明治二十九年第六十號
明治三十年三月十一日第一民事部判决
◎判决要旨
- 一 契約書中記載ノ金員カ契約主要ノ事項ニアラサル場合ハ單ニ金高記載アルノミニテハ證券印税規則第二條所定ノ契約書ニ該當セス（判旨第四點）
（參照）證書帳簿ヲ分テ二類ト爲シ其税率左ノ如シ第一類
左ニ掲クル所ノ證書帳簿ハ金高ノ有無多寡ニ拘ハラス下ニ定ムル所ノ印紙ヲ貼用スヘシ但當座預リ金引出小切手ハ大藏省ニ税印ノ押捺ヲ請フコトヲ得 - 一 當産預リ金引出小切手 印税 五厘 一 委任状 同 五厘
- 一 金高記載ナキ約定證文 同 壹錢 一 遺 金物 證文 同 壹錢
- 一 跡式讓證文 同 壹錢 一 讓與證文 同 壹錢
- 一 期限ヲ定メサル預リ全證文 同 壹錢 一 耕地小作證文 同 壹錢
- 一 雇人請合状 同 壹錢 一 金高記載ナキ諸物品預リ證文 同 壹錢
- 一 金高記載ナキ諸物品借用證文 同 壹錢 一 地所家屋 預リ證文 同 壹錢
- 一 諸物品切手 同 壹錢 一 借地借家 證文 同 壹錢
- 一 賣買仕切書 同 壹錢 一 保證證文 同 壹錢
- 一 諸會社株券 同 壹錢 一 送金手形 同 壹錢
- 一 金錢諸物品 通帳 一年以内一冊ニ付 同 壹錢 一 金錢諸物品 判取帳 同 貳拾錢
- 一 結社約定書 同 壹錢
但結社約定書ニ金圓授受貸借ニ係ル條項アリテ之カ効力ヲ確定スル證書帳簿ハ金左ニ掲クル所ノ證書ハ金高五圓以上ノモノニ限リ下ニ定ムル所ノ印紙ヲ貼用ス可シ - 一 營業ニ關スル送状 印税 壹錢 一 營業ニ關スル請取書 同 壹錢右諸證書ヲ通帳ト爲ストキハ都テ一年以内一册ニ付壹錢ノ印紙ヲ貼用スヘシ第二類
左ニ掲クル所ノ證書ハ金高ノ多寡ニ隨ヒ下ニ定ムル所ノ割合ヲ以テ印紙ヲ貼用スヘシ但爲替手形約束手形ハ手形用紙ヲ用ユヘシ - 一 金錢借用證文 一 地所家屋 賣買證文
- 一 金高記載アル諸物品預リ證文 一 金高記載アル諸物品借用證文
- 一 諸物品賣買證文 一 金錢定期預リ證文
- 一 金高記載アル諸般ノ契約證書
金高壹圓以上貳拾圓未滿 印税 壹錢 金高貳拾圓以上五拾圓未滿 同 貳錢金高五拾圓以上百圓未滿 同 四錢 金高百圓以上百五拾圓未滿 同 六錢金高百五拾圓以上貳百圓未滿 同 八錢 金高貳百圓以上三百圓未滿 同 拾壹錢金高三百圓以上四百圓未滿 同 拾四錢 金高四百圓以上六百圓未滿 同 貳拾錢金高六百圓以上八百圓未滿 同 貳拾六錢 金高八百圓以上千百圓未滿 同 三拾貳錢金高千百圓以上千四百圓未滿 同 三拾八錢 金高千四百圓以上千七百圓未滿 同 四拾四錢金高千七百圓以上二千圓未滿 同 五拾錢 金高二千圓以上二千五百圓未滿 同 六拾錢金高二千五百圓以上三千圓未滿 同 七拾錢 金高三千圓以上三千五百圓未滿 同 八拾錢金高三千五百圓以上四千圓未滿 同 九拾錢 金高四千圓以上 同 壹圓
右諸證書ヲ通帳ト爲ストキハ其附込見積金高ニ隨ヒ下ニ定ムル所ノ印紙ヲ貼用スヘシ
金高百圓未滿 印税 四錢 金高百圓以上總テ諸證書税率ニ據ル可シ - 一 金錢當座預リ證文 一 質物 預リ書小札金高壹圓以上貳拾圓未滿 印税 壹錢 金高貳拾圓以上 同 貳錢
右諸證書ヲ通帳ト爲ストキハ其附込見積金高ニ隨ヒ下ニ定ムル所ノ印紙ヲ貼用スヘシ
