貸金請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）2輯10巻109頁

上告第一點上告人ハ原院ニ於テ本件甲第一號證ハ事實金圓貸借ノ關係ヨリ成立シタルモノニアラスシテ訴外小澤武雄ト上告人トノ間ニ於ケル請負契約ノ結果ニヨリ上告人カ小澤ヨリ當然受取ルヘキ金圓ナリシモノナレトモ同人ノ依頼ニヨリ認メタルモノナレハ其事實ヲ立證センカ爲メ證人トシテ澤山宗太郎」ノ喚問ヲ申請シタリ然ルニ原院ニ於テハ甲第一號證カ被上告人ノ手裏ニ存在スルノ故ヲ以テ上告人ハ被上告人ノ「本訴請求ニ應スヘキ義務アルコトヲ認定セラレ假令證人ニ於テ甲第一號證ノ金員ハ請負金トシテ請取リタルモノナルコトヲ申立ツルモ甲第一號證ハ純然タル借用金證書ニシテ該證書中請負金トシテ受取リタルカ如キ意味ノ記載ナキヲ以テ直チニ證人一片ノ陳述ニヨリ甲第一號證ノ事實ハ之ナキモノトハ斷言スルヲ得ストテ上告人ノナシタル證人喚問ノ申請ヲ排斥セラレタリ然レトモ原院ニ於ケル上告人ノ證人申請ハ必竟甲第一號證ノ反對事實ヲ立證スルニ付テハ唯一ノ方法ナルニ原院カ前陳判决理由ヲ以テ證人申請ヲ採用セラレサルハ上告人ノ立證ノ途ヲ拒絶セラレタル不法ノ判决ナリト云フニ在リ案スルニ判决中證人一片ノ陳述ニ由リ甲第一號證ノ事實ハ之ナキモノト斷言スルヲ得ストノ説明ニシテ若シ證人ノ證言ハ如何ナル場合ト雖トモ書證ヲ打消スノ力ナキモノトノ法律上ノ判斷ナリトスレハ原裁判ハ不法タルヲ免レスト雖トモ原判文ヲ見ルニ（前畧）控訴人ハ證人ヲ以テ甲第一號證ノ金員ハ實際借用シタルニアラスシテ請負金ノ内ニ受取リタルモノナルコトヲ證セント欲スル旨申立ツルモ前説明ノ如ク證人小澤武雄ノ申立及ヒ甲第一號證ノ被控訴人ノ手ニ存スル以上ハ假令證人ニ於テ甲第一號證ノ金員ハ請負金トシテ受取リタルモノナルコトヲ申立ツルモ甲第一號證ハ純然タル借用金證書ニシテ該證中請負金トシテ受取ルカ如キ意味ノ記載ナキヲ以テ直ニ證人一片ノ陳述ニ由リ甲第一號證ノ事實ハ之レナキモノト斷言スルヲ得ストアレハ其判旨ハ事實上右證人ノ證言ハ甲第一號證ニ記載スル事實ヲ抹消スルニ足ラストノ事ニテ即チ事實上ノ判定ナルコト明白ナリ而シテ原院ニ於テ假令其證人出庭シ上告人所論ノ如キ陳述ヲ爲スモ未タ以テ上告人ノ勝訴ト爲ルヲ得サルコトノ心證ヲ得タル場合ニハ其證人ノ召喚ハ全ク無用ニ歸スル條理ナレハ唯一ノ證據方法タルト否トニ拘ラス其證人召喚ノ申請ハ之ヲ採用セサルモ决シテ不法ニアラス故ニ右論旨ハ其理由ナキモノトス以上説明ノ如ク本件上告ハ民事訴訟法第四百三十九條第一項ニ依リ之ヲ棄却スヘキモノトス