明治三十二年抗告第十九號
明治三十二年六月二十六日第二民事部决定
◎决定要旨
- 一 抗告裁判所カ第一審裁判所ノ認メタル支拂停止ノ日時ヨリ以前ニ支拂停止アリタルモノト决定シタルトキハ之レカ爲メ新ナル獨立ノ抗告理由ヲ生スルモノトス
抗告人 株式會社大和興業銀行取締役 五味原茂八 外二名
訴訟代理人
高木豊三 宮田四八 森脇駒次郎 若林治
被抗告人 勢和鐵道株式會社清算人 山中米吉 外三名
訴訟代理人 松村敏夫
抗告人ハ破産决定ニ對スル抗告事件ニ付大阪控訴院カ明治三十二年三月二十八日與ヘタル决定ニ服セス再抗告ヲ爲シタリ依テ决定スル左ノ如シ
原决定ヲ廢棄ス
奈良地方裁判所カ明治三十二年二月十八日ニ與ヘタル破産决定ハ之ヲ取消ス
當院ニ於ケル口頭辯論ノ訴訟費用ハ相手方ノ負擔トス
按スルニ奈良地方裁判所ニ於テ破産决定ヲ爲スニ當リ支拂停止ノ日ヲ明治三十二年二月十四日ト定メタル處抗告裁判所タル大阪控訴院ハ支拂停止ノ日ヲ明治三十二年一月十四日ト變更シタリ抑モ支拂停止ノ日時ノ遲速ハ破産宣告ヲ受ケタル者ノ權利ニ消長ヲ來スコト尠カラサレハ大阪控訴院カ奈良地方裁判所ノ决シタル日ヲ變更シテ一月十四日ニ遡ラセタルハ原决定ヲ變更シナカラ抗告人ノ申立ニ反シ更ニ抗告人ニ不利益ナル新决定ヲ與ヘタル筋合ナリ而シテ原决定ヲ不利益ニ變更シタルトキハ新ナル獨立ノ抗告理由ヲ生スルモノナルニ依リ抗告人ハ大阪控訴院ノ决定ニ對シ當院ニ抗告スルヲ得ルモノトス
相手方タル勢和鐵道株式會社清算人ノ代理人カ支拂停止ノ證ナリトスル追伸書ト題スル書面ニハ「去ル十日返濟期限ノ金九千九百參拾圓定期預金未タ御返濟無之右ハ如何ナル次第ニ御座候哉速ニ御支拂相成度此上遲延仕候得ハ直チニ出訴可仕候條至急支拂有之度此段及御催促ニ候也勢和鐵道株式會社破産管財人事務所大和興業銀行御中」トアレハ勢和鐵道會社ハ預ケ金支拂ノ催促ヲ爲シ若シ之ヲ支拂ハサレハ出訴スル意ナリシトノ事實ヲ知リ得ルニ止リ之ニ依リ抗告人タル大和興業銀行カ明治三十二年一月十四日支拂能力ヲ失ヒ以テ支拂ヲ停止シタリトノ事實ヲ證スルニ足ラス又勢和鐵道株式會社ノ申請ニ基キ發シタル支拂命令ニ對シ大和興業銀行カ異議ノ申立ヲ爲シタル事實ハ同銀行カ其請求ニ付異議アルコトヲ證スヘクシテ之ヲ以テ支拂ヲ停止シタルノ證ト認ムルヲ得ス其他記録中該銀行カ支拂ヲ停止シタルモノト認メ得ヘキ確證ナケレハ大和興業銀行カ勢和鐵道株式會社ニ對シ支拂ヲ停止シタルコトナキモノト斷定ス然レハ原决定ハ不當ニシテ隨テ奈良地方裁判所カ抗告人ヲ破産者ナリト宣告シタルモ亦不法ナリ依テ共ニ之ヲ廢棄スヘキモノトス
明治三十二年抗告第十九号
明治三十二年六月二十六日第二民事部決定
◎決定要旨
- 一 抗告裁判所が第一審裁判所の認めたる支払停止の日時より以前に支払停止ありたるものと決定したるときは之れが為め新なる独立の抗告理由を生ずるものとす。
抗告人 株式会社大和興業銀行取締役 五味原茂八 外二名
訴訟代理人
高木豊三 宮田四八 森脇駒次郎 若林治
被抗告人 勢和鉄道株式会社清算人 山中米吉 外三名
訴訟代理人 松村敏夫
抗告人は破産決定に対する抗告事件に付、大坂控訴院が明治三十二年三月二十八日与へたる決定に服せず再抗告を為したり。
依て決定する左の如し
原決定を廃棄す
奈良地方裁判所が明治三十二年二月十八日に与へたる破産決定は之を取消す
当院に於ける口頭弁論の訴訟費用は相手方の負担とす。
按ずるに奈良地方裁判所に於て破産決定を為すに当り支払停止の日を明治三十二年二月十四日と定めたる処抗告裁判所たる大坂控訴院は支払停止の日を明治三十二年一月十四日と変更したり。
抑も支払停止の日時の遅速は破産宣告を受けたる者の権利に消長を来すこと尠からざれば大坂控訴院が奈良地方裁判所の決したる日を変更して一月十四日に遡らせたるは原決定を変更しながら抗告人の申立に反し更に抗告人に不利益なる新決定を与へたる筋合なり。
而して原決定を不利益に変更したるときは新なる独立の抗告理由を生ずるものなるに依り抗告人は大坂控訴院の決定に対し当院に抗告するを得るものとす。
相手方たる勢和鉄道株式会社清算人の代理人が支払停止の証なりとする追伸書と題する書面には「去る十日返済期限の金九千九百参拾円定期預金未だ御返済無之右は如何なる次第に御座候哉速に御支払相成度此上遅延仕候得は直ちに出訴可仕候条至急支払有之度此段及御催促に候也勢和鉄道株式会社破産管財人事務所大和興業銀行御中」とあれば勢和鉄道会社は預け金支払の催促を為し若し之を支払はざれば出訴する意なりしとの事実を知り得るに止り之に依り抗告人たる大和興業銀行が明治三十二年一月十四日支払能力を失ひ以て支払を停止したりとの事実を証するに足らず又勢和鉄道株式会社の申請に基き発したる支払命令に対し大和興業銀行が異議の申立を為したる事実は同銀行が其請求に付、異議あることを証すべくして之を以て支払を停止したるの証と認むるを得ず。
其他記録中該銀行が支払を停止したるものと認め得べき確証なければ大和興業銀行が勢和鉄道株式会社に対し支払を停止したることなきものと断定す。
然れば原決定は不当にして随で奈良地方裁判所が抗告人を破産者なりと宣告したるも亦不法なり。
依て共に之を廃棄すべきものとす。