金高百圓未滿 印税 貳錢 金高百圓以上 同 四錢 - 一 爲替手形 一 荷爲替手形 一 一約束手形金高五拾圓未滿 印税 壹錢 金高五拾圓以上百圓未滿 同 貳錢
金高百圓以上貳百圓未滿 同 四錢 金高貳百圓以上五百圓未滿 同 八錢金高五百圓以上千圓未滿 同 拾五錢 金高千圓以上貳千圓未滿 同 貳拾五錢金高貳千圓以上 同 五拾錢 （證券印税規則第二條）
上告人 今野徳松
訴訟代理人 飯田宏作
被上告人 及川義亮
訴訟代理人 信岡雄四郎
右當事者間ノ預ケ金請求事件ニ付宮城控訴院カ明治二十八年十二月六日言渡シタル判决ニ對シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
立會檢事岩田武儀ハ意見ヲ陳述シタリ
判决
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告ニ係ル訴訟費用ハ上告人之ヲ負擔ス可シ
理由
上告論旨第一點ハ原判决ニ曰ク遡テ乙第一號證ノ示談約束モ亦被控訴村ニ於テ承諾ノ上ニナリタルモノト推定セサルヲ得サルナリ云々ト然レトモ乙第一號證ハ訴外人森谷金藏外數名ト被上告人トノ間ニ成立シタル約定書ニシテ上告人ノ毫モ干與セサルモノナリ加之ナラス該證書ノ契約ニシテ上告人ニ對シテモ有効ナリトセンニハ村會ノ决議郡長ノ許可ヲ要ス可キハ勿論ナリ而シテ上告人ハ該證ヲ認メス被上告人モ之レカ决議許可アルコトヲ證明セス然ルニ前掲ノ如ク判斷セラレタルハ證據ニ反シ且ハ當事者ノ申立ナキ無證ノ事實ヲ認定シタルハ不法ノ判定ナリト云フニ在レトモ原院ハ乙第一號證ニ上告村ノ關與シタルコト顯ハレサルニモ拘ハラス漫然上告村ノ承諾上成立シタル證書ナリト認定シタルニ非ス他ノ共有金ニ付示談ヲ爲ス際當時ノ村長ニ於テ本件學資金ニ關スル示談ヲモ仲立人ニ任シタル事實竝ニ乙第二號證カ先ノ村長阪本良太郎ヨリ他ノ關係人ト連印ノ上被上告人ニ交付シタル示談濟口證ニシテ乙第一號證示談約定ノ整ヒタル結果成立シタル事實ヲ認定シ此等事實ヨリシテ乙第一號證ハ上告村代表者ノ署名ヲ闕クモ其承諾上成立シタル證書ナルコトヲ推定シ且又乙第二號證カ村會ノ議决ヲ經テ正當ニ成立シタルヲ推定シ得ルニ因リ其根本タル乙第一號證モ適法ニ成立シタリトノ事實ヲ推定シタルハ原判文上明カナレハ證據ニ反シ事實ヲ確定シタル廉ナシ又乙第一號證ハ上告村ヲ覇束スルヤ否ヤニ付キ當事者間ニ爭ノアリタルコトハ原院口頭辯論調書中「乙第一號證ハ控訴人（被上告人）ト署名者間ニ於テ受授シタルモノナル事ハ認ム然レトモ立證ノ趣旨ハ認メス」ト上告人ニ於テ陳述シタル旨記載アルニ依リ明カナレハ同證ヲ以テ上告人ノ承諾上適法ニ成立シタル證書ナリト認定シタルモ决シテ申立ナキ無證ノ事實ヲ確定シタリト云フヲ得ス而シテ該證ハ不適法ノ成立ナリトノ主張ハ證據ニ對スル抗辯ナルヲ以テ主張者タル上告人ニ於テ抗辯ノ基ク事實ヲ證明スヘキ責アリテ其擧證ノ責任ハ被上告人ニアラサルヤ論ヲ俟タス要スルニ論告ハ事實ノ認定ヲ批難スルニ外ナラサレハ適法上告ノ理由ト爲ラス
