◎判決要旨
- 一 刑法第百八十六條第一項ハ同法第百八十五條通常賭博罪ノ加重規定ニシテ其加重ハ犯人ノ身分ニ因ル加重ナリト解スヘキモノトス(判旨第一點)
(參照)偶然ノ輸贏ニ關シ財物ヲ以テ博戲又ハ賭事ヲ爲シタル者ハ千圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス但一時ノ娯樂ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス(刑法第百$八十五條)常習トシテ博戲又ハ賭事ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ處ス(刑法第百八十$六條第一項) - 一 刑法第六十五條第二項ノ規定ハ實行正犯ノミナラス教唆者及ヒ從犯ニモ其適用アルモノトス(同上)
(參照)犯人ノ身分ニ因リ構成ス可キ犯罪行爲ニ加功シタルトキハ其身分ナキ者ト雖モ仍ホ共犯トス」身分ニ因リ特ニ刑ノ輕重アルトキハ其身分ナキ者ニハ通常ノ刑ヲ科ス(刑法第六$十五條)
右賭博被告事件ニ付キ大正二年十一月二十二日福井地方裁判所ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告等ハ上告ヲ爲シタリ因テ刑事總部聯合ノ上審理判決スルコト左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
被告源太郎辯護人秋山襄上告趣意書第一(イ)原判決ノ確定シタル事實ニ依レハ被告源太郎ハ相被告佐藤敬次郎等カ賭博ヲ爲ス情ヲ知リ乍ラ房屋及骨牌ヲ貸與シ以テ被告敬次郎等ノ賭博ナル犯行ヲ幇助シタルモノト爲シ又被告源太郎ヲ賭博ノ常習者ト認定シテ刑法第百八十六條及第六十二條ヲ適用處斷セリ按スルニ刑法第百八十六條第一項ニハ常習トシテ博戲又ハ賭事ヲ爲シタルモノ云云ト規定シアリテ博戲又ハ賭事ナル賭博罪ノ實行行爲ノ常習者ノミヲ本條ニ依リテ處罰スルコトヲ明ニセリ然ルニ本件被告タル荒井源太郎ハ原判決ノ確定セル事實ニ依ルモ明白ナル通リ被告ハ賭博罪ノ從犯ニシテ博戲又ハ賭事ナル本罪ノ實行行爲ヲ爲シタルモノニアラス單ニ相被告タル佐藤敬次郎等ノ犯罪行爲ヲ幇助シタルニ過キサルヲ以テ博戲又ハ賭事ナル賭博罪ノ常習實行行爲ノ正犯ニノミ適用スヘキ前示第百八十六條第一項ハ被告源太郎ニ對シ適用スヘキ限リニアラサルナリ然ルニ原判決ニ於テハ被告源太郎ノ犯罪行爲ヲ從犯從テ犯罪ノ實行行爲ニ屬セサル行爲ヲ以テ正犯ノ實行行爲ヲ幇助スル所爲ニ該當スルト爲シ以テ刑法第六十二條ヲ適用シ乍ラ他方ニ於テハ常習ノ實行行爲者ニノミ適用スヘキ前示第百八十六條第一項ヲ適用シ以テ被告源太郎ニ體刑ヲ科シタルハ擬律ノ錯誤ニシテ違法ナリ(ロ)或ハ共犯ハ正犯ノ犯罪ニ付キ自身之ヲ犯シタルト同一ノ刑責ニ任スヘキヲ理由トシテ被告源太郎ニ對シ前示ノ如ク第百八十六條ヲ適用シタリトスルモ被告カ幇助シタル正犯中ニハ單ニ常習賭博者タル佐藤敬次郎一人ノミニアラスシテ上田清太郎外二人ノ單純賭博罪ノ正犯在ルヲ以テ被告源太郎ニ對シ重ニ體刑ヲ科スルカ爲メニハ同法第五十四條適用ノ結果ナラサルヘカラス而ルニ原裁判所ニ於テハ此點ニ關シ何等ノ判示ヲ爲ス所ナク直ニ第六十二條ト第百八十六條トニ依リ被告ヲ體刑ニ處シタルハ理由不備ナリ(ハ)又刑法第百八十六條第一項ノ犯罪ハ常習者ナル身分ヲ有スル者ニアラサレハ犯スコト能ハサル犯罪ナルヲ以テ如斯身分ヲ有セサル者ニ對シテハ假令從犯タルモ正犯ト同一ノ刑ヲ科シ得ヘキモノニアラス
