明治三十四年(オ)第三百八十六號
明治三十四年十月三十一日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 呼出状ニハ一定ノ方式ナシ故ニ其記載事項ニシテ訴訟者カ其訴訟ノ爲メニ呼出サレタルコトヲ知リ得ヘキトキハ呼出ノ効力ヲ有スヘキハ勿論ナリ
上告人 勢和鐵道株式會社
右清算人 筧半兵衛 外一名
被上告人 山本恆一郎
右法定代理人 山本クニ
被上告人 上橋茂兵衛
右當事者間ノ株式公賣不足金追徴事件ニ付大阪控訴院カ明治三十四年六月三日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シタリ
理由
上告第一點ハ原判决ハ法律ニ違背シタル不法アルモノナリ第一審裁判所ハ上告人對山本恆一郎間ノ明治三十三年(ワ)第七一號上橋茂兵衛間ノ同年(ワ)第一一六號事件ヲ併合セル闕席判决ニ對シ上告人ヨリ故障申立ヲナシタルヲ以テ此故障申立事件ヲ明治三十三年(ワ)第一五七號ト爲セリ而シテ右(ワ)第一五七號故障申立事件ノ口頭辯論期日呼出状ハ上告人ニ送達セラレタル事ナキニ拘ラス再ヒ闕席判决ヲ受ケタリ原院ハ此點ヲ判决シテ曰ク上告人カ送達ヲ受ケタル明治三十四年三月十四日午後一時口頭辯論期日呼出状(即チ「原告勢和鐵道會社清算人筧半兵衛外二人被告山岡長太郎外四人明治三十三年(ワ)九二、八八、七〇、九七、六八、七一、一一六號併合」トセル訴訟當事者ノ表示ヲ缺キ又カヽル併合事件ノ存在セサル)中ニハ右闕席判决ニ係ル事件ノ番號ト同シク明治三十三年(ワ)第七一、一一六號ト記載アリ訴名モ亦株式公賣不足金追徴トアルヲ以テ故障申立後ノ一五七號ナル番號ノ記載ナシト雖モ右呼出状ハ闕席判决ニ對スル故障ニ付テノ口頭辯論期日呼出状タルコトヲ明認スルニ足ルト曰ヘリ然レトモ凡ソ訴訟ノ呼出状ニハ訴訟當事者ヲ表示スヘキハ民事訴訟法ノ定ムル所ニシテ當事者ノ表示ナキ呼出状ハ無効ニシテ從フテ之カ期日ニ出頭セサレハトテ闕席判决ヲ受クヘキモノニ非ス即チ合式ニ呼出サレタル者ニ非ラサル也然ルニ原院ハ之レヲ以テ呼出アリト爲スハ民事訴訟法ニ違背シタル不法ノ判决ナリトス又呼出状ハ期日ヲ定ムル最重ノ方法ナレハ先キノ番號ト符合ノ記載アル呼出状ト雖モ闕席判决ニ對シ故障受理前一旦裁判所ニ於テ事件ノ番號ヲ改定シタル以上ハ全ク新ナル事件ニシテ上告人ハ先キノ番號ニヨリ事件ノ何ナルヲ甄別スルノ義務ナク遵奉スルノ責任ナク新事件番號ニヨリ出頭期日ノ何日ナルヲ定ムヘキモノトス况ンヤ本件ノ如キ訴訟當事者ノ明示ナキ呼出状ニ付テハ本件番號ニヨリ期日ヲ知ルノ外他ニ方法ナキナリ然ルニ原院ハ一旦消滅セシ事實ヲ採リテ猶旦事件ノ呼出ハ完然ナリト論シ上告人カ右一五七號故障申立事件ノ呼出ナキニ闕席判决ヲナシタル不法アル第一審判决ヲ是認シテ正當ノ呼出アリタリトナスハ不法タル判决ナリト云フニアリ
然レトモ民事訴訟法ニ於テ呼出状ニ就テノ一定ノ方式ヲ定メラレタルコトナシ故ニ其呼出状中ニ記載セラレタル事項ニシテ訴訟者カ其訴訟ノ爲メニ呼出サレタル事ヲ知リ得ヘキニ於テハ其呼出ノ効力ヲ有スヘキハ勿論ナリ然而シテ原判文ヲ査閲スルニ「控訴人(上告人)ハ明治三十三年(ワ)第七一、一一六號事件ノ闕席判决ニ對シ故障ノ申立ヲナシタルモノニシテ其後ノ日附ニ係ル明治三十四年三月十四日午後一時ノ口頭辯論期日呼出状ニハ右闕席判决ニ係ル事件ノ番號ト同シク明治三十三年(ワ)第七一、一一六號ト記載アリ訴名モ亦株式公賣不足金追徴トアルヲ以テ故障申立後ノ一五七號ナル番號ノ記載ナシト雖モ右呼出状ハ即チ控訴人(上告人)ノ闕席判决ニ對スル故障ニ付テノ口頭辯論期日呼出状タルコトヲ明認スルニ足ル云々」ト説明シアリ且ツ該呼出状ヲ査閲スルニ原院ノ説明シタル如クニ記載シアリ而シテ冐頭ニ説明セシ如ク民事訴訟法ニ於テハ特ニ呼出状ノ方式ヲ定メラレタルコトナキヲ以テ此呼出状ニシテ原院ノ説明セシ如ク其期日ノ呼出タルコトヲ知リ得ルニ於テハ其呼出シノ効力ヲ有スヘキハ勿論ナルカ故ニ原判决ハ毫モ上告論旨ノ如ク民事訴訟法ニ背反シタル不法アルコトナシ
