不動産競賣開始决定ニ對スル抗告ノ件

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大審院民事判決録（民録）9輯443頁

抗告理由は原審に於ける抗告理由は第一山林に生ずる立木は天然の果実にして動産なれば不動産の競売には除外するを至当とす。 第二本件競売原因たる債権は明治三十六年六月まで債権者に於て弁済延期を承諾したるに拘らず其期限を無視し競売を申立てたるは不当なりと云ふ[いう]に在りて之を対する原院決定は民事訴訟法に依る不動産競売開始決定は強制執行の一方法たるに過ぎずして終局的性質を有するの裁判にあらず。 故に此裁判に対しては先づ同法第五百四十四条第一項に依り異議を申立つべきものにして直ちに同法第五百五十八条に規定する即時抗告を許すの限りにあらず。 因で抗告人が原裁判所に為したる抗告は不適法なりとす。 従って本抗告も亦[また]不当なるを以て之を棄却すと云ふ[いう]に在り（一）。 然れども[しかれども]本件競売開始決定は執行裁判所たる佐野区裁判所に於て民事訴訟法第四百四十三条第三項に依り口頭弁論を経すして為されたるものなり。 果して然らば同法第五百五十八条に所謂強制執行の手続に於て口頭弁論を経すして為すことを得る裁判に該当し従って即時抗告を許すべきものなるに原決定の茲に[ここに]出でさるは不法なり。 （二）又原院は民事訴訟法に依る不動産競売開始決定は強制執行の一方法たるに過ぎずして終局的性質を有するの裁判にあらず。 故に此裁判に対しては先づ同法第五百四十四条第一項に依り異議を申立つべきものにして直ちに同法第五百五十八条に規定する即時抗告を許すの限りにあらずと云ふ[いう]も同法第五百四十四条の執行実施に関する異議は主として執達吏の執行行為に対して生ずべきものにして執行裁判所の執行行為に対しても常に同条により異議を申立つべきものにあらず。 何となれば執行裁判所の執行行為は多くは口頭弁論を経すして決定を以て之を為すか故に其執行行為にして形式上の不当あれば同法第五百五十八条に依り抗告の方法を以て不服を申立つべきものなれば執行裁判所の執行行為に対しては常に同第五百四十四条に依り異議の申立を為すべきものなりと云ふ[いう]を得ず。 唯裁判の形式を以て為さざるものは裁判所の執行行為に付ても異議を主張し得るに過ぎず。 然るに原院が執行裁判所の執行行為に対しても其口頭弁論を経すして為されたると否とを問はず常に同法第五百四十四条の異議を申立つべきものなりと云ふ[いう]は不当の解釈なりと云はざるを得ずと云ふ[いう]に在り

本件は佐野区裁判所が為したる不動産競売開始決定を不当なりとし宇都宮地方裁判所に抗告し同裁判所は抗告を理由なしとして之を棄却したるに抗告人は尚ほ之に対し同一理由を以て原院に抗告したる処同院は民事訴訟法に依る競売開始決定に対しては民事訴訟法第五百四十四条に依り異議を申立つ可きものにして同法第五百五十八条に規定する即時抗告を許すの限りにあらず。 因で宇都宮地方裁判所に為したる抗告は不適法にして随で本抗告も亦[また]不当なりとの理由を以て抗告を棄却したるに付き前掲の理由を以て更に本院に抗告を為したるものなり。

依て按ず[あんず]るに民事訴訟法第五百四十四条第一項は強制執行の方法又は執行に付き執達吏が遵守す可き手続例へば同第五百二十八条乃至[ないし]第五百三十条第五百三十九条第五百六十四条第五百六十七条第五百七十条第六百十八条第六百四十七条第六百五十一条第六百五十三条第六百五十七条第六百五十八条乃至[ないし]第六百六十一条等の規定に違背して執行したる場合に於て為す可き申立及び異議に関する規定なり。 去れば本件の如く競売開始決定を不当なりとする場合は。 即ち強制執行の手続に付き口頭弁論を経すして為したる裁判に対する不服の申立なれば同第五百五十八条の規定に依り即時抗告を以て申立つることを得。 可きものたり是れ本院の判例とする所なり。 故に原決定は不当なるに因り之を取消す可きものとす。 然れども[しかれども]宇都宮地方裁判所は佐野区裁判所の為したる決定を認可したるものにして本件は既に二個の裁判同一に帰着したるものなれば抗告裁判所即ち宇都宮地方裁判所の裁判が裁判所構成法に違背し若くは重要なる訴訟手続に違背する如き新なる独立の抗告理由を生じたるときにあらざれば更に抗告を為すことを得ざるものなり。 然るに抗告理由は同裁判所に提出したる理由を再演するに過ぎずして民事訴訟法第四百五十六条第二項の規定に該当する理由なきを以て同第四百六十三条第二項の規定に依り不適法として棄却す可きものとす。