之ヲ科センカ爲メニハ刑法第六十五條第一項ヲ適用セサルヘカラス而ルニ原判決ニ於テハ被告ヲ以テ本罪ノ從犯ト認定シ乍ラ而カモ第六十五條第一項ノ適用ヲ爲サス單ニ第百八十六條第一項ノミヲ以テ被告ヲ處罰シタリ如斯ハ前示第百八十六條第一項ノ解釋ヲ誤リタル結果第六十五條ヲ適用スヘキヲ適用セサリシモノニシテ違法ナリ(ニ)原判決ハ被告源太郎ヲ以テ特ニ賭博ノ常習者ト認定セリ若シ原判決ノ趣旨ハ共犯ハ正犯ト同一ノ刑責ニ任スヘキモノト爲シ以テ刑法第百八十六條ノ體刑ヲ科シタルニアリトセハ被告カ常習者タルト否トハ元來論議ノ要ナキ筈ナリ而ルニ被告カ常習者ナルコトヲ特ニ認定シ又之ヲ認定スルニ付キ相當努力ヲ爲シタルコト及之ニ對シ前示第百八十六條ヲ適用シタル判決趣旨ニ徴シテ原裁判所ノ眞意ヲ按スルニ常習者カ從犯タル場合ハ當然第百八十六條第一項ヲ問擬スヘキモノト解釋セラレタルモノノ如シ然ルニ既ニ(イ)ニ於テ論述シタルカ如ク本條ニ依テ處斷セラルルモノハ常習賭博罪ノ實行正犯ノミニ限ル共犯ハ啻タ正犯ノ犯罪ニ付キ自身之ヲ犯シタルト同一ノ刑責ヲ負フヘキノミ常習者カ從犯タル場合ナルカ故ニ第百八十六條第一項ヲ適用スヘキニアラサルナリ而カモ第百八十六條第一項ノ犯罪ハ常習者タル身分ヲ有スル者ニアラサレハ犯シ能ハサル犯罪ナルコト既述ノ如キヲ以テ原裁判所カ被告ニ對シ體刑ヲ科シタルカ爲メニハ先ツ前記(ハ)記載ノ趣旨ニ從ツテ刑法第六十五條第一項ヲ適用シ第二項ノ通常刑ヲ科シ能ハサル理由トシテ常習者タルコトヲ認定センコトヲ要ス然リ本件ノ場合ニ於テ被告ヲ常習者ト認定スル必要アラハ正ニ此場合ニ限ルヘキノミニ他ニ常習者タルコトヲ認定スル必要存在セサルナリ然ルニ原判決ニ於テハ被告ヲ常習者ト認定シタル理由ノ茲ニ存セスシテ寧ロ被告カ從犯タリ又常習者タルコトカ正ニ刑法第百八十六條第一項ノ構成要件ニ該當スルモノトシテ處斷セリ之啻ニ法條ノ解釋ニ誤アルノミナラス他面ニ於テハ認定事實ト主文トヲ連結スヘキ法條ニ缺如スル所アリテ判決自體ノ上ヨリ何カ故ニ判示ノ法條ノミヲ以テ主文記載ノ斷罪ヲ爲シ得タリヤノ理由ヲ知ルニ由ナシ畢竟此點ニ於テ原判決ハ理由不備ナリト云フニ在リ◎按スルニ犯罪ノ常習性トハ反覆シテ罪ヲ犯ス習癖ニシテ犯人カ屡次之ヲ犯スコトニ因リテ成立スルモノナリ從テ常習トシテ賭博ヲ爲ストハ屡次賭博ヲ爲スコトニ因リ犯人ノ反覆シテ賭博ヲ爲ス習癖カ外部ニ發現スルノ謂ニ外ナラス蓋シ刑法第百八十五條ニハ通常賭博罪ヲ規定シ同法第百八十六條第一項ニハ常習賭博罪ヲ規定ス犯人ニシテ單ニ一囘賭博ヲ爲スニ止マリ其前後會テ賭博ヲ爲シタルコトナキニ於テハ常習賭博罪ハ成立セス常習賭博罪ハ犯人カ屡次反覆シテ賭博ヲ爲ス場合ニ成立スルモノナレトモ其過去ニ於テ爲シタル幾多ノ賭博行爲ニ對シ嚮ニ確定裁判ヲ經タルト否トハ問フ所ニアラス要スルニ現ニ裁判ノ目的トナリタル賭博ノ事案ニ依リ犯人カ反覆シテ賭博ヲ爲スノ習癖カ外部ニ發現シタル場合ニハ毎ニ常習賭博罪ハ成立スルモノトス故ニ(イ)既ニ賭博ヲ反覆スル習癖ヲ有スル者カ新ニ一囘又ハ數囘賭博ヲ爲スニ因リ常習賭博ノ罪名ニ觸ルル場合アルヘク又(ロ)初テ賭博ヲ爲ス者カ屡次反覆シテ賭博ヲ爲スニ因リ遂ニ其習癖カ發現スルニ至リ幾箇ノ賭博行爲カ包括ニ依リ一箇ノ常習賭博ノ罪名ニ觸ルル場合アルヘシ因是觀之常習賭博罪ハ前述ノ如ク犯人カ屡次賭博行爲ヲ爲スニ因テ成立スル點ニ於テハ客觀的ニ行爲ノ性質ニ因ル一種ノ罪態ナリト觀察スルヲ得ヘク又反覆シテ同一ノ罪ヲ犯ス習癖カ發現スルニ因リ成立スル點ニ於テハ主觀的ニ犯人ノ個性ニ因ル一種ノ罪態ナリト觀察セサルヘカラス故ニ二者相須テ常習賭博罪カ成立スルハ論ナシト雖數人共ニ賭博ヲ爲シタル場合ニ一人ニ對シテハ前掲(イ)ノ場合ニ該當スルニ依リ刑法第百八十六條第一項ノ犯罪カ成立シ他ノ者ニ對シテハ單ニ同法第百八十五條ノ犯罪カ成立スルコトアルヘキハ説示ヲ要セスシテ明白ノ事實ニ屬シ又共犯者カ皆前掲(ロ)ノ場合ニ該當スルトキハ共ニ常習賭博ノ罪名ニ觸ルルニ至ルモ是レ適々共犯者ノ主觀的竝ニ客觀的ノ條件カ總テ同一ナルカ爲メ總テ賭博ノ常習性ヲ有スルニ至リタルニ過キス此場合ニ於テモ數箇ノ賭博行爲中其内ノ一部ノミニ付キ共ニ犯シタル者ニ對シテハ通習賭博罪ノ成立スルヲ妨ケス故ニ刑法第百八十六條第一項ハ同法第百八十五條通常賭博罪ノ加重規定ニシテ其加重ハ賭博ヲ反覆スル習癖ヲ有スル者ニ限リ其共同實行正犯タル他人ニ影響ヲ及ホササル點ヨリ觀察シテ之ヲ犯人ノ一身ニ屬スル特殊状態ニ因ルモノト認ムヘク從テ犯人ノ身分ニ因ル加重ナリト解スヘキモノトス依テ其加重ハ財物ヲ賭シテ自ラ輸贏ヲ決シタル本人即チ實行正犯者ノミニ限ルヘキモノナルヤ否ヤノ點ニ付キ審究スルニ身分ニ因ル加重減輕ニ關スル同法第六十五條第二項規ノ定ハ止タ實行正犯ノミナラズ教唆者及ヒ從犯ニ其適用アリ若シ獨リ賭博罪ニ在テハ財物ヲ賭シ自ラ輸贏ヲ決シタル本人ノミニ對シ常習ニ因ル加重ヲ爲スヘキモノトセンカ是レ刑法總則ノ法理ニ基クニアラスシテ賭博罪ニ對スル特別規定ノ解釋ニ由ルモノナラサルヘカラス然ルニ刑法第百八十六條ハ常習トシテ博戲又ハ賭事ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ處スト規定スルニ過キス惟フニ刑法ニ於テ常習賭博罪ノ刑ヲ加重スル所以ハ財物ヲ賭シテ自ラ輸贏ヲ決スル本人即チ所謂博徒ヲ嚴罰シテ此種ノ犯罪ヲ鎭壓スルノ趣旨ナルヘシト雖常習トシテ賭博ヲ教唆スルカ如キハ之ヲ自ラ賭博ヲ實行スル者ニ比シ毫モ處罰ヲ異ニスヘキ所以ヲ見サルノミナラス