上告第二點ハ假リニ一歩ヲ讓リ原院ノ認ムル如ク(ワ)七一、一一六號ノ事件番號ヲ記載セル呼出状ヲ正當ノモノトスルモ右番號ハ果シテ(ワ)第七一號(ワ)第一一六號ト讀ミウルカ數字ヲ重疊記載セルカ故ニ前同一ノ番號ト認識スヘカラサルナリ斯ル杜撰ナル文書ハ民事訴訟法ノ所謂呼出状ニ非サル也且右番號ハ行外及欄外ノ記入ニ係ルヲ以テ裁判所書記ハ之レニ認印シ之レヲ明確ニスヘキニモ拘ハラス事茲ニ出テス然ルニ原院ハ民事訴訟法ニハ呼出状ノ記入ニ裁判所書記ノ認印ナキモ無効トスルノ規定ナシトイヘリ凡ソ重要ナル官文書ニ脱漏アルトキハ認印ヲナシ其抹消増減ヲ明確ニスヘキハ一般ノ慣例ナルノミナラス亦民事訴訟法ノ法理ナリトス原院所論ノ如クナレハ文書ノ抹消増減ハ何ニヨリテ之ヲ明確ニスヘキ之レ亦法理ヲ無視シタル解釋ト言ハサルヘカラスト云フニ在リ
然レトモ該呼出状ヲ査閲スルニ(七一、一一六)ト記載シアルヲ以テ其前後ノ記載ト接續シテ之ヲ讀ムトキハ明治三十三年(ワ)第七十一號及ヒ(ワ)第百十六號ナルコトヲ知リ得ヘシ且該呼出状ハ其番號ヲ不動文字ノ間ニ記入スヘキ樣印刷セラレタルモノナルカ故ニ其番號ノ記入ハ既ニ記載セラレタル文字ヲ更ニ抹消シ又ハ増減シタル場合ト同一ニアラサルヲ以テ特ニ認印ヲ押捺スルノ慣習ナキハ勿論法理ニモ亦背戻シタルモノニアラス故ニ原判决ハ上告論旨ノ如キ違法アルコトナシ
以上説明セシ如ク上告論旨ハ總テ適法ノ理由ナキヲ以テ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス
明治三十四年(オ)第三百八十六号
明治三十四年十月三十一日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 呼出状には一定の方式なし。
故に其記載事項にして訴訟者が其訴訟の為めに呼出されたることを知り得べきときは呼出の効力を有すべきは勿論なり。
上告人 勢和鉄道株式会社
右清算人 筧半兵衛 外一名
被上告人 山本恒一郎
右法定代理人 山本くに
被上告人 上橋茂兵衛
右当事者間の株式公売不足金追徴事件に付、大坂控訴院が明治三十四年六月三日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為したり。
理由
上告第一点は原判決は法律に違背したる不法あるものなり。
第一審裁判所は上告人対山本恒一郎間の明治三十三年(ワ)第七一号上橋茂兵衛間の同年(ワ)第一一六号事件を併合せる闕席判決に対し上告人より故障申立をなしたるを以て此故障申立事件を明治三十三年(ワ)第一五七号と為せり。
而して右(ワ)第一五七号故障申立事件の口頭弁論期日呼出状は上告人に送達せられたる事なきに拘らず再ひ闕席判決を受けたり原院は此点を判決して曰く上告人が送達を受けたる明治三十四年三月十四日午後一時口頭弁論期日呼出状(即ち「原告勢和鉄道会社清算人筧半兵衛外二人被告山岡長太郎外四人明治三十三年(ワ)九二、八八、七〇、九七、六八、七一、一一六号併合」とせる訴訟当事者の表示を欠き又かかる併合事件の存在せざる)中には右闕席判決に係る事件の番号と同じく明治三十三年(ワ)第七一、一一六号と記載あり訴名も亦株式公売不足金追徴とあるを以て故障申立後の一五七号なる番号の記載なしと雖も右呼出状は闕席判決に対する故障に付ての口頭弁論期日呼出状たることを明認するに足ると曰へり。
