約束手形金請求ノ件

平易表示にする 原文表示にする

大審院民事判決録（民録）3輯2巻49頁

上告論旨第六点原判決は一事再理の裁判なり。 原院は（控訴人が為替訴訟の際呈出したる約束手形と甲第一号証の手形とは相違したるものとは認むるを得ず。 ）との説明を下し以て本件甲第一号証約束手形と確定判決と相成たる明治二十六年（ガ）第三五一号約束手形金請求証書訴訟事件の甲第一号証たる約束手形と同一なりと認めて判定せられたるは同一事件の再理を為したるものなり。 抑も事件の一事再理に属するや否は良し当事者の申立なき場合と雖[いえども]とも原院が本件を審理する上に於て前に確定せし判決あることを発見し得べかりし時即ち二十六年（ガ）第三五一号約束手形金請求証書訴訟事件を引用せしに於ては業己に該確定判決ある事由表現せしものと言はざるを得ず。 然れば職権を以て当然調査を為し直に本件の訴を棄却すべきは法律上の原則なるに原院の判決此に出でず前に確定と為りたる判決と牴触[ていしょく]しに本件の判決を下されたるは法律上に違背せる裁判なりと云ふ[いう]に在り按ず[あんず]るに民事訴訟法第二百四十二条に依り追加裁判の申立を為し得べき場合は主たる請求を脱漏したるときに限る。 然るに本件追加裁判の申立たるや当院が曩に言渡したる判決に於て第六点の上告論旨に対する説明を遺脱したるか為め之れが追加裁判を求むと云ふ[いう]に在れば、即ち判決の理由に付、補充の弁明を求むるものにして右の法条に適合せざるは勿論其他民事訴訟法中斯る場合に応用すべき規定なければ之を採用するに由なし。 由で右申立を棄却するを相当とす。