賣買契約解除代金取戻請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）2輯2巻88頁

上告第一点原判決は争点を判示せず、且、不当に事実を確定したる不法あり。 上告人が「本件は売買契約にあらず。 請負契約なり。 故に代価一定せず」と争ひたることは原院調書の明記する所にして動かず可からざる事実なり。 然るに原院が「本訴器械の代価は運賃を込めて凡そ二千円内外を目的とせりとのことに付ては控訴人（上告人）の争はざる所なり。」と説明したるは現実に争ひたる点に向て判決を与へず又之を争はざるものの如く判示したるは不当に事実を確定したる違法の判決なりと云ふ[いう]に在れども原判文を閲するに控訴人（上告人）は本訴器械の注文は売買にあらずして請負なりと主張し其代価の一定せざることを理由と為すも本訴器械の代価は云云二千円内外を目的とせるものとせば予定の代価なしと云ふ[いう]を得ずとあれば原院は右論点に対し判断を与へたること明瞭なるに付、右論旨は其理由なしとす

同第二点原判決は法則に違背したる不法あり。 凡そ売買契約の成立条件として其代価の一定したることを要するは条理上動かず可からざる法則たり。 而して[しこうして]原院は事実上の供述は第一審判文に摘示する所と同一なりと云はれたるを以て第一審判文の摘示を見るに被上告人は「其価は運搬費を加へ二千円内外にて買取ることを得べしとの（被告）上告人の申立を信用し確定の価額は物品落手の上に取極むることとなし」との主張あり又原院調書を見るに被上告人は「代価は跡より物により定め得れば売買契約の目的物となり得べしと」の主張あり。 而して[しこうして]上告人は第一点に述ぶる如く徹頭徹尾代価は一定せずと主張したることは原院調書の証する所なり。 是に因で之を見れば本件取引に於ては代価は跡より物品を落手したる上にあらざれば一定せざるものなること明白の事実なり。 然るに原院は一方には物品の引渡を為さざることを認め且つ当事者の主張に依り代価一定せざること明かなるに拘はらず尚ほ本件の取引を以て売買なりと判示したるは売買に関する法則に違背したる違法の判決なりと云ふ[いう]に在り

同第三点原判決は不当に事実を確定したる不法あり。 被上告人は代価は跡より物品を落手したる上にて取極むる約束なりと云ひ上告人は代価は一定せずと云ひて本件取引に代価の一定せざりしことは第二点に論する如く第一二審の判文及び原院調書に依て明かなり。 而して[しこうして]運賃を込めて二千円内外と云ふ[いう]ことは取引の誘引にして代価の取極にあらざることは被上告人の事実の供述に「運搬費を加へ二千円内外にて買取ることを得べしとの被告（上告人）の申立を信用し確定の価額は物品落手の上に取極むることとなし」とあるに依るも明かなり。 然るに原院が被上告人の申立たる二千円内外のことを以て「代価に予定なきものと云ふ[いう]を得ず。」と説明し一定の代価ある売買に外ならずと判示したるは不当に事実を確定したる違法の判決なりと云ふ[いう]に在り」依て右二点に付、審案するに売買代価は契約の際必す厘毛まで之を確定するの必要なし。 故に原院に於て其代価を二千円内外と予定したるものと認定したる以上は本訴の取引を以て売買と判断したるは相当にして上告論旨は適法の理由なしとす（判旨第二、三点）

同第四点原判決は法則に違背したる不法あり。 裁判上売買を解除するには裁判所の命令を以て其解除を宣告すべきものにして裁判所が当事者に向て解除すべき行為を命ずべきものにあらず。 盖し裁判上の解除と合意上の解除とは裁判所の宣告によると当事者の行為によるとの差違に外ならざるべし、而して[しこうして]本件は被上告が裁判上解除を請求したるものなるにも関らず第一審判決に於て当事者の一方に解除すべき行為を命じ。 而して[しこうして]原院が該判決を取消さず控訴人の控訴を棄却したるは法則に違背する違法の判決なりと云ふ[いう]に在れども裁判所は起訴者の請求を理ありとするときは相手方に其義務の履行を命じ若し相当の理由なしとするときは其請求を排斥すべきものにして単に上告論旨の如き宣告を為すべきものにあらず。 故に此論旨も亦[また]理由なしとす

以上説明の如く本件上告は民事訴訟法第四百三十九条第一項に依り之を棄却すべきものとす。