大正三年(れ)第二五八〇號
大正三年十一月二十一日宣告
◎判決要旨
- 一 僞證教唆詐欺未遂ノ牽連犯事件ニ付キ第一審裁判所カ僞證教唆ノミヲ有罪ト認メ被告ヨリ其部分ニ對シ控訴ヲ申立テタル場合ニ於テ第二審裁判所カ詐欺未遂ノ點ニ對シ何等ノ審理判斷ヲ爲ササルハ不當ナレトモ同審判決ノ既判力ハ起訴事實ノ全體ニ及フモノニシテ其犯罪ヲ認メサリシ部分ニ對シ重ネテ起訴審理セラルヘキモノニ非サレハ被告ノ上告理由ト爲ラス
右遷證教唆被告事件ニ付大正三年八月二十八日函館控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
辯護人山田辰之進上告趣意書第一點本件ノ起訴事實ハ僞證教唆及詐欺未遂ノ二罪ナリ而シテ此事實ニ付キ第一審裁判所カ下シタル判決ハ其理由ニ「被告治平カ裁判所ヲ欺罔シテ勝訴ノ判決ヲ受ケタルモ未タ詐欺ノ目的ヲ達セスシテ事發覺シタリトノ公訴事實ハ之ヲ認ムルニ其證據十分ナラサルモ右事實ハ判示僞證教唆ト牽連シタル一罪ノ一部ナルヲ以テ特ニ無罪ノ言渡ヲ爲サル」ト判示セリ抑々外觀上數箇ノ法條ニ觸ルル行爲カ一罪トシテ處斷サルル場合ニハ一、刑法第四十五條以下ノ併合罪ナルカ二、第五十四條ノ想像上ノ數罪又ハ牽連犯ナルカ三、第五十五條ノ連續犯ナルカ四、或ハ以上三ノ場合以外ニテ理論上數箇ノ犯罪カ併立スルヲ得サル結果結局一罪ノ成立ノミヲ認ムル場合ナルカ以上四箇ノ場合ヨリ外ニ出テス而シテ第一審カ本件ノ起訴ニ繋ル僞證教唆ト詐欺未遂トカ牽連シタル一罪ナリト判示シタルハ前掲四箇ノ中其何レニヨリ一罪ト認メタルモノナルヤ甚タ不明ナリ依テ今一一以上四箇ニ付キ本件二箇ノ起訴事實ヲ各箇ニ具體的ニ對照センカ先ツ第一ニ併合罪ニアラサルヤ明ナリ何トナレハ數箇ノ行爲ニアラスシテ一箇ノ行爲ナレハナリ次ニ第五十五條ノ所謂連續犯ニアラサルモ亦明ナリ
何トナレハ前述ノ如ク一箇ノ行爲ニシテ數箇ノ行爲ニアラサルノミナラス各其罪質ヲ異ニスレハナリ
第三ニ理論上數罪カ併立スルヲ得サル結果一罪トナリタルモノトモ見ルコトヲ得ス何トナレハ本件ニ於ケル二箇ノ罪態カ一、根原法ト被助法トノ關係ニモアラス又二、普通法ト特別法トノ竸合ニモアラス三、實害犯ト危險犯トノ竸合ニモアラス四、一罪カ他ノ一罪ヲ吸收シテ其獨立ノ存在ヲ失ハシムルモノニモアラスサレハ之ヲ論理上ノ一罪トスルコトヲ得サルヤ亦明ナリ果シテ然ラハ殘ル問題ハ第四刑法第五十四條ノ適用ヲ受クヘキモノナルヤ否ヤニ在リ而シテ同條ヲ適用スヘキモノトセハ其前段想像上ノ數罪ナルヤ又ハ後段ノ牽連犯ナルヤ一箇ノ問題ナリト雖モ兎ニ角第一審ハ之ヲ五十四條ノ後段牽連犯トシテ認メタルモノノ如シ果シテ然ラハ第一審判決ハ不當ナリト斷定セサルヲ得ス何トナレハ刑法第五十四條ニ認メタル數罪ハ之レヲ一罪トシテ處斷スルハ他ノ犯罪カ實質上存立スルヲ得サル一犯罪ノ一構成部分ニハアラサルナリ即チ其實質ニ於テハ各箇ノ犯罪ハ全ク獨立シテ各箇箇ノ罪態ヲ形成スルモノナリ之ヲ一罪トシタルハ實質上ノ問題ニアラスシテ取扱上ノ問題ナリ換言スレハ數罪ノ成立ハ之ヲ認ムルモ取扱上一罪トシテ其重キニ從テ處斷スヘキコトヲ定メタルニ過キス決シテ第一審ノ認ムルカ如ク一犯罪ノ一部分ニハアラサルナリ故ニ之ヲ其性質上ノ一罪ノ一部ト判定シタル第一審判決ハ誤判タルノミナラス其重キ僞證教唆罪ニ付キ其成立ヲ認ムル以上ハ他ノ輕キ詐欺罪ニ付キ縱令證據不十分ナルモ特ニ無罪ノ判決ヲ言渡サストスルハ斷シテ誤リナリ何トナレハ他ノ重キ刑ニヨリ當然處斷セラルヘキモノナレハ偶々輕キ他ノ犯罪カ縱シ證據不十分ナレハトテ特ニ無罪ノ判決ヲ言渡ス要ナシトセハ若シ反對ニ第五十四條ニヨリ處斷セラルヘキ重キ罪カ證據不