賠償金請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）1輯4巻8頁

上告第一点は原判決の帰着する処は市の渡久四郎外二十九名と倶に[ともに]上告人等拾三名が青森地方裁判所に於て言渡されたる連帯賠償金九百三拾七円五十一銭七厘は（甲一号）連帯者の内控訴する者ありて該連帯賠償額に変更を来たし結局弐百三十八円五拾九銭九厘と確定（甲二号）したれども該判決は一審二審各個独立して確定すべきものなれば上告人等は第一審の確定裁判（甲一号）に基き九百三拾七円五十一銭七厘（前後通算すれば本額となる）の賠償を免れず又其賠償は不可分的のものにあらざれば敢て執行し能はざるものにあらずと云ふ[いう]にあり。 然るに第一審第二審の判決を対照し来れば斎しく損害賠償事件の判決にして其原因も同一たり又其当事者も同一の人たるに外ならず（第二審には上告人等控訴せざれども矢張り申渡には漏れざるなり。 ）。 而して[しこうして]第一審に於ても四拾三名連帯を以て賠償を命ぜられ第二審に於ても同じく四拾三名連帯を以て賠償を命ぜられたり殊に其皈着する処の原因は同一の行為に過ぎざれば性質上不可分的の義務と謂はざるを得ず。 左すれば第一審の判決と第二審の判決と各個独立の確定は決して得べからざることとす。 然るに原院が強で之を分ち各個独立に確定すべきものなりと判定したるは連帯義務の法則に戻り兼子で不可分の法理に背きたる違法あるものにして民事訴訟法第四百三十五条に適する不法の裁判なり。」其第二点は明治二十四年四月二十二日青森地方裁判所が言渡したる損害賠償の判決（甲一号）は明治二十四年六月五日函館控訴院が言渡したる同件控訴判決（甲二号）を以て之を取消し更に判決を下たざれたり（此判決にて賠償額を減ず）。 而して[しこうして]該判決は其侭確定したるものなり。 去れば刑事上の責任は姑く[しばらく]措き民事上の責任に至ては該控訴判決を以て確定力を有するものと論決せざるを得ず。 否該判決を外にして別に確定力を有するもの之れあるの理なし。 然るに原院が第一審の判決に依り執行すべしと判決したるは民事訴訟法第四百九十七条に背きたる不法の判決なり。 其第三点は連帯義務は合意より生ずると遺言又は法律の規定より生ずるとを問はず義務者共通の利益に於て相互に代理を為すの性質を有するものとす。 是れ連帯義務の原則なり。 本按上告人等が負ふたる賠償金は甲第一号青森地方裁判所の判決に由り法律の規定に基き申渡されたるものなりと雖[いえども]とも甲第二号証の如く連帯者の内市の渡久四郎外二十九名に於て控訴の上函館控訴院は其控訴を理由ありと為し被上告人が請求する損害賠償金九百三拾七円五拾壱銭七厘の内より大島沢深沢に属する伐木代金六百九拾八円九拾壱銭八厘を除去し八形森の伐木代金弐百三十八円五拾九銭九厘を市の渡久四郎外二十九名（控訴を為したる者）と上告人等拾三名（控訴を為さざる者）と連帯して弁償すべしと判決せられたり。 而して[しこうして]此場合に於て控訴を為したる者等は控訴を為さざる上告人等の為めに条理上代理を為したる者と謂はざる可らず随で其亨受したる利益は上告人等も亦[また]均し[ひとし]く之を亨受す。 得べきや論を要せざるなり。 然るに原院が斯る著明なる連帯義務の法理を無視し上告人等に対して賠償金弐百三拾八円五拾九銭九厘を負担したる（該金額は既に連帯して執行済となれり）外に別に六百九拾八円九拾壱銭八厘を弁済するの義務ありと判決したるは民事訴訟法第四百三十五条に適する不法の裁判なりと云ふ[いう]に在り

以上の論告に就て之を審按ず[あんず]るに普通共同訴訟人中上訴する者あるも之れが為め他の上訴せる者に毫も[ごうも]利害の関係を生ぜしむることなし独り権利関係が合一にのみ確定す可きものに限り上訴せし者の受けたる判決の効力尚ほ他の上訴せざる者に及ぶ可きものとす。 而して[しこうして]原判決に依れば上告人等は訴外人市の渡久四郎外二十九名と倶に[ともに]官林盗伐被告事件に付、青森地方裁判所に於て曽て有罪と認められ各刑の言渡を受け之れと同時に私訴に付ても亦[また]各連帯を以て被上告人の請求金額九百三拾七円五十一銭七厘を賠償すべき旨判決を受けたる迄にて上告人等は皆此判決に服従して控訴を為さず訴外人のみ右第一審の判決に服せずして控訴を為し函館控訴院に於て公訴私訴倶に[ともに]各利益の判決を受けたる事実なり。 左れば今此事実に拠るも第一審に於て曽て共同被告人たりし上告人等が訴外人市の渡久四郎外二十九名との間に於ける権利関係は決して上文の所謂合一にのみ確定す可きものと謂ふ可からず。 何となれば本件損害要償の原因たる犯罪行為は官林盗伐にして其罪質上必しも数人共犯を要するものに非ず又被上告人が提起せし私訴の目的は損害要償に在れば其金額たる不可分的性質のものに非ざればなり。 夫れ此の如く上告人等と訴外人との間に於ける権利関係にして元来不可分的のものたらざる上は其上告人が受けたる第一審の判決及び訴外人市の渡久四郎外二十九名が受けたる第二審の判決は各個独立して確定す可きこと固より[もとより]当然の筋合にして、即ち其第二審に於て市の渡久四郎等が受けたる判決の効力は控訴を為さざる上告人等に及ばさるや勿論とす。 上告人等は第二審に於て第一審判決の全部を取消し更に判決せしものの如く論述すれども第二審の判決は第一審判決に服せずして控訴を為したる訴外人市の渡久四郎外二十九名に関する第一審判決の一部分を変更したるに止まり当時控訴を為さざる上告人等に関する第一審判決をも取消し更に判決せしに非ざることは其判文上明白なり。 故に原院が上告人等の受けたる第一審判決と訴外人市の渡久四郎外二十九名の受けたる判決とは各個独立して確定す可きものと判示し、而して[しこうして]上告人等に対し其既に確定せし第一審判決に基き被上告人の請求金額を弁済すべき義務ありと判決したるは相当にして上告論旨は総で其理由なしとす（判旨第一、二点）

右説明の如く本件上告は一も適法の理由なきを以て民事訴訟法第四百三十九条第一項の規定に依り之を棄却するを相当とす。 是れ主文の如く判決する所以なり。