原來教唆犯及從犯ニ關スル刑法總則ノ法理カ同法ニ規定スル他ノ各罪ニ其適用アルニ拘ハラス特ニ常習賭博ニ關シテ其適用ナシトスルニハ法ノ特別規定ヲ竢テ始メテ之ヲ斷定スルヲ得ヘキモノニシテ如上ノ特別規定ナキ刑法ニ於テ同法第百八十六條第一項ノ解釋トシテ前掲一般法理ノ變例ヲ認ムルニ由ナキモノトス故ニ賭博ニ關シテハ其實行正犯タルト教唆犯若クハ從犯タルトノ別ナク汎ク是等ノ賭博行爲ニ付キ之ヲ爲スヲ常習トスル者カ其實行正犯タリ教唆犯若クハ從犯タル場合竝ニ屡次如上ノ賭博行爲ヲ爲スニ因リ反覆シテ賭博ヲ爲ス習癖カ發現スルニ至リタル場合ハ皆同法第百八十六條第一項ノ適用ヲ免カレサルモノトス從テ二人共ニ賭博ヲ爲シ其一人ニ對シテハ常習賭博罪カ成立シ他ノ一人ニ對シテハ通常賭博罪カ成立スル場合ニ其從犯カ犯罪ノ常時賭博ノ常習ヲ有スルニ於テハ(從來賭博ノ常習アリタルト其從犯タル行爲ヲ爲スニ依リテ初メテ其習癖カ成立シタルトヲ問ハス)其者ニ對シテハ刑法第六十五條第二項ノ趣旨ニ依リ同法第百八十六條第一項ヲ適用シタル上一般從犯ニ關スル減輕ヲ爲スヘキモノトス原判決ヲ査スルニ原審ノ被告源太郎カ賭博ノ常習者ニシテ原審共同被告佐藤敬次郎上田清太郎外數名カ相共ニ金錢ヲ賭シ博奕ヲ爲シタル際情ヲ知リテ之ニ房室及骨牌ヲ貸與シ犯行ヲ幇助シタル事實ヲ認メ敬次郎ニ對シテハ賭博常習者タル故ヲ以テ刑法第百八十六條第一項ヲ適用シ清太郎ニ對シテハ常習ヲ認メスシテ同法第百八十五條ヲ適用シタル上被告源太郎ニ對シ同法第百八十六條第一項第六十二條第一項等ヲ適用シタルモノニシテ同法第六十五條第二項ノ趣旨ニ則リタルコトモ亦自ラ明ナルヲ以テ其擬律ハ正當ニシテ論旨ハ理由ナシ(判旨第一點)
第二、判決主文ニ依レハ「押收物件中骨牌三十六枚ハ被告源太郎及ヒ被告清太郎ニ對シテ之ヲ沒收」云云トアルニ拘ハラス理由中ニ於テハ「被告三名ニ對シテ沒收シ」トアリテ主文ト理由ト齟齬セリ又沒收セラルヘキ骨牌カ被告源太郎ノ所有ニ屬スルコトハ原判決ノ確定シタル事實ナリ而ルニ所有者ニアラサル相被告清太郎ノ爲メニモ亦之ヲ沒收セラルルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎原判決ノ主文ニハ骨牌三十六枚ハ被告源太郎及被告清太郎ニ對シテ之ヲ沒收シ其他ハ差出人ニ還付ストアル部分ニ次テ被告敬次郎ノ控訴ハ之ヲ棄却ストアリ第一審判決ノ主文ヲ査スルニ骨牌三十六枚ハ敬次郎ニ對シテモ沒收ノ言渡アリタルモノナルヲ以テ原判決ノ主文ニ敬次郎ノ控訴ヲ棄却シタル部分ニハ右骨牌三十六枚ノ沒收ヲ包含スルモノト云ハサルヘカラス故ニ原判決ノ主文ト判決理由中「被告三名ニ對シ沒收シ」トアル部分ハ趣旨ニ於テ相牴觸スルコトナキヲ以テ論旨前段ハ理由ナシ又原審共同被告清太郎ハ賭博罪ノ共犯ナルヲ以テ骨牌ノ所有者ハ被告源太郎ナリトスルモ右沒收ハ共犯者タル被告全員ニ對シ言渡スヘキモノナルヲ以テ原判決カ清太郎ニ對シ沒收ヲ言渡シタルハ正當ナルノミナラス此點ハ被告源太郎ノ利害ニ消長スル所ナシ故ニ論旨後段ハ理由ナシ
被告敬次郎ハ刑事訴訟法第二百七十八條ノ法定期間内趣意書ヲ提出セス
但被告源太郎辯護人秋山襄上告趣意書第一點ニ對スル説明中常習賭博從犯ニ關スル部分ハ大正二年