然れども凡そ訴訟の呼出状には訴訟当事者を表示すべきは民事訴訟法の定むる所にして当事者の表示なき呼出状は無効にして従ふて之が期日に出頭せざればとて闕席判決を受くべきものに非ず。
即ち合式に呼出されたる者に非らざる也然るに原院は之れを以て呼出ありと為すは民事訴訟法に違背したる不法の判決なりとす。
又呼出状は期日を定むる最重の方法なれば先きの番号と符合の記載ある呼出状と雖も闕席判決に対し故障受理前一旦裁判所に於て事件の番号を改定したる以上は全く新なる事件にして上告人は先きの番号により事件の何なるを甄別するの義務なく遵奉するの責任なく新事件番号により出頭期日の何日なるを定むべきものとす。
況んや本件の如き訴訟当事者の明示なき呼出状に付ては本件番号により期日を知るの外他に方法なきなり。
然るに原院は一旦消滅せし事実を採りて猶旦事件の呼出は完然なりと論し上告人が右一五七号故障申立事件の呼出なきに闕席判決をなしたる不法ある第一審判決を是認して正当の呼出ありたりとなすは不法たる判決なりと云ふにあり
然れども民事訴訟法に於て呼出状に就ての一定の方式を定められたることなし故に其呼出状中に記載せられたる事項にして訴訟者が其訴訟の為めに呼出されたる事を知り得べきに於ては其呼出の効力を有すべきは勿論なり。
然。
而して原判文を査閲するに「控訴人(上告人)は明治三十三年(ワ)第七一、一一六号事件の闕席判決に対し故障の申立をなしたるものにして其後の日附に係る明治三十四年三月十四日午後一時の口頭弁論期日呼出状には右闕席判決に係る事件の番号と同じく明治三十三年(ワ)第七一、一一六号と記載あり訴名も亦株式公売不足金追徴とあるを以て故障申立後の一五七号なる番号の記載なしと雖も右呼出状は。
即ち控訴人(上告人)の闕席判決に対する故障に付ての口頭弁論期日呼出状たることを明認するに足る云云」と説明しあり且つ該呼出状を査閲するに原院の説明したる如くに記載しあり。
而して冒頭に説明せし如く民事訴訟法に於ては特に呼出状の方式を定められたることなきを以て此呼出状にして原院の説明せし如く其期日の呼出たることを知り得るに於ては其呼出しの効力を有すべきは勿論なるが故に原判決は毫も上告論旨の如く民事訴訟法に背反したる不法あることなし
上告第二点は仮りに一歩を譲り原院の認むる如く(ワ)七一、一一六号の事件番号を記載せる呼出状を正当のものとするも右番号は果して(ワ)第七一号(ワ)第一一六号と読みうるか数字を重畳記載せるが故に前同一の番号と認識すべからざるなり。
斯る杜撰なる文書は民事訴訟法の所謂呼出状に非ざる也、且、右番号は行外及欄外の記入に係るを以て裁判所書記は之れに認印し之れを明確にすべきにも拘はらず事茲に出でず。
然るに原院は民事訴訟法には呼出状の記入に裁判所書記の認印なきも無効とするの規定なしといへり凡そ重要なる官文書に脱漏あるときは認印をなし其抹消増減を明確にすべきは一般の慣例なるのみならず亦民事訴訟法の法理なりとす。
原院所論の如くなれば文書の抹消増減は何によりて之を明確にすべき之れ亦法理を無視したる解釈と言はざるべからずと云ふに在り
然れども該呼出状を査閲するに(七一、一一六)と記載しあるを以て其前後の記載と接続して之を読むときは明治三十三年(ワ)第七十一号及び(ワ)第百十六号なることを知り得べし、且、該呼出状は其番号を不動文字の間に記入すべき様印刷せられたるものなるが故に其番号の記入は既に記載せられたる文字を更に抹消し又は増減したる場合と同一にあらざるを以て特に認印を押捺するの慣習なきは勿論法理にも亦背戻したるものにあらず。
故に原判決は上告論旨の如き違法あることなし
以上説明せし如く上告論旨は総で適法の理由なきを以て民事訴訟法第四百三十九条第一項に従ひ主文の如く判決す