十分ナル場合ハ如何此場合ニ於テモ尚他ノ一罪カ成立スルモノナルカ故ニ證據不十分ナル重キ罪ハ他ノ輕キ罪ノ一部分ナルカ故ニ特ニ無罪ノ判決ヲ言渡スノ必要ナシト斷セサルヲ得サル結果ニ陷ルヘシ是甚タ不當ニシテ必スヤ此場合ハ證據不十分ヲ以テ無罪ヲ言渡ササルヘカラス然ルニ第一審ノ論鋒ヲ以テセハ此場合ニモ尚無罪ノ判決ヲ爲スノ必要ナシトノ結論ニ到達スヘシ知ラス第一審裁判所ハ果シテ此場合ニモ無罪ノ宣言ヲ爲スノ要ナシト斷スルノ勇氣アリヤ故ニ第五十四條ノ適用ヲ受クヘキ數罪中證據不十分ノモノアル場合ハ必スヤ之ニ對シ無罪ノ判決ヲ言渡ササルヘカラサルハ各罪カ實質上獨立シテ成立シ得ヘキ性質ヲ有スル當然ノ結果タルノミナラス縱令同條ニヨリ適用ヲ受ケサル輕キモノカ證據不十分ナル場合ト雖モ其重キモノカ證據不十分ナル場合ト同樣ニ無罪ノ判決ヲ言渡ササルヘカラス果シテ然ラハ第一審カ之ニ對シ無罪ノ判決ヲ言渡ササルハ失當ナリ故ニ原審ハ宜ク此第一審判決ヲ取消シ更ニ詐欺未遂ノ點ニ付キ無罪ノ裁判ヲ爲ササルヘカラサルニ此不法アル第一審判決ヲ取消ササルノミナラス此點ニ付キ何等論及セスシテ全然第一審判決ヲ正當ナリト是認セル原判決モ亦失當ナリト斷セサルヲ得スト云ヒ」第二點第一審判決カ本件ノ詐欺未遂ト僞證教唆トヲ第五十四條ノ牽連犯トシテ處斷シタルハ「願告カ裁判所ヲ欺罔シテ勝訴ノ判決ヲ受ケタルモ未タ詐欺ノ目的ヲ達セスシテ事發覺シタリトノ公訴事實ハ之ヲ認ムルニ其證據十分ナラサルモ右事實ハ僞證教唆ト牽連シタル一罪ナリ」ト判示シタルニ徴シ明白ナリ故ニ第一審ハ僞證教唆ヲ以テ裁判所ヲ欺罔シ始欺ノ目的ヲ達スル手段ニシテ即チ裁判所ヲ錯誤ニ陷ラシメタル一ノ條件ト見タルモノナリ然レトモ之レ斷シテ誤リナリ何トナレハ裁判所カ欺罔サレ錯誤ニ陷リタルハ其原因僞證ノ正犯者タル相被告原劔苦ノ行爲ニシテ被告ノ行爲ニアラス尤モ被告ハ劔二ヲシテ僞證ヲ爲スヘク教唆シタルモノニテ原劔二ノ僞證ハ被告ノ教唆行爲ニ胚胎シ結局裁判所カ欺罔サレ錯誤ニ陷リ結果ニ對シテ被告ノ教唆行爲モ亦一條件ヲ成スカ如シト雖モ我刑法上責任能力者ノ故意行爲ノ介在ハ因果關係ノ進行ヲ中斷スヘキコト成法上一點ノ疑ナシ故ニ裁判所カ錯誤ニ陷リタル結果ニ對シ被告ノ僞證教唆モ其原因タル一條件ヲ成スカ如シト雖モ其間ニ於ケル因果關係ノ發展ハ責任能力者タル僞證正犯者原劔二ノ故意行爲ニヨリ中斷サレタルモノナレハ被告ニ對シテハ僞證教唆罪ノ成立スルハ格別詐欺ノ手段タル欺罔行爲ニ付テハ全然刑責ヲ負擔スヘキモノニアラス然ルニ第一審カ此點ニ付第五十四條ノ牽連關係ヲ認メ或ハ證據不十分ナリトシ以テ法律上其責任ヲ負擔スヘキ性質ヲ有スルモノナルカ如ク判定セルハ不法ニ法律ヲ適用シタル判決ナリト云ハサルヘカラス然ルニ此不法アル第一審判決ヲ取消サス是認シタル原判決モ亦失當ナリト云ヒ」第三點本件被告事件ノ起訴ハ僞證教唆及詐欺未遂ノ二種ノ犯罪ナリ第一審裁判所ハ此起訴ニ基キ右ノ二罪ニ付審理ヲ爲シタルモノニシテ被告ハ此第一審ノ判決ニ對シ全部控訴ヲ申立テタルモノナリ然ルニ原審判決ハ單ニ僞證教唆ニ付キテノミ裁判ヲ爲シ以テ詐欺未遂ノ點ニ付何等判示ヲ與ヘサルハ第一、被告ノ全部控訴ニ付其一部分ニ付キテノミ裁判ヲ爲シ全部ニ亘リテ裁判ヲ爲ササル違法アリ第二、起訴ノ事實ニ付テ其裁判ヲ爲ササル違法アリ即チ第一ノ點ニ於テ原審ハ僞證教唆ノ點ニ付テノミ第一審判決ト同趣旨ナル旨ヲ判示スト雖モ詐欺未遂ノ點ニ付何等判示ヲ與ヘス而カモ被告ハ此部分ニ付キテモ尚ホ控訴ヲ申立ツルモノナルカ故ニ原審ハ須ラク此點ニ付テモ裁判ヲ爲ササルヘカラサルニ事茲ニ出テス詐欺未遂ヲ脱漏セルハ失當ナリ或ハ詐欺未遂ニ付テハ第一審ハ其犯罪ノ成立ヲ認メサルモノナレハ結極被告ノ利益ナル裁判ナレハ被告ノ爲セル控訴ノ下ニ此點ヲ判示スル要ナシトノ趣旨ナラン然レトモ控訴ノ審級ニ於テハ被告ノ利益不利益ハ判決主文ニ付テノミ之ヲ認ムヘク其理由ニ付テハ之ヲ問ハサルノミナラス第一審ノ判決ハ詐欺ノ點ニ付キ證據不十分ヲ認メ而カモ無罪ノ判決ヲ言渡ササルモノナレハ未タ以テ被告ノ利益ナル判決ナリト斷スルヲ得ス第二ノ點ニ付テハ控訴裁判所ハ起訴ノ事實及法律ノ適用ニ付キ覆審スル訴訟手續ニシテ第一審ノ審理ヲ開始スルモノニテ所謂第二次ノ第一審手續ナリ故ニ苟モ起訴ノ事實ニ付テハ一部控訴ニアラサル限リ其全部ニ亘リテ之カ裁判ヲ爲ササルヘカラサル義務ヲ負擔スルト同時ニ當事者ニ於テモ其起訴ノ事實ニ付之カ裁判ヲ受クル一ノ權利ヲ有スルヤ明ナリ之レ即チ起訴ノ效力トシテ權利拘束ヲ發生セシムル當然ノ結果ナリ然ルニ原審カ此起訴ノ事實ニ付キ何等裁判ヲ爲ササルノミカ此點ニ付キ一句ノ説明ヲタニ與ヘサルハ不法ノ裁判タルヲ免レスト云フニ在リ◎依テ審按スルニ本件起訴ノ事實ハ被告ハ原劔二ヲ教唆シテ僞證ヲ爲サシメ依テ以テ裁判所ヲ欺罔シテ横島由太郎ヨリ金圓ヲ詐取セントシテ遂ケサリシ事實ニシテ第一審裁判所ハ其内僞證教唆ノ犯罪ヲ認メ而テ詐欺未遂ノ點ニ付キテハ其證據不充分ナルモ詐欺未遂ト僞證教唆トハ牽連シタル一罪ナルカ故ニ其一部タル詐欺未遂ノ事實ニ對シ特ニ無罪ノ言渡ヲ爲スヘキモノニアラスト判決シ而テ被告ハ右有罪ノ部分ニ對シ控訴ヲ申立テタルモノナルヲ以テ詐欺未遂ノ事實ハ第一審判決ノ認メタル所ニアラスト雖モ牽連犯ノ一部ニ對シ控訴ヲ申立ツル以上ハ其控訴ハ牽連犯ノ全部ニ及フヘキモノナルヲ以テ第二審裁判所タル原院ニ於テハ右詐欺未遂ノ事實ニ付キテモ審理スヘキモノナルニ一件記録ヲ調査スルニ此ニ對シ何等ノ審理判斷ヲ爲ササリシコトハ辯護人ノ所論ノ如クニシテ原判決ハ公判手續ニ違背シタルモノナリト雖モ第二審裁判所ハ右詐欺未遂ノ點ニ對シ有罪ナル事實ヲ認メタルモノニアラス而テ原判決既判力ノ效力ハ牽連犯タル起訴事實ノ全體ニ及フヘキモノニシテ第二審判決カ其犯罪ヲ認メサリシ詐欺未遂ノ點ニ對シテ重ネテ起訴審理セラルヘキモノニアラサルヲ以テ原院カ詐欺未遂ノ點ニ對シ審判セサリシハ不當ナレトモ其結果ハ第一審判決ノ如ク其犯罪ノ存在ヲ認メサリシモノト同一ニ歸著シ毫モ被告ニ不利益ヲ及ホス所之レナキヲ以テ敍上第二審判決ニ對スル本件被告ノ攻撃ハ何等實益ナキモノニシテ以テ上告ノ理由ト爲スニ足ラス
辯護人山田辰之進同牧野賎男同丸山良策上告趣意書第一點原判決ハ其證據説明ノ部ニ於テ横島由太郎ノ豫審調書ヲ採用セラレタリ依テ一件記録ニ付キ調査スルニ其二十六丁ニ宣誓ヲ爲シタル上供述ヲ爲サシメタル旨ノ記載アリ依テ更ニ進テ二十五丁宣誓書ヲ査閲スルニ「證人文盲ニシテ自署ナシ能ハサルニ付キ代署シ證人ヲシテ之ニ捺印セシム」トノミアリ何人カ證人ニ代リテ署名セルヤ明ナラス惟フニ刑事訴訟法第百二十二條第二項ニハ裁判所書記ハ證人ニ宣誓書ヲ讀ミ聞カセ署名捺印セシムヘシ若シ署名捺印スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ附記スヘシトアリ故ニ證人自署スル能ハサル時ハ裁判所書記代書スヘキモノナルコト明ナリ次ニ裁判所書記ノ代書ハ如何ナル形式ニヨルヘキカ更ニ研究スヘキ問題ナリト雖モ刑事訴訟法第二十條第二十一條第五十一條第五十二條等規定ノ精神ニ徴スル時ハ宣誓書ニ代書セル裁判所書記ノ氏名ヲ署シ且ツ捺印ヲ要スルハ疑ナキ所ナリ然ルニ右宣誓書證人ノ氏名ハ何人カ代署セルヤ得テ知ル能ハス即チ無效ノ宣誓書ト謂フヘク宣誓自體モ無效ナリト論セサルヘカラス
