強制管理開始决定ニ對スル抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）11輯731頁

本抗告の理由は民事訴訟法第七百十三条に所謂強制管理を妨ぐる権利とは該条の準用規定たる民事訴訴法第五百四十九条に徴し実体上の権利を意味することは疑を容れざる所なり。 而して[しこうして]再抗告人山脇栄次郎の前の抗告は質権を有することを直接の原因となさず只単に之を前提として大坂区裁判所が登記簿に質権設定登記あるに不拘[かかわらず]之を無視し強制管理開始決定に及びたるは。 即ち手続の瑕瑾なること及該決定は執行不能の無意味のものなりとの趣意にして究竟民事訴訟法第五百四十四条同第五百五十八条により抗告したるものにして同第七百十三条の実体上の権利を主張したるものにあらず。 然る処白井松之助より質権は無効云云の虚構の事実を申出てたるか為め大坂地方裁判所は不得止口頭弁論を開きたる結果先決問題として質権の有効無効に付、判断を下されたるに過ぎず。 然るに大坂控訴院は偶此質権に関する裁判ありしを採で以て再抗告人山脇栄次郎の曩の抗告は質権なる実体法上の権利を其理由に供したりと速断し民事訴訟法第七百十三条に牴触[ていしょく]するものとして右の抗告を棄却せられたるは洵に[まことに]不当なりと云ふ[いう]に在り

仍て[よって]按ず[あんず]るに抗告人は大坂区裁判所明治三十七年（ル）第四六号強制管理事件の目的たる中島千代野所有不動産の上に質権を有し現に其物の使用収益を為し居るかゆへに千代野の債権者白井松之助の申立に係る同不動産の強制管理は抗告人の質権の効果を制限すべき結果を生ずるものなるに由り其申立は却下せざるべからず。 然るに大坂区裁判所が申立を容れて強制管理開始の決定を為したるは不当なりとて其決定の取消を求むるものなれば、即ち第三者にして強制管理を許すことを妨ぐる権利を主張するものに外ならず。 然れば民事訴訟法第七百十三条第五百四十九条に従り債権者又は債権者及び債務者に対し訴を以て強制管理に対する異議を主張することを得るは勿論なりと雖[いえども]も民事訴訟法第五百五十八条は事件の当事者に即時抗告を為すことを許したるまでにして当事者以外の者に之を許したる規定に非ず其他強制執行に関し当事者に非ざる者に抗告を許したる規定なきを以て抗告人の如きは本来強制管理開始決定に対し抗告を為し得べきものに非ざるなり。 随で原院が大坂地方裁判所の裁判を廃棄し抗告人の抗告を棄却したればとて因で抗告人の為め新に独立の抗告理由を生ずべきにあらざれば本件抗告は民事訴訟法第四百五十六条第二項に依り許すべからざるものなるを以て乃ち[すなわち]之を棄却する所以なり。