同第二點ハ乙第一號證ノ末文ニ證書差換濟ノ上ハ該書無効タルノ明文アリテ甲第一號證差換タル上ハ其無効トナルコトハ被上告人ノ自認スル所ナリ故ニ甲第一號證成立ノ上ハ辨濟文法等モ甲第一號證ニ依ルヘク乙第一號證ハ最早効力ヲ有セサルナリ然ルニ原判决「乙第一號證辨濟方法ノ特約ハ甲第一號證ニ對シテモ尚ホ効力ヲ有スルコトハ毫モ疑ナキ所ナリ」ト判决シタルハ證據ト自認トニ反シ架空ノ事實ヲ認定シタル不法ノ判决ナリト云フニ在レトモ原院口頭辯論調書ヲ査閲スルニ乙第一號證ハ現今無効ノ證ナルヤ否ヤトノ裁判長ノ問ニ對シ被上告人カ「乙第二三號カ之ニ代リタルヲ以テ自然無効ノ姿ト相成ル」ト答辯シタル旨記載アリテ即チ乙第一號證ハ効力ナキ姿ナルモ同證第三項ニ所謂辨濟方法ノ約旨ハ乙第二三號證ニ依リ存續スル旨ヲ主張シタル事跡アルモ該證ノ全部即チ辨濟方法ノ特約マテモ無効ナリト陳述シタル事跡ナシ而シテ縱令乙第一號證ニ上告人ノ主張スルカ如キ無効ノ記載アルモ原院ニ於テハ其判文殊ニ第三項及ヒ第四項ニ依リ明カナルカ如ク同證第三項ニ所謂辨濟方法ノ約旨ハ乙第三四號證ニ依リ消滅シタルニ非スト認定シタルモノナレハ决シテ證據及ヒ自白ニ反シ架空ノ事實ヲ認定シタル不法ノ裁判ニ非スシテ本論告モ亦事實認定ヲ攻撃スルニ過キサレハ上告ノ理由ト爲ラス
同第三點ハ假リニ乙第一號證ノ契約ヲ承諾シタリトスルモ其第三項ハ訴外人森谷金藏等ト示談人及ヒ被上告人トノ關係ヲ規定シタルニ止マリ上告人ノ權義ヲ約シタルニアラス故ニ第三項ノ約旨ニ從ヒ辨濟セントセハ被上告人ニ於テ之ヲ實行スヘク上告人カ自ラ其方法ヲ履行スルノ義務ナシ然ルニ原院ニ於テ「先ツ乙第四號證ノ債權證書ノ金員ヲ取立ツルカ又ハ其證書自體ヲ以テ辨濟ニ充ツルカ兎ニ角之ヲ利用スルノ方法ヲ採リ尚不足アルトキニアラサレハ直ニ現金ノ濟ヲ請求スルヲ得スト判决シタルハ他人ノ權利關係ヲ以テ上告人ヲ覇束シタル不法アリト云フニ在レトモ原院ハ上告村カ本件學資金ニ付テモ其示談ヲ仲立人ニ一任シタル事實ヲ認メタルニ因リ乙第一號證ハ上告村ノ委任權限内ニ於テ締結セラレタル證書ナリト認メタルモノナレハ同證ノ効力ヲ上告村ニ及ホスハ當然ノコトニシテ上告村ニ於テ其趣旨ヲ履行ス可キモノナリト判スルモ毫モ上告論旨ノ如キ不法ノ廉アルニ非ス
同第四點ハ原院ニ於テ採用サレタル證據中主要ノモノハ乙第二號證ナリ該證ハ示談濟口證即チ和解契約證書ニシテ證書中ニ金高ニ相當スル證券印紙ヲ貼用セサルヘカラス然ルニ貼用印紙ハ僅カ壹錢印紙ノミナルニ拘ハラス原院之ヲ取リテ證據ニ供シタルハ證券印税規則第四條ニ違背シタル不法ノ判决ナリト云フニ在レトモ證券印税規則第二條ニ金高ノ多寡ニ從ヒ定ムル所ノ印紙ヲ貼用ス可キ金高記載アル契約證書タルニハ其記載アル金員カ契約主要ノ事項ナラサル可カラス只金額ノ記載アルノミニテハ該當スルモノニ非ス而シテ乙第二號證ヲ閲スル「壹千圓ヲ以テ圓滑ナル和解ヲ爲シタル以上ハ爾後雙方當事者間ニ於テハ右攝算ニ關シ聊カ苦情無之然ル上ハ雙方間ニ於テ提起シアル訴訟ハ速ニ願下可仕云々」トアリテ精算ニ關シ苦情ナキコトヽ訴訟取下ノコトヽヲ目的トスル約束證書ニ止マリ壹千圓ナル金額云々ノ記載アルハ契約ヲ爲スニ至リタル原因ヲ表示センカ爲メニシテ契約ニ付キ重要ナル事項ニ非ス然レハ單ニ壹錢ノ印紙貼用シアルモ决シテ印紙貼用不足ノ契約證書ナリト云フヲ得ス（判旨第四點）
右ノ理由ナルヲ以テ上告論旨ハ一モ其理由ナキニ依リ民事訴訟法第四百五十二條ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス
明治二十九年第六十号
明治三十年三月十一日第一民事部判決
◎判決要旨
- 一 契約書中記載の金員が契約主要の事項にあらざる場合は単に金高記載あるのみにては証券印税規則第二条所定の契約書に該当せず（判旨第四点）
（参照）証書帳簿を分で二類と為し其税率左の如し第一類
左に掲ぐる所の証書帳簿は金高の有無多寡に拘はらず下に定むる所の印紙を貼用すべし。
但当座預り金引出小切手は大蔵省に税印の押捺を請ふことを得。
- 一 当産預り金引出小切手 印税 五厘 一 委任状 同 五厘
- 一 金高記載なき約定証文 同 壱銭 一 遺 金物 証文 同 壱銭
- 一 跡式譲証文 同 壱銭 一 譲与証文 同 壱銭
- 一 期限を定めざる預り全証文 同 壱銭 一 耕地小作証文 同 壱銭
- 一 雇人請合状 同 壱銭 一 金高記載なき諸物品預り証文 同 壱銭
- 一 金高記載なき諸物品借用証文 同 壱銭 一 地所家屋 預り証文 同 壱銭
- 一 諸物品切手 同 壱銭 一 借地借家 証文 同 壱銭
- 一 売買仕切書 同 壱銭 一 保証証文 同 壱銭
- 一 諸会社株券 同 壱銭 一 送金手形 同 壱銭
- 一 金銭諸物品 通帳 一年以内一冊に付、 同 壱銭 一 金銭諸物品 判取帳 同 弐拾銭
- 一 結社約定書 同 壱銭
但結社約定書に金円授受貸借に係る条項ありて之が効力を確定する証書帳簿は金左に掲ぐる所の証書は金高五円以上のものに限り下に定むる所の印紙を貼用す可し - 一 営業に関する送状 印税 壱銭 一 営業に関する請取書 同 壱銭右諸証書を通帳と為すときは都で一年以内一冊に付、壱銭の印紙を貼用すべし。
第二類
左に掲ぐる所の証書は金高の多寡に随ひ下に定むる所の割合を以て印紙を貼用すべし。
但為替手形約束手形は手形用紙を用ゆへし - 一 金銭借用証文 一 地所家屋 売買証文
- 一 金高記載ある諸物品預り証文 一 金高記載ある諸物品借用証文
- 一 諸物品売買証文 一 金銭定期預り証文
- 一 金高記載ある諸般の契約証書
金高壱円以上弐拾円未満 印税 壱銭 金高弐拾円以上五拾円未満 同 弐銭金高五拾円以上百円未満 同 四銭 金高百円以上百五拾円未満 同 六銭金高百五拾円以上弐百円未満 同 八銭 金高弐百円以上三百円未満 同 拾壱銭金高三百円以上四百円未満 同 拾四銭 金高四百円以上六百円未満 同 弐拾銭金高六百円以上八百円未満 同 弐拾六銭 金高八百円以上千百円未満 同 三拾弐銭金高千百円以上千四百円未満 同 三拾八銭 金高千四百円以上千七百円未満 同 四拾四銭金高千七百円以上二千円未満 同 五拾銭 金高二千円以上二千五百円未満 同 六拾銭金高二千五百円以上三千円未満 同 七拾銭 金高三千円以上三千五百円未満 同 八拾銭金高三千五百円以上四千円未満 同 九拾銭 金高四千円以上 同 壱円
右諸証書を通帳と為すときは其附込見積金高に随ひ下に定むる所の印紙を貼用すべし。
金高百円未満 印税 四銭 金高百円以上総で諸証書税率に拠る可し - 一 金銭当座預り証文 一 質物 預り書小札金高壱円以上弐拾円未満 印税 壱銭 金高弐拾円以上 同 弐銭