(れ)第二六〇〇號事件ノ判決ト相異ナルヲ以テ裁判所構成法第四十九條ノ規定ニ從テ本院刑事總部聯合ノ上審判ヲ爲シタリ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事板倉松太郎干與大正三年五月十八日大審院第一、第二、第三刑事聯合部
◎判決要旨
- 一 刑法第百八十六条第一項は同法第百八十五条通常賭博罪の加重規定にして其加重は犯人の身分に因る加重なりと解すべきものとす。
(判旨第一点)
(参照)偶然の輸贏に関し財物を以て博戯又は賭事を為したる者は千円以下の罰金又は科料に処す。
但一時の娯楽に供する物を賭したる者は此限に在らず(刑法第百$八十五条)常習として博戯又は賭事を為したる者は三年以下の懲役に処す(刑法第百八十$六条第一項) - 一 刑法第六十五条第二項の規定は実行正犯のみならず教唆者及び従犯にも其適用あるものとす。
(同上)
(参照)犯人の身分に因り構成す可き犯罪行為に加功したるときは其身分なき者と雖も仍ほ共犯とす。」身分に因り特に刑の軽重あるときは其身分なき者には通常の刑を科す(刑法第六$十五条)
右賭博被告事件に付き大正二年十一月二十二日福井地方裁判所に於て言渡したる判決に対し被告等は上告を為したり。
因で刑事総部連合の上審理判決すること左の如し
理由
本件上告は之を棄却す
被告源太郎弁護人秋山襄上告趣意書第一(イ)原判決の確定したる事実に依れば被告源太郎は相被告佐藤敬次郎等が賭博を為す情を知り乍ら房屋及骨牌を貸与し以て被告敬次郎等の賭博なる犯行を幇助したるものと為し又被告源太郎を賭博の常習者と認定して刑法第百八十六条及第六十二条を適用処断せり按ずるに刑法第百八十六条第一項には常習として博戯又は賭事を為したるもの云云と規定しありて博戯又は賭事なる賭博罪の実行行為の常習者のみを本条に依りて処罰することを明にせり。
然るに本件被告たる荒井源太郎は原判決の確定せる事実に依るも明白なる通り被告は賭博罪の従犯にして博戯又は賭事なる本罪の実行行為を為したるものにあらず。
単に相被告たる佐藤敬次郎等の犯罪行為を幇助したるに過ぎざるを以て博戯又は賭事なる賭博罪の常習実行行為の正犯にのみ適用すべき前示第百八十六条第一項は被告源太郎に対し適用すべき限りにあらざるなり。
然るに原判決に於ては被告源太郎の犯罪行為を従犯。
従て犯罪の実行行為に属せざる行為を以て正犯の実行行為を幇助する所為に該当すると為し以て刑法第六十二条を適用し乍ら他方に於ては常習の実行行為者にのみ適用すべき前示第百八十六条第一項を適用し以て被告源太郎に体刑を科したるは擬律の錯誤にして違法なり。
(ロ)或は共犯は正犯の犯罪に付き自身之を犯したると同一の刑責に任ずべきを理由として被告源太郎に対し前示の如く第百八十六条を適用したりとするも被告が幇助したる正犯中には単に常習賭博者たる佐藤敬次郎一人のみにあらずして上田清太郎外二人の単純賭博罪の正犯在るを以て被告源太郎に対し重に体刑を科するか為めには同法第五十四条適用の結果ならざるべからず。
而るに原裁判所に於ては此点に関し何等の判示を為す所なく直に第六十二条と第百八十六条とに依り被告を体刑に処したるは理由不備なり。
