大正二年(れ)第二〇八九號
大正二年十二月二十四日宣告
◎判決要旨
- 一 刑法第百八條ニ所謂現ニ人ノ住居ニ使用スル建造物トハ現ニ人ノ起臥寢食ノ場所トシテ日常使用セラルル建造物ヲ謂フモノトス(判旨第五點)
(參照)火ヲ放テ現ニ人ノ住居ニ使用シ又ハ人ノ現在スル建造物、汽車、選車、艦船若クハ鑛坑ヲ燒燬シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役ニ處ス(刑法第百八條) - 一 校舍ノ一室ヲ宿直室ニ充テ宿直員ヲシテ夜間宿泊セシムルトキハ其校舍ハ現ニ宿直員ノ起臥寢食ノ場所トシテ日常使用セラルルモノニシテ現ニ人ノ住居ニ使用スル建造物ナリトス(同上)
被告人 西村寵雄
辯護人 播磨辰治郎 渡邊澄也 三宅源重郎
右放火被告事件ニ付大正二年十月六日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告趣意書及上告趣意擴張書ト題スル書面ノ要旨ハ(一)被告ハ大正元年十一月八日午前七時三十分頃私立明治工學校ノ二階ナル押入ニ在リシ長持ヨリ字書ヲ取出サントシ蝋燭ニ火ヲ點シ搜索中蝋燭ヲ取落シタルヨリ發火シ二階全部ヲ燒失スルニ至リタル事實ニシテ放火ノ意思アリタルニアラス然ルニ原審ハ被告カ消防ニ機敏ノ動作ヲ缺キタルト保險金アルヲ以テ幾分ノ補助トナル旨申立タル廉ヲ以テ直ニ放火ノ意思アリト認定セラレタルハ判決ノ理由ニ相違ナリト云ヒ尚ホ事實關係ヲ縷述シテ
放火ノ意思ナキコトヲ辯疏シ(二)證人齋藤丈之助ハ被告ニ對シ惡感情ヲ懷キ居ルモノナレハ其證言ハ信スルニ足ラス又被告ハ警察署及第一審ニ於テ自白ヲ爲シタルモ警察署ニテハ家族ヲシテ縲絏ノ辱ヲ受クルコトヲ免カレシメンカ爲メ又第一審ニテハ自己カ執行猶豫ノ恩典ヲ得ンカ爲メ虚僞ノ自白ヲ爲シタルニ過キスト云ヒ(三)校舍内ニ於テ森岡恭平カ宿泊セシコトハ事實ナルモ毎夜一定シテ宿泊シタルニアラス僅ニ一週三四囘授業手傳トシテ來校セシ時ニ限リ宿泊シタル迄ニシテ殊ニ火災ノ當時ハ中央高等豫備校ニ出席中ニテ在校セス又其室ハ校舍ノ裏手外ナル大壁ニ取付ケタル庇ノ部分ニシテ校舍トハ壁ヲ以テ區畫シアルノミナラス出入口モ別ニ隣家齊田丈之助方ヘ向ケ設ケアリテ外ヨリ出入シ得ルコト檢證圖面ニ明ナリ而カモ該室ハ全ク火災ヲ免レタルモノナリ又明治工學校ハ普通ノ學校ト趣ヲ異ニシ畫間ハ人ノ出入スルコトナク只毎日午後六時ヨリ九時ニ至ル僅ニ三時間ノ授業ニ使用スルノミナレハ住所トハ自ラ異ル建物ナリ况ンヤ該建造物ノ大半ハ事實上被告ノ所有ニ屬スルカ故ニ假リニ放火ナリトスルモ刑法第百八條ヲ適用セラレタル原判決ハ擬律ニ錯誤アルモノト思料スト云ヒ(四)築地警察署ニ於テハ昨年十一月八日ヨリ同十四日迄一週間ノ久シキ何等ノ言渡又ハ令状ナクシテ被告ヲ拘禁シ且家族ト接見ヲ禁シタルハ不法ノ處置ナリト申立タルモ更ニ採用セラレサリシハ刑事訴訟法ニ違反セルモノト思料スト云フニ在レトモ◎右ハ原審ノ職權ヲ以テ爲シタル證據ノ判斷及事實ノ認定ヲ論難シ原審ノ認メサル事實ヲ根據トシテ原判決ノ擬律ヲ攻撃シ又ハ築地警察署ノ措置ヲ非難スルモノニシテ上告ノ理由ト爲ラス