其無效ノ宣誓ニヨリ供述セシメタル證人ノ訊問モ亦違法ナリトス從テ其違法ノ證人調書ヲ證據トシテ採用セル原判決ハ破毀ヲ免レスト云フニ在レトモ◎裁判所書記ハ證人ニ宣誓書ヲ讀ミ聞カセ之ニ署名捺印セシメ若シ本人署名スル能ハサルトキハ之ヲ代署スヘキ職責ヲ有スルモノナルヲ以テ本件所論ノ宣誓書ニ證人文盲ニシテ自署ナシ能ハサルニ付キ代書シ證人ヲシテ之ニ捺印セシムト記載シアル以上ハ裁判所書記カ代署シタルモノナルコトハ頗ル明瞭ナリ加之刑事訴訟法第二十一條ノ二第三項ニ官吏ノ面前ニ於テハ本人署名スルコト能ハサル場合ト雖モ立會人ヲ要セス官吏公吏代署シテ其事由ヲ附記スヘシトアリテ代署シタル官吏公吏ハ唯其事由ヲ附記スルヲ以テ足ルヘク自ラ之ニ署名捺印スルコトヲ要スルモノニアラス本論旨ハ討形ノ理由ト爲スニ足ラス
第二點原判決ハ其證據説明ノ部ニ原審公判始末書中「原劔二ノ供述トシテ判示ノ如ク札幌地方裁判所民事廷ニ於テ宣誓ノ上陳述ヲ爲シタルハ明治四十五年五月中被告カ自宅ニ來リテ判示ノ如ク陳述シ呉レト依頼シタルニ基クモノニシテ右依頼ニ基キ自己ノ關知セサルニ拘ハラス虚僞ノ陳述ヲ爲シタル旨ノ記載」アリトシテ援用セラレタリ依テ記録二五六丁乃至二七八丁第一審公判始末書ヲ通覽スルニ上告人カ原劔二ノ自宅ニ至リ虚僞ノ陳述ヲ依頼シタル旨ノ供述アルコトナク却テ二五九丁ニハ明治四十五年五月十日頃ト思ヒマスカ田中治平カ私方ヘ參リ私カ仕事シ居リシ私方附近ノ畑中ニ於テ横島由太郎ニ對シ……トアリ又二六一丁ニモ「問其話ハ皆被告方近所ノ畑中ニテ爲シタルヤ答左樣テス」トアリテ判示ノ如キ記載ハ全ク之レナシ即チ原判決ハ證據ノ主旨ヲ變更シ又ハ虚無ノ證據ヲ斷罪ノ資料ニ供シタル違法アリト云フニ在レトモ◎被告ノ自宅ニ來リ云云ナル詞ハ必スシモ其住宅ナル建築物ノミヲ指スモノニアラス其住宅ニ附屬セル畑地ノ如キハ凡テ之ヲ包括シタルモノト解スヘキハ至當ナルカ故ニ被告原劔二ノ第一審公判始末書供述中ニ私方ヘ來リ私カ仕事シ居リタル附近ノ畑中ニテ云云トアルヲ原判決證據説明中ニ被告ノ自宅ニ來リタル旨ノ供述ト説示シタルハ全ク同一趣旨ニ歸スルモノニシテ所論ノ如ク證據ノ趣旨ヲ變更シタルモノニアラス本論旨ハ理由ナシ
第三點原判決ハ上告人ノ犯罪事實ヲ「被告ハ……其事實ヲ證明センカ爲ニ明治四十五年五月中原審相被告原劔二ニ對シ同人カ右金員ノ授受ヲ目撃シタル事實ナキニ拘ラス其事實アリシカ如ク同裁判所民事廷ニ於テ虚僞ノ證言ヲ爲サンコトヲ依頼シ因テ劔二ヲシテ大正元年八月十七日同裁判所民事廷ニ於テ證人トシテ宣誓ノ上……虚僞ノ陳述ヲ爲サシメ僞證ノ教唆ヲ遂ケタル者ナリ」ト認定セラレタリ然レトモ判示原劔二カ宣誓シタリトノ點ニ關スル證據アルコトナシ蓋シ宣誓セルヤ否ヤハ宣誓書ノ有無ニヨリ決スヘキモノナルニ其存在スル旨ノ記載ナク又宣誓書ヲ被告ニ示シテ辯解ヲ爲サシメタル證據調手續ヲモ爲サス且ツ又宣誓書モ存セサレハナリ即チ原判決ハ證據ニ依ラスシテ事實ヲ認定セル違法アリト云フニ在レトモ◎證人カ宣誓ノ上供述ヲ爲シタル事實ヲ認定スルニハ必スシモ證據トシテ其宣誓書カ現ニ法廷ニ提出セラルルコトヲ必要トスルモノニアラス其他諸般ノ證據ニ依リ宣誓シタル事實ヲ認定スルモ毫モ不法ニアラス而テ原劔二カ宣誓ノ上供述ヲ爲シタル事實ニ付キテハ原判決ハ其證據説明ニ列擧セル諸般ノ證據ニ依リ之ヲ認定シタルモノニシテ毫モ所論ノ如キ不法アルコトナシ本論旨ハ理由ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事鈴木宗言干與大正三年十一月二十一日大審院第三刑事部
大正三年(レ)第二五八〇号
大正三年十一月二十一日宣告
◎判決要旨
