地所書入登記取消請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）4輯1巻22頁

上告第一論旨は原裁判所が其判決理由に於て（前略）然りと雖[いえども]も乙第一号証に親族として連署する二名は果して親族なりと称すべきものなるや否やを案するに渥美源太郎は幼者山田得造の従兄弟の配偶者なれば親族と称する者の中に包含するを得べしとするも永井文平の如きは従兄弟の配偶者の父にして姻族の関係上頗る[すこぶる]薄縁のものに係り通例親族と称するものにあらざれば文平が親族としての連署は其効なき者とすと判示したるは法則を適用せざる不法の裁判なり。 抑実体法に付て親族の規定なき今日に於ては親族の厚薄を以て親族と非親族とを劃定すべきものにあらず。 苟も当事者より相当の続き柄を有するものなれば名称の如何[いかん]に拘はらず親族たるを妨げず。 右永井文平は原裁判所に於て認むる如く幼者得造の従兄弟の配偶者の父なれば之を親族となすべき条理なるに薄縁なるが故に親族にあらずとし其連署を無効なりと判決したるは違法の判決なりと云ひ』同第二論旨は原裁判所の判決理由中（前略）左すれば源太郎の連署のみを以て登記を受くる上に於て妨げなしとせんか親族の連署を必要とする基因たる彼の達訓令等に於て其人員を指示せざれども（中略）二名以上親族の連署を緊要とすべきは条理の然らしむる隊なりと判示したるは法則を不当に適用したるものなり。 蓋し[けだし]明治十六年内務省番外達に所謂連署の文字は読で字の如く唯後見人の外に親族の連署を要するとのことに止まり二名以上の連署を強要するものにあらず。 凡そ法律に明文あらざる場合に於て裁判法に付ては狭義に解すべく広義に解すべきものにあらず。 今該達に於て人員を指定せざるに之を二名以上なりと解するは法律の解釈にあらずして寧ろ[むしろ]法律を作りたる違法の判決なりと云ふ[いう]に在り。 依て案するに我邦現行の法律中民法上に於る親族の資格を規定せるものなきに依り其親族なるものの範囲は親縁たる関係上如何[いかん]なる程度にまで及ぼすべきものなりや裁判上妄りに規定し得べきものにあらず。 故に明治十六年内務省番外達及び明治十九年司法省第三十九号訓令中所謂親族の語辞中には其親縁の遠近を問はず苟くも血族姻族たるの関係ありて普通親族又は親類と称する者は総で之を包含するものと解釈するを相当なりとす。 然り而りせ該内務省達には（前略）不動産売買譲渡質書入等に限り其証書又は願書に親族連署の上ならては戸名に於て公証を与ゑさる様相定め」云云とあり単に親族連署と云ひ其人員を指定せざるに依り親族一名の連署を以て該達の規定に適合せるものと為すは解釈上当然のことにして本件の如き場合必す二名以上親族の連署を緊要なりとする条理又は慣例の存することなし然るに原裁判所が被上告人山田得造従兄弟の配偶者たる渥美源太郎を親族と認めながら従兄弟の配偶者の父たる永井文平を親族に非ずと判示し又親族一名の連署を以て受けたる本件登記を無効なりと説明し。 従て本按の登記を取消さしむるを相当なりとすと判決したるは法則を不当に適用したる違法あるを免がれず既に是等の点に於て原判決の全部破毀すべきものなるに依り爾余の論告に対しては別に弁明を与へず。 即ち民事訴訟法第四百四十七条第一項に従ひ原判決の全部を破毀し尚ほ本件の事実は既に確定し裁判を為すに従するものと認むるに依り同法第四百五十一条に従ひ本院に於て事件に付き直に裁判を為すを相当なりとす。 是れ主文の如く判決する所以なり。