約束手形金請求ノ件
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大審院民事判決録（民録）10輯1368頁
明治三十七年（オ）第四百二十八號
明治三十七年十月二十七日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 控訴審ハ訴訟ノ手續ヲ更新シ新ナル裁判ヲ爲スモノナルカ故ニ訴訟當事者ハ更ニ事實上ノ主張ヲ爲シ且其證據方法ヲ開示セサルヘカラス
第一審 岐阜地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
上告人 畑佐ツルヱ 外一名
訴訟代理人 下條勇三郎
被上告人 富岡信芳
訴訟代理人 荒川正忠
右當事實間ノ約速手形金請求事件ニ付名古屋控訴院カ明治三十七年六月四日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ一部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判决
原判决中其他控訴人ノ請求ハ棄却ストアル以外ノ分ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ名古屋控訴院ニ差戻ス
理由
上告論旨ノ第五點ハ上告人ハ第一審以來本件手形ニ付テハ控訴人（被上告人）ニ於テ振出人ニ對スル呈示ヲ欠缺セルニヨリ上告人ニ對スル請求權ナキ旨抗爭シ來リタルコトハ第一、二審答辯書同口頭辯論調書ニヨリ明瞭ナリ而シテ被上告人ハ右ニ對スル立證トシテ第一審ニ於テ證人加藤政七ヲ申請セシモ其證言瞹眛ニシテ結局振出人ニ對スル呈示ノ事實明瞭セサリシニヨリ之カ證言ヲ第一審ニ於テモ第二審ニ於テモ引用セサリシコトハ第一審口頭辯論調書控訴状及ヒ第二審口頭辯論調書中ニ毫モ引用ノ主張記載ナキニヨリ明瞭ニシテ上告代理人カ現實立會了知スル所ナリ然ルニ原院ハ右上告人ノ抗辯ヲ排斥スルニ當リ控訴人ノ引用セサル證人加藤政七ノ證言ヲ採用シアリ御院明治三十七年（オ）第一八一號明治三十七年五月九日第二民事部判决上告人佐藤金右衛門外二人被上告人小林重藏間ノ鑛山引渡請求事件ノ判决理由ニヨレハ同審級ノ證據調ハ殊ニ引用セサルモ證據調ヲ申請シタル主旨及其審級口頭辯論中ニ顯ハレタル證據調ナルニヨリ辯論中ニ包含シ引用ノ必要ナキカ如キモ本件ノ如キ前審ノ證人ノ證言ハ當事者引用スルニ非レハ裁判所之ヲ證據トシテ採用スルコト能ハサル主旨ナルコトヲ窺知スルニ足ル若シ之ヲシモ採用スルコトヲ得トスレハ第一審ニ提出シテ第二審ニ提出セサル書證ヲモ採用スルヲ得ルコトヽナル此ノ如キ理ナキニヨリ裁判所ハ申立サル證據ヲ採用スルコト能ハサルニモ不拘原院カ之ヲ採用シ上告人ノ抗辯ヲ排斥スル證據ニ供シタルハ不法ナリト云フニ在リ
按スルニ控訴審ハ訴訟ノ手續ヲ更新シ新ナル一ノ裁判ヲ爲スモノナルカ故ニ訴訟當事實ハ控訴審ニ於テハ更ニ事實上ノ主張ヲ爲シ且之カ證據方法ヲ開示セサル可カラス然ルニ本件第一審ニ於テ被上告人ノ申請ニ因リ訊問シタル證人加藤政七ノ供述ハ控訴審ニ至リ被上告人ニ於テ之ヲ證據方法トシテ援用シタルコトナキハ原院法廷調書ニ徴シテ明白ナル事跡ナルニ原院カ該供述ヲ採リテ被上告人利益ノ判决ヲ爲シタルハ訴訟ノ法則ニ違背シタル不法アルモノトス已ニ此點ニ於テ原判决ヲ破毀スル以上ハ其他ノ上告論祕ニ對シ逐一之ヲ説明スルノ要ナシ
依テ民事訴訟法第四百四十七條第一項及ヒ第四百四十八條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス
