明治三十五年(オ)第四百四十五號
明治三十五年十二月二十日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 民法第八百六十六條ハ主トシテ離縁ノ事由ヲ定メタル規定ナルモ養親タル夫婦ハ離縁ノ訴訟ニ付テハ各直接利害關係者ニシテ之ニ對スル判决ハ合一ニノミ確定スヘキ場合ナルヲ以テ養親タル夫婦倶ニ存スルトキハ共ニ訴訟當事者ト爲ルヘキコトヲモ併セテ規定シタルモノト解釋セサルヘカラス
(參照)縁組ノ當事者ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得」一、他ノ一方ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ」二、他ノ一方ヨリ惡意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ」三、養親ノ直系尊屬ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ」四、他ノ一方カ重禁錮一年以上ノ刑ニ處セサレタルトキ」五、養子ニ家名ヲ涜シ又ハ家産ヲ傾クヘキ重大ナル過失アリタルトキ」六、養子カ逃亡シテ三年以上復歸セサルトキ」七、養子ノ生死カ三年以上分明ナルサルトキ」八、他ノ一方カ自己ノ直系尊屬ニ對シテ虐待ヲ爲シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ」九、壻養子縁組ノ場合ニ於テ離婚アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ爲シタル場合ニ於テ離婚若クハ婚姻ノ取消アリタルトキ(民法第八百六十六條)
上告人 秋田谷末太郎
被上告人 秋田谷利助 外一名
右當事者間ノ離縁請求事件ニ付函館控訴院カ明治三十五年六月二十三日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
立會檢事倉富勇三郎ハ意見ヲ陳述シタリ
判决
原判决ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ宮城控訴院ニ移送ス
理由
上告論旨ノ第一ハ原判决ハ法則ヲ不當ニ適用シタル不法アリ原判决ニ於テハ民法第八百四十一條第一項ニ「配偶者アル者ハ配偶者ト共ニスルニアラサレハ縁組ヲ爲スコトヲ得ス」トノ規定アルヲ以テ養父母ハ縁組當事者ノ一方タリ從テ民法第八百六十六條ニ從ヒ養父母ハ共ニ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ヘク又本訴ノ請求ハ同一ナル事實上及ヒ法律上ノ原因ニ基ケルモノニテ權利關係カ合一ニノミ確定スヘキ場合ナルカ故共同訴訟ヲ以テ提出シタルハ適法ニシテ間然スル所無シ」トノ判斷ヲ付セリ右判斷ハ不法ナリ其理由左ノ如シ民法第八百六十六條ニハ縁組ノ當事者ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得トアルニ止マリ養子縁組ノ場合ニ於テハ養親ノ一方トハ父母ヲ併セ稱シタル意ナリヤ否ヤハ明確ナラス而シテ民法第八百四十一條ノ規定ハ配偶者ナル者カ他ノ配偶者ヲ措キ一方ノミニテ養子縁組ヲ爲ス能ハサルコトヲ定メタルニ過キスシテ第八百六十六條トハ何等ノ關係ヲ有セル法條ニアラス而シテ之レヲ同法第十四條ノ能力ニ關スル規定同法第七百三十二條以下第七百六十四條ニ至ル戸主ニ關スル規定等ニ參照スレハ第八百六十六條ニ所謂縁組ノ當事者ノ一方トアル規定ハ養親ニ在リテハ其能力完全ナル夫婦竝ヒ存スル時ハ夫ヲシテ一方ノ當事者タラシムルノ律意ナリト解釋スヘキヲ適當ナリトス若シ然ラストナストキハ夫ノミニ於テ離縁ノ訴ヲ提起シタル場合ハ其訴ハ不適法ナリト論定セサル可カラサルニ至ル可シ然レトモ之ヲ前記各法條ノ關係ヨリ査覈スレハ此ノ如ク論斷スルノ却テ律意ニ添ハサルモノタルヲ知ルニ十分ナルモノアリト信ス故ニ本件ニ於テ被上告人秋田谷スワカ秋田谷利助ト共同原告人トナリ上告人ニ對シ訴ヲ提起シタルハ不適法ナルニ原判决カ民法第八百四十一條第八百六十六條ヲ不當ニ適用シ其訴ヲ適法ナリト判斷セラレタルハ不法ナリト云フニ在リ
按スルニ民法第八百四十一條ニ依レハ養親タル夫婦ハ養子ニ對シ共ニ縁組ノ當事者ナルニ因リ同法第八百六十六條ノ訴ヲ提起スル場合ニ於テモ亦其當事者ナルコト自ラ明ナリト云フヘシ蓋シ第八百六十六條ハ主トシテ離縁ノ事由ヲ定メタル規定ナルモ養親タル夫婦ハ離縁ノ訴訟ニ付テハ共ニ直接利害關係者ニシテ之ニ對スル判决ハ合一ニノミ確定スヘキ場合ナルヲ以テ養親タル夫婦共ニ存スルトキハ其ニ訴訟當事者ト爲ルヘキコトヲモ併セテ規定シタルモノト解釋セサルヘカラス而シテ本件ノ記録ニ徴スレハ明治二十年十二月二十日上告人ヲ養子ト爲シタルハ被上告人夫婦ナルコト明ナルヲ以テ共同訴訟人トシテ本訴ヲ提起シタルハ相當ナリトス
其第二ハ原判决ハ法則ヲ不當ニ適用シ且ツ裁判ニ理由ヲ付セサル不法アリ原判决ニ於テハ「依テ本案請求ノ當否ヲ審究スルニ明治三十四年舊四月中養子タル被控訴人カ其養母タル控訴人スワト口論ノ末同人ノ面前ニ於テ「之レタ」ト云ヒテ爐端ヲ踏ミタルコトハ原審辯論調書中ノ證人成田三郎ノ供述ニ徴シテ明カニシテ斯ル擧動ハ養親ニ對シ重大ノ侮辱ヲ加ヘタルモノト認メサルヲ得サレハ民法第八百六十六條第一號後段ノ離縁請求ノ原因アルモノニシテ控訴人兩名ノ請求ハ實質上其理由アルモノトス」ト判斷セラレタルハ不法ナリ其理由左ノ如シ民法第八百六十六條第一號ニ於テ他ノ一方ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキハ行文上文字上共ニ其意明カナル如ク虐待又ハ之ト殆ント相等シカルヘキ重大ノ侮辱ヲ養親又ハ養子ノ一方カ他ノ一方ヨリ受ケタル場合タラサル可ラス而シテ同一ナル或ル行爲ニシテ養親ヨリ養子ニ對シテハ重大ナル侮辱トハ爲シ難キモ養子ヨリ養親ニ對スレハ重大ナル侮辱トナルカ如キコトアルヘキハ勿論ナリト雖モ前記原判决ニ於テ認メタル事實ノミテ以テハ未タ其孰レノ一方ノ所爲タルヲ問ハス之レヲ以テ法律ニ所謂重大ナル侮辱ナリト認ム可ラサルヤ勿論ナリト信ス蓋シ親子間ニ於ケル禮遇ノ如キ都鄙ノ別教化ノ差ニ依リテ千状萬態其趣ヲ異ニスルモノアリ之レヲ土俗ト人情トニ達觀シ大ニ斟酌スル所アルニアラサレハ正經ヲ得ル能ハサルコト勿論ニシテ本件當事者カ在住スル津輕地方ノ如キニ至テハ人情粗野ノ域ヲ脱セス良シ原判决ニ認メシ如ク養親ノ面前ニ於テ「之レダ」ト云ヒ爐端ヲ踏ミシ如キコトアリトモ未タ何人ト雖モ之レヲ見テ以テ重大ナル侮辱ナリト判斷スル者アル可カラス然ルニ原判决カ此ノ事ヲ以テ直チニ重大ナル侮辱ナリト判斷シタルハ法則ヲ不當ニ適用シタル不法アリトス假リニ此ノ如キコトハ一應ノ推測ニ於テハ重大ナル侮辱ト認ムヘキ事實ナリトナスモ其此事アルニ至ラシメタル機會ニシテ果シテ如何ナリシヤヲ明白ニスルニアラサレハ此行爲カ必定重大ナル侮辱ニ歸スヘキヤ否ヤハ决シテ確定セラレ得ヘキコトニアラス若シ或ハ其機會ニシテ養親ノ挑發スル所トナリ絶大ノ虐待ニ堪ヘ能ハス不得止此事アルニ至リシモノトセンカ敢テ穩當ノ所爲ナリト云フヲ得サレトモ之レニ責ムルニ重大ナル侮辱ノ行爲アリトノコトヲ以テスルノ過酷タルヘキコトハ何人ト雖モ疑ハサル所ナル可シ故ニ原判决ニ於テ上告人ノ行爲ヲ以テ重大ナル侮辱ナリト判斷セントスルニハ原判文ニ掲ケタル理由ノ外更ラニ上告人カ此行爲アルニ至リシ動機ヲ説明シ道義人情共ニ容レ難キノ行爲タリシ理由ヲ説明スルニアラサレハ判决ノ理由備ハレリト爲スヲ得ヘカラス然ルニ原判决カ唯單ニ前記ノ行爲ノミヲ認メ直チニ重大ナル侮辱ナリトノ判斷ヲ付セシハ裁判ニ理由ヲ付セサル不法アリト云フニ在リ
按スルニ原院カ上告人ハ被上告人スワニ對シ重大ノ侮辱ヲ加ヘタル者ナリト判示シタル理由ハ「其面前ニ於テ之レタト云ヒテ爐端ヲ踏ミタル」事實アリト認メタルモノニ外ナラス然レトモ上告人カ斯ル言語ヲ使用シ單ニ爐端ヲ踏ミタリト云フコトハ何故養親ニ對シ重大ナ侮辱ト爲ルモノナルヤニ至ツテハ原判文上之ヲ知ルニ由ナシ被上告代理人ハ右ハ養親ヲ斯ノ如ク踏ムヘシト云フ意ヲ示スモノニシテ即チ重大ノ侮辱ヲ加ヘタルコト明ナル旨辯解スレトモ原判文ノ記載ノミニテハ果シテ此ノ如キ意義ヲ包含スヘキモノナルヤ明ナラス乃チ原判决ニハ民法第八百六十六條第一號後段ニ該當スル行爲アリタリト認メタル理由ヲ具備セサル不法アリト云フヘシ
以上説明スル如ク原判决ニハ上告第一論旨ノ如キ不法アルコトナキモ其第二ノ如ク全部ニ影響スヘキ破毀ノ理由アルヲ以テ第三上告論旨ニ對スル説明ヲ省キ民事訴訟法第四百四十七條及ヒ第四百四十八條各第一項ニ依リ主文ノ如ク判决ス
明治三十五年(オ)第四百四十五号
明治三十五年十二月二十日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 民法第八百六十六条は主として離縁の事由を定めたる規定なるも養親たる夫婦は離縁の訴訟に付ては各直接利害関係者にして之に対する判決は合一にのみ確定すべき場合なるを以て養親たる夫婦倶に存するときは共に訴訟当事者と為るべきことをも併せて規定したるものと解釈せざるべからず。
(参照)縁組の当事者の一方は左の場合に限り離縁の訴を提起することを得。」一、他の一方より虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき」二、他の一方より悪意を以て遺棄せられたるとき」三、養親の直系尊属より虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき」四、他の一方が重禁錮一年以上の刑に処せざれたるとき」五、養子に家名を涜し又は家産を傾くべき重大なる過失ありたるとき」六、養子が逃亡して三年以上復帰せざるとき」七、養子の生死が三年以上分明なるさるとき」八、他の一方が自己の直系尊属に対して虐待を為し又は之に重大なる侮辱を加へたるとき」九、壻養子縁組の場合に於て離婚ありたるとき又は養子が家女と婚姻を為したる場合に於て離婚若くは婚姻の取消ありたるとき(民法第八百六十六条)
上告人 秋田谷末太郎
被上告人 秋田谷利助 外一名
右当事者間の離縁請求事件に付、函館控訴院が明治三十五年六月二十三日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
立会検事倉富勇三郎は意見を陳述したり。
判決
原判決を破毀し更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を宮城控訴院に移送す
理由
上告論旨の第一は原判決は法則を不当に適用したる不法あり。
原判決に於ては民法第八百四十一条第一項に「配偶者ある者は配偶者と共にするにあらざれば縁組を為すことを得ず。」との規定あるを以て養父母は縁組当事者の一方たり。
従て民法第八百六十六条に従ひ養父母は共に離縁の訴を提起することを得べく又本訴の請求は同一なる事実上及び法律上の原因に基けるものにて権利関係が合一にのみ確定すべき場合なるが故共同訴訟を以て提出したるは適法にして間然する所無し」との判断を付せり右判断は不法なり。
其理由左の如し民法第八百六十六条には縁組の当事者の一方は左の場合に限り離縁の訴を提起することを得とあるに止まり養子縁組の場合に於ては養親の一方とは父母を併せ称したる意なりや否やは明確ならず。
而して民法第八百四十一条の規定は配偶者なる者が他の配偶者を措き一方のみにて養子縁組を為す能はざることを定めたるに過ぎずして第八百六十六条とは何等の関係を有せる法条にあらず。
而して之れを同法第十四条の能力に関する規定同法第七百三十二条以下第七百六十四条に至る戸主に関する規定等に参照すれば第八百六十六条に所謂縁組の当事者の一方とある規定は養親に在りては其能力完全なる夫婦並ひ存する時は夫をして一方の当事者たらしむるの律意なりと解釈すべきを適当なりとす。
若し然らずとなすときは夫のみに於て離縁の訴を提起したる場合は其訴は不適法なりと論定せざる可からざるに至る可し。
然れども之を前記各法条の関係より査覈すれば此の如く論断するの却て律意に添はざるものたるを知るに十分なるものありと信ず。
故に本件に於て被上告人秋田谷すわか秋田谷利助と共同原告人となり上告人に対し訴を提起したるは不適法なるに原判決が民法第八百四十一条第八百六十六条を不当に適用し其訴を適法なりと判断せられたるは不法なりと云ふに在り
按ずるに民法第八百四十一条に依れば養親たる夫婦は養子に対し共に縁組の当事者なるに因り同法第八百六十六条の訴を提起する場合に於ても亦其当事者なること自ら明なりと云ふべし。
蓋し第八百六十六条は主として離縁の事由を定めたる規定なるも養親たる夫婦は離縁の訴訟に付ては共に直接利害関係者にして之に対する判決は合一にのみ確定すべき場合なるを以て養親たる夫婦共に存するときは其に訴訟当事者と為るべきことをも併せて規定したるものと解釈せざるべからず。
而して本件の記録に徴すれば明治二十年十二月二十日上告人を養子と為したるは被上告人夫婦なること明なるを以て共同訴訟人として本訴を提起したるは相当なりとす。
其第二は原判決は法則を不当に適用し且つ裁判に理由を付せざる不法あり。
原判決に於ては「依て本案請求の当否を審究するに明治三十四年旧四月中養子たる被控訴人が其養母たる控訴人すわと口論の末同人の面前に於て「之れた」と云ひて炉端を踏みたることは原審弁論調書中の証人成田三郎の供述に徴して明かにして斯る挙動は養親に対し重大の侮辱を加へたるものと認めざるを得ざれば民法第八百六十六条第一号後段の離縁請求の原因あるものにして控訴人両名の請求は実質上其理由あるものとす。」と判断せられたるは不法なり。
其理由左の如し民法第八百六十六条第一号に於て他の一方より虐待又は重大なる侮辱を受けたるときは行文上文字上共に其意明かなる如く虐待又は之と殆んど相等しかるべき重大の侮辱を養親又は養子の一方が他の一方より受けたる場合たらざる可らず。
而して同一なる或る行為にして養親より養子に対しては重大なる侮辱とは為し難きも養子より養親に対すれば重大なる侮辱となるが如きことあるべきは勿論なりと雖も前記原判決に於て認めたる事実のみて以ては未だ其孰れの一方の所為たるを問はず之れを以て法律に所謂重大なる侮辱なりと認む可らざるや勿論なりと信ず。
蓋し親子間に於ける礼遇の如き都鄙の別教化の差に依りて千状万態其趣を異にするものあり之れを土俗と人情とに達観し大に斟酌する所あるにあらざれば正経を得る能はざること勿論にして本件当事者が在住する津軽地方の如きに至ては人情粗野の域を脱せず良し原判決に認めし如く養親の面前に於て「之れだ」と云ひ炉端を踏みし如きことありとも未だ何人と雖も之れを見で以て重大なる侮辱なりと判断する者ある可からず。
然るに原判決が此の事を以て直ちに重大なる侮辱なりと判断したるは法則を不当に適用したる不法ありとす。
仮りに此の如きことは一応の推測に於ては重大なる侮辱と認むべき事実なりとなすも其此事あるに至らしめたる機会にして果して如何なりしやを明白にするにあらざれば此行為が必定重大なる侮辱に帰すべきや否やは決して確定せられ得べきことにあらず。
若し或は其機会にして養親の挑発する所となり絶大の虐待に堪へ能はず不得止此事あるに至りしものとせんか敢て穏当の所為なりと云ふを得ざれども之れに責むるに重大なる侮辱の行為ありとのことを以てずるの過酷たるべきことは何人と雖も疑はざる所なる可し故に原判決に於て上告人の行為を以て重大なる侮辱なりと判断せんとするには原判文に掲げたる理由の外更らに上告人が此行為あるに至りし動機を説明し道義人情共に容れ難きの行為たりし理由を説明するにあらざれば判決の理由備はれりと為すを得べからず。
然るに原判決が唯単に前記の行為のみを認め直ちに重大なる侮辱なりとの判断を付せしは裁判に理由を付せざる不法ありと云ふに在り
按ずるに原院が上告人は被上告人すわに対し重大の侮辱を加へたる者なりと判示したる理由は「其面前に於て之れたと云ひて炉端を踏みたる」事実ありと認めたるものに外ならず。
然れども上告人が斯る言語を使用し単に炉端を踏みたりと云ふことは何故養親に対し重大な侮辱と為るものなるやに至っては原判文上之を知るに由なし。
被上告代理人は右は養親を斯の如く踏むべしと云ふ意を示すものにして、即ち重大の侮辱を加へたること明なる旨弁解すれども原判文の記載のみにては果して此の如き意義を包含すべきものなるや明ならず乃ち原判決には民法第八百六十六条第一号後段に該当する行為ありたりと認めたる理由を具備せざる不法ありと云ふべし。
以上説明する如く原判決には上告第一論旨の如き不法あることなきも其第二の如く全部に影響すべき破毀の理由あるを以て第三上告論旨に対する説明を省き民事訴訟法第四百四十七条及び第四百四十八条各第一項に依り主文の如く判決す