- 一 偽証教唆詐欺未遂の牽連犯事件に付き第一審裁判所が偽証教唆のみを有罪と認め被告より其部分に対し控訴を申立てたる場合に於て第二審裁判所が詐欺未遂の点に対し何等の審理判断を為さざるは不当なれども同審判決の既判力は起訴事実の全体に及ぶものにして其犯罪を認めざりし部分に対し重ねて起訴審理せらるべきものに非ざれば被告の上告理由と為らず
右遷証教唆被告事件に付、大正三年八月二十八日函館控訴院に於て言渡したる判決に対し被告は上告を為したり。
因で判決する左の如し
理由
本件上告は之を棄却す
弁護人山田辰之進上告趣意書第一点本件の起訴事実は偽証教唆及詐欺未遂の二罪なり。
而して此事実に付き第一審裁判所が下したる判決は其理由に「被告治平が裁判所を欺罔して勝訴の判決を受けたるも未だ詐欺の目的を達せずして事発覚したりとの公訴事実は之を認むるに其証拠十分ならざるも右事実は判示偽証教唆と牽連したる一罪の一部なるを以て特に無罪の言渡を為さる」と判示せり抑抑外観上数箇の法条に触るる行為が一罪として処断さるる場合には一、刑法第四十五条以下の併合罪なるか二、第五十四条の想像上の数罪又は牽連犯なるか三、第五十五条の連続犯なるか四、或は以上三の場合以外にて理論上数箇の犯罪が併立するを得ざる結果結局一罪の成立のみを認むる場合なるか以上四箇の場合より外に出でず。
而して第一審が本件の起訴に繋る偽証教唆と詐欺未遂とか牽連したる一罪なりと判示したるは前掲四箇の中其何れにより一罪と認めたるものなるや甚た不明なり。
依て今一一以上四箇に付き本件二箇の起訴事実を各箇に具体的に対照せんか先づ第一に併合罪にあらざるや明なり。
何となれば数箇の行為にあらずして一箇の行為なればなり。
次に第五十五条の所謂連続犯にあらざるも亦明なり。
何となれば前述の如く一箇の行為にして数箇の行為にあらざるのみならず各其罪質を異にすればなり。
第三に理論上数罪が併立するを得ざる結果一罪となりたるものとも見ることを得ず。
何となれば本件に於ける二箇の罪態が一、根原法と被助法との関係にもあらず。
又二、普通法と特別法との競合にもあらず。
三、実害犯と危険犯との競合にもあらず。
四、一罪が他の一罪を吸収して其独立の存在を失はしむるものにもあらずされば之を論理上の一罪とすることを得ざるや亦明なり。
果して然らば残る問題は第四刑法第五十四条の適用を受くべきものなるや否やに在り。
而して同条を適用すべきものとせば其前段想像上の数罪なるや又は後段の牽連犯なるや一箇の問題なりと雖も兎に角第一審は之を五十四条の後段牽連犯として認めたるものの如し果して然らば第一審判決は不当なりと断定せざるを得ず。
何となれば刑法第五十四条に認めたる数罪は之れを一罪として処断するは他の犯罪が実質上存立するを得ざる一犯罪の一構成部分にはあらざるなり。
即ち其実質に於ては各箇の犯罪は全く独立して各箇箇の罪態を形成するものなり。
之を一罪としたるは実質上の問題にあらずして取扱上の問題なり。
換言すれば数罪の成立は之を認むるも取扱上一罪として其重きに。
従て処断すべきことを定めたるに過ぎず決して第一審の認むるが如く一犯罪の一部分にはあらざるなり。
故に之を其性質上の一罪の一部と判定したる第一審判決は誤判たるのみならず其重き偽証教唆罪に付き其成立を認むる以上は他の軽き詐欺罪に付き縦令証拠不十分なるも特に無罪の判決を言渡さずとするは断して誤りなり。
