不法行爲差留竝ニ損害賠償請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）4輯1巻26頁

上告第二論旨は証人が既往の事実に付き訊問せらるるに当りては既往に於て実視したる景況を陳述すべきは当然にして更に証言当時に於て再調査を為したると否とに因り信憑力に軽重を生ずべきの理なきは明かなり。 本件に於て証人として訊問せられたる白土勝三郎の証言中「旧暦十一月中十五日頃自分測量したる図面の線路西北丈堀りてありました。」との申立は則ち明治二十七年旧十一月十五日頃証人が実地目撃したる事実を陳述したるものなれば此陳述は証人が法廷に於て他人調製の図面を見るに当り述べたると否とに拘はらず証言当時再実測を為したるものに非ずとの理由にて排斥し得べきにあらず。 何となれば既往の事実を述ぶるに現在の事実を調査するの必要ある筈なければなり。 然るに原裁判所は此見易きの条理を誤り白土勝三郎の証言を採用せざりしは正当の理由なくして重要の証拠を排斥したる不法の判決なりと云ふ[いう]に在り。 依て按ず[あんず]るに原裁判所は専ら乙号各図面に依り本按の争点たる甲の箇所の侵堀時期を判定したること原判文に照し明かなるに依り該図面を調製せる白土勝三郎なる者が本件坑区の測量に関し第一審廷に於て為したる証言は本按を断するに当り殊に原裁判所が其判決理由中の一の案件として掲げたる乙号図面を古野与太郎調製の図面中甲の箇所と相比して其広狭如何[いかん]を断するに付ては最も重要なる関係を有せしや自ら明かなり。 今原記録中証人白土勝三郎の訊問調書を閲するに「問古野与太郎の測量したる図面の甲所は証人が測量したるとき採堀しありたるや否」「此時与太郎が製図を証人に示す』「答旧十一月十五日頃自分が測量せし図面の線路の西北丈堀てりました。」とあり証人は古野与太郎の測量したる図面を一見したる上自己の実験したる事実を陳述したるものなること亦[また]た疑を容れず元来証人が過去の事を述ぶるに付ては其自ら見聞したることを記臆に依り陳述すれば足り必ずしも其現況の付き再ひ調査を為すに非れば証言として信憑力を有せずとの道理は存せざるに依り証人が証言を為す当時再実測を為したるものに非ずとの一事は未だ以て直に証言を斥くるの理由と為すに足らず。 然るに原裁判所は「個は唯与太郎の図面を一見して陳述したるに止まり証言の当時再実測を為したるものに非れば其陳述は未だ以て正確にして動かず可らざるものと為すに足らず」と判示したるは採証に関する法則を不当に適用したる違法あるを免がれず既に此違法あり。 原判決の全部破毀すべきものなるに依り第一上告論旨に対しては別に弁明を与へず（判旨第二点）

上文弁明の如く本件上告は其理由あるに依り民事訴訟法第四百四十七条第一項に従ひ原判決の全部を破毀し尚ほ同法第四百四十八条第一項に従ひ更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を長崎控訴院に差戻すを相当なりとす。