(ハ)又刑法第百八十六条第一項の犯罪は常習者なる身分を有する者にあらざれば犯すこと能はざる犯罪なるを以て如斯身分を有せざる者に対しては仮令従犯たるも正犯と同一の刑を科し得べきものにあらず。
之を科せんか為めには刑法第六十五条第一項を適用せざるべからず。
而るに原判決に於ては被告を以て本罪の従犯と認定し乍ら而かも第六十五条第一項の適用を為さず単に第百八十六条第一項のみを以て被告を処罰したり。
如斯は前示第百八十六条第一項の解釈を誤りたる結果第六十五条を適用すべきを適用せざりしものにして違法なり。
(ニ)原判決は被告源太郎を以て特に賭博の常習者と認定せり。
若し原判決の趣旨は共犯は正犯と同一の刑責に任ずべきものと為し以て刑法第百八十六条の体刑を科したるにありとせば被告が常習者たると否とは元来論議の要なき筈なり。
而るに被告が常習者なることを特に認定し又之を認定するに付き相当努力を為したること及之に対し前示第百八十六条を適用したる判決趣旨に徴して原裁判所の真意を按ずるに常習者が従犯たる場合は当然第百八十六条第一項を問擬すべきものと解釈せられたるものの如し然るに既に(イ)に於て論述したるが如く本条に依て処断せらるるものは常習賭博罪の実行正犯のみに限る。
共犯は啻た正犯の犯罪に付き自身之を犯したると同一の刑責を負ふべきのみ常習者が従犯たる場合なるが故に第百八十六条第一項を適用すべきにあらざるなり。
而かも第百八十六条第一項の犯罪は常習者たる身分を有する者にあらざれば犯し能はざる犯罪なること既述の如きを以て原裁判所が被告に対し体刑を科したるか為めには先づ前記(ハ)記載の趣旨に従って刑法第六十五条第一項を適用し第二項の通常刑を科し能はざる理由として常習者たることを認定せんことを要す。
然り本件の場合に於て被告を常習者と認定する必要あらば正に此場合に限るべきのみに他に常習者たることを認定する必要存在せざるなり。
然るに原判決に於ては被告を常習者と認定したる理由の茲に存せずして寧ろ被告が従犯たり又常習者たることが正に刑法第百八十六条第一項の構成要件に該当するものとして処断せり之啻に法条の解釈に誤あるのみならず他面に於ては認定事実と主文とを連結すべき法条に欠如する所ありて判決自体の上より何が故に判示の法条のみを以て主文記載の断罪を為し得たりやの理由を知るに由なし。
畢竟此点に於て原判決は理由不備なりと云ふに在り◎按ずるに犯罪の常習性とは反覆して罪を犯す習癖にして犯人が屡次之を犯すことに因りて成立するものなり。
従て常習として賭博を為すとは屡次賭博を為すことに因り犯人の反覆して賭博を為す習癖が外部に発現するの謂に外ならず蓋し刑法第百八十五条には通常賭博罪を規定し同法第百八十六条第一項には常習賭博罪を規定す犯人にして単に一回賭博を為すに止まり其前後会で賭博を為したることなきに於ては常習賭博罪は成立せず常習賭博罪は犯人が屡次反覆して賭博を為す場合に成立するものなれども其過去に於て為したる幾多の賭博行為に対し嚮に確定裁判を経たると否とは問ふ所にあらず。