辯護人播磨辰治郎上告趣意書凡ソ裁判ハ爭ニ對スル裁斷ナルカ故ニ被告ノ主張ヲ排斤スル場合ニハ其理由ヲモ付セサル可ラス刑事訴訟法ニ所謂裁判ニ理由ヲ付スヘシトノ規定ハ之等ヲモ包含スルモノト信ス然ラサレハ眞ニ裁判ニ理由ヲ付シタルモノト云フ可ラサレハ也本件被告ハ原審ニ於テ事實ヲ爭ヒ警視應檢事廷豫審廷ニ於ケル供述ヲ取消シ具サニ理由ヲ付シテ其事實ヲ爭ヘル事記録及ヒ上告人ノ提出セル上告理由中ニ指摘スル處ニ據ルモ明白ナリ然ルニ之等ノ爭議ナカリシモノノ如ク毫モ排斤ノ理由ヲ付セサルト裁判ニ理由ヲ付スヘシトノ規定ノ趣旨ニ違背セル不法ノ判決ナリト云フニ在レトモ◎刑事ノ裁判ニ在リテハ證據ニ依リテ犯罪事實ヲ認メタル所以ヲ説明スルヲ以テ足リ被告人ノ主張ヲ排斤シタル理由ヲ説示スルノ要ナケレハ論旨ハ理由ナシ
辯護人渡邊澄也同三宅源重郎上告趣意書第一點原判決ハ「豫テ右校舍ニ付金二千圓ノ火災保險契約ヲ締結シアルヲ奇貨トシ寧ロ右校舍ヲ燒燬シテ該保險金ヲ騙取センコトヲ企テ大正元年十一月八日午前七時過頃右校舍二階ノ押入内ニ在リタル石油ニ蝋燭ノ火ヲ點シテ放火シ因テ遂ニ同校舍ヲ燒燬シタルモノナリ兆」ト認定シ被告ハ明治工學校ノ校舍ヲ燒燬シテ保險金二千圓ヲ騙取センコトヲ企テ其手段トシテ該校舍ニ放火シ右校舍ヲ燒燬セルモノ換言スレハ詐欺罪ヲ犯サントシテ其實行ニ著手シタル事實ヲ判示セリ然ルニ法律理由ノ部ニ於テハ詐欺ノ所爲ニ對シ何等ノ擬律ヲ爲スコトナシ乃チ原判決ハ此點ニ於テ事實理由ト法律理由ト齟齬スル不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎原判決ノ認定シタル事實ニ依レハ被告カ校舍ニ放火シテ之ヲ燒燬シタルハ保險金騙取ノ目的ヲ以テ爲シタル豫備行爲ニシテ騙取ノ實行ニ著手シタルモノニアラサレハ原判決カ之ヲ詐欺罪ニ問擬セサルハ相當ニシテ不法ニアラス
第二點原判決ハ「大正二年十一月八日午前七時過頃右校舍二階ノ押入内ニ在リタル石油ニ蝋燭ノ火ヲ點シテ放火シ因テ遂ニ同校舍ヲ燒燬シタルモノナリ」ト判示シ被告ハ明治工學校ノ校舍ニ放火シテ其全部ヲ燒燬シタルモノト認定セリ然ルニ校舍ノ全部ヲ燒燬シタル事實ニ對シ毫モ證據ヲ説明セサルヲ以テ原判決ハ此點ニ於テ理由不備ノ不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎原判決ノ趣旨ハ放火ノ既遂タルヘキ程度ニ達シタル燒燬ノ事實アルコトヲ示シタルモノニシテ校舍ノ全部燒盡シタルコトヲ示シタルモノニアラサレハ全部燒燬ノ證據ヲ示ササルハ不法ニアラス
第三點原判決ハ「右校舍階下ノ一室ハ之ヲ同校教員森岡恭平ノ宿直室トシテ現ニ其住居ニ使用セシメ置キタルトコロ云云大正元年十一月八日午前七時過頃右校舍二階ノ押入内ニ云云放火シ」ト認定シ刑法第百八條ニ問擬セリ然レトモ學校ノ宿直室ノ如キハ夜間宿直員ノ宿泊スル場所タルニ過キサルコト勿論ナルヲ以テ犯罪決行ノ日時タル夜間ニ非サル大正元年十一月八日午前七時過頃森岡恭平ハ現ニ該校舍ニ住居シタルヤ否ヤハ刑法第百八條ノ犯罪ヲ構成スルヤ否ヤヲ決スヘキ要點ナルヲ以テ證據ニ依テ之ヲ認メタル理由ヲ説明セサルヘカラス然ルニ此點ニ對シ第一審第一囘公判始末書中被告ノ供述トシテ「右校舍ノ下ノ三疊間ニ森岡恭平カ宿直シ居レリ」トノ記載竝ニ森岡恭平豫審調書中「學校ノ新築落成後九月頃ヨリ同校階下ノ一室ハ夜間宿泊シ居レリ」トノ供述記載アリト説示セルノミ犯罪決行ノ當時森岡恭平カ該校舍ニ現ニ住居シタル證據ハ毫モ之ヲ説明スルコトナク輙スク刑法第百八條ヲ適用處斷シタル原判決ハ理由不備ノ不法アルモノト信スト云フニ在リ◎因テ按スルニ刑法第百八條ニ所謂現ニ人ノ住居ニ使用スル建造物トハ現ニ人ノ起臥寢食ノ場所トシテ日常使用セラルル建造物ヲ謂フモノニシテ晝夜間斷ナク人ノ現在スルコトヲ必要トセス而シテ學校ノ校舍ノ一室ヲ宿直室ニ充テ宿直員ヲシテ夜間宿泊セシムルトキハ其校舍ハ現ニ宿直員ノ起臥寢食ノ場所トシテ日常使用セラルルモノニシテ現ニ人ノ住居ニ使用スル建造物ナリト謂ハサルヘカラス論旨ニ掲クル原判決ノ證據ニ依レハ校舍階下ノ一室ハ學校ノ新築落成後九月頃ヨリ森岡恭平ノ宿直室ニ充テラレ同人ハ夜間其所ニ宿泊シ居ルモノナルヲ以テ右校舍ハ現ニ同人ノ住居ニ使用スル建造物ナルコトヲ認ムルニ足ル從テ原判決ハ證據理由不備ノ不法アルコトナケレハ論旨ハ理由ナシ(判旨第五點)
右ノ理由ナルヲ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事林頼三郎干與大正二年十二月二十四日大審院第三刑事部
大正二年(レ)第二〇八九号
大正二年十二月二十四日宣告
◎判決要旨
- 一 刑法第百八条に所謂現に人の住居に使用する建造物とは現に人の起臥寝食の場所として日常使用せらるる建造物を謂ふものとす。
(判旨第五点)
(参照)火を放で現に人の住居に使用し又は人の現在する建造物、汽車、選車、艦船若くは鉱坑を焼燬したる者は死刑又は無期若くは五年以上の懲役に処す(刑法第百八条) - 一 校舎の一室を宿直室に充で宿直員をして夜間宿泊せしむるときは其校舎は現に宿直員の起臥寝食の場所として日常使用せらるるものにして現に人の住居に使用する建造物なりとす。
(同上)
被告人 西村寵雄
弁護人 播麿辰次郎 渡辺澄也 三宅源重郎
右放火被告事件に付、大正二年十月六日東京控訴院に於て言渡したる判決に対し被告は上告を為したり。
因で判決する左の如し
理由
本件上告は之を棄却す
上告趣意書及上告趣意拡張書と題する書面の要旨は(一)被告は大正元年十一月八日午前七時三十分頃私立明治工学校の二階なる押入に在りし長持より字書を取出さんとし蝋燭に火を点し捜索中蝋燭を取落したるより発火し二階全部を焼失するに至りたる事実にして放火の意思ありたるにあらず。
然るに原審は被告が消防に機敏の動作を欠きたると保険金あるを以て幾分の補助となる旨申立たる廉を以て直に放火の意思ありと認定せられたるは判決の理由に相違なりと云ひ尚ほ事実関係を縷述して
放火の意思なきことを弁疏し(二)証人斎藤丈之助は被告に対し悪感情を懐き居るものなれば其証言は信ずるに足らず又被告は警察署及第一審に於て自白を為したるも警察署にては家族をして縲絏の辱を受くることを免がれしめんか為め又第一審にては自己が執行猶予の恩典を得んか為め虚偽の自白を為したるに過ぎずと云ひ(三)校舎内に於て森岡恭平が宿泊せしことは事実なるも毎夜一定して宿泊したるにあらず。
僅に一週三四回授業手伝として来校せし時に限り宿泊したる迄にして殊に火災の当時は中央高等予備校に出席中にて在校せず又其室は校舎の裏手外なる大壁に取付けたる庇の部分にして校舎とは壁を以て区画しあるのみならず出入口も別に隣家斎田丈之助方へ向け設けありて外より出入し得ること検証図面に明なり。
而かも該室は全く火災を免れたるものなり。
又明治工学校は普通の学校と趣を異にし画間は人の出入することなく只毎日午後六時より九時に至る僅に三時間の授業に使用するのみなれば住所とは自ら異る建物なり。
況んや該建造物の大半は事実上被告の所有に属するが故に仮りに放火なりとするも刑法第百八条を適用せられたる原判決は擬律に錯誤あるものと思料すと云ひ(四)築地警察署に於ては昨年十一月八日より同十四日迄一週間の久しき何等の言渡又は令状なくして被告を拘禁し、且、家族と接見を禁じたるは不法の処置なりと申立たるも更に採用せられざりしは刑事訴訟法に違反せるものと思料すと云ふに在れども◎右は原審の職権を以て為したる証拠の判断及事実の認定を論難し原審の認めざる事実を根拠として原判決の擬律を攻撃し又は築地警察署の措置を非難するものにして上告の理由と為らず
弁護人播麿辰次郎上告趣意書凡そ裁判は争に対する裁断なるが故に被告の主張を排斤する場合には其理由をも付せざる可らず刑事訴訟法に所謂裁判に理由を付すべしとの規定は之等をも包含するものと信ず。
然らざれば真に裁判に理由を付したるものと云ふ可らざれば也本件被告は原審に於て事実を争ひ警視応検事廷予審廷に於ける供述を取消し具さに理由を付して其事実を争へる事記録及び上告人の提出せる上告理由中に指摘する処に拠るも明白なり。
然るに之等の争議なかりしものの如く毫も排斤の理由を付せざると裁判に理由を付すべしとの規定の趣旨に違背せる不法の判決なりと云ふに在れども◎刑事の裁判に在りては証拠に依りて犯罪事実を認めたる所以を説明するを以て足り被告人の主張を排斤したる理由を説示するの要なければ論旨は理由なし。
弁護人渡辺澄也同三宅源重郎上告趣意書第一点原判決は「予で右校舎に付、金二千円の火災保険契約を締結しあるを奇貨とし寧ろ右校舎を焼燬して該保険金を騙取せんことを企で大正元年十一月八日午前七時過頃右校舎二階の押入内に在りたる石油に蝋燭の火を点して放火し因で遂に同校舎を焼燬したるものなり。
兆」と認定し被告は明治工学校の校舎を焼燬して保険金二千円を騙取せんことを企で其手段として該校舎に放火し右校舎を焼燬せるもの換言すれば詐欺罪を犯さんとして其実行に著手したる事実を判示せり。
然るに法律理由の部に於ては詐欺の所為に対し何等の擬律を為すことなし乃ち原判決は此点に於て事実理由と法律理由と齟齬する不法あるものと信ずと云ふに在れども◎原判決の認定したる事実に依れば被告が校舎に放火して之を焼燬したるは保険金騙取の目的を以て為したる予備行為にして騙取の実行に著手したるものにあらざれば原判決が之を詐欺罪に問擬せざるは相当にして不法にあらず。
第二点原判決は「大正二年十一月八日午前七時過頃右校舎二階の押入内に在りたる石油に蝋燭の火を点して放火し因で遂に同校舎を焼燬したるものなり。」と判示し被告は明治工学校の校舎に放火して其全部を焼燬したるものと認定せり。
然るに校舎の全部を焼燬したる事実に対し毫も証拠を説明せざるを以て原判決は此点に於て理由不備の不法あるものと信ずと云ふに在れども◎原判決の趣旨は放火の既遂たるべき程度に達したる焼燬の事実あることを示したるものにして校舎の全部焼尽したることを示したるものにあらざれば全部焼燬の証拠を示さざるは不法にあらず。
第三点原判決は「右校舎階下の一室は之を同校教員森岡恭平の宿直室として現に其住居に使用せしめ置きたるところ云云大正元年十一月八日午前七時過頃右校舎二階の押入内に云云放火し」と認定し刑法第百八条に問擬せり。
然れども学校の宿直室の如きは夜間宿直員の宿泊する場所たるに過ぎざること勿論なるを以て犯罪決行の日時たる夜間に非ざる大正元年十一月八日午前七時過頃森岡恭平は現に該校舎に住居したるや否やは刑法第百八条の犯罪を構成するや否やを決すべき要点なるを以て証拠に依て之を認めたる理由を説明せざるべからず。
然るに此点に対し第一審第一回公判始末書中被告の供述として「右校舎の下の三畳間に森岡恭平が宿直し居れり。」との記載並に森岡恭平予審調書中「学校の新築落成後九月頃より同校階下の一室は夜間宿泊し居れり。」との供述記載ありと説示せるのみ犯罪決行の当時森岡恭平が該校舎に現に住居したる証拠は毫も之を説明することなく輙すく刑法第百八条を適用処断したる原判決は理由不備の不法あるものと信ずと云ふに在り◎因で按ずるに刑法第百八条に所謂現に人の住居に使用する建造物とは現に人の起臥寝食の場所として日常使用せらるる建造物を謂ふものにして昼夜間断なく人の現在することを必要とせず。
而して学校の校舎の一室を宿直室に充で宿直員をして夜間宿泊せしむるときは其校舎は現に宿直員の起臥寝食の場所として日常使用せらるるものにして現に人の住居に使用する建造物なりと謂はざるべからず。
論旨に掲ぐる原判決の証拠に依れば校舎階下の一室は学校の新築落成後九月頃より森岡恭平の宿直室に充てられ同人は夜間其所に宿泊し居るものなるを以て右校舎は現に同人の住居に使用する建造物なることを認むるに足る。
従て原判決は証拠理由不備の不法あることなければ論旨は理由なし。
(判旨第五点)
右の理由なるを刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文の如く判決す
検事林頼三郎干与大正二年十二月二十四日大審院第三刑事部