何となれば他の重き刑により当然処断せらるべきものなれば偶偶軽き他の犯罪が縦し証拠不十分なればとて特に無罪の判決を言渡す要なしとせば若し反対に第五十四条により処断せらるべき重き罪が証拠不十分なる場合は如何此場合に於ても尚他の一罪が成立するものなるが故に証拠不十分なる重き罪は他の軽き罪の一部分なるが故に特に無罪の判決を言渡すの必要なしと断せざるを得ざる結果に陥るべし是甚た不当にして必ずや此場合は証拠不十分を以て無罪を言渡さざるべからず。
然るに第一審の論鋒を以てせば此場合にも尚無罪の判決を為すの必要なしとの結論に到達すべし。
知らず第一審裁判所は果して此場合にも無罪の宣言を為すの要なしと断するの勇気ありや故に第五十四条の適用を受くべき数罪中証拠不十分のものある場合は必ずや之に対し無罪の判決を言渡さざるべからざるは各罪が実質上独立して成立し得べき性質を有する当然の結果たるのみならず縦令同条により適用を受けざる軽きものが証拠不十分なる場合と雖も其重きものが証拠不十分なる場合と同様に無罪の判決を言渡さざるべからず。
果して然らば第一審が之に対し無罪の判決を言渡さざるは失当なり。
故に原審は宜く此第一審判決を取消し更に詐欺未遂の点に付き無罪の裁判を為さざるべからざるに此不法ある第一審判決を取消さざるのみならず此点に付き何等論及せずして全然第一審判決を正当なりと是認せる原判決も亦失当なりと断せざるを得ずと云ひ」第二点第一審判決が本件の詐欺未遂と偽証教唆とを第五十四条の牽連犯として処断したるは「願告が裁判所を欺罔して勝訴の判決を受けたるも未だ詐欺の目的を達せずして事発覚したりとの公訴事実は之を認むるに其証拠十分ならざるも右事実は偽証教唆と牽連したる一罪なり。」と判示したるに徴し明白なり。
故に第一審は偽証教唆を以て裁判所を欺罔し始欺の目的を達する手段にして、即ち裁判所を錯誤に陥らしめたる一の条件と見たるものなり。
然れども之れ断して誤りなり。
何となれば裁判所が欺罔され錯誤に陥りたるは其原因偽証の正犯者たる相被告原劔苦の行為にして被告の行為にあらず。
尤も被告は劔二をして偽証を為すべく教唆したるものにて原劔二の偽証は被告の教唆行為に胚胎し結局裁判所が欺罔され錯誤に陥り結果に対して被告の教唆行為も亦一条件を成すが如しと雖も我刑法上責任能力者の故意行為の介在は因果関係の進行を中断すべきこと成法上一点の疑なし。
故に裁判所が錯誤に陥りたる結果に対し被告の偽証教唆も其原因たる一条件を成すが如しと雖も其間に於ける因果関係の発展は責任能力者たる偽証正犯者原劔二の故意行為により中断されたるものなれば被告に対しては偽証教唆罪の成立するは格別詐欺の手段たる欺罔行為に付ては全然刑責を負担すべきものにあらず。
然るに第一審が此点に付、第五十四条の牽連関係を認め或は証拠不十分なりとし以て法律上其責任を負担すべき性質を有するものなるが如く判定せるは不法に法律を適用したる判決なりと云はざるべからず。
然るに此不法ある第一審判決を取消さず是認したる原判決も亦失当なりと云ひ」第三点本件被告事件の起訴は偽証教唆及詐欺未遂の二種の犯罪なり。
第一審裁判所は此起訴に基き右の二罪に付、審理を為したるものにして被告は此第一審の判決に対し全部控訴を申立てたるものなり。
然るに原審判決は単に偽証教唆に付きてのみ裁判を為し以て詐欺未遂の点に付、何等判示を与へざるは第一、被告の全部控訴に付、其一部分に付きてのみ裁判を為し全部に亘りて裁判を為さざる違法あり。
第二、起訴の事実に付て其裁判を為さざる違法あり。
即ち第一の点に於て原審は偽証教唆の点に付てのみ第一審判決と同趣旨なる旨を判示すと雖も詐欺未遂の点に付、何等判示を与へず而かも被告は此部分に付きても尚ほ控訴を申立つるものなるが故に原審は須らく此点に付ても裁判を為さざるべからざるに事茲に出でず詐欺未遂を脱漏せるは失当なり。
