賭場開張及常習賭博ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）19輯1253頁

原判決ヲ破毀シ事件ヲ宇都宮地方裁判所ニ移ス

辯護人高木益太郎上告趣意書第三點原判決ハ證據説明中「被告岩吉ハ當公廷ニ於テ『……池田直次郎

被告喜一郎其他二三ノモノト六囘許リ五十錢若クハ一圓宛賭シテ賭博ヲ爲シタル旨』供述セリ」ト判示セリ仍テ原審公判始末書ヲ閲スルニ岩吉ノ供述トシテ「清水喜一郎池田直次郎其他二三名トモ致シマシタ五十錢トカ一圓ト云フ風ニ金額ヲ極メ翌日ノ相場ノ高低ヲ爭ヒ負ケタルモノカ何カ馳走スル事ニシテ飮食致シマシタノテアリマス」ナル記載アリテ之ニ由リテ見レハ右岩吉ノ供述ハ判示ノ如ク金錢ヲ賭シテ勝負ヲ爭ヒタリト云フニアラスシテ其輸者ハ馳走ヲ爲スノ約ニシテ單ニ馳走ノ額ヲ金錢ヲ以テ限定シタリト云フニ過キサルコト明ナリトス果シテ然ラハ原判決ハ虚無ノ證據ヲ罪證ニ供シタルノ違法アリト云フニ在リ◎因テ按スルニ偶然ノ輸贏ニ依リ金錢其物ノ得喪ヲ爭ヒタルニ非スシテ唯敗者ヲシテ一時ノ娯樂ニ供スヘキ物ノ對價ヲ負擔セシムル爲メ一定ノ金額ヲ支出セシメタルニ過キサルコト明白ナルトキハ賭博罪ヲ構成セサルモノトス記録ヲ閲スルニ原審公判始末書ニ録取セル被告岩吉ノ供述ハ所論ノ如クニシテ其趣旨ハ偶然ノ輸贏ニ依リ敗者ヨリ一定ノ金額ヲ支出セシメ行爲者一同ノ飮食ノ費用ニ充ツルコトトシ之ヲ以テ飮食ヲ爲シタリト云フニ在リテ即チ罪トナラサル事實ヲ主張シテ辯解ヲ爲シタルモノナルニ原判決ハ證據理由ノ部ニ論旨前段ニ摘示セルカ如ク掲記シ恰モ被告岩吉カ金錢其物ノ得失ヲ目的トシテ賭博ヲ爲シタルコトヲ自認シタルモノノ如ク説示シタルハ其供述ノ趣旨ヲ變更シテ證據ニ援用シタル不法アルモノニシテ破毀ヲ免レス本論旨ハ理由アリ既ニ此點ニ於テ原判決ヲ破毀スヘキ以上ハ爾餘ノ論旨ニ對シテ説明ヲ與フルノ要ナシ

右ノ理由ナルテ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ依リ主文ノ如ク判決ス

檢事矢追秀作干與大正二年十一月十九日大審院第三刑事部