忌避申請却下ノ决定ニ對スル抗告ノ件
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大審院民事判決録（民録）10輯1211頁
明治三十七年（ク）第二百六號
明治三十七年十月七日第二民事部决定
◎决定要旨
- 一 裁判所カ當事者ノ申立テタル唯一ノ證據方法ヲ排斥シタル場合ト雖モ他ニ事情ノ見ルヘキモノナケレハ單ニ此一事ヲ以テ偏頗ノ裁判ヲ爲スヘキ疑アルモノト云フヲ得ス
原審 名古屋控訴院
抗告人 竹内太俊
右抗告人ハ賣買契約取消所有權登記請求事件ニ付キ明治三十七年六月二十四日名古屋控訴院カ爲シタル忌避申請却下ノ决定ニ對シ當院ヘ抗告ヲ爲シタリ依テ决定ヲ爲ス左ノ如シ
本件抗告ハ之ヲ棄却ス
理由
本件抗告ノ趣旨ハ本案事件ニ關スル證人申請ニ付原院ノ主任官裁判長判事澤崎頼之助判事荒井操判事丹羽綱吉判事柏木五百次郎判事細江守均ノ五氏ニ於テハ抗告人カ控訴人トナリテ明治三十七年六月七日ノ口頭辯論期日開廷ニ際シ服部茂ヲ證人トシテ喚問アランコトヲ申請シタルニ謂ハレナク之ヲ却下セラレタルハ偏頗ノ嫌ヒアルモノナリト思料シ右當該裁判官ニ對シ忌避ノ申請ヲナシタルニ原院决定ニ曰ク右ハ民事訴訟法第三十三條ノ明示スル所ニシテ本案忌避ノ理由ハ第一ノ場合ニ該當セサルコトハ勿論ナルヲ以テ第二ノ場合ニ該當スヘキモノナルヤ否ヲ吟味スルニ承審官ノ職權ニ屬スルモノタリ而シテ其證據方法カ唯一ナルト否トニ付キ敢テ區別スヘキ理由存セサルヲ以テ其證據方法ヲ排斥シタレハトテ之レノミヲ以テ直チニ當該承審官ニ偏頗ノ恐レアルモノ即チ判事カ不公平ナル裁判ヲ爲スコトヲ疑フニ足ルヘキ事情アルモノト云フコトヲ得ス是レ主文ノ如ク决定スル所以ナリトシテ忌避申請ヲ却下セラレタルハ服スル能ハサル所ナリ何トナレハ控訴人ヨリ申請シタル證人喚問ハ原院ニ於テ證據調ニ付必要ト認メスシテ判斷シ得ヘキ限度ヲ定メラレタルハ不當ナリ如何ト云フニ控訴人ハ證人ヲ申請シ被控訴人ハ證人必要ニアラス却下アリタシト申立ヲナシタリ茲ニ於テ原院當該承審官タル裁判長以下陪席判事一同ハ被控訴人ノ申立ノミヲ採用セラレ控訴人ノ申請ヲ却下セラレタルハ之レ所謂一ハ之ヲ許シ一ハ之ヲ許サスシテ一方ニ偏シ甲乙相反スル處分ヲセラレタルハ則チ取モ直サス偏頗ノ處置ニシテ著シキ不公平アルモノト云ハスシテ何ソヤ故ニ原院當該承審官ニ對シ偏頗ノ忌避ハ判事ハ不公平ナル裁判ヲ爲スコトヲ疑フニ充分足ルヘキ事情アルニ依ル次第ナリ然ルニ原院ニ於テハ右忌避却下セラレタルハ不當ノ處分ナリト信スト云フニ在リ
依テ審按スルニ當事者ノ申立テタル證據中其調フ可キ限度ハ裁判所ニ於テ之ヲ定ム可キモノナルカ故ニ當事者ノ申立テタル證據ニシテ裁判ヲ爲スニ必要ナキモノト認メタルトキハ其證據調ヲ命セサルコトヲ得可キヲ以テ裁判所カ當事者ノ申立テタル唯一ノ證據方法ヲ排斥シタル場合ト雖モ他ニ偏頗ノ裁判ヲ爲ス可キ事情ノ見ル可キモノナキトキハ單ニ證據方法ヲ排斥シタルノミヲ以テ偏頗ノ裁判ヲ爲ス可キ疑アルモノト云フヲ得ス而シテ本件ニ於テハ原院カ抗告人ノ申立テタル證人服部茂ノ喚問ヲ採用セサリシノミニシテ別ニ偏頗ノ裁判ヲ爲ス可キ事情見エサルカ故ニ本件判事忌避ニ關スル抗告ハ理由ナキヲ以テ棄却ス可キモノトス