右諸証書を通帳と為すときは其附込見積金高に随ひ下に定むる所の印紙を貼用すべし。
金高百円未満 印税 弐銭 金高百円以上 同 四銭 - 一 為替手形 一 荷為替手形 一 一約束手形金高五拾円未満 印税 壱銭 金高五拾円以上百円未満 同 弐銭
金高百円以上弐百円未満 同 四銭 金高弐百円以上五百円未満 同 八銭金高五百円以上千円未満 同 拾五銭 金高千円以上弐千円未満 同 弐拾五銭金高弐千円以上 同 五拾銭 （証券印税規則第二条）
上告人 今野徳松
訴訟代理人 飯田宏作
被上告人 及川義亮
訴訟代理人 信岡雄四郎
右当事者間の預け金請求事件に付、宮城控訴院が明治二十八年十二月六日言渡したる判決に対し上告人より全部破毀を求むる申立を為し被上告人は上告棄却の申立を為したり。
立会検事岩田武儀は意見を陳述したり。
判決
本件上告は之を棄却す
上告に係る訴訟費用は上告人之を負担す可し
理由
上告論旨第一点は原判決に曰く遡で乙第一号証の示談約束も亦被控訴村に於て承諾の上になりたるものと推定せざるを得ざるなり。
云云と。
然れども乙第一号証は訴外人森谷金蔵外数名と被上告人との間に成立したる約定書にして上告人の毫も干与せざるものなり。
加之ならず該証書の契約にして上告人に対しても有効なりとせんには村会の決議郡長の許可を要す。
可きは勿論なり。
而して上告人は該証を認めず被上告人も之れが決議許可あることを証明せず。
然るに前掲の如く判断せられたるは証拠に反し、且、は当事者の申立なき無証の事実を認定したるは不法の判定なりと云ふに在れども原院は乙第一号証に上告村の関与したること顕はれざるにも拘はらず漫然上告村の承諾上成立したる証書なりと認定したるに非ず他の共有金に付、示談を為す際当時の村長に於て本件学資金に関する示談をも仲立人に任じたる事実並に乙第二号証が先の村長坂本良太郎より他の関係人と連印の上被上告人に交付したる示談済口証にして乙第一号証示談約定の整ひたる結果成立したる事実を認定し此等事実よりして乙第一号証は上告村代表者の署名を闕くも其承諾上成立したる証書なることを推定し、且、又乙第二号証が村会の議決を経で正当に成立したるを推定し得るに因り其根本たる乙第一号証も適法に成立したりとの事実を推定したるは原判文上明かなれば証拠に反し事実を確定したる廉なし。
又乙第一号証は上告村を覇束するや否やに付き当事者間に争のありたることは原院口頭弁論調書中「乙第一号証は控訴人（被上告人）と署名者間に於て受授したるものなる事は認む。
然れども立証の趣旨は認めず」と上告人に於て陳述したる旨記載あるに依り明かなれば同証を以て上告人の承諾上適法に成立したる証書なりと認定したるも決して申立なき無証の事実を確定したりと云ふを得ず。
而して該証は不適法の成立なりとの主張は証拠に対する抗弁なるを以て主張者たる上告人に於て抗弁の基く事実を証明すべき責ありて其挙証の責任は被上告人にあらざるや論を俟たず。
要するに論告は事実の認定を批難するに外ならざれば適法上告の理由と為らず
同第二点は乙第一号証の末文に証書差換済の上は該書無効たるの明文ありて甲第一号証差換たる上は其無効となることは被上告人の自認する所なり。
故に甲第一号証成立の上は弁済文法等も甲第一号証に依るべく乙第一号証は最早効力を有せざるなり。
