故障却下命令ニ對スル抗告ノ件
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大審院民事判決録（民録）2輯4巻70頁
明治二十九年抗告第七號
明治二十九年四月十五日第二民事部决定
◎决定要旨
- 一 訴訟書類ヲ假住所ニ送達シタルトキハ其場所ニ於テ相當ノ人ニ送達セルモノト推定スヘキヲ以テ其送達ノ不適法ヲ主張スル者ハ之カ證明ヲ爲スヘキ責任アリ
原裁判所 大坂控訴院
抗告人 芳口文藏 外二名
訴訟代理人 山下重威
右抗告人ヨリ富山縣富山市大田口町十六番地士族不破光直ニ係ル預金請求ノ控訴事件ニ付明治二十九年三月十六日大阪控訴院第二部カ與ヘタル故障却下ノ命令ニ對シ抗告人ヨリ抗告ヲ爲シタリ
决定
本件抗告ハ之ヲ棄却ス
理由
抗告ノ要旨ハ大阪控訴院民事第二部明治二十八年（子）ノ二一〇號抗告人ヨリ不破光直ニ係ル預金請求ノ控訴事件ニ付抗告人ハ辯論期日即チ明治二十八年十一月十五日闕席シタルカ爲メ同裁判所ニ於テ闕席判决ヲ受ケタリ右判决ハ明治二十八年十二月十三日抗告人等ノ假住所星野光輝方ヘ送達セラレタル趣ナルモ當時抗告人等ハ熟レモ不在ニシテ領収セス且星野光輝ニハ判决ノ送達ヲ受クル事ノ委任ヲ爲シタルコトナク該判决ハ無効ノ送達ナリキ抗告人ハ右闕席判决ニ對シ明治二十九年三月十四日原裁判所ニ故障ノ申立ヲ爲シタル處原裁判所ハ期間經過後ノ故障ナリトシテ之ヲ却下セラレタリ然レトモ前述ノ如ク訴訟本人カ假住所ニ在ラサリシ際其住所主人ニ對シテ爲シタル判决ノ送達ハ其効ヲ有スルモノニアラス今其理由ヲ陳述センニ判决ノ送達ハ本人ニ對シ之ヲ爲スヲ以テ正則トス故ニ本人以外ノモノニ爲シタル送達ヲ以テ有効ナリトセンニハ必スヤ法律ノ規定ナカル可カラス今ヤ民事訴訟法ヲ按スルニ其第百四十五條ニ「送達ヲ受ク可キ人ニ住居ニ於テ出會ハサルトキハ其住居ニ於テスル送達ハ成長シタル同居ノ親族又ハ雇人ニ之ヲ爲スコトヲ得」トアルノミニテ假住所ノ主人ニ對シ送達ヲ爲スコトヲ得トノ例外法アルコトナシ右法條ハ本人ニ送達スルヲ得サル場合ノ一ノ例外法タルニハ相違ナキモ例外法ハ極メテ狹義ニ解釋セサルヲ得サルニ付之ヲ濫用シテ假住所ノ主人ニ對シテモ亦送達ヲ爲スコトヲ得ルモノト謂フ可カラス以上ノ所論ハ各法官ノ評議ニ成ル法曹會ノ可决スル所ナルヲ以テ法理ニ適スルモノト信認ス然ルニ原裁判所カ此法理ニ反シ抗告人即チ訴訟本人ノ不在ナル假住所ニ爲シタル判决ノ送達ヲ以テ有効ナリト爲シ而シテ抗告人カ爲シタル故障ヲ期間外ノ故障ナリト决定セラレタルハ不法ト思量セルヲ以テ茲ニ抗告ニ及ヒシ次第ニシテ原判决送達カ抗告人ノ不在中仮住所ニ對シ爲サレタルモノタル事實ハ一件記録中ニアル原判决ノ送達状ニ依リ立證スト云フニ在レトモ大阪控訴院民事第二部明治二十八年（子）第二一〇號控訴事件ノ訴訟記録ハ第一審ノ訴訟記録ト共ニ明治二十九年一月四日廳舍不災ノ際總テ燒失セシ旨同院書記ノ回答アリ從テ本件ニ關スル送達證書ヲ以テ其送達ノ不適法ナルヤ否ヲ調査スルニ由ナシ然レトモ原判决ノ仮住所ニ送達セラレタル事實カ相違ナキ上ハ其場所ニ於テ相當ノ人ニ送達セラレタルト推定スヘキハ當然ナリ要之原判决ノ送達カ不適法タル事實ハ抗告人ニ於テ之ヲ證明スヘキ責アリトス而シテ今ヤ之ヲ證明セサル限リハ其仮住所ニ爲サレタル送達ヲ以テ適法ノモノト論斷ス可キハ修理上當然ノ筋合ナルカ故ニ本件抗告ハ其理由ナシトス
以上ノ理由ナルニ依リ本件抗告ハ之ヲ棄却スルヲ相當トス是レ主文ノ如ク裁判スル所以ナリ」
