むる如く其建物の敷地たる地目字若くは番号段別坪数等規定に基き登記するに非れば建物登記の表示ありと云ふことを得ず。
表示あらざる上は仮令事実上登記したりとするも法律上登記なきと一般之を以て第三者に対抗することを得ざる筋合なり。
本件被上告人の請求事実は其目的たる西区境川町南は尻無川北側堤防に接し東は築港大道路に架設せる境川第一橋の西詰より南折して尻無川北側堤防に達する道路に接する所に存在する建坪十一坪二合五勺の木造瓦茸二階家本家一棟を請求すと云ふに在り(第一審第二審事実摘示の部参照)甲第一号証登記簿謄本の如く登記を経たりと称するも請求自体に於て其登記簿に表示したる所の西区境川町七百九十六、七百九十七番合併の一、畑二反八畝二十一歩の地上に建設しある建物を請求すと云ふに在らずして前記の如く南は尻無川北側堤防に接し東は築港云云の位置に在る建物を請求するも其敷地の坪数番号は知らずと云ふに在り而て事実上亦係争建物は甲第一号証記載の番号及び其反別地上に在るに非ず此事実は原院も亦其判文上(証上吉田般治は係争建物の所在地は七百九十六番七百九十七番合併の二にして同上地番合併の一に非ずと証言せり其証言を真実なりとせば右保存登記は所在地番の表示に付、聊が実地と相違する所あるもの、如し)とある如く認めたる所なり。
之に反し上告人の抗弁は現に西区境川町七百九十八番七百九十九番合併の一、畑一反一畝五歩地上に在ること市街偏入後同町九百九十二番の一、市街宅地六十九坪四合八勺たること(甲第五号証登記簿を以て立証せり)該地所有者は政岡むめたること(乙第二号の一、土地台帳謄本)九百九十二番の一、市街宅地六十九坪四合八勺は明治三十五年一月中上告人が政岡むめより賃借し其当時より引続き高橋鶴吉の居住すること(乙第四号の一、三奥田光太郎金川喜助の証言)而て其地上の係争家屋は明治三十四年四月六日上告人が登記を経で買取たること(甲第五号証)を立証抗弁し尚ほ進で被上告人が登記を経たりと云ふ甲第一号証表示の建物敷地たる七百九十六、七百九十七合併の一地所所有者は和田あゐなること(乙第二号の二)を立証したり。
以上の各証は被上告人も亦認めたる所にして如斯く上告人は係争家屋を表示したる登記簿家屋の敷地反別番号及び地所所有者等完全に立証したり。
然らば則ち原院が乙号各証を排斥し進で被上告人の所有家屋なりと判定し之を第三者たる上告人に対抗せしめんには適切なる証拠を指示し色由を付して乙号各証を排斥せざるべからず。
普通の場合に於て証拠の採否は原院の職権にして採用したる所以の証拠を挙示せば其反対証は自然に排斥さる、筋合なりと雖も本件に於て上告人が呈出したる如き法律上合法の証拠を排斥せんには其理由を付して排斥せざる可らず何となれば其被上告人請求自体は登記を経たりと称する甲第一号証登記簿の表示と悉皆相違し法律上登記なきものと看做すべき事由に属するに反して上告人の主張事実は反別番号坪数等全然甲第五号証登記簿の通りにして此の証拠たる第三者に対し有力なる法律上の効果を有するが故なり。
然るに原院は此合法有力なる証拠を排斥するに当り一字一語も其理由を付せず単に(控訴人は自己が神戸勘五郎をして明治三十四年四月六日登記を経で云云爾来所有し居るものなりと云ふと雖も云云被控訴人の主張は事実に反し信を措き難し云云)と説明して漫然排斥し去り直に上告人の抗弁不当と判定したるは法律上登記なきものと看做され。
従て第三者たる上告人に対抗し得ざる被上告人の請求事実を資で直に上告人に対抗せしめたるものと謂はざるを得ず。
是れ法律に違背して事実を確定したる不法たることを免れざるべしと云ふに在り
然れども原判決に認定したる事実に拠れば係争建物の所在地は大坂市西区境川町七百九十六番七百九十七番合併の二にして其建物は被上告人が取得したりと主張するものに該当し上告人が神戸勘五郎より買取たる建物は係争物に該当せざること明瞭なり。
而して系争物の保存登記は公薄上七百九十六番七百九十七番合併の一として登記しあれども其合併の一とあるは二の誤謬にして其誤謬は更正し得べきものなることも被上告人の立証に拠り原判決の認むる所なり。
既に其誤謬の更正するを得べきものなる以上は未だ其更正を経さるも之を無効と為すべきに非ず。
故に原裁判が此理由に依り被上告人の主張する登記は誤謬あるも其効力を失はざるものと判断して被上告人の主張を是認したるは適法にして上告論旨は理由なし。
(判旨第四点)
第五点は判決は民事訴訟法第二百三十三条第二百三十五条の手続規定に背反したるを以て無効の判決なりとす。
同第二百三十三条に判決は口頭弁論の終結する期日又は直に指定する期日に於て之を言渡すとあり又第二百三十五条に判決の言渡は当事者又は其一方の在延すると否とに拘らず其効力を有すとあるを以て判決に効力を有せしめんには当事者の在延すると否とに拘らず其言渡は必す指定したる期日に於て之を為すことを要するものとす。
蓋し其言渡は素と出延の当事者に向て為すべきものなるが故なり。
今原院九月二十一日弁論調書を閲るに(裁判長は結審を告ヶ来る二十八日午前八時判決言渡すべき旨を告げ当事者は承諾せり)とあり。
然らば則ち其期日には必す言渡さざる可らず。
若し言渡すはるときは判決として其効力を有せざること明かなりとす。
因で其点に付、調査するに記録中(明治三十八年十月三日午前九時四十分言渡す)と記載ある判決言渡調査なるものありと雖も先に当事者に対し指定したる期日は如何に経過したるや何等視るべきの調書若くは決定書あらざるを以て裁判所が職権上先の期日を変更したるにも非ず新期日を指定したるにも非ず又当事者に言渡期日を通知したるにも非ず或は其判決言渡調書なるものは他の書類の誤りて綴込れたるやも知る可らる到底法律上本件に対する判決言渡調書と看做すことを得ざるなり。
何となれば九月二十一日の弁論調書と因果の関係有らざるが故なり。
果して然らば言渡さざる判決なるを以て無効と謂はざるを得ずと云ふに在り
依て訴訟記録を査閲するに明治三十八年十月三日判決言渡に付、出頭すべき旨の呼出状を上告人等に送達したる送達証書を記録に添附しあるに依り原裁判所は前に指定したる期日を変更して適法に判決言渡の手続を為したること明白なるを以て上告論旨は理由なし。
以上説明する如く本件上告は一も適法の理由なきを以て民事訴訟法第四百三十九条第一項の規定に依り之を棄却すべきものとす。