然るに原判決「乙第一号証弁済方法の特約は甲第一号証に対しても尚ほ効力を有することは毫も疑なき所なり。」と判決したるは証拠と自認とに反し架空の事実を認定したる不法の判決なりと云ふに在れども原院口頭弁論調書を査閲するに乙第一号証は現今無効の証なるや否やとの裁判長の問に対し被上告人が「乙第二三号が之に代りたるを以て自然無効の姿と相成る」と答弁したる旨記載ありて、即ち乙第一号証は効力なき姿なるも同証第三項に所謂弁済方法の約旨は乙第二三号証に依り存続する旨を主張したる事跡あるも該証の全部即ち弁済方法の特約までも無効なりと陳述したる事跡なし。
而して縦令乙第一号証に上告人の主張するが如き無効の記載あるも原院に於ては其判文殊に第三項及び第四項に依り明かなるが如く同証第三項に所謂弁済方法の約旨は乙第三四号証に依り消滅したるに非ずと認定したるものなれば決して証拠及び自白に反し架空の事実を認定したる不法の裁判に非ずして本論告も亦事実認定を攻撃するに過ぎざれば上告の理由と為らず
同第三点は仮りに乙第一号証の契約を承諾したりとするも其第三項は訴外人森谷金蔵等と示談人及び被上告人との関係を規定したるに止まり上告人の権義を約したるにあらず。
故に第三項の約旨に従ひ弁済せんとせば被上告人に於て之を実行すべく上告人が自ら其方法を履行するの義務なし。
然るに原院に於て「先づ乙第四号証の債権証書の金員を取立つるか又は其証書自体を以て弁済に充つるか兎に角之を利用するの方法を採り尚不足あるときにあらざれば直に現金の済を請求するを得ずと判決したるは他人の権利関係を以て上告人を覇束したる不法ありと云ふに在れども原院は上告村が本件学資金に付ても其示談を仲立人に一任したる事実を認めたるに因り乙第一号証は上告村の委任権限内に於て締結せられたる証書なりと認めたるものなれば同証の効力を上告村に及ぼすは当然のことにして上告村に於て其趣旨を履行す可きものなりと判するも毫も上告論旨の如き不法の廉あるに非ず
同第四点は原院に於て採用されたる証拠中主要のものは乙第二号証なり。
該証は示談済口証即ち和解契約証書にして証書中に金高に相当する証券印紙を貼用せざるべからず。
然るに貼用印紙は僅が壱銭印紙のみなるに拘はらず原院之を取りて証拠に供したるは証券印税規則第四条に違背したる不法の判決なりと云ふに在れども証券印税規則第二条に金高の多寡に従ひ定むる所の印紙を貼用す可き金高記載ある契約証書たるには其記載ある金員が契約主要の事項ならざる可からず。
只金額の記載あるのみにては該当するものに非ず。
而して乙第二号証を閲する「壱千円を以て円滑なる和解を為したる以上は爾後双方当事者間に於ては右摂算に関し聊が苦情無之然る上は双方間に於て提起しある訴訟は速に願下可仕云云」とありて精算に関し苦情なきことと訴訟取下のこととを目的とする約束証書に止まり壱千円なる金額云云の記載あるは契約を為すに至りたる原因を表示せんか為めにして契約に付き重要なる事項に非ず。
然れば単に壱銭の印紙貼用しあるも決して印紙貼用不足の契約証書なりと云ふを得ず。
（判旨第四点）
右の理由なるを以て上告論旨は一も其理由なきに依り民事訴訟法第四百五十二条に従ひ主文の如く判決す
