破産事件ノ决定ニ對スル抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）11輯30頁

本件抗告は抗告人が京都地方裁判所に於て受けたる破産宣告の決定に対して抗告を為したる後明治三十七年十一月十四日抗告理由追加申立書と題する書面を原院に差出たるに原院が京都地方裁判所に差出すべきものなりとして之を抗告人に差戻し同月十五日京都地方裁判所より同書面の同送せらるるに先たち抗告棄却の裁判を為し抗告人の権利伸張の途を遮断したりと云ふ[いう]ものなり。 抑抑抗告は急迫なる場合を除く外は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長の属する裁判所に抗告状を差出して之を為すべきは民事訴訟法第四百五十七条に規定する所なりと雖[いえども]不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長が抗告を理由なしとし同法第四百五十九条に従ひ之を抗告裁判所に送付したる以上は其事件は抗告裁判所に繋属[けいぞく]し何時之に対し裁判あるや知る可からざる場合に迫れるが故此場合同事件に関し提出すべき書面は直接抗告裁判所に差出すを至当なりとす。 然るに原院が京都地方裁判所より本件抗告の送付を受けたる後明治三十七年十一月十四日抗告人の差出したる理由追加申立書を京都地方裁判所に差出すべきものなりとして抗告人に差戻す。 従て抗告人が同書面にて主張せんとしたる理由に付、裁判することなくして抗告棄却の裁判を為すに至りたるは一件記録に徴して明確なる事実なれば是則ち重要なる手続に違背あるものにして民事訴訟法第四百五十六条二項に所謂新なる独立の抗告理由を生じたる場合なるを以て本抗告は之を適法なりとす。 仍て[よって]茲に[ここに]抗告の理由を審按ず[あんず]るに抗告人は被抗告人即ち本件破産申立人は原裁判所に於て其債権を証すとして提出せし甲第一号の一、二は素と抗告人の振出したる約束手形なるには相違なきも其甲第五号証及前審に於ける進蔵松之助の証言によれば右二个[か]の手形は他の約束手形に関する進蔵松之助が被抗告人梅村宗七に対する若干の手形債務の担保となしたるに過ぎずして真に裏書譲渡したるものにあらざるが故に手形上の権利は被抗告人に移転することなし換言すれば単に担保裏書たりしに過ぎざるものなるが故に其主たる債権に基く担保権行使の結果権利移転ある場合の外抗告人に対し何等請求し得べきものにあらず。 故に抗告人は之れが弁済をなさざりしのみ支払停止したる事なし。 仮りに担保裏書の効果として他の手続を要せずして請求し得べしと仮定するも少くも主たる債務の満期後ならざるべからざるや勿論而も右進蔵松之助に対する債権の期限前に於て本件申立をなすが如きは失当なりとす。 然るに原裁判所は直ちに以て甲号各証及前記証言により支払停止の事実を認め破産者と宣告せられたるは不当なりと云ふ[いう]と雖[いえども]も進蔵松之助より梅村宗七へ為したる本件手形の裏書が白地裏書なることは抗告人の援用せる松之助の証言に依りて明白なり。 然れば振出人たる抗告人は商法第四百三十五条の規定に依り手形の文言に従ひて責任を負へるかゆへ松之助と宗七の間に於ては担保として授受したるにせよ之を以て所持人に対し支払を拒むの事由と為すを得ずして結局本抗告は理由なし。 依て之を棄却するものなり。