或は詐欺未遂に付ては第一審は其犯罪の成立を認めざるものなれば結極被告の利益なる裁判なれば被告の為せる控訴の下に此点を判示する要なしとの趣旨ならん。
然れども控訴の審級に於ては被告の利益不利益は判決主文に付てのみ之を認むべく其理由に付ては之を問はざるのみならず第一審の判決は詐欺の点に付き証拠不十分を認め而かも無罪の判決を言渡さざるものなれば未だ以て被告の利益なる判決なりと断するを得ず。
第二の点に付ては控訴裁判所は起訴の事実及法律の適用に付き覆審する訴訟手続にして第一審の審理を開始するものにて所謂第二次の第一審手続なり。
故に苟も起訴の事実に付ては一部控訴にあらざる限り其全部に亘りて之が裁判を為さざるべからざる義務を負担すると同時に当事者に於ても其起訴の事実に付、之が裁判を受くる一の権利を有するや明なり。
之れ即ち起訴の効力として権利拘束を発生せしむる当然の結果なり。
然るに原審が此起訴の事実に付き何等裁判を為さざるのみか此点に付き一句の説明をたに与へざるは不法の裁判たるを免れずと云ふに在り◎依て審按ずるに本件起訴の事実は被告は原劔二を教唆して偽証を為さしめ依て以て裁判所を欺罔して横島由太郎より金円を詐取せんとして遂けざりし事実にして第一審裁判所は其内偽証教唆の犯罪を認め而て詐欺未遂の点に付きては其証拠不充分なるも詐欺未遂と偽証教唆とは牽連したる一罪なるが故に其一部たる詐欺未遂の事実に対し特に無罪の言渡を為すべきものにあらずと判決し而て被告は右有罪の部分に対し控訴を申立てたるものなるを以て詐欺未遂の事実は第一審判決の認めたる所にあらずと雖も牽連犯の一部に対し控訴を申立つる以上は其控訴は牽連犯の全部に及ぶべきものなるを以て第二審裁判所たる原院に於ては右詐欺未遂の事実に付きても審理すべきものなるに一件記録を調査するに此に対し何等の審理判断を為さざりしことは弁護人の所論の如くにして原判決は公判手続に違背したるものなりと雖も第二審裁判所は右詐欺未遂の点に対し有罪なる事実を認めたるものにあらず。
而て原判決既判力の効力は牽連犯たる起訴事実の全体に及ぶべきものにして第二審判決が其犯罪を認めざりし詐欺未遂の点に対して重ねて起訴審理せらるべきものにあらざるを以て原院が詐欺未遂の点に対し審判せざりしは不当なれども其結果は第一審判決の如く其犯罪の存在を認めざりしものと同一に帰著し毫も被告に不利益を及ぼす所之れなきを以て叙上第二審判決に対する本件被告の攻撃は何等実益なきものにして以て上告の理由と為すに足らず
弁護人山田辰之進同牧野賎男同丸山良策上告趣意書第一点原判決は其証拠説明の部に於て横島由太郎の予審調書を採用せられたり。
依て一件記録に付き調査するに其二十六丁に宣誓を為したる上供述を為さしめたる旨の記載あり。
依て更に進で二十五丁宣誓書を査閲するに「証人文盲にして自署なし。
能はざるに付き代署し証人をして之に捺印せしむ」とのみあり何人が証人に代りて署名せるや明ならず惟ふに刑事訴訟法第百二十二条第二項には裁判所書記は証人に宣誓書を読み聞かせ署名捺印せしむべし。
若し署名捺印すること能はざる時は其旨を附記すべしとあり。
故に証人自署する能はざる時は裁判所書記代書すべきものなること明なり。
次に裁判所書記の代書は如何なる形式によるべきか更に研究すべき問題なりと雖も刑事訴訟法第二十条第二十一条第五十一条第五十二条等規定の精神に徴する時は宣誓書に代書せる裁判所書記の氏名を署し且つ捺印を要するは疑なき所なり。
然るに右宣誓書証人の氏名は何人が代署せるや得て知る能はず。
即ち無効の宣誓書と謂ふべく宣誓自体も無効なりと論せざるべからず。