要するに現に裁判の目的となりたる賭博の事案に依り犯人が反覆して賭博を為すの習癖が外部に発現したる場合には毎に常習賭博罪は成立するものとす。
故に(イ)既に賭博を反覆する習癖を有する者が新に一回又は数回賭博を為すに因り常習賭博の罪名に触るる場合あるべく又(ロ)初で賭博を為す者が屡次反覆して賭博を為すに因り遂に其習癖が発現するに至り幾箇の賭博行為が包括に依り一箇の常習賭博の罪名に触るる場合あるべし因是観之常習賭博罪は前述の如く犯人が屡次賭博行為を為すに因で成立する点に於ては客観的に行為の性質に因る一種の罪態なりと観察するを得べく又反覆して同一の罪を犯す習癖が発現するに因り成立する点に於ては主観的に犯人の個性に因る一種の罪態なりと観察せざるべからず。
故に二者相須で常習賭博罪が成立するは論なしと雖数人共に賭博を為したる場合に一人に対しては前掲(イ)の場合に該当するに依り刑法第百八十六条第一項の犯罪が成立し他の者に対しては単に同法第百八十五条の犯罪が成立することあるべきは説示を要せずして明白の事実に属し又共犯者が皆前掲(ロ)の場合に該当するときは共に常習賭博の罪名に触るるに至るも是れ適適共犯者の主観的並に客観的の条件が総で同一なるか為め総で賭博の常習性を有するに至りたるに過ぎず此場合に於ても数箇の賭博行為中其内の一部のみに付き共に犯したる者に対しては通習賭博罪の成立するを妨げず。
故に刑法第百八十六条第一項は同法第百八十五条通常賭博罪の加重規定にして其加重は賭博を反覆する習癖を有する者に限り其共同実行正犯たる他人に影響を及ぼさざる点より観察して之を犯人の一身に属する特殊状態に因るものと認むべく。
従て犯人の身分に因る加重なりと解すべきものとす。
依て其加重は財物を賭して自ら輸贏を決したる本人即ち実行正犯者のみに限るべきものなるや否やの点に付き審究するに身分に因る加重減軽に関する同法第六十五条第二項規の定は止た実行正犯のみならず教唆者及び従犯に其適用あり。
若し独り賭博罪に在ては財物を賭し自ら輸贏を決したる本人のみに対し常習に因る加重を為すべきものとせんか是れ刑法総則の法理に基くにあらずして賭博罪に対する特別規定の解釈に由るものならざるべからず。
然るに刑法第百八十六条は常習として博戯又は賭事を為したる者は三年以下の懲役に処すと規定するに過ぎず惟ふに刑法に於て常習賭博罪の刑を加重する所以は財物を賭して自ら輸贏を決する本人即ち所謂博徒を厳罰して此種の犯罪を鎮圧するの趣旨なるべしと雖常習として賭博を教唆するが如きは之を自ら賭博を実行する者に比し毫も処罰を異にすべき所以を見さるのみならず
原来教唆犯及従犯に関する刑法総則の法理が同法に規定する他の各罪に其適用あるに拘はらず特に常習賭博に関して其適用なしとするには法の特別規定を竢で始めて之を断定するを得べきものにして如上の特別規定なき刑法に於て同法第百八十六条第一項の解釈として前掲一般法理の変例を認むるに由なきものとす。
