詐欺ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）20輯556頁
大正三年（そ）第一號
大正三年四月十四日宣告
◎判決要旨
- 一 受刑人ニ前科ナキニ拘ハラス之アリト誤認シタル結果累犯處分ヲ爲シタリトスルモ畢竟事實認定ノ錯誤ニ基因スルモノニシテ斯ル錯誤ニ付テハ刑事訴訟法ハ上告又ハ非常上告ヲ許ササルモノトス
- 一 刑事訴訟法第二百九十二條ニ所謂法律ニ於テ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ言渡シ又ハ相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル場合トハ其判決ノ認定事實ヲ基礎トスルモ尚ホ且法律ニ於テ罰セサル場合ヲ指稱シ判決ノ事實認定カ眞實ニ適セストノ主張ヲ基礎トスル場合ヲ包含セサルモノトス
（參照）第一審裁判所ト第二審裁判所トヲ問ハス法律ニ於テ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ言渡シ又ハ相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル場合ニ於テ期間内ニ上訴スル者ナクシテ其判決確定シタルトキハ其事件ニ付キ上告ヲ受タル權アル裁判所ノ檢事ハ司法大臣ノ命ニ因リ又ハ職權ヲ以テ何時ニテモ其裁判所ニ非常上告ヲ爲スコトヲ得（刑事訴訟法第二百九十二條第一項）
原審 岐阜區裁判所
被告人 飯田繁松
右詐欺被告事件ニ付大正二年七月三十一日岐阜區裁判所ニ於テ言渡シタル確定判決ニ對シ檢事總長法學博士平沼騏一郎ハ非常上告ヲ爲シタリ因テ判決スルコト如左
理由
本件非常上告ハ之ヲ棄却ス
本院檢事板倉松太郎上告趣意書本件ノ確定判決ハ飯田繁松ニ對シテ存スルモノナルコトハ一件記録上明瞭ニシテ右繁松ハ訴訟手續上前科者渡邊喜一郎ノ氏名ヲ冒シタルカ爲メ累犯加重ノ處分ヲ受ケタルモノナレトモ繁松其人ニ前科ナキコトハ亦記録上明瞭ナレハ縱令前科者渡邊喜一郎ノ氏名ヲ冒シタルノ不當行爲アリト雖モ前科ナキ者ニ對シ累犯處分ヲ加フルコトハ法律ノ許ササル所ナルヲ以テ本件確定判決ハ刑事訴訟法第二百九十二條ニ所謂相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル瑕瑾アルモノトス（明治四二年そ第一號同年三月五日貴院第一刑事部判例參照）ト云フニ在リ◎按スルニ原判決カ所論ノ如ク受刑人ニ前科ナキニ拘ハラス之アリト誤認シタル結果累犯處分ヲ爲シタルモノトセハ其失當タルヤ勿論ナレトモ畢竟事實認定ノ錯誤ニ基因スルコト猶ホ被告人竊盜ヲ爲シタルニ過キサル事實ヲ誤認シ強盜ヲ爲シタルモノト爲シ強盜ノ刑ヲ以テ處斷シタル場合ニ於ケルカ如シ斯カル事實認定ノ錯誤ニ付テハ我刑事訴訟法ハ第二審ヲ限リ救濟ヲ求ムルコトヲ得シセメ上告又ハ非常上告ニ依リテ覆審ヲ求ムルコトヲ許ササルヲ主義トスルコト其規定上疑ヲ容レス故ニ刑事訴訟法第二百九十二條ニ所謂法律ニ於テ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ言渡シ又ハ相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタル場合トハ其判決ノ認定事實ヲ基礎トスルモ尚ホ且法律ニ於テ罰セサル場合即チ擬律ノ錯誤ニ因リ又ハ法定刑ノ範圍ヲ超越シテ受刑人ニ不利益ヲ被ラシメタル場合ヲ指稱シ判決ノ事實認定カ眞實ニ適セストノ主張ヲ基礎トスル場合ヲ包含セサルモノト解セサル可カラス從テ本件非常上告ハ適法ノ理由ナキモノトス但シ本判決ノ趣旨ハ從來ノ判例ニ反スルヲ以テ裁判所構成法第四十九條ノ規定ニ從ヒ刑事總部ヲ聯合シテ主文ノ如ク判
決ス
檢事板倉松太郎干與大正三年四月十四日大審院第一第二第三刑事聯合部