其無効の宣誓により供述せしめたる証人の訊問も亦違法なりとす。
従て其違法の証人調書を証拠として採用せる原判決は破毀を免れずと云ふに在れども◎裁判所書記は証人に宣誓書を読み聞かせ之に署名捺印せしめ若し本人署名する能はざるときは之を代署すべき職責を有するものなるを以て本件所論の宣誓書に証人文盲にして自署なし。
能はざるに付き代書し証人をして之に捺印せしむと記載しある以上は裁判所書記が代署したるものなることは頗る明瞭なり。
加之刑事訴訟法第二十一条の二第三項に官吏の面前に於ては本人署名すること能はざる場合と雖も立会人を要せず。
官吏公吏代署して其事由を附記すべしとありて代署したる官吏公吏は唯其事由を附記するを以て足るべく自ら之に署名捺印することを要するものにあらず。
本論旨は討形の理由と為すに足らず
第二点原判決は其証拠説明の部に原審公判始末書中「原劔二の供述として判示の如く札幌地方裁判所民事廷に於て宣誓の上陳述を為したるは明治四十五年五月中被告が自宅に来りて判示の如く陳述し呉れと依頼したるに基くものにして右依頼に基き自己の関知せざるに拘はらず虚偽の陳述を為したる旨の記載」ありとして援用せられたり。
依て記録二五六丁乃至二七八丁第一審公判始末書を通覧するに上告人が原劔二の自宅に至り虚偽の陳述を依頼したる旨の供述あることなく却て二五九丁には明治四十五年五月十日頃と思ひますか田中治平が私方へ参り私が仕事し居りし私方附近の畑中に於て横島由太郎に対し……とあり又二六一丁にも「問其話は皆被告方近所の畑中にて為したるや答左様てず」とありて判示の如き記載は全く之れなし。
即ち原判決は証拠の主旨を変更し又は虚無の証拠を断罪の資料に供したる違法ありと云ふに在れども◎被告の自宅に来り云云なる詞は必ずしも其住宅なる建築物のみを指すものにあらず。
其住宅に附属せる畑地の如きは凡で之を包括したるものと解すべきは至当なるが故に被告原劔二の第一審公判始末書供述中に私方へ来り私が仕事し居りたる附近の畑中にて云云とあるを原判決証拠説明中に被告の自宅に来りたる旨の供述と説示したるは全く同一趣旨に帰するものにして所論の如く証拠の趣旨を変更したるものにあらず。
本論旨は理由なし。
第三点原判決は上告人の犯罪事実を「被告は……其事実を証明せんか為に明治四十五年五月中原審相被告原劔二に対し同人が右金員の授受を目撃したる事実なきに拘らず其事実ありしが如く同裁判所民事廷に於て虚偽の証言を為さんことを依頼し因で劔二をして大正元年八月十七日同裁判所民事廷に於て証人として宣誓の上……虚偽の陳述を為さしめ偽証の教唆を遂けたる者なり。」と認定せられたり。
然れども判示原劔二が宣誓したりとの点に関する証拠あることなし蓋し宣誓せるや否やは宣誓書の有無により決すべきものなるに其存在する旨の記載なく又宣誓書を被告に示して弁解を為さしめたる証拠調手続をも為さず且つ又宣誓書も存せざればなり。
即ち原判決は証拠に依らずして事実を認定せる違法ありと云ふに在れども◎証人が宣誓の上供述を為したる事実を認定するには必ずしも証拠として其宣誓書が現に法廷に提出せらるることを必要とするものにあらず。
其他諸般の証拠に依り宣誓したる事実を認定するも毫も不法にあらず。
而て原劔二が宣誓の上供述を為したる事実に付きては原判決は其証拠説明に列挙せる諸般の証拠に依り之を認定したるものにして毫も所論の如き不法あることなし本論旨は理由なし。
右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文の如く判決す
検事鈴木宗言干与大正三年十一月二十一日大審院第三刑事部