故に賭博に関しては其実行正犯たると教唆犯若くは従犯たるとの別なく汎く是等の賭博行為に付き之を為すを常習とする者が其実行正犯たり教唆犯若くは従犯たる場合並に屡次如上の賭博行為を為すに因り反覆して賭博を為す習癖が発現するに至りたる場合は皆同法第百八十六条第一項の適用を免がれざるものとす。
従て二人共に賭博を為し其一人に対しては常習賭博罪が成立し他の一人に対しては通常賭博罪が成立する場合に其従犯が犯罪の常時賭博の常習を有するに於ては(従来賭博の常習ありたると其従犯たる行為を為すに依りて初めて其習癖が成立したるとを問はず)其者に対しては刑法第六十五条第二項の趣旨に依り同法第百八十六条第一項を適用したる上一般従犯に関する減軽を為すべきものとす。
原判決を査するに原審の被告源太郎が賭博の常習者にして原審共同被告佐藤敬次郎上田清太郎外数名が相共に金銭を賭し博奕を為したる際情を知りて之に房室及骨牌を貸与し犯行を幇助したる事実を認め敬次郎に対しては賭博常習者たる故を以て刑法第百八十六条第一項を適用し清太郎に対しては常習を認めずして同法第百八十五条を適用したる上被告源太郎に対し同法第百八十六条第一項第六十二条第一項等を適用したるものにして同法第六十五条第二項の趣旨に則りたることも亦自ら明なるを以て其擬律は正当にして論旨は理由なし。
(判旨第一点)
第二、判決主文に依れば「押収物件中骨牌三十六枚は被告源太郎及び被告清太郎に対して之を没収」云云とあるに拘はらず理由中に於ては「被告三名に対して没収し」とありて主文と理由と齟齬せり又没収せらるべき骨牌が被告源太郎の所有に属することは原判決の確定したる事実なり。
而るに所有者にあらざる相被告清太郎の為めにも亦之を没収せらるるは違法なりと云ふに在れども◎原判決の主文には骨牌三十六枚は被告源太郎及被告清太郎に対して之を没収し其他は差出人に還付すとある部分に次で被告敬次郎の控訴は之を棄却すとあり第一審判決の主文を査するに骨牌三十六枚は敬次郎に対しても没収の言渡ありたるものなるを以て原判決の主文に敬次郎の控訴を棄却したる部分には右骨牌三十六枚の没収を包含するものと云はざるべからず。
故に原判決の主文と判決理由中「被告三名に対し没収し」とある部分は趣旨に於て相牴触することなきを以て論旨前段は理由なし。
又原審共同被告清太郎は賭博罪の共犯なるを以て骨牌の所有者は被告源太郎なりとするも右没収は共犯者たる被告全員に対し言渡すべきものなるを以て原判決が清太郎に対し没収を言渡したるは正当なるのみならず此点は被告源太郎の利害に消長する所なし。
故に論旨後段は理由なし。
被告敬次郎は刑事訴訟法第二百七十八条の法定期間内趣意書を提出せず
但被告源太郎弁護人秋山襄上告趣意書第一点に対する説明中常習賭博従犯に関する部分は大正二年
(レ)第二六〇〇号事件の判決と相異なるを以て裁判所構成法第四十九条の規定に。
従て本院刑事総部連合の上審判を為したり。
右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文の如く判決す
検事板倉松太郎干与大正三年五月十八日大審院第一、